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ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第四章『誰もが蜘蛛を愛してる』

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4-12『中間テスト』



 ツクヨミには四人の家庭教師がいる。

 まずは高校生組の保護者代わりである副メイド。国立大学を卒業し国家公務員としての顔も持つ彼は、テスト期間になると忙しい合間を縫って織衣達にみっちり勉強を叩き込む。しかしジェネレーションギャップなのか「言語文化?」だとか「公共?」だの自分達の時代とは違う教科名に戸惑うことも多々ある。得意な教科は国語と社会。

 次に鶴咲渡瀬。今のツクヨミでは二人しかいない現役大学生の一人。高校の頃から千代達に勉強を教えていた彼は他人に教えるのが上手いが、話が逸れがちで時間を潰してしまう。得意な教科は数学と社会。

 三人目は榊詠一郎。実は彼も大卒で、ツクヨミに入っていなければ研究職に進むつもりだったとか。彼も副メイド並みに忙しいため織衣達に教える時間は少ないが頼りになる。得意な教科は数学と理科。

 最後に葛根華。世界中からツクヨミに寄せられて来る依頼を仕分けているため語学に強く、英語や中国語等数カ国語を巧みに操れる上に現地の方言までマスターしているとか。いつも本部に引き籠もっているはずなのに。得意な教科は国語と英語。

 千代も頭は良いらしいが、彼女は感覚でしかものを語れないため何を言っているのかよくわからない。


 しかし、彼らツクヨミ屈指の家庭教師陣を持ってしても赤点を取る人間はいる。日頃から真面目に授業を受ける気のない斬治郎、授業を聞いていても頭に入っていない緋彗、そして午前中はスヤスヤと眠っている和歌。和歌は寝ている割には総合点数では良い方だが教科によって得意不得意が激しい。前回の期末テストで赤点を取ったこの三人には家庭教師達が勉強を叩き込んだが、果たして結果はどうなるか。

 織衣達のクラスは進学コースということで、テストが終わった後はあの問題はどうだっただの何が正解だったかだの話している連中も多いが、織衣が緋彗が座る席をチラッと見ると、どうやらダメそうな顔をしていた。

 そして十一教科も受けさせられたテスト期間が開け、結果が返却された。学年順位も一応あるが掲示はなく、生徒が各々担任に聞きに行くというシステムだ。だが大体の人間は聞きに行くし公言してしまう、織衣達もそうだ。そして本部へ帰ると、それぞれ返却されたテストを食堂で広げていた。


 「は?」

 「何これ」


 テーブルの上に広げられた解答用紙を見て驚いていたのは緋彗や斬治郎だけではない。織衣と和歌、そして初参加である穂高でさえ驚嘆の声を上げていた。そう、今回ツクヨミの人間として初めてテストを受けたのは穂高だけではない。


 「が、学年七位……!?」


 高校生組の中で一番の成績を上げたのは木取昴だった。十一教科で合計千二十七点(平均約九十三点)、三百人以上在籍する一年の中で七位という成績だ。進学コースのある出灰総合には国公立大学や有名私大への進学を目指す生徒が多く存在するが、彼らとまともに殴り合うことが出来る学力を持っている。


 「いや、前回より少し落ちちゃったよ」

 「えー、前回何位だったの?」

 「四位だったかな。現国と物理で落としちゃったね」


 二学期が始まって早々の九月にあんなゴタゴタがあったのも原因だろうが、これといって特に苦手な教科も無く八十点台なのが現国と物理基礎だけで他は九十点を超えている。


 「一年の時の渡瀬と張り合えるぐらいか、いや超えているかもな。大したものだ」


 あの厳しい副メイドが感心している程だ。もしかしたら次のテストで昴は家庭教師陣の中の一人として組み込まれているかもしれない。


 「あれ、姫野さんって合わせて何点?」


 織衣は穂高と昴が加入する前までは高校生組の中で一番成績がマシだったが、赤点を取っている連中と張り合ってもしょうがない。

 問題は穂高だ、彼が在籍していた雨京高校も進学校だったらしいが、実際の所どれだけのレベルなのかはこうして試験を受けてみないと目に見えないものだ。


 「八百九十四ね。穂高君は?」

 「……八百九十二」


 まさかの二点差である。


 「順位はどうだったの?」

 「僕は学年四十九位だったよ」

 「私は四十八位」

 「いや、うん。そうだよね……」


 ちなみに進学クラス内での順位だと織衣は七十四人中二十七位であるため中の上ぐらいである。


 「は? 現国百点ってどゆこと? あの捻くれた大問二の最後どうやって答えたの?」

 「私は先生の好み知ってるから」

 「凄いや。確か学年一位の人でもその問題落としてたのに……言うて穂高君も八十点は超えてるし良いじゃん」


 現国の教師は出灰の先輩達(渡瀬や千代)からそれはそれは理解の難しい問題を出してくることで有名だと聞いていたが、織衣はその教師の癖や趣味を見抜いて簡単に答えていた。出灰に入ってきたばかりの穂高には難しかっただろう。しかし織衣も国語以外は八十点や七十点代が多い。


 「あー……姫野さんに負けたのが悔しいな。もっと歴史で稼げたと思うだけどなぁ」


 一方で穂高も八十点や七十点代が多いが、英語や社会は九十点を超えている。なのに織衣よりも下なのは、生物基礎が五十二点だったからだろう。


 「穂高の場合はやはり生物のハンデが効いたな。まぁまだ追いつける範囲だ、気にすることはない」


 仮に学校が違ったというハンデがなければ織衣は負けていた。逆に短い勉強期間でよく半分も点数を取ったものだ。

 


 「百点とか神話だね……」

 「だよな……人間じゃないよな……」


 食堂の片隅で落ち込む者が二名。緋彗と斬治郎の赤点常連組だ。


 「どれが赤点だった?」


 副メイドの声にはどこか威圧感があった。


 「コミュニケーション英語と物理基礎と生物基礎……」

 「俺は何とか数Aだけ……」


 合計点数は緋彗が四百四十七点で学年二百三十一位、斬治郎が四百四十四点で学年二百三十二位だ。ちなみに進学コースに在籍する生徒ではブービー賞とビリである。期末テストに続き補習組となった。


 「これは中学の内容から入り直したほうが成績が上がりやすいかもね……英語は文法は出来てるみたいだからやっぱり語彙力が必要かもね。暗記が苦手ならリスニングとスピーキングの繰り返しが良いかな。やっぱりインプットとアウトプットの繰り返しが……」


 二人の結果を見て昴がもう二人の成績を上げる方法を考えている。もしかしたら彼は頼まれなくても勉強を教えてくれるかもしれない。


 「若様はどうなの?」


 全員が和歌の方を見ると、和歌は椅子に座りながらスヤスヤと眠っていた。それもそうか、テスト期間中はテストを受けるためにどうしても午前中起きていなければならなかった。その分が今睡魔となって彼女に襲いかかっているのだろう。


 「起きてよー若様ー」

 「ふがっ」


 緋彗と織衣に体を揺さぶられてようやく和歌が目を覚ました。


 「あー、私はトリプルセブンだったよー」

 「飛行機みたいに言わないでよ」


 和歌は学校で午前中寝ている割にはどうしてか頭が良い。本当にどうしてなのかと副メイドさえ首を傾げるぐらいだ。


 「え? 津島さん数学の点数僕より高いじゃん」

 「あ、でも歴史が赤点なんだよねー」

 「何でこんなとんがった点数なんだ……」


 和歌は理系科目に強く、歴史が大の苦手である。前回の期末テストでも歴史総合で赤点を取っていた。


 「というわけで、和歌と緋彗と斬治郎は補習組入りだ」

 「うへぇ……」

 「補習組ってそんなヤバいの?」

 「三人が死んだ顔になる」

 「もう殆どなってると思うけど」


 織衣も実際に体験したことがないためわからないが、聞く話によると牢獄にいるような気分になるらしい。三人はトボトボと気落ちしながら食堂を出て行った。この後、三人はみっちりと勉強させられる羽目になるはずだ。


 「そういえば何だが昴」


 食堂に残ってお茶を飲んでいた昴に副メイドが声をかける。


 「何ですか?」

 「お前は進路を決めているのか?」

 「あぁはい、東都大の医学部です」


 昴の答えを聞いた織衣と穂高は驚いてバッと昴の方を同時に向いてしまった。東都大学と言えば日本トップクラスの名門大学で、その医学部ともなると天才やら秀才やら奇才やら常人離れした頭の人間しか入れないような場所だ。


 「そういえばお前の両親は医者だったな」

 「父の母校なんです」

 「ふむ……出灰のレベルなら殆どの教科で満点が取れるぐらいの成績が欲しいな。後は模試次第だが、狙うならもう少し上のレベルになる必要がある」

 「はい、頑張ります」


 穂高は副メイドと昴を見ながら「こいつら何を言ってるんだ?」みたいな表情をしていた。平均九十三点を取っておいて学年七位の昴にまだ上のレベルを目指せと副メイドは言っている。それ程狭き門なのだろうが、それを聞いても物怖じしない昴も大した勉強家だと織衣は関心していた。


 「昴……もしかして医者になって世界中を飛び回るつもりなの?」

 「流石にそこまでするかわからないけど、興味はあるよ」

 「やっぱり昴は幸也おじさんの子どもなんだなって実感するよ……」


 昴の父親は今も医者として貧困地域や紛争地帯を飛び回っていて、変わり者な一面もあるという話は織衣も穂高から聞いていた。織衣は昴がツクヨミに加入したことでようやく高校生組にまともな人間が入ってきたと思っていたが、もしかしたら昴も相当ぶっ飛んでいるのかもしれない、と織衣は思い始めていた。


 「ちなみに穂高、お前も進路は決めているか?」

 「いや……行きたい場所は学校生活の中で見つかるのかなって思ってたので」

 「成程。昴並みに成績が上がるようなら俺は九法大をおすすめする。もしお前が入学したら俺が直々に俺の仕事先に斡旋してやれるからな」

 「滅茶苦茶私情入ってるじゃないですか」

 「違う、渡瀬が通っているから便利だと思ってな。あと俺の母校でもある」

 「やっぱり私情入ってるじゃないですか」


 九法大こと九州法科大学は福岡にある大学だ。副メイドの母校というのは初耳だが、というか彼が大学生だった時代なんて想像つかないが、穂高が福岡の出身だからという気遣いだろうか。今の段階から昴のレベルまで学力を上げろというのも無茶苦茶な話だが、こうして副メイドが進路相談にのっているのは珍しいことだった。


 「というか、ツクヨミって大学に行く必要あるんですか?」

 「無いと言えば全くといって無い」

 「学歴に優しい組織ですね……」

 「それじゃあどうして渡瀬さんは大学に?」

 「便宜上渡瀬には必要だったからな、半分は奴の趣味でもある。千代達は単純にやる気がなかった」


 今年の三月頃は渡瀬のように本部から引っ越す組が慌ただしく動いていたのを織衣は思い出した。渡瀬は大学に通うためエリーと共に福岡に、千代と北斗も活動拠点自体は大阪に移しているが、本部にも彼らの部屋はそのまま残されている。本部に滅多に帰ってこないホテル宿泊組の詠一郎や牡丹の部屋もあるらしい。


 「姫野さんは進路決めてるの?」


 穂高にそう聞かれた織衣は、すぐに答えられなかった。


 「さぁ、わかんない」


 織衣が出灰総合に入学したのも成り行きのようなものだ、あくまでツクヨミに入っていたから、というのが理由である。進学コースを選んだのも副メイドに勧められたからだ。ツクヨミで能力者として生きる自分がこの先どうなるのか、そもそも高校卒業まで生きているのかも織衣にはわからなかった。


 「何か要望があるなら俺が斡旋するが」

 「斡旋って、何をどう斡旋するんですか」

 「単なる口利きだ」

 「滅茶苦茶職権乱用してるじゃないですか」


 織衣には未来というものが想像できなかった。死というものをその目で見て、革新協会の出現でさらに死というものが近くなり、今すぐにでも未来が途絶えてしまうのではないかと恐れることもあった。昴には明確な夢があり、これだけ死と隣合わせというかほぼほぼ同居しているような穂高だって彼なりに未来を考えている。

 それは思春期特有の悩みだったかもしれない。だが自分とは違う世界を生きているような穂高と昴を見て、織衣は少しだけ心苦しくなっていた。



 斬治郎「俺らってテストとか受けさせられるんだな……」

 穂高「いや、学生だから当たり前じゃん」

 斬治郎「何か、こんな殺伐とした世界観の話でもテストとかあるんだなって」

 穂高「……何言ってんの?」

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