4-15『狙い撃ち』
緋彗の部屋は彼女の『炎』の能力らしい、赤を基調としたパステルカラーに染められている。しかし決して目に痛いほど主張が激しいわけでもなく、わざわざ海外の商品を仕入れる雑貨屋で小物を揃えたり、壁には千代のお下がりだという赤と黒と革ジャンがかけられている。本棚には漫画やファッション誌が並べられており、とにかく自分で試してみたい派である緋彗は大量の化粧品を部屋に置いている。華から貰うお小遣いの殆どはコスメ代だ。緋彗がファッションに強いおかげで織衣も助かっている。
そんな部屋で織衣、緋彗、和歌の三人は雀卓を囲んで麻雀に勤しんでいた。尚、能力の使用はルール違反である。
「マフィアのボスって結構強面っていうかダンディーな感じかと思ってたけど、ジャンは普通の若い人なんでしょ? かっこよかった?」
「まぁ、かっこいい方だと思う」
顔の好みはどうであれ、あんなにブランド物の服を纏っていてそれが似合うというのは、それだけのスタイルと風格を持っていなければ成り立たない。ジャンが十字会の総帥という立場でなければファッションモデルになっていそうだ。
「イタリア人ってやっぱり口説いてくるんじゃない? 織姫ちゃん可愛いし」
「あー……一目惚れしたとか言ってた。断ったけど」
「オリギーヌならハニートラップ仕掛けられたんじゃないかなー?」
「あんなの社交辞令でしょ」
後でジャンが言っていたことがどういう意味なのか穂高に聞くと、直訳すると落雷という意味だが、向こうでは一目惚れを意味するスラングらしい。穂高によるとまだシンプルめな口説き文句だと言う。
「じゃあダッカ君とジャンだったら、どっちがかっこいいのー?」
和歌にそう聞かれた東家の織衣は、思わず持っていた牌を落としかける。
「……ジャンを選ぶと思う?」
「まーそうだよね。じゃあほー君は?」
織衣は答えずに黙って牌を河に捨てた。
「あ、ロン」
北家の和歌が、織衣が捨てた牌を指さして声高らかに宣言する。
「喰らいやがれ! 字一色!」
通りで字牌を全然捨てていないと織衣は思っていたが、相変わらず和歌はこういう勝負事に強い。ダラダラと駄弁って流局になりそうだったが、とうとう決着が付いた。
「やっば、役満って点数いくらだっけ?」
「んー、じゃー跳満ぐらいにしておくよ」
「結構持っていくじゃん……」
役満が直撃した割には優しめの点数設定だ。三人共点数設定まではそこまで頭に入っていないため、和了った時の点数はその時の気分で決められていた。
「でもまだ私がべべかー。いやー若様強すぎるでしょ」
「じゃあ次は手加減してあげるよ。ツモ切りするから」
「それ手加減してるの?」
ツクヨミに加入してから長い緋彗は、周りの先輩達が遊んでいるのを見て麻雀を覚えていったらしい。和歌もその口だ。千代や華、北斗も麻雀が上手いらしい。織衣は二人に誘われて麻雀を始めたが、まだ北をぺーとも言い慣れていない。
「よし、じゃあ九萬を守備表示で召喚!」
「若様、何か混ざってるよそれ」
どうやら和歌には他の勝負師の血が流れているようだが、普通に河に捨てられていた。
「それで、どうなのオリギーヌ?」
また新しい局が始まるタイミングで和歌が織衣に問う。普段の和歌はおどけた感じというか、昼間は半分眠っているためマイペースな雰囲気だが、ああ見えて地獄耳で任務中は頭が切れるタイプだ。狙った獲物は逃さない。
「……かっこいいかって聞かれると、穂高君はあまりかっこいい方じゃないと思う」
やはりこのツクヨミの中でかっこいいという言葉が当てはまるのは、客観的に見て渡瀬が一番だろうし、何なら牡丹や千代達だってそうだ。詠一郎もまぁ顔は良い方だ。しかし穂高の場合、童顔というか顔立ちが中性寄りなため、どちらかというと可愛いと評価する人の方が多いだろう。まぁ最も、さらに可愛らしい出で立ちの昴が入ってきたため中途半端な存在になってしまったが。
しかし格好良さというものは見た目だけで判断できるものではない。その人の内面や行いが含まれることもある。
「まー、独断専行って感じが否めないかもねー」
穂高は確かに強い能力者かもしれないが、行いが勝手な部分もある。おそらくそれは、長い間能力者狩りとして一人で戦ってきたから体に染み付いてしまっているのだろう。これまでも何度か昴を除く高校生組で任務に当たったこともあるが、織衣達が何もしなくても大体は穂高が解決してしまう。
「大分当たりの能力引いてるもんね。しかも二つ持ってるって凄いよ。私もあんぐらい強くなれるのかなぁ」
能力者がどんな能力を持つかは、宿主である能力者本人が選べるものでもなければ先天的に決まっているわけでもない。発現の際の行動や環境が多少影響するらしいが、能力者の強さというものは宿主本人が持つエネルギー量や発現した能力の系統で限界は決まってくる。勿論何個も能力を持つことが出来れば有利かもしれないが、ツインやトリプルなど、能力を複数個持っている能力者は全体の数%程だと言う。織衣が知っている限りだと穂高やリーナ、エリーぐらいだ。しかもエリーの『ネコ』の能力は実用性があるのかないのかわからないが、可愛いから良し。
「でもねー、使命感を持って戦ってるところはかっこいいと思うよー」
そう言いながら和歌はシレッとリーチ棒を置いていた。
「それが、あの人と私達の違いなんじゃないかなー」
織衣達は革新協会が現れる前に能力を発現し、ツクヨミに加入している。まだ一般人としての気が抜けきらない昴は別として、穂高は四月デストラクションや和光事件を経験している。彼は多くのものを守ろうとして守ることが出来なかった。それでも穂高がまだ戦おうという意思を持っているのは、守れなかった人達への償いか、それでも溢れ出る復讐心のためか。
「穂高君が、最初からあんな感じだったと思う?」
穂高が能力を発現した直後からあれだけ強かったわけがない。仮にどれだけ武術を嗜んでいたとしても、それを実戦でどれだけ有効に使えるか、どれだけ能力と組み合わせて使うかすぐに理解できるものではない。普通の能力者は昴のように初心者からスタートするのだ。きっと穂高にも、そんな初々しい時代があったはずだ。
「やっぱり実戦経験が私達とは桁違いなんじゃない? ほら、あのリーナとずっと戦ってきたんでしょ? 死んでも生き返らせてまで。どんだけ好きだったのかなぁ」
能力者狩りだった穂高がリーナと何度も戦って殺されては生き返させられていることは緋彗達も噂程度に聞いている。
「死んでも生き返らせるぐらいでしょー?」
「そりゃそうかもしれないけど……一応敵同士なわけじゃん? ほー君は能力者狩りとして革新協会と戦ってたんだし、別にほー君だってリーナが好きだったわけじゃないんでしょ? どうしてあんな関係が成り立ってるのかなーって。ほー君にとってはメリットがあるかもしれないけど、リーナはただ単にほー君が好きっていう理由だけでそんだけ尽くせるのかな」
以前と比べれば、リーナが穂高に接触してくる回数も減ってきている。おそらく穂高がツクヨミに加入したことで近づきにくくなったからだろうが、彼女の一方通行な愛が止まるようには見えない。ちなみに穂高によると、二、三日に一回は鬼電がかかってくるらしい。
四月からおよそ三ヶ月もの間、能力者狩りだった穂高は敵であるリーナと戦ってきたのだ。おそらく本気で戦っても双方ともに互角なのだろうが、穂高にとってリーナは自分の治療役として万能過ぎるし、そんな穂高にリーナは無償の愛を与え続ける。その関係は、穂高こそ復讐心を抑え込んで損得勘定で考えることが出来るならメリットがあるだろうが、リーナ側にメリットが思い浮かばない。それが愛のなせる業というにはリーナ側に問題があり過ぎる。
もし仮に、穂高がリーナに与えられるものがあったとすれば──。
「セッ○スとか」
和歌の発言に、牌を河に捨てようとしていた織衣の手が動揺からか牌をあらぬ方向へ弾き飛ばし、一方で緋彗はブフッと噴き出していた。
「ダッカ君の息子はもう卒業してるのかもしれない!」
和歌は織衣が弾き飛ばしてしまった牌を拾い、そして声高らかに言っていた。
「まさかぁ。ほー君サイドが捧げたってこと?」
「もしくはリーナちゃんの方が襲ったのかもしれないねー。ほら、この世には屍姦って言葉もあるんだしー」
「……悪趣味」
しかし、もしリーナがそれを穂高に迫れば、彼に断る権利があっただろうか。穂高が戦っていたのはリーナだけではなく彼女が所属する革新協会だ。穂高は革新協会の何らかの計画に利用されていた可能性があるとはいえ、パワーバランスでは穂高の方が圧倒的に不利だ。リーナが純粋な恋心を持っているのなら考えなくても良いことだが、あの女がそんなまともだとは織衣も思っていない。それだけに、和歌の冗談めいた発言が冗談に聞こえなかった。
「どうかなー本人に聞いてみるー?」
「なんて聞くんだよ」
「卒業してるのーって」
「それ、穂高君がすっごい初心だったらどうするの?」
「それはそれで面白いんじゃないかなー」
能力者狩りとして名を轟かせてきた穂高相手にそんな大立ち回りが出来るのは和歌ぐらいだろう。普段の和歌はネコを被っているが、穂高とてそこまでバカではないはずだ。
「でもダッカ君はチェリーには見えないよねー。ほら、妙に女慣れしてる感じがするでしょー? オリギーヌとの距離感を見てもそんな感じがするよー」
織衣はそう感じたことはなかったが、そう意識すると穂高のことが嫌いになりそうだ。
「でもそれってさ、ほー君に妹がいたからなんじゃない? だから異性との付き合いが上手いんじゃないかな」
「だったら尚更オリギーヌとの相性が良いんじゃないかなー。ほら、オリギーヌも妹属性付いてるんだからさー」
「あれ? 織姫ちゃんはお兄さんがいたこと、ほー君に言ったことある?」
「ううん、言ってない」
話の流れでそんな話題にならない限りわざわざ自分で言うような話ではないし、そんな話題になったこともなかった。織衣に兄がいたことは、昴や穂高を除けばツクヨミの全員が知っているはずだ(一部は忘れているかもしれないが)。勿論、兄との間に何があったのかもなんとなく知っているだろう。
「もしかしたらほー君は感じ取れるのかもしれないねー。オリギーヌって近づきにくい雰囲気出してるけど、もしかしたら妹みたいに思ってるのかもしれないよー?」
「私ってそんな近づきにくい?」
穂高が自分のことを妹のように捉えているのは別に良いとして、織衣が近づきにくい雰囲気を出していると言われるのは彼女にとっても心外だ。穂高にもよく言われることだったが、決して意識しているわけではない。
織衣の問いに対して緋彗はごまかすように苦笑いをしているだけだったが。
「うん、そうだね」
和歌は何の躊躇いもせずそう言った。
「多分オリギーヌは、自分がツクヨミの人間ってことを意識しすぎてるんだと思うなー」
「うん。秘密を必死に隠そうとしてる感じがするね。でもさ、どんだけ気を抜いてても『そういえばこの前富士山に射撃訓練に言ったんだけどさ~』って学校の友達に言わないでしょ?」
「まぁ、確かに」
ツクヨミの所属歴では織衣よりも先輩である緋彗と和歌、斬治郎はそんな気を張らずとも普通に学校生活を送っている。穂高も元々は能力者狩りとしてコソコソ動いていたという経験上、学校では能力者の一面を隠すのが上手い。昴は緊張しているようだが、意外とすぐに慣れたようで慎重に動いている。織衣は、そもそも自分から誰にも積極的に関わらないという手段を取っていた。見ず知らずのツバキとかいう女に「友達いんの?」と煽られても仕方ない。
「あれだね、話を戻すとほー君は割とすぐに織姫ちゃんの牙城を崩すコツに気づいたのかもしれないね」
「もしかしてダッカ君はオリギーヌに気があるんじゃない?」
「まさか」
「じゃあほー君に告られたらどう答えるの?」
勿論断る、と織衣は口に出そうとしたが、何故か口をつぐんでしまっていた。穂高を拒もうとした自分も、織衣自身が拒んだ。穂高に対しては恋愛感情があるとも、それに似たようなものがあるとも考えられなかったし、今までずっとそれを否定し続けてきたのだ。しかし今、織衣は言葉に出すことを拒んでしまった。
緋彗と和歌は押し黙る織衣を愉快そうにニヤニヤと笑いながら見ていたため、織衣は顔を伏せてしまった。自分でも信じられないほど感情が揺さぶられてしまったことに織衣でさえ恥ずかしくなっていた。今更顔を伏せても、何をどう取り繕っても、最早答えを言ってしまったような形になってしまった。
「いやーオリギーヌの恋路は長くなりそうだねー」
「素直じゃないからねー」
「まずは私達相手に素直になってみたらー?」
「殺す」
「わーお。でも死ぬのはオリギーヌの方だよ!」
すると和歌は織衣と緋彗に向けて発の牌を掲げた。それは先程織衣が河に捨てようとしたが動揺して弾き飛ばしてしまったものだった。
「私のターン! ドロー! 緑一色!」
和歌が持っていた牌は綺麗に緑で揃えられていた。再び役満が織衣に直撃したのである。
「二連続役満だから~十六倍満貫ぐらい貰っちゃおっかな~」
点数にして十万四千点である。途方もない点数だが、ここでは勝った人間がルールだ。二連続で役満の直撃を喰らった織衣は文句を言えなかった。
「でも今日はオリギーヌの初心な一面が見れたからもう満足かなー。色んな映画を見てる割には、オリギーヌって男慣れしてないねー」
「若様は男子相手でも距離感変わらないからね……」
「まー男なんて転がすのは簡単だから~」
「ホント悪い女だねぇ若様は。あーあ、私にも好きな人出来ないかなー」
織衣は色々と失うものが多かったが、和歌と緋彗が満足した所で本日の女子会はお開きとなった。三人で集まる時はカードゲームやボードゲーム、TVゲームで何かしら遊ぶことが多いが、やはり勝負事は何かと和歌が強く、緋彗や織衣が痛い目を見ることが多い。
織衣が緋彗と和歌に気を許せるのは、やはり同じ能力者としてこの組織で生きているからだ。二人が言っていたように、自分が能力者であることを隠そうと、裏の自分を知られないように必死になり過ぎているのかもしれないと織衣は思いながら、和歌と共に緋彗の部屋を後にした。
廊下に出ると、緋彗の部屋のすぐ向かいに和歌の部屋が、そしてその右隣に織衣の部屋がある。和歌の左側には千代や北斗の部屋があるが、女子寮も空室が目立つ。
和歌の部屋の前で彼女と別れようとした時、織衣は和歌に呼び止められた。
「オリギーヌは、どれだけ自分のことを私達に話せる?」
二人以外誰も通らない廊下で、ただ沈黙が続いた。和歌はマイペースで自分勝手な部分もあるが、誰にでも笑顔を振りまけるし、織衣より何十倍も人当たりが良い。和歌はそれも演技の一つだと言うが、同じ仲間として織衣達のことを気遣ってくれてもいる。
「私は話したでしょ、私のこと。結構前だけど覚えてるー?」
「……二月の雪が降った時?」
「そ。寒い中お台場でお仕事した時だよ。ひーちゃんのことは聞いたことあるー?」
「ううん、知らない」
「そっか。まー、それは知らなくて良いかもねー」
和歌は自分の過去を、どうして自分が能力者になってツクヨミに入ったのかを自分から織衣に伝えた。それは、和歌がそれだけ織衣のことを信頼してくれていたのかもしれないし、それも彼女の演技の一つかもしれない。例えそのどちらであっても、それをきっかけに二人の間にあった見えない壁は取り除かれたような気がしていた。
「オリギーヌはさ、ダッカ君がどうして能力者になったのかを、どうしてあの人が戦うのかを知りたいんでしょー?」
この自分の本心を見透かされるような感覚は、何とも気味が悪かった。
能力者は発現した能力だけではなく、能力の発動時に身体能力が強化されるだけではなく何らかの身体機能が著しく向上することがあるという。和歌や渡瀬達は、人の内面に気づく能力が高いのか、それともただ単純に織衣がわかりやすいだけなのか。
「私も気になるよ。ほら、ウチにはあんなにやる気を出して戦う人なんていないでしょー? 私達とダッカ君の違いは、まずそこなんじゃないのかなーって私は思うなー」
ツクヨミへ押し寄せてくる依頼の大半は織衣達にとっては関係ない他人事に過ぎない。詠一郎や渡瀬達も、あくまで報酬があるから依頼を受けているだけだ。人の生死が関わることだって、損得勘定でしか判断することはなかったのだ。
そのためツクヨミにとって穂高は異質な存在だった。彼には明確な恨みを持って戦う相手がいる上に、能力者狩りとして戦ってきたのだ。勿論織衣や和歌達にだって許せない相手はいる、しかしツクヨミの任務に私情を挟んであれだけやる気を出せるのは、穂高ぐらいしかいないのだ。
「でもね、副メイドさんが前に言ってたんだよー。取引には対価が必要だって。
オリギーヌは、ダッカ君にどこまで明かすことが出来るー?」
和歌から彼女自身の話を聞いた時、織衣も少しだけ、ほんの一部分だけだが自分のことを打ち明けた。それで和歌が織衣の身に起きたことをどれだけ理解したかわからないが、相手から情報を聞き出したいのなら、それ相応の犠牲が必要だと織衣は言いたいのだろう。
「難しいことだとは思うよ。私も、きっと皆もそうだから。ダッカ君だって、四月とか和光の話はあまりしないでしょー? それは本当に話したくないことだと思うんだよ、オリギーヌにだって私達に話したくないことの一つや二つぐらいあるでしょー?」
「若様にはあるの?」
「うーん無いことはないかなーって感じ」
穂高はお願いさえすればツバキのことも、和光事件での出来事も話してくれるような気がしていた。だがそれは彼に大きな負担をかけてしまう可能性もある。事情を知っているはずの華は守秘義務を守っているため織衣達には教えてくれないし、もしかしたら渡瀬なら何か気づいているかもしれないが、それはズルいように思えていた。
「辛い過去を受け入れるには、それを忘れるぐらいの、乗り越えられるぐらいの幸せが必要かなーって私は思うな。それに、それを誰かのせいに出来るのなら、もっと幸せなことだと思うよ」
和歌はいつも笑っている。和歌だって大変だったはずなのに、今もこうして笑っていられるのはそれを乗り越えることが出来たからだろうか。だからこそ、和歌の言葉が織衣の心に釘のように深く刺さっていた。和歌の忠告はありがたいものだ、しかしやはり詮索するべきではないと織衣は迷っていた。
和歌はスッと織衣の両肩を掴み、織衣を正面に見据えて言った。
「もし、まだまだオリギーヌが素直になれないようだったら──」
すると和歌は織衣と距離を詰めた。思わず織衣はのけぞってしまうが、和歌は織衣の耳元で呟いた。
「──誰かが、貴方の穂高君を射止めちゃうかもしれないよ」
それは忠告か、警告か。和歌の笑顔は、そのどちらも示しているように見えた。
「じゃ、また明日」と和歌は手を振って自室へ入ってしまった。織衣は右手の拳をギュッと握りしめながら、怒りにも似た悔しさ、悲しみにも似た不愉快さを覚えながら、自分の部屋のドアを開いていた。




