奇跡の日
「統帥、リーナから連絡がありません」
白いコートを羽織り、黒縁メガネをかけた青年が、同じく白いコートを羽織った長い黒髪の男に報告した。彼らは六本木ヒルズの屋上で肌寒い春風に吹かれていた。
普段なら美しい東京の夜景が広がっているはずだろう。今は大停電でそれを見ることは望めない。その代わり、各地で戦場のような惨状を見られるだけだった。既に山手線沿線から自衛隊は撤退し、東京の空は赤く染まっていた。
「あぁ、良いものが見つかったと言っていたよ」
混乱極めく都心の風景を眺めながら、統帥はさも当たり前のように言う。部下が命令を無視して勝手に行動しているというのに。
「また身勝手な……」
「私も少しばかり嫌な予感はするんだけどね。秋葉原の方で暴れてもらっていたが、リーナは喜んで行ってしまったよ。
困ったものだが、まぁリーナのことだから死にはしないんじゃないかな?」
統帥はそう楽観視してハッハッハと笑っていた。リーナは彼にとっても困った能力者だが、彼女の扱い方には長けている。
「統帥は行かなくてもよろしいのですか?」
「良いんだ、私が出向かなくても皆が十分な働きをしてくれている。それより赤王、今何時だ?」
赤王と呼ばれたメガネの青年は自分の腕時計を確認する。
「午後六時半。あと二時間半です」
「二時間半、か。もう少し早く切り上げて良いかもしれないね」
「もう満足されたのですか?」
「あぁ、もう十分だろう。あと一時間で全国の全ての部隊を撤退させてくれ。後は……そうだね、お天道様次第さ」
統帥は赤王にそう命じると、六本木ヒルズの屋上から二百メートル直下の地上へ向かって飛び降りた。相変わらず危なっかしい移動の仕方だと赤王は思いながら、コートのポケットから黒い手袋を取り出した。瑠璃の宝石の装飾がついた手袋を右手にはめ、それを額にかざす。すると赤王の背中に大きな翼が生え、彼は赤い空へ羽ばたいていった。
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どう形容すべきか、とにかくリーナはただの人間ではないらしい。今の穂高にそんなことをゆっくり考えている余裕はないが、最早そのおぞましい所業と、その人間離れした動きに驚くばかりだ。
目の前にいる化物に対してギリギリで攻撃を捌く穂高に対し、リーナという少女は笑顔で大鎌を振り回している。とても真剣に戦っている様子ではなく、まるで新しい玩具をプレゼントされた子どものようにはしゃいでいるようだった。
さらに彼女は、穂高の『光』、汀の『闇』のように、それらしい能力を持っているように見えなかった。連中と同じトレードマークらしい白いコートを羽織っているが、目に赤や青の光が灯っているわけでもなく、穂高や汀のように右手に黒い腕輪もつけていない。
強いて言うのなら、大鎌を操る能力とでも推測するべきか。その道のプロなら上手く扱えるかもしれないが、とてもこんな華奢で可憐な少女が振り回すような代物ではないはずだ。
穂高は何かに操られているかのように、次々に襲いかかるリーナの大鎌を光り輝く剣で弾いていた。今まで一度も剣なんて握ったこともないのに、握ったとしても玩具の剣ぐらいしかないのに、穂高はさも当然のように戦ってみせた。穂高自身、とても自分がその剣を操っていることが信じられていないというのに。
おそらく、自分の中に入り込んだ『何か』が、その力を与えてくれたのだろうと穂高は理解した。少なくとも、この攻撃を捌けるぐらいの戦闘能力を。しかし先程の白い少女の声は、もう聞こえなくなっていた。
「あの~少しよろしいですかー?」
単調な戦闘に飽きた様子のリーナは、大鎌で光剣を力強く薙ぎ払い、穂高と距離をおいて動きを止めた。
「……何か?」
「私達の仲間になりませんかー?」
「断る」
「えー即答ですかぁ残念ですねぇ、中々素質はあると思いますよー?」
「いいや、君を必ずここで倒す!」
光り輝く剣を、穂高はリーナに向けた。だが倒そうにも、穂高に勝機は見えていない。体は最早自動的に動いてくれるが防戦一方だ。穂高は戦いの仕方など習ったことがない。ただ穂高は、がむしゃらに生きようとしているだけだ。
「え~貴方達に私を殺すことなんて出来ませんよ~」
そう余裕そうに笑いながら、リーナは大鎌を振り回していた。
「────どうだか」
その背後から、突然汀が現れる。闇に紛れて潜んでいた汀は、鬼のような形相で黒く禍々しい剣をリーナの首に突き刺した。その返り血が、汀の顔に飛び散った。
「汀ちゃん……」
近くに停まっていた車の影に隠れながら、椛は穂高達を見ていた。汀は何度も何度も、執拗にリーナの体に黒剣を突き刺している。
「今は、汀の好きにさせてあげよう」
少し前の自分なら、椛にその光景を見せようとはしなかっただろう。親しい人間が、激しい憎悪の念を込めて、人間を滅多刺しにしている光景なんて見たくない。穂高はリーナだった死体を切り刻む汀に声をかけた。
「汀……」
そう問いかけても、汀は死体をいたぶることに夢中のようだった。
汀は泣いていた。ただ泣きながら、その刃を、服を、体をさらに赤く染めていた。
自分ではない誰かだったら、今の汀をなだめることが出来ただろうか? 今の汀を諫めるような言葉を、今の彼女が納得できるような言葉を取り繕うことが出来ただろうか? 今この状況で、命の大切さを説くことが自分に出来ただろうか?
穂高はただ、見ていることしか出来なかった。今の穂高に彼女の行為を諫めることは不可能だ、どんな言葉もかけられない。ただ見守ることだけが優しさだと穂高は思っていた。
「……落ち着いた?」
返り血だらけとなった汀に穂高は問いかけた。どうやら気持ちは落ち着いたようだが、汀はうつむいたまま黙りこくっていた。汀の顔に咲き乱れた花の紋章は美しく綺麗に見えたが、その異様な黒さが恐ろしくも感じた。
「逃げよう。こんなの、もうたくさんだ」
これ以上、精神が持ちそうになかった。今日一日で、たった二時間ほどの短い間に、あまりにもたくさんの出来事が起こりすぎた。もう何も見たくない。
汀は黙ったままだ。だが、穂高は汀にかける言葉を見つけられなかった。気の利いた言葉が全く思い浮かばなかった。
ただ、穂高は。
汀の背後から大鎌が襲いかかっていることに気づいてしまった。
「汀!」
穂高は汀の体を掴んで思いっきり引っ張った。その大鎌を避けた後、穂高はその目で確かに彼女の姿を捉えた。
その華奢な体躯に不釣り合いな大鎌を持った、金髪碧眼でセーラー服姿の少女──リーナ・ヴァリアントの姿を。
「なっ……!?」
「どうしたんですかー?」
「どうして生きている!?」
確かに、リーナは汀に滅多刺しにされたはずだった。なのに何の傷跡もなく、全てが元通りになった状態で彼女は元気そうに存在するのだ。
「えー自分で確かめられたらいかがですかー」
リーナがそう挑発した瞬間、汀は穂高の元を離れて、リーナの首を黒剣で斬り裂いた。笑顔のまま胴体と離れたリーナの首はそのまま地面に転がり、頭を失った胴体は地面に倒れる。が、頭が消えると同時に胴体に頭が再生し、リーナは再び立ち上がった。
「い、生き返った……?」
彼女が「私を殺すことなんて出来ませんよ~」と余裕そうにほざいていた理由を、穂高はようやく理解することが出来た。
そして絶望した。相手は死なないのだ。そんなことがありうるのか? いいや、この能力という不思議な力なら不死をも可能にしてしまうのかもしれない。だとすれば面倒な敵と遭遇してしまったと穂高は息を呑んでいた。
「いや~滅多刺しというのは久しぶりでしたねぇまあありきたりですけど──っと?」
意気揚々と笑顔で語るリーナに、再び汀が襲いかかる。が、そんな汀の異変に穂高は気づいた。たしかに汀は怒りに任せてその力を使っているように見えたが、先程までとはまた雰囲気が違う。
どうしてか、その異変を穂高は感じ取ることが出来た。汀の憎悪、復讐の、凶悪な力を。汀が体に纏う闇は穂高が放っていた光をも呑み込み始め、やがて赤く染まった空さえも黒く染めていた。
「汀……?」
汀は穂高の問いかけに答えない。そんな彼女と打って変わって、リーナは笑顔だった。
「もっと一緒に遊びましょうよ~こんなに素晴らしい一日なんですから~」
リーナの姿さえ段々と見えなくなっていた。汀が生み出した、真っ黒な世界に消えていく。
視界を確保しようと、穂高はライト代わりに光を放とうとした。すると穂高の視界に、ピカッと小さな光が煌めいた。それは穂高が放った光ではなく、穂高に襲いかかる刃に反射した光だった。その刃を穂高に向けていたのは、頭に二本の角を生やした汀だった。
「汀! 落ち着くんだ!」
明らかに汀は異様な姿に変化していた。穂高は自分に襲いかかる汀を必死になだめようとするが、彼女はなりふり構わず穂高を攻撃しようとする。幸いにも能力の扱いに慣れ始めた光の能力者である穂高にとっては、攻撃を躱すことも少しだけ容易くなっていた。
同士討ちを始める穂高達に対し、本来の敵であるはずのリーナは眠そうに廃車と化した車の屋根に座って呑気そうに欠伸をしていた。
不気味に光る、汀の赤い右目。体中に咲き乱れた花の紋章。そして頭に生えた二本の黒い角。そんな異常な姿の汀に、穂高は怯えてしまっていた。
穂高は汀を落ち着かせようと彼女の腕を掴んだが、驚くほどの怪力でそれを薙ぎ払われて吹き飛ばされてしまう。地面に尻もちをついた穂高に、汀の黒剣が襲いかかる。
しかし汀に攻撃するわけにもいかない穂高は、彼女の目をめがけて閃光を放った。目眩ましをもろに喰らった汀は目を押さえて後退する。穂高は光剣を握りしめて体勢を戻したが、汀の目は穂高ではなくリーナを見ていた。標的をリーナに変えたようだ。
「もー暴走されるなんて面倒ですねぇ」
リーナは呑気に欠伸をしながらも、嬉々として大鎌を手にとって、鬼と化した汀の相手を始めていた。
椛は汀が暴走を始めると再び車の影に隠れていたものの、この場から逃げようとはしなかった。ただ動けずにいただけかもしれない。汀のターゲットがリーナに切り替わったタイミングで、穂高は椛の元へ駆け寄った。
椛は戦える状態ではない。穂高や汀のように新たな力を手に入れたわけでもなければ、剣や銃などの武器を持っているわけでもない。ここにいるのは危険だ、しかし一人で逃がすのはこの状況が許さない。
ふと、穂高に悪魔が囁いた。今、暴れている汀がリーナの相手をしている内に、椛と共に逃げることだって出来る。汀を見捨てて椛と共に逃げるか、汀を助けるために自分はここに残るか。穂高には二つの選択肢が残っていた。この場所は椛にとって危険だ、しかし先に逃げさせようにも安全な場所へ辿り着けるという保証もないのだ。
「椛」
しゃがみ込んで体を小さくする椛の前で、穂高は目線を合わせて彼女に問いかけた。
「な、何……?」
「今すぐ、ここから逃げるんだ」
椛が一人でこの場所から逃げたところで、別の能力者と鉢合わせになる可能性も十分にあった。だが走っていけば自衛隊の朝霞基地までそう遠くないし、増援が近づいているかもしれない。
リーナに勝てるという自信があれば、そんなことなんて気にする必要はなかった。だが今の自分達には、精々足止めをするので精一杯だ。穂高も汀も共倒れになる可能性の方が高い。ならば、椛一人だけでも、生き残ってほしかった。穂高はその僅かな可能性に賭けようとしたのだ。
しかし、椛は穂高の提案にブンブンと首を横に振った。
「嫌だよ。お兄ちゃんまでいなくなるなんて」
「違う。椛は一人じゃないよ、だから大丈夫。
僕も、後からそっちに行くから」
穂高は椛の頭を優しく撫でた。それだけで、自分の妹の温もりを感じ取れるだけで、少しだけ心が落ち着くような気がしていた。
「汀ちゃんはどうするの?」
「僕が連れて行く」
「なら私も、二人と一緒にいるから」
「椛……」
椛は穂高に似て頑固だった。きっと両親からの遺伝だろう。本当は穂高だって、椛を連れて今すぐ逃げ出したいぐらいなのに。だが椛も穂高と同様に、汀を見捨てることが出来ないのだろう。
きっと、自分の行いを死ぬまで後悔することになる。例え、この場所で死ぬことになろうとも。
「お兄ちゃん。私は、ここにいるよ」
「……わかった、椛。絶対に、勝ってみせるから」
自分にそう言い聞かせるように、穂高は椛に誓った。椛や汀と共にこの災厄から逃げ出すには、あのリーナという不死身の化物を倒さなければならない。
「あの~貴方のお友達がですねー散々暴れてらっしゃったので~先に処分しちゃってもよろしいですかー?」
穂高はリーナと対峙する。自分にはどうすることも出来なかった汀を相手に、リーナは既に勝ってみせた。汀は気を失ったのか地面に倒れてしまい、その首はリーナが持つ大鎌の柄で押さえつけられていた。
「一体何の仇討ちかこちらは存じ上げませんけど~どうせ勝てもしな──」
悠長に穂高を煽るような言葉を羅列していたリーナは口を止めた。背後に突然現れた気配に対処するために。
不意を突いたつもりだったが、やはりリーナの方が上手だった。リーナは汀の体を掴みながら、大鎌でその攻撃を防いでいた。
穂高は体に光を纏い、穂高自身も驚くほどのスピードで移動し一瞬でリーナの背後へと回っていた。穂高が放ったレーザー光はリーナの脇腹を貫いたはずだった。が、当然のようにその傷はすぐに修復されている。
リーナの前に降り立った穂高に、彼女は再び問いかける。
「……へぇ、どうやら期待は間違いじゃなかったみたいですねぇ」
既にリーナの視線の先に穂高はいなかった。あまりに一瞬のことだったが、リーナは再び背後に現れた穂高の攻撃に対し、汀を盾にして迎え撃った。しかし、穂高の攻撃がフェイントだということにリーナは気づいたらしい。汀をリーナから引き剥がそうとしていることに気がついたのか、リーナは穂高から慌てて離れていた。
「……汀から離れろ」
安全に逃げるためには、今ここでリーナを始末するべきだろうと穂高は考える。だが、今の自分の技量ではそれは不可能だと、その案は捨てた。
今の穂高は、朔夜や椛と共に逃げようとしていた。自分の力を有効に使うことが出来れば、リーナよりも早く移動できるはずだ。こんな不死身の人間を相手にまともに戦っては負けだ。不毛な時間を過ごして無駄に体力を消耗してしまう。リーナも穂高の作戦に気づいたのか、決して汀を離そうとしない。
「えー今ここでこの人を処分したら私は万全の状態の貴方と戦えるわけですから~ここでこの人を離した所で私にメリットなんてないんですよ~」
意味のわからない理論をリーナは穂高に説くが、勿論意味のわからない穂高はそれを聞き流していた。
「私達の仲間になるっていう選択肢も残ってますよー? でもでも~要はこの人が邪魔ってことですよねー」
そう言った途端、リーナは汀の体を話して大きく大鎌を振りかぶった。
穂高にはそれが、リーナが本気で汀を始末しようとしている、という風に見えていた。リーナのその行為が、自分の動揺を誘う陽動だとはさらさら考えていなかった。
穂高はすぐに汀の前に立ちはだかり、その憎悪をリーナに向けた。汀を助けるよりも先に、その抑えきれない復讐を優先させてしまった。
「消えてなくなれ!」
能力の扱いに慣れてきた穂高は、周囲の地面や壁から無数のレーザー光をリーナに向けて一斉に放った。一瞬で無数のレーザー光はリーナの体を貫き、リーナの胸を光剣で突き刺そうとした──これだけのダメージを与えれば、不死身の人間だとしても修復に時間がかかるだろうと。その隙に汀と椛を連れて逃げ出せばいい。
その作戦は、この化物相手に通用するはずもなかった。
「残念でした~」
リーナは穂高に笑顔を向けていた。穂高の光剣は、リーナの胸ではなく、汀の胸を貫いていた。
汀の胸から、赤い血が噴き出していた。意識を取り戻したのか、どうして、と問いかけるような汀の瞳と目が合った。
お互いに、今の状況を理解できない。
ただ確実なのは、穂高が自らの手で汀に致命傷を与えたことだった。胸を剣で貫かれた汀は、力なくそのまま穂高の体に倒れていた。汀の額に生えていた二本の黒い角は消え、体に咲き乱れていた花の紋章が段々と散っていく。
「な、汀……?」
簡単なことだった。リーナは汀を身代わりとしたのだ。例え自分が斬られていたとしてもすぐに修復できるのに。
「あーあ、刺しちゃいましたねぇ~自分の愚かさを悔いるしかありませんよそれは~」
リーナは笑みを浮かべていたが、穂高は地面に膝をついていた。汀の体を掴んでも、その体はもう動かない。
「私の言うことを聞いてくれるなら~死の淵を彷徨っているその人を助けてあげても良いですよー?
ま、もう天に召されてらっしゃるかもしれませんけど~」
汀の体を支える穂高の首に、リーナの大鎌が突きつけられていた。
「さぁ選んでください。私達と一緒にこの世界を滅茶苦茶にするか、今すぐここで死ぬか」
穂高は動かなくなった汀の体を地面に寝かせて、よろめきながらフラフラと立ち上がった。頬を伝う、汀のものか、自分のものかもわからない赤い血を手で拭った。
穂高は奇跡を願ったはずだった。突然地獄へと変貌した現実と戦おうとしたのだ。
その結果、穂高は不思議な力を手に入れ白いテロリスト達と戦った。
だが、奇跡は起きなかった。
「まー罪もない一般人を殺したわけですから~貴方も私達の仲間入りをしたってことでめでたくこちら側に……って、あれれー?」
すっかり黒く染まっていた世界が、さらに深い闇に包まれてゆく。サイレンの音さえもかき消されていくが、そんな空間の中で穂高だけが、仄かに光を体に纏っていた。
「僕は、奇跡を願ったんだ」
それがいつのことだったか、穂高は覚えていない。これを奇跡と呼ぶのなら、与えられた試練はあまりにも酷すぎた。
「この世界で、奇跡を起こすために」
まだだ。
まだ、その時ではない。
穂高の顔に、花の紋章が咲き乱れ始めていた。それは段々と穂高の体中を覆っていき、額には二本の黒い角が生えていた。
「ごめん、汀……僕は奇跡を起こせなかった────」
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新年度が始まって間もない四月のこと、東京や大阪といった大都市を中心に、日本各地で凄惨なテロが発生した。
鷹取椛、海風汀、そして鷹取穂高も、その災厄に巻き込まれた人々の中の一人だった。
『全国各地で大規模同時多発テロ 死傷者200万人以上』
『政府、非常事態宣言を解除 事態の完全な鎮圧を宣言』
『首都圏における戦闘状態集結 死者行方不明者10万人以上と推定』
『京セラドームに立てこもった武装グループを鎮圧 京阪神での混乱は収束の見込み』
『福岡市中心部へ複数の航空機が突入 うち二機を撃墜』
後に、四月デストラクションと呼ばれた最悪で災厄の一日の出来事。
誰しもが、遥か遠くにある『奇跡』を求めた。多くの人が奇跡を願い、きっと多くの奇跡が起きたことだろう。
これは、彼らが願い、祈り、そして追い求めた奇跡の始まりだった。




