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ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第四章『誰もが蜘蛛を愛してる』

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4-7『死という選択』



 ──今日、奴が池袋に現れる可能性が高い。ただの観光だと信じたいが、何か企んでいる可能性もある。


 「はい」


 牡丹や詠一郎は別件がある。渡瀬や千代達は暇と言えば暇だが動きにくい。


 「僕に行けと?」


 不安なら誰かを連れて行ってもいい。勿論お前一人で探しに行っても構わない。ただ、もし誰か連れて行きたいなら一人だけにしろ、一斉に抜け出すと怪しまれる。心配なら渡瀬や千代を呼び出しても構わないが。


 「多分、姫野さんが来ると思います」


 俺もそう思う。だがいいか、くれぐれも無理はするな。だがどうしても仇討ちがしたいと言うなら止めはしない。


 「その時考えます」


 ただ、一つだけ条件をつける。絶対に生きて帰ってこい。織衣を連れて行くなら織衣も生きて帰せ。仕留められると思ったなら仕留めろ、逃げたくなったら逃げろ。立川オペレートには作戦準備に入ってもらっている、警察にはいつでも池袋を封鎖できるように要請しておく。


 「もし生きて帰ってこなかったら?」


 ……俺はまだお前のことを信用しきっているわけじゃない。だが俺は渡瀬を信用している。その渡瀬が、お前なら問題ないと太鼓判を押した。


 「わかりました。必ずや首を持ち帰ってやりますよ」


 あぁ、期待している。


 ---


 ホテルの最上階からジャンを突き飛ばして光線を放った後、穂高は光に化けて一気にジャンが落下した地点まで飛翔した。

 穂高が自称光速で移動して瞬間移動のように見せるように、穂高の『光』の能力は穂高自身に光の性質を持たせることが出来た。多少の頭痛と目眩を我慢して、穂高は光を体に纏って空を滑空する。能力者狩りだった頃に色々と試行錯誤して実験した結果、光に擬態している状態ならば高所から落下しても平気だということに穂高は気づいていた。だがコスパを考えると織衣に蜘蛛を借りた方が良かったと後悔していた。

 勢いよく地面に着地すると、人気のなくなった立体駐車場に隕石が落ちたかのような窪みが生まれていた。だがそこにジャンの姿はない。


 「──見事だね、能力者狩り」


 背後から感じた気配に瞬時に光剣で対応すると、丁度ジャンが穂高に斬りかかろうとしていたところだった。穂高の光剣から放たれる光は、ジャンが持つ黒剣へ吸収されていってしまう。

 ジャンが持つ黒剣は、穂高が『闇』の能力で使用するものと造形が違うぐらいで、殆ど一緒のように思えた。


 「少し驚いているようだね。あぁ、僕の能力について考えているのかい?」


 ジャンは額から血を流していたが、尚も余裕そうに穂高に語る。ジャンが操る『炎』と『闇』、能力者狩りとして戦ってきた経験のある穂高でも、それらを内含する能力がピンとこなかった。


 ツクヨミに入ってから、穂高は近接戦闘術や武器の扱い方だけではなく、渡瀬達から能力という力の仕組みについても学んでいた。リーナ達からも多少は教えられたが彼らが持っている知識量は膨大なものだった。

 能力者が身に着けているジュエリーの種類で、能力者が持っている能力の系統はある程度推理することが出来る。穂高の水晶のブレスレットや織衣のラピスラズリのグローブ、詠一郎のオブシディアンの指輪なら操作系(オペレート)、エリーや副メイドのようなルビーのチョーカーなら干渉系(レイド)、牡丹のトパーズの剣なら創造系(クリエイト)というように。

 ジュエリーの種類は全部で七つあるという。それら七つの系統から系統樹のように細かく能力は分かれていくが、その頂点に立つ能力者は他の能力者と違って右目に青い光ではなく赤い光を灯すという。つまり、その赤い光の能力者は七人いるということだ。

 ツクヨミには牡丹、詠一郎、渡瀬。革新協会には統帥とツバキがいて、そして今日──十字会総帥であるジャンもその一人であることが判明した。厄介なことにジャンは穂高と同じ水晶のブレスレットを持っている。つまりジャンは、穂高の上位互換の能力を持っているのだ。


 「悩むと良いさ能力者狩り。君は僕に勝つことが出来ないからね」


 だが攻撃が効いていないわけではない。ジャンが額から流している血を見る限り、ホテルでの一連の攻撃は有効だった。ジャンが持つ能力が強力なものだったとしても、おそらく能力者としての戦いにはまだ慣れていない。穂高が今まで戦ってきた能力者の中には、当たり前のように全ての攻撃を回避したり当たっても効かない連中がいる。それに比べればマシな相手だった。

 穂高は黒剣を再び生み出すと、光剣と黒剣を二本共地面に突き刺した。


 「“紋章共鳴”──」


 五分では難しい、しかし十分もかけられない。時間をかけると穂高の体が持たないのだ、すぐに暴走してしまう。そのためツクヨミの任務において能力の使用は制限されていたが、今は本気でいかなければならなかった。


 「“月光”」


 紋章共鳴は意図的に能力を暴走状態にさせるものだ。勿論宿主の意思で能力が制御されることが前提だが、より能力の出力を高めることが出来る。ただ体への負担は大きくなってしまう。

 穂高とジャンが戦う駐車場が暗黒に染められてゆく。周囲の街灯やビルの照明が消えていき、星の光すら存在しない夜へと変貌する。この夜闇に包まれた空間で光り輝く月こそが穂高であり、範囲内に入ってしまった人間は穂高しか見えなくなる。

 しかし、ジャンは動じない。


 「“Alleluia.Et fumus eius ascendit in saecula saeculorum(あぁハレルヤ、彼が焼かれる火の煙は、世々限りなく立ち上る)”」


 イタリア語だろうか、あまり聞き慣れない言葉をジャンは発しながら、炎を使って光源を確保していた。光と炎の能力を持つジャンなら、この空間の中でも十分に視界は確保されるはずだ。それも穂高は予測していた。


 穂高が操る闇の能力の主な戦法は『圧迫』だ。古来から人間という生き物は光を拝み闇を恐れてきた。日が沈んでも明るくなった現代でも、本能的にそれが体に染み付いている。視界が全て暗黒に染まり視覚も聴覚も機能しなくなると、やがて人は不安に襲われパニック状態に陥る。その精神的圧力を、穂高は能力で物理的な圧力に変換する。相手が暗黒を恐れれば恐れるほど、穂高を恐れれば恐れるほどその威力が増大していき、やがて押し潰されてしまう。

 だがジャンがそんなものを恐れるとは思えないし、実際にリーナ達を相手にしても殆ど効果はない。精々視界を制限するぐらいだ。わざわざジャンを相手に使用したのは、自分の能力の出力を上げるためだ。


 「“紫電────」


 穂高がよく使用する“紫電”は、目標に向かって数か所から光線を放つ技だ。命中率は半分以下だが光線の数が多いため結構敵に当たる。地面に光剣を突き刺して唱えるのがトリガーだ。

 さらに“紫電一閃”は光線を放った直後、即座に光剣から光の刃を放つ。調整にもよるがそれは広範囲へ平たい刃のような巨大な光線を光剣から放つことで、相手が後退しても避けられないようにしている。上下へ避けようとも光線が襲いかかるため、それらの光を無効化する術を持っていないといくらか喰らうことになる。

 穂高は光剣を地面に突き刺した。光剣から放射状に光が地面を走ると、穂高は光剣を抜いて大きく振りかぶった。


 「──一閃”」


 駐車場の地面や駐車されていた車から無数の光線が放たれると同時に、穂高は巨大な光の刃をジャンに向けて放った。この夜闇を切り裂く光は周囲を覆っていた闇をも晴らす。

 光線やら光の刃やらで周囲は光に包まれて眩しいものだが、穂高は能力のおかげでジャンが見えていた。ジャンは黒剣で光の刃を受け止めてそれを吸収しているように見えた。光線はジャンの体の周囲に出現した無数のブラックホールのようなものに全て吸い込まれていく。

 穂高とは少し闇の能力の使い方が違うが、彼の能力は防御面でも優れているらしい。だがまだ吸収できる衝撃には限界があるようだ、先程の攻撃が効いたように。

 穂高は光が晴れる前に光剣から黒剣に切り替え、黒剣の刃先をジャンに向けた。


 「“黒縋”」


 それはホテルからジャンを吹き飛ばした時に使用した技だった。光線を放つ時と手順は違うものの同じ要領で、穂高は黒剣の先から暗黒の光線を放った。光剣から放たれる光線は貫通力を重視しているが、暗黒の光線はプレス機のように相手を押し潰すものだった。

 暗黒の光線は煌めく光の中を突き進み、やがて立体駐車場の向かいにあったビルに着弾した。ビルの五階部分に直撃した暗黒の光線は壁を崩壊させたが、その奥は瓦礫に埋もれて見えづらかった。先程まで立っていた場所にジャンの姿はなく、おそらくビルと暗黒の光線に潰されたようだ。

 だが、まだ倒せたとは思えない。穂高が何度も戦ってきたリーナは、相手の力量を見定めるためわざと相手の攻撃を受けることもある。ジャンには回復能力は無いだろうが、穂高は黒剣を構えて立体駐車場から思いっきり跳躍し、壁が崩落したビルの五階部分へ飛び移った。

 瓦礫の山を観察していた穂高だったが、ジャンの姿は見当たらない。まさか埋もれているとも思えなかったが──突然瓦礫が動き出す。


 「“Cecidit, cecidit Babylon magna(倒れる、大いなるバビロンは倒れる)”」


 瓦礫の山の中から穂高に向かって襲いかかったのは数メートルはありそうな巨大な岩だった。穂高は剣で真っ二つにしようとしたが間に合わず、巨岩に吹き飛ばされ十数メートル下の地面に落下した。体にもろに直撃した痛みに悶ながらも、穂高は地面に衝突する直前に闇の能力でクッションを作って衝撃を回収した。すぐに立ち上がると、そこに彼は現れた。


 「“Et facta est habitatio daemoniorum et custodia omnis spiritus immundi et custodia omnis bestiae immundae et odibilis(それは悪魔の住む所、あらゆる汚れた霊の巣窟、また、あらゆる汚れた憎むべき鳥の巣窟となる)”」


 ビルと立体駐車場の間、小さな路地をジャンはゆっくりと歩いていた。その左腕に先程まではなかった傷から血が流れているのを見る限り、穂高の攻撃は少しだけ当たったらしいがかすり傷程度だったらしい。


 「君は随分と派手な戦いが好きみたいだねぇ。僕も負けてられないよ」


 すると、先程穂高の暗黒の光線が直撃したビルが轟音を鳴らし始めていた。それもジャンの能力なのか、七階建てのビルの五階から上が穂高の方へ崩落してきた。


 「“紫電”!」


 穂高が光剣を地面に突き刺すと、地面から放たれた無数の光線が崩落してきた瓦礫を迎撃する。光線が直撃し瓦礫が割れると、今度はその欠片に向かって光線を放つ。小粒の岩なら体に当たってもまだ耐えられるが、それでも捌ききれないと判断した穂高は黒剣も生み出し、それを宙に投げた。黒剣は球体に膨張すると、いくつかの球体に分裂し穂高の周囲に小さなブラックホールを形成した。ジャンの能力を真似して、それで瓦礫を吸収しようと穂高は考えた

 が、穂高が真っ黒なブラックホールを生み出したと同時にジャンがニヤリと笑った。


 「それを待っていた」


 ジャンがその手に握っていたのは黒剣だ。それを穂高に向ける。


 「“Veni, ostendam tibi sponsam uxorem Agni(さぁ行くんだ、子羊の妻なる花嫁を見せよう)”」


 ジャンが黒剣から穂高に放ったのは、細長いヘビのように襲いかかる闇の物体だった。それは何匹、何十匹にも分裂していき、穂高が生み出したブラックホールに吸い込まれていく、いや侵入していく。


 「これは────」


 ブラックホールに侵入したヘビ達は、それを介して術者である穂高の内側に入り込んだ。その異物は穂高の体中を駆け巡っていく。

 すると穂高が持っていた光剣の光が薄くなってゆく。黒剣の方もその形が小さくなっていた。黒いヘビが体の中に侵入して集中力が削がれただけではない、そのヘビはまるで穂高の能力を蝕んでいるようだった。

 苦しむ穂高に畳み掛けるように、ジャンは手を夜空に向けた。


 「“Magnus tremendus Rex de coelo veniet!(アンゴルモアの大王よ、貴方に恐怖の大王を捧げよう!)」


 夜空から穂高に放たれたのは無数の隕石だった。その数は先程穂高に襲いかかった瓦礫よりも多く、光線を放つのも間に合わないほどの速さで迫ってきていた。ブラックホールを解除すればこの隕石をもろに喰らうことになる。しかし解除しなければ、ジャンが放った黒いヘビ達が穂高の能力を呑み込んでいく。

 ジャンの闇の能力が持つ特性は、穂高とは違い『浸透力』だ。異物が、劇物が混入したかのように、穂高の体に不快な感覚が襲いかかる。


 「クソが……!」


 穂高は自分の舌を噛んだ。その痛みで理性を保とうとし、黒剣を持ったまま腕で顔を覆った。穂高に降り注ぐ隕石はブラックホールに吸い込まれていき衝撃も吸収していく。その後穂高は黒剣から光剣に切り替えて自分に向かって光を放った。すると穂高の体の中に侵入していた黒いヘビ達は消えていく。

 しかし穂高はかなり体内を侵食されていた。その気持ち悪さに体が震え、地面に手をついて異物を吐き出そうとする。


 「あぁそうだ、言い忘れていたよ」


 ジャンはゲホゲホと異物を吐き出す穂高の前で言った。


 「君はツバキを知っているよね? あの変な眼帯をつけた女だよ」

 「……だから、何だ?」

 「僕達のビジネスパートナーさ。ツバキは僕達に大きなメリットを与えてくれる。

  そのツバキが、もしこの場に駆けつけていたらどうなると思う?」


 そして、穂高はようやく気がついた。共に行動していた織衣がまだ駆けつけていなかったことに。ホテルからは若干離れた場所だったが、彼女ならもう来ていてもおかしくない。


 「……まさか」

 「今頃彼女は何をしているんだろうねぇ。君のアモーレはツバキに勝てるのかい?」


 不可能だ。それは織衣の実力の問題ではない。ツバキという能力者を相手に、その能力を知らずに戦うのは危険だ。穂高は織衣達にツバキの話をしたことはない、彼女のことを知らない織衣は刃を交えることだろう。そうなってはツバキの思う壺だ。


 「愚かかな、愚かかな、愚かかな。能力者にして復讐鬼である能力者狩り。今いまし、やがて消え去るべき者。

  君は、もっと苦しむがいい」


 ジャンは闇に紛れた。その姿は同じ能力を持つ穂高には目で捉えることが出来たが、今はジャンを追撃するよりも、織衣の元へ向かうのが先だと考えた。


 道路に出てホテルの方へ戻っていると、先の交差点から赤い光が放たれた。その光には見覚えがあった。ツバキが己の能力を行使する際に放つ光だ。相手を自らの傀儡としてしまう恐ろしい力だ。

 人気のなくなった交差点へ辿り着くと、丁度織衣がツバキの目の前で倒れていたところだった。


 「姫野さん! そいつの相手はしちゃいけない!」


 穂高はそう叫んだが、もう織衣には届いていないかもしれなかった。


 「あちゃー、もう来ちゃったか。貴方にはあの子が救えるかしら?」


 ツバキと顔を合わせたのはおよそ三ヶ月ぶりだ。しかしお互いに挨拶を交わすことすらせず、穂高は光剣を持ちながら織衣の方に目をやった。


 「……姫野さん?」


 織衣の側には、彼女が使用していた太刀が転がっていた。織衣は織衣なりに全力で戦っただろう、しかし戦えば戦う程ドツボにはまっていくのだ。

 穂高の声が届いたのか、織衣はフラフラと立ち上がった。転がっていた太刀を広い、その手から大量の蜘蛛を生み出していた。


 「……そうか、そういうことか」


 背後をチラッと見ると、もうツバキの姿はない。満足して帰ったのだろう。後は穂高と織衣が戦う姿を楽しむために。

 もう手遅れだ。織衣はツバキの能力に乗っ取られた、ツバキの命令に忠実に従うだけの操り人形だ。フラフラとよろめく織衣は、ふと体勢を崩しそうになる。思わず穂高は織衣の体を支えようと近づいたが、織衣は穂高に急に襲いかかり、彼の首元に噛みついていた。


 「がっ……!?」


 首元に走る激痛。斬られたことも刺されたこともあるが、こんな感覚は初めてだった。穂高はすぐに織衣を突き放して左肩を押さえる。未だにフラフラと体をよろめかせる織衣の目は虚ろで、やはり既に織衣自身の意識は無いように見えた。


 「そうだね。君も……君もツバキの術にかかったんだね」


 ふと、和光事件での出来事を思い出しそうになって穂高は首を横にブンブンと振った。考えていなかったことではない。出灰で穂高と昴を狙う動きがあってから、ツバキが裏で動いているという可能性は穂高の頭にあった。そのため何度もシミュレーションしてきたのだ。

 きっと、今の織衣の視界に映っているのは穂高ではなく敵だろう。敵としか認識出来ないはずだ。穂高を殺すことを命じられた操り人形だ、穂高を殺すまで織衣の意識は乗っ取られたままだ。

 織衣は太刀を構えて、それを大きく振るって穂高の首を狙おうとする。

 それに対し、穂高は光剣を捨てて、能力すら解除して両手を広げた。


 「さぁ、僕を殺すんだ姫野さん」


 それが、穂高が出した答えだった。抵抗の意思を見せずに、自ら殺されることを選んだ。


 「これが、報いなんだよ」


 覚悟は出来ている。今まで殺してきた人々の顔が頭の中に思い浮かぶ。穂高が能力者狩りとして殺めてきた一万人以上もの顔が、恨めしそうな表情で穂高を見ていた。穂高は人として許されない過ちを何度も繰り返してきた。その報いを受けるのは当然のことだろう。

 織衣の太刀は鈍器としても優秀だが、勿論刃物としても優れた武器だということを穂高は知っていた。その刃が穂高の首に当たると、鋭い刃は首を深くえぐり、頸動脈が切られた。何度も味わった痛みだった、その激痛も、生暖かい血が流れ出す感覚も、体中から血の気が引いていく感覚も、意識が遠のいていく感覚も、能力者狩りとして何度も味わってきたものだった。

 大量の血を首から噴き出しながら、穂高は地面に仰向けに倒れた。穂高は死の痛みを知っていた。それは物理的に体を襲う痛みだけではない。その痛みを知っていたからこそ、穂高は能力者狩りとして苦しんできた。

 段々と視界が薄れていく。次に自分が目覚めるのは何分後、いや何日後のことだろうかと穂高は考えていた。穂高の視界に最後に映ったのは、夜空に浮かぶ三日月と──太刀を持ち、穂高を見ながら立ち尽くしている織衣の姿だった。



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