表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第四章『誰もが蜘蛛を愛してる』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/176

4-5『開戦の狼煙』



 自分達に向かって放たれた銃弾を、穂高はそれら全てを見切って光剣で、織衣は蜘蛛糸を張ることで弾いた。穂高が光剣を一振りするだけで、武装したホテルのボーイ達は体を真っ二つにされてしまっていた。

 しかし、その間にフロアが炎に包まれようとしていた。炎はあっという間にフロア全体に広がり、テーブルや椅子だけでなく食器をも溶かそうとしていた。その熱をコート越しに織衣は感じていた。

 その炎の出処は、ジャンが右手に持つ炎で作られた剣だろう。ジャンが能力者だったという事実には最早驚くまい。ただ厄介なのは彼が赤い光を持っているということだ。見る限り緋彗と同じような『炎』の類の能力だが、そう判断するのは早計に思えた。

 赤い光を持つ能力者は、多くの能力者達の上位互換の能力を持っている。穂高達と同じ腕輪のジュエリー、そして緋彗と似たような能力を使っているのを見るに、彼らの頂点に立つ能力を持っている可能性がある。

 相手の能力がはっきりとわからない状況では、正面からぶつかり合うのは勇気がいる。現状蜘蛛糸を燃やしてしまうであろうジャンが相手では織衣も不利だ。一方で穂高は基本戦う時は正面から突っ切ることも多いが、今の相性は微妙だ。光と火、そういった単純な現象を操る能力者同士の戦いは、いかに相手の弱点を素早く見つけ出せるかの探り合いか、もしくは単なる力比べとなってしまう。

 三者、お互いに光剣と黒剣、太刀、炎剣を構えたまま様子を伺っていた。織衣は穂高の方をチラッと見たが、穂高でさえ自分から仕掛けるのを躊躇っているようだった。それを見たジャンが先に踏み込んだ。


 「さぁ、本当の挨拶と行こうじゃないか!」


 轟々と燃え上がる炎を体に纏って、ジャンは炎剣を大きく振りかぶった。織衣が蜘蛛糸を張ろうとしても激しい炎に一瞬で焼き尽くされ、真正面から穂高とジャンは刃を交えた。

 炎と光がぶつかり合う。どちらとも互いに光を放つもの、二人の能力によってフロアは眩い光に包まれた。単純な力技では、穂高が勝っているように見えた。


 「うおおおおおおおおおおおおっ!」

 「ぬああああああああああああっ!」


 しかし、これはサシの勝負ではない。一対二だ。穂高とジャンが激しく刃を交える中で、織衣は太刀を握った。


 織衣が装備する太刀は織衣の身長より長い、しかし織衣はその太刀をまともに振るうだけの腕力を持っていない。そこで役に立つのが彼女の『蜘蛛』の能力だ。太刀の柄や刃に蜘蛛糸を絡みつけ、各所に蜘蛛糸を張りながら太刀を操り人形のようにコントロール出来る。

 織衣は炎を避けながらジャンの背後から近づいた。ジャンの動きを見るに彼は戦いに慣れているようには見えない、十分に隙があるように思えた。が、突然穂高がジャンから離れた。


 「姫野さん、引け!」


 織衣は踏み出そうとしていた一歩を起点に、体重を一気に後ろに下げて身を引いた。何故穂高が後ろに下がるように言ったのか、それを理解出来ていなかった織衣の目の前に、まるでブラックホールのような暗黒の球体が生み出された。穂高は闇を生み出す、しかし穂高がこんな技を使っているのを織衣は見たことがなかった。


 「“Un grande re della paura(恐怖の大王)”……」


 それは、穂高が生み出したものだと織衣は思っていた。違う、これはジャンの能力なのだ。

 ブラックホールのような球体から、無数の隕石のような炎を纏う物体が織衣や穂高を目掛けて放たれた。織衣はテーブルの陰に隠れながら姿勢を低くして駆け抜け、椅子に躓いて転がりながらも隕石を凌いだ。織衣に当たらなかった隕石は窓ガラスを突き抜けて外へ飛んでいっていた。一方で穂高は自分に飛んできた隕石を全て光線で迎撃したようだった。

 ジャンの攻撃が止むと、その隙に穂高が斬りかかる。穂高は光剣と黒剣を同時に生み出せるが、二刀流で戦うことはあまりない。おそらく光と闇のどっちの能力がジャンに聞くか見定めようとしているのだろう。穂高の『光』は全てを光で包み込む。穂高の『闇』は全てを闇で包み込んでしまう。ならばジャンの『炎』もかき消せるか。


 「無駄だよ」


 ジャンの体から炎が消えた。能力を解除したのか、いいやジャンは炎剣の代わりに、右手に禍々しく黒い剣を生み出した。それは穂高が持っている黒剣と同じものだ、強いて言えばデザインが違うぐらいだった。

 穂高は黒剣を解除して光剣を握った。その方が効くと判断したのだろう。

 黒剣と光剣がぶつかり合うと、お互いの剣から闇と光が波動のように周囲に放たれ、それらがフロアの壁に当たると大きな亀裂が入る。これだからこういう能力者同士の戦闘の近くにいるのは危険なんだと織衣は思いながら、再びジャンの背後に回っていた。

 しかしジャンと穂高が数度剣を交えただけで、戦場であるこのホテルが耐えられなくなってしまったようだ。炎が燃え盛る音に混じり、このフロア全体が不穏な音を鳴らしていた。このままでは崩落すると織衣も気づいた。

 激しくぶつかりあったジャンと穂高は、お互いにその衝撃でのけぞっていた。だがこの勝負は一対二──ジャンが引いて体勢を崩した一瞬の隙に、織衣はジャンに斬りかかった。その細長い大太刀は蜘蛛糸と遠心力を利用して、まるで鈍器で叩きつけるようにジャンに衝突した。

 斬れてはいないようだ、だが確実に生身に当たった。ジャンの体は勢いよく大きなガラスにぶつかり、大きなヒビが入った。


 「落とす」

 「わかった」


 むこのフロアは使い物にならない、じきに崩落する。


 「くっそ……!」


 ジャンが体勢を整える隙も与えずに、穂高は光剣から黒剣に切り替え、床に突き刺した。


 「堕ちろ────」


 燃え盛る壁や天井から放たれた暗黒の光線がジャンの体にもろに直撃すると、そのままジャンはガラスを突き破って外へ勢いよく押し出された。すかさず穂高は外から強い風が吹き付ける窓際に立ち、黒剣を光剣に切り替えた。


 「研ぎ澄ませ、“紫電”!」


 穂高が光剣を床に突き刺すと、彼の周囲から無数の光線が生み出され、それらは空を屈折しながら、百メートル以上離れた地面へ落下していくジャンを追っていく。


 「ちょっと行ってくる」

 「え」


 穂高はタッと床を蹴って、粉砕された窓枠から外へ飛び出し、眩い光に包まれるとそのまま地上に向かって降りた……いや飛んでいった。上り下りに使える織衣の蜘蛛はまだ預けていないが、穂高は自ら光線のようになって遠くへ突き飛ばされたジャンの元へ一直線で飛んでいってしまった。一体どうやって地面に接地する時に地球の重力と戦うつもりなのか、まぁ能力でどうにかするのだろうと思いながら、織衣は蜘蛛糸を伝って安全に地上へ降りていた。


 地上に降りてから穂高と合流しようとするも、地上、ホテルのエントランス付近で織衣を待ち受けていたのは武装した人間達、十字会の構成員だ。黒スーツ姿の彼らは拳銃やライフルを構えているだけで能力者ではないようだ。ただの武装した人間など織衣の相手ではない。


 「──顕現せよ、“八束脛大蜘蛛(やつかはぎおおぐも)”」


 織衣が生み出した無数の蜘蛛達は集合して巨大な蜘蛛へと変化した。大蜘蛛は十字会の構成員達が銃弾を放っても強靭な糸で弾き、次々に彼らに襲い掛かって捕食していく。おこぼれは織衣が蜘蛛糸で銃弾を弾きながら斬っていくだけだ。

 八束脛大蜘蛛とは土蜘蛛の異称で、蜘蛛の妖怪として知られている。元々は大和王権に恭順しない豪族達の蔑称だった、人を蜘蛛妖怪呼ばわりとは酷いものであると織衣は思う。しかしこんな風に能力を使っていては織衣も妖怪と変わりないものだ。

 武装した構成員達を始末し、大蜘蛛は満足そうにゲフッとゲップをして消えていった。大人数を相手にするなら引っ掻き回す役として便利だ、しかし一度に多くの蜘蛛を使役しているため労力がいる。織衣はフゥと一息吐いて、穂高が飛んでいった方向を見た。

 ビルとビルの間から、強い光を放つ戦場が見えた。地上から眩い光が放たれているのは、おそらく穂高の能力だろう。

 ジャンの能力は何だろう? 最初は炎を操っているように見えた。しかし最後に、ジャンは穂高と同じような黒い剣を持ち闇を操っているように見えた。

 炎と闇、この二つの現象が共存する能力とは何だろう? 織衣の頭にパッと浮かんだのは『地獄』だ。闇に包まれた世界で激しく燃え盛る炎、まさしく閻魔大王が導く地獄の世界か。


 「オペ、聞こえる?」


 織衣は通信機を起動してオペレーターとの連絡を試みる。


 『お、織姫ですか? 今品川にいますよね?』

 「うん、今戦ってる。増援は来る?」

 『はい、千代さんと北斗さんが向かいます。ご武運を』


 どうやら千代と北斗が駆けつけてきてくれるらしい。千代が便利な能力をストックしていれば早く来れるかもしれないが、ハズレだった場合はバイクで来るだろう。それまで織衣達が持つかどうか。

 今はまだ織衣達が勝っているように思えた。だが、この無性に感じる不安はなんだろうかと織衣は自分の胸に拳を押し当てた。

 この胸騒ぎは何だろう?



 「た、たすけて……」


 その声で、ふと織衣は我に返った。戦闘の最中、微かに聞こえたその声の方を見ると、ホテルの敷地の出口、人気が無くなり無人の車だけが停められた交差点の真ん中に、白いワンピースを着た幼い少女が泣きながらしゃがみ込んでいた。


 「たすけて、お姉ちゃん」


 織衣は太刀を背中に背負うとすぐに少女の元に駆け寄って、軽く腰を下げて少女と目線を合わせた。


 「どうしたの? お母さんやお父さんは?」

 「うぅ……どこかにいっちゃった……」


 おそらくホテルの異変を察知して、周辺の人々は逃げていったと思われた。その最中に親とはぐれ、少女は取り残されてしまったのだろう。穂高のことも心配だったが、今は救える命を救わなければならない。


 「そう、私と一緒に逃げよう」


 織衣は少女をおんぶしようと背を向けた。少女の啜り泣く声が聞こえなくなり、彼女の軽い体が織衣の背中に乗る。


 「ありがとう、おねえちゃん──」


 その時、織衣の首元には包丁の刃先が当てられていた。


 よく避けられたものだと、織衣は自分の回避能力を自分で褒めていた。それは本能的なものか。きっと穂高と一緒に組まされて無茶苦茶な戦闘に何度も突き合わされてきたおかげだろう。

 幼い少女は、どこからか取り出した包丁を右手に持って、口角を大きく上げて不気味な笑みを浮かべていた。


 「アハ、アハハ、アハ」


 体を横にフーラフーラとゆっくり揺らしながら、焦点の合わない虚ろな目で少女は包丁を持って織衣に襲いかかろうとする。


 「やめて!」


 織衣は蜘蛛糸で少女の体を縛ろうとしたが、彼女はブンブンと包丁を振り回して蜘蛛糸を切っていた。

 様子がおかしいとはいえ少女に直接手を出すのを織衣は躊躇った。包丁を回避しながら何とか少女を捕まえようとしたが、異常な程彼女はすばしっこく、織衣に急接近した────。

 「あばぁ」

 突然、少女は動きを止めた。すると奇声を発しながら、その体を変形させていた。顔や腕、胸や足等体の至る部分が風船のように急激に膨張し──少女の体は耐えきれずに爆散した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ