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ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第五章『少年よ銀河を渡れ』

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5-5『計画と犠牲』


 「エヴァ・ガブリエラ・ストルキオ。都内の私立大学に留学している二十三歳の、イタリア国籍の女だ」


 副メイドがホワイトボードに写真を貼る。絵画のような美しさを持つ茶髪の彼女は、カメラマンに向かって眩しい笑顔を向けていた。背景には江ノ島が映っており、日本で撮られた写真らしい。


 「うわーすっごい美人」


 緋彗が率直な感想を述べる。その場にいた全員が彼女の意見にウンと頷いた。


 「ナポリ生まれで育ちはパレルモ。一時はジャンの愛人説もあったが、十五歳の時からオスカルとエヴァは恋愛関係にあったとされている」


 エヴァの写真の隣にオスカルの写真が貼り出された。彼の写真は小麦畑が背景に映っていて、見てくれはただの農家の息子という風に見える。彼の身分さえ考えなければただのカップルだっただろう。


 「そのエヴァって人も十字会なのー?」

 「いや、エヴァ本人はただの一般人だ。家族や親戚も含めてな。が、オスカルの交際相手という関係上、常に周囲に十字会の護衛を引き連れている」


 オスカルが十字会という巨大なマフィアで重要な立ち位置にいる関係上、恋人であるエヴァも敵対組織から命を狙われかねない立場にある。そう、今回副メイド達が考えた任務がまさにそれだ。


 「俺達の目的はエヴァを誘拐し、それを餌にオスカルを郊外へおびき寄せて抹殺することだ」


 能力者狩りだった頃の穂高も一応人目につかない場所を選んで戦っていたが、やはり市街地は監視カメラが多く設置され、いつどこから目撃されるかわからないため、それらを処理するために副メイドの仕事が増えてしまう。副メイドの手にかかれば一定の範囲から市民を避難させて包囲することも可能かもしれないが、やはり被害が出にくい郊外の方が決戦の地として望ましい。

 そこで副メイド達が考えた計画は、まずオスカルの交際相手であるエヴァを誘拐し、ツクヨミ側であらかじめ決めておいた場所までオスカルをおびき寄せ、そこで彼を抹殺する、というものだ。


 「俺達は何すれば良いんすか? そのエヴァって人をとっ捕まえる?」

 「いいや、お前達に頼みたいのは陽動だ。オスカルと戦うのは詠一郎と渡瀬だ」

 「え!? その二人が出んの!? だったら私達いらなくない?」

 「陽動という任務も重要だ、お前達を鍛えるためでもある。好きなだけ暴れ回るといい」


 織衣がチラッと穂高の方を見た。何かと思って穂高が織衣と目を合わせると、彼女はプイッと目を背けてしまった。

 きっと織衣は疑問に思っているのだろう。どうして、オスカルを倒す役目が穂高ではないのかと。


 「まずはエヴァの行動パターンと、引き連れている護衛の正確な数の調査が必要になる。明日から二人ずつ、一日交代でエヴァを尾行してもらう。十分な情報が揃ったら計画を実行に移す。

  明日はまず穂高と織衣だ。詳細はまた明日伝えるが、穂高と織衣は顔が割れているからこっちで変装用の衣装を用意しておく」


 副メイドは変装のプロ……というより、彼は能力で姿形、衣装まで簡単に変えられてしまうだけだ。しかし普通の変装も得意という謎の男だ。あのメイドモードのテンションで用意される衣装には若干の不安があるが、穂高は以前から十字会に狙われているし、織衣もジャンと出会っているため仕方がない。

 任務の説明が終わり、各々は気ままに食堂から去っていった。しかし穂高は残って、副メイドが資料を片付けるのを見ていた。


 「やはり、誘拐は嫌か?」


 副メイドが気にかけているのは穂高の妹の件だ。鷹取椛は十字会に誘拐され殺害された。今度の任務はそれと逆の立場になる。

 穂高は十字会が嫌いだ。憎くて悪くてしょうがない。しかし、自分がその苦しさを知っていたためか、今回の任務には躊躇いがあった。副メイドも穂高の心情を察してか、こうして高校生組に説明する前に予め穂高には任務の内容を教えてくれていた。


 「これは、よくあることなんですか?」

 「日本ではあまりやらないが、海外ではよくやっている」


 ツクヨミは決して正しい組織ではない。今でこそ革新協会や十字会という絶対悪のような存在が敵として存在しているため正義のように振る舞えるが、彼らが存在する前はただの体の良い便利屋集団だったのだ。


 「僕が何を言おうと、説得力が無いのはわかります。でも、僕が嫌だっていったら方法を変えるんですか?」

 「俺が政府の人間にかけあって、頭を下げて言い訳をする時間が増えるだけだ」

 「……副メイドさんは休んだ方が良いと思います」


 穂高達が何か騒ぎを起こす度に政府や自治体と交渉に当たるのは副メイドの仕事だ。以前ジャンと戦った時に品川にあったホテル周辺に避難指示が迅速に出されたのも副メイドの働きかけがあったからだし、オスカルと戦った時もそうだ。本当にこの男はどんな権限を持っているのかと穂高は度々思っていた。


 「でも、実際にエヴァを誘拐するのは渡瀬さん達なんですよね?」

 「そうだ。もし陽動が終わって暇なら見学しても良いらしいが」

 「渡瀬さん達の戦いをですか?」

 「能力者としては勉強になるだろう」


 彼らの戦いは是非見てみたいものだった。詠一郎の『力』の能力はシンプルと言えばシンプル、しかしかなり強力なものだ。一方で渡瀬の能力は未だにわかりにくいのだ。渡瀬に能力のことを聞いても答えをはぐらかせてきたため、その能力を掴みたいと穂高は思った。


 「ただ、少し不安要素がある」

 「オスカルがすぐに現場に駆けつけてくるとか、そういう想定外の事態です?」

 「それもあるにはあるが、それは本番になってみないとわからない。問題なのはロッソケントゥリアという十字会お抱えの殺し屋達だ。お前はあの連中と戦ったことがあるのか?」

 「いや、多分ないと思います」


 そもそも穂高が十字会を相手に戦っていた期間も大分短いものだ。革新協会の拠点を襲撃したら偶然その場に十字会の構成員もいた、というパターンも多かった。だが穂高が戦ってきた十字会の構成員は、ただ武器を持っているだけの普通の人間だった。いかにも殺し屋だという風格の人間もいなかったのだ、もしかしたら偶然倒してしまっていた可能性もある。

 しかし、十字会が彼らの拠点を荒らす能力者狩りを探し出して殺そうとしていた。そのため穂高の元に刺客が来てもおかしくないはずなのだが、それらしい人間とは出会ったことがなかった。


 「奴らは優れた殺し屋集団でもあるが、十字会の要人の護衛という任務も兼ねている。場合によっては奴らと戦闘になる可能性もある」


 ロッソケントゥリアという十字会の私兵部隊の存在は穂高も以前から知っていたし、殺し屋達についても穂高なりに調査していた。だが日本にある十字会の拠点を探っても得られる情報は限られていたし、ネットで簡単に手に入るような情報でもなかったため、その世界には疎かった。


 「能力者なんですか?」

 「それはわからない。奴らは自前の養成機関まで作って殺し屋を育てているが、殆どは外からスカウトしたか雇われた殺し屋だ。その中に能力者がいる可能性は十分にある」

 「じゃあ見学してる暇が無いかもしれないと」

 「いいや、そこでお前に一つ頼みたいことがある」


 書類等を鞄に入れ終わった副メイドは、タブレット端末を取り出してその画面を穂高に見せた。


 「これは……」


 画面に映し出されていたのは一枚の写真だった。周囲の住宅街が半壊した戦場の真ん中、線路の上に佇む二本の黒い角が生えた鬼のような少女と、その足元に倒れる少年の亡骸が写っていた。少女の顔は映っていなかったが、その特徴的な銀色のボブヘアーと首に巻いた白いマフラーのおかげで誰なのかすぐにわかった。


 「お前に、もう一度死んでもらいたい」


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