突然の離縁
「私と離縁してくれ」
「な、なぜなんですの?」
「運命の人に出会えたからだ」
突然の告白に私は開いた口が塞がらない。
私の名前はマリア・バルタザール。トロイア王国の王妃だ。旦那はこの国の王であることは言うまでもない。
王であるジョージ・バルタザールは非常に変わった方だ。まず夫婦であるはずの渡りがない。そのようなことをしているくらいなら一人で部屋に籠もって錠前でも作っていた方がましという性格だ。
さらに極度のマザコンである。つい最近皇后様が亡くなったが、それまでは気持ちが悪いくらいまでにべったりだった。ジョージが27歳、私はその5歳下の22歳だ。
渡りがないので、勿論私たちの間に子が出来るはずもなく、王宮内の噂では私が原因で子供が生まれないのではないかというデタラメな噂が流れる始末だった。
さらにドケチ、失礼致しました、ゴホン大変な倹約家で私はダイヤの指輪など買ってもらったこともなく、ジョージが作ったガラクタの鉄製の指輪をはめさせられることになった。
この国の国政にしても無関心であり、宰相である私のお兄様、ルークスに任せっきりだった。
話は戻るが、ジョージは両手を広げ次の妃候補を私の前へ連れてくるように侍従に命令をする。侍従が扉を開けて入ってきた女性の顔を見て私はなんとも言えない気分になった。
若くなく、そして皇后に似ているその顔。顔を赤くして恥じらいの表情を見せても私には皇后様にしか見えなかった。
「ミラこっちにおいで」
「はい……」
私の目の前でジョージ王がミラと抱き合うのを見て情けない気持ちになった。愛などある結婚ではなかったが、やはりこうしたことをされるとひどく傷つく。
そして結論から言えばやはりジョージはマザコンなのだ。私は大きなため息を一度吐いた後に、ジョージからもらった鉄製の指輪を外し、静かにテーブルの上に置いてから言った。
「そうですか……それならば私の方からも離縁させてもらいたく存じます」
「おお、そうか! 話の分かるマリアでよかった」
汚らわしいので私の名前を呼んでもらいたくない。このマザコン! おっと失礼致しました。どうにもお口が悪くなりがちでして……。お母様思いの不倫好きでよろしいかしら。
私は女とジョージに一瞥した後に踵を返し静かに部屋から退出する前に思うのだった。
せいぜい大切にしてもらうがいいわと。