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ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第四章『誰もが蜘蛛を愛してる』

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4-2『文化祭』



 その教室ではかつて、一人の少女が──。


 「このろうそく暗すぎない?」

 「多分ちょっと光るおもちゃみたいなものだから仕方ないでしょ」


 回収したプリントの枚数がどうしてもクラスの人数分に合わず、涙を流しながら何度も何度も数え直していた。


 「ちょっと光らせちゃダメかな?」

 「ダメに決まってるでしょ」


 一枚、二枚、三枚……。


 「これ、お岩さんじゃん……」

 「違う、八百屋お七よ」


 あの、お菊さんです。


 「あ、すいません」


 三十五枚、三十六枚、三十七枚……何度数え直しても一枚足りない。このクラスには生徒が三十八人いたはずなのに、何度数え直しても、何度名簿を確認しても、どれだけ丁寧に一枚一枚めくっても数が合わないのだ……。

 あれ?

 どうして名簿には三十七人しかいないの?

 このクラスには三十八人いたはずなのに?

 あと一人は一体どこにいっちゃったの?

 どうして、私の名前が名簿に載っていないの?


 「絶対死んでるやつじゃん……」

 「別のクラスだった可能性」

 「んふ、間抜け過ぎるでしょ」


 黄昏時、誰もいなくなった教室に彼女は現れる。黒板の前に置かれた古ぼけた教壇。夕闇の中で一人、彼女はひたすらプリントを数え続けているという。このクラスではその少女を祓うために、教壇の下に御札を貼り付けている。今日は、その御札を新しいものに貼り替える日だ……。


 「ここか」

 「確かにボロっちい」

 「この学校、備品がボロいって先生が愚痴ってたしね」


 教壇の上には……。


 「あ、プリントが置かれてる」


 それを数えると……。


 「一枚、二枚、三枚……あれ? 三十八枚あるよ」

 「え? 数え間違いじゃなくて?」

 「姫野さんも数えてみて」

 「一枚、二枚……え? 三十七枚よ」

 「は?」

 「え?」


 そこの男子の方……。


 「あ、僕ですか?」


 三十八枚だったのね?


 「はい」


 フフフ……貴方は一体何を数えていたの?


 「え」


 貴方も……貴方もこちら側よおおおおおおおおおおおおおおっ!


 「うわああああああああああっ!?」

 「ぎゃああああああああああっ!?」


 あぁちょっと!? 御札! 御札貼り替えないとクリアじゃないよ!?



 「ひいいいいいいいいいいっ!」


 織衣と穂高は大慌てで教室を飛び出した。外は明るく、先程までの暗さが信じられないくらいだ。


 「あ、おかえり二人共」


 教室の外では係の木取昴が佇んでいた。


 「あれ? 御札貼り替えなかったの?」


 穂高は貼り替えるはずの御札を握っていたままだ。二人共恐怖でそれどころではなかったのだ。


 「あぁ、無理……無理だよこんなの」

 「そんな怖かった? 結構シンプルなびっくり系ホラーだと思うんだけど」

 「いきなり目の前から血まみれの女が出てくるのは無理」


 今、出灰総合高校は文化祭の真っ最中。昴達一年二組はお化け屋敷の出し物を催しており、織衣と穂高はそれに挑戦したわけだが、二人してクリアできずに逃げ出してしまったのだ。


 「意外だね、二人共怖いの苦手なんだ」


 このお化け屋敷は黒幕の裏から付き添いで話しかけてくるナレーター役の指示でルートを進み、教壇の下に貼られている御札を貼り替えて帰るだけというシンプルなものだ。お化け屋敷と銘打っているのだから絶対驚かしてくるのだろうと織衣と穂高は考えていたが、道中は不気味な音楽と物音ぐらいで、黒幕の中からいきなり血まみれの女子生徒が出てくるという最後の演出に耐えられなかった。


 「クリアしたら飴玉をあげてるんだけどどうしよう、残念賞ってことでその御札でいいかな? 初めてだよ、クリア出来なかった人」


 穂高の手にはよくわからない難しそうな漢字が羅列された白い御札が握られていた。織衣はその御札を穂高から奪い、裏に貼られていた粘着テープを剥がし、穂高の額に貼り付けた。


 「あ、キョンシーだ」

 「これが残念な人間ってことね……」

 「いや、姫野さんもクリア出来てないでしょ?」


 こんなお化け屋敷すらクリア出来なかったビビリだと公言するようなものだ。これはこれで面白い見た目で、前のように穂高の体に包帯が巻かれていればもっとそれっぽかっただろうが、今は怪我が治ったことにしているため雰囲気があまり出ない。


 「でもあのプリントってどういう仕組みなの? 僕が数えたら三十八枚あったのに」

 「え? あれって三十七枚しかないよ?」

 「えっ」

 「……はい?」


 織衣と穂高は無言でその場を立ち去った。お願いだ、なにかの間違いであってくれ、ただの織衣の数え間違いであってくれ、もしくはそれも演出の一部であってくれ、そう願いながら二人はスタスタと一年二組の教室から離れていった。


 昴は大分元気になったようだが、ツクヨミでの彼も見る限りまだ気分は晴れやかではなさそうだ。昴の友人だった十川光輝、そして昴達を襲った吾妻汐里と島原新は架空の事件で死亡したことになっていた。いくら敵だったとはいえ、身近な人間が死んでいくのは気分が良いものではないだろう。彼らの分も楽しもうということで一年二組は出し物に気合を入れたようだが、いくら以前から決まっていたこととはいえ死人が出たクラスでお化け屋敷というのは質が悪い。


 「次はどこに行く? 占い屋?」


 織衣と穂高の二人はブラブラと校内を周っていた。元々穂高は斬治郎と一緒に周っていたらしいが、斬治郎が織衣と交代で係の時間となったので、織衣は穂高に捕まえられた。ちなみに織衣達一年一組は脱出ゲームを催している。


 「射的はどう? 縁日の出し物楽しそう」

 「おけおけ、姫野さんは得意なの?」

 「UFOキャッチャーなら」

 「流石に文化祭では無いんじゃないかなぁ」


 二人は射的や水風船釣り等、縁日らしい出し物が催されている二年の教室へと向かった。すると多くの生徒達が行き交う廊下の向こうから見知った人間が歩いてきた。


 「あ、オリギーヌにダッカ君だ」


 津島和歌が、その腕に大量にお菓子が詰められた紙袋を抱えて二人の元へやって来た。


 「どーしてダッカ君はキョンシーみたいになってるのー?」

 「若様のクラスのお化け屋敷をクリア出来なかったんだよ……」

 「えー二人共ビビリさんだなー」


 もしかしたら二人はツクヨミきってのビビリかもしれない。緋彗も苦手だろうが、彼女はリアクションが大きいだけでホラー映画も好き好んで見るような人間だ。織衣や穂高程ではない。


 「ところで若様……その山盛りのお菓子は何?」

 「射的屋でかっさらってきたんだー」


 和歌は視界に入った複数の目標へあらゆる物体を誘導させる事が出来る『誘導』の能力を持っている。その能力の特性上、和歌は確かに銃器を扱うことが多い。


 「まさか……能力は使ってないよね?」

 「使ってないよー」

 「本当に?」

 「本当だよー」


 ふふふーと満足そうに笑いながら和歌は「次は何を狙おっかなー」と言って立ち去っていった。確かに高校生組の中だと、和歌は能力を使用しない場合でも銃器の扱いに一番長けている。その腕前は確かなようだ。


 「……行き先、変えようか」

 「そうね」


 あれだけ和歌が景品を乱獲してしまったなら、今更射的をしに行こうにも大した景品は取れないだろう。二人は諦めて他の催し物へ向かおうとした。


 「ほーだーかーくーん!」


 二人が踵を返した瞬間、穂高は背後からいきなり女子生徒に抱きつかれていた。織衣が驚いてその女子を見ると、妙に目立つ青い髪でツインテールの、見覚えのない生徒の顔だった。出灰の制服を着ているが二年や三年の先輩というわけでもなさそうだ、一年生の中でも見かけた覚えがない……だが学校外で見かけたことはあった。


 「だ、誰ですか?」

 「え~私のこと忘れちゃったの~?」


 青髪の女子生徒は穂高の腕に抱きついていた。そのふくよかな体が穂高の腕に押し付けられている。


 「……穂高君の知り合い?」

 「いや、だから違うって」

 「リーナみたいな人?」

 「もうこれ以上は本当に勘弁」


 穂高のことだからこんな変な知り合いがいてもおかしくないと織衣は思った。すると青髪の女子生徒は穂高の首に腕を回し、まるでヘッドロックを仕掛けるような体勢で、織衣と穂高に聞こえるような小さな、しかしどすの利いた声で呟いた。


 「俺だ、副メイドだ」


 やはり、と織衣は思った。確か副メイドがメイドモードに変身すると、こんな青い髪でツインテールの少女になるはずだ。

 おそらく副メイドは何か急用が、しかも直接穂高に話したい事があって、わざわざ出灰の生徒に紛れて文化祭が開催されている学校に忍び込んだのだろう。


 「何かあったんですか……いや、何かあったの?」

 「実は、穂高君にだけ用があるの。校舎裏まで来てくれる?」


 JK副メイドはニコニコと微笑みながら穂高に言った。恋の予感も感じるが、怯えた表情の穂高を見ると彼はそう考えていないらしい。


 「姫野さん。僕は告白されるのかな? それともしばかれるのかな?」

 「知らない。早く行ってきたら?」


 Jk副メイドは穂高の腕を掴んだまま、人目につきにくい校舎裏の方へ彼を引っ張っていった。副メイドは何か急いでいるようだった。余程大事な用だったのだろうか、しかも穂高だけわざわざ呼び出したのはどういう意図があってのことか。一人残された織衣が一年の教室へ戻ると、一組の教室から緋彗が出てきた所だった。


 「あ、織姫ちゃん。ほー君と一緒に周ってたんじゃないの?」

 「青い髪のメイドに連れてかれたの」

 「あー、うん。成程ね」


 青い髪のメイドと聞いて、緋彗も副メイドがわざわざ学校へ来たのだと理解したようだ。副メイドは暇潰しに出灰の文化祭に足を運べる程暇な人間ではない。ようやく昼を過ぎたぐらいの時間だが、穂高達が帰るまで待ちきれない急ぎの用だったのだろう。


 「織姫ちゃんってもう仕事ないよね? 片付けぐらいでしょ?」

 「うん。緋彗ももう終わり?」

 「そーだよ。じゃーオナゴ二人で寂しく周るとしますかー」


 もうお昼時だったため、二人は外に並んでいる飲食系の屋台を散策し、焼きそばを買って中庭のベンチで食べていた。途中で和歌が弓道部の出し物でゲットしたらしい景品を大量に抱えてルンルンと歩いているのを見かけた。それが和歌の素の腕前なのか、彼女の『誘導』の能力によるものなのか、織衣と緋彗は考えないことにした。


 「そういえば千代ちゃん先輩とかわたちゃん先輩も来るって言ってたけど見かけた?」

 「ううん、見てない。もしかして来れなくなったのかも」

 「何かあったのかもね」


 一応渡瀬や千代達もこの学校のOBとOGだ。教師陣や後輩に見知った顔がいるだろう。しかし穂高が副メイドに呼び出されたことを考えれば、また面倒事が起きている可能性が高い。


 「今日ぐらいはのんびりしてたいなー」


 それは織衣も含め皆が考えていることだ。織衣達は普通に高校生として学校生活を過ごしていたいし、千代や北斗やツーリングを楽しんでいるだろうし、渡瀬は……何をしているのか想像がつかないが、各々送りたい日常があるはずだ。

 しかし、そう都合よく世界は進まない。


 織衣の携帯に着信があった。画面を見ると穂高からの電話だった。緋彗もそれに気づいて、織衣は彼女にも聞こえるように電話を取ってスピーカーモードに切り替えていた。


 「何かあったの?」


 電話の向こうの騒々しさを聞くに、まだ穂高は校内にいるらしい。


 『ねぇ姫野さん、まだ文化祭を楽しみたい?』

 「どういう意味?」

 『ちょっと抜け出さないといけないんだ。誰か一人来れないかな』


 つまりこれからツクヨミの任務に出向かなければならないということだろう。


 「わかった、私が行く」


 穂高の他に抜けられるのは精々一人、あまり大人数が一斉に抜け出すと変に勘ぐられてしまう。できれば穂高と別クラスの昴か和歌の方が望ましいが、昴はまだ実戦に出せないし、和歌はこの時間帯から任務に頭が回るかわからない。斬治郎はまだクラスの出し物の仕事があり、緋彗か織衣なら織衣の方が穂高と組んでいる回数が多かった。


 『わかった、ありがとう。斬治郎達に伝えられる?』

 「あ、ほー君。私から他の皆に言っとくよ」

 『おーけー、んじゃ駅の東口で落ち合おう』


 織衣は電話を切り、まだ食べかけだった焼きそばのパックを緋彗に預けて立ち上がった。


 「気をつけてね織姫ちゃん」

 「うん」

 「ホントに気をつけてね?」

 「うん、わかってるってば」


 副メイドが持ってきた任務にあまり良い予感がしないのは確かだ。わざわざ穂高に直接伝えに来たということは革新協会か……いや、おそらく十字会関係の任務だろう。織衣は人混みに紛れてひっそりと学校を抜け出し、そのまま池袋駅の東口へ向かった。地下通路から階段を上がると、穂高が柱にもたれかかって待っていた。

 

 

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