3-12『昨日の友は今日の敵』
流石に青髪メイドの姿で真面目な話をしても雰囲気が全て台無しになるというわけで、副メイドは元の姿に戻った。昴はてっきりこの男の姿が彼の本当のものかと考えたが、今の状態も仮の姿という可能性がなくはないわけだ。
男に戻った副メイドは湯呑みを持ってグビグビと茶を飲みながら言う。
「四月十三日……すっかり四月デストラクションと呼ばれるようになったが、あのテロを引き起こしたのは俺達と同じような能力者組織、『革新協会』だ」
「革新協会?」
初めて耳にした名前だ。四月以降、ニュースではあの事件の首謀者として世界各地の様々なテロ組織の名前が挙げられていたが、革新協会という組織はなかった。
「四月デストラクションはわかるな?」
「僕も一応東京に住んでいるので……」
「よく無事だったな。鷹取穂高は四月から能力者として革新協会の連中と戦っていたんだ。『能力者狩り』としてな」
「の、能力者狩りなんですか? 本当に穂高君が?」
能力者狩りの都市伝説は昴も聞いたことがあったし、最近も度々耳にした。既に世間では廃れてしまった都市伝説だが、昴を襲った暗殺者達、革新協会の能力者達もその名を口にしていた。どうやらあの界隈では穂高は有名人らしい。
「お前も聞いたことはあるんだろう? あの噂は殆どが事実だ」
「えっと……殆どって具体的には?」
「夜な夜なテロリスト、もとい革新協会の能力者達を惨殺して周っていた殺人鬼という部分だな」
「嘘の部分は?」
「奴が国や警察という公権力の元で活動している、という点だけだな」
穂高が革新協会というテロ組織を敵としているのは安心したが、昴は彼が能力者狩りだったという事実を信じられなかった。能力者狩りはテロリスト達に対して凄まじい憎悪を持って猟奇的な殺人を繰り返していたのだ。その正体が穂高なのなら、よく学生として隠し通せるものだと昴は思う。
「じゃあ、穂高君は四月ぐらいからツクヨミに?」
「いや、俺達も最初は噂ぐらいにしか考えていなかった。ツクヨミが、というか俺が意図的に能力者だとか能力者狩りに関する噂や都市伝説を流布させていたのは、あえて突拍子もない説を流して、その節がまるで嘘で塗り固められたような虚言だと思わせるためだった」
確かに噂自体は広がっていたが、それが真実だと信じていた人間は少なかっただろう。それを大きな声で主張すると煙たがられるだけだ。それらの噂が真実だと気づけるのは、能力者が戦う現場を実際に見たか、もしくは自分自身が能力者だと気づいた人間だけだ。空想上でしか語られない概念をいきなり取り込むには苦労する。
「僕が聞いた話だと、能力者狩りは内蔵を全部抉って外に取り出すとか、電柱に串刺しにしていたとかあるんですけど、それとかも全部本当なんですか?」
「そういう現場は確かにあった。結局、本人が詳しく語っていないからどこまでが穂高の仕業かはわからんが、手口は殆ど似たようなものだ」
「そんな……」
「穂高は福岡事変で両親を失い、四月には自分達を引き取ってくれた叔父夫婦が革新協会に殺された。おそらくその時に能力を持っていることに気がついた。素人目線でも動機は十分だと思うだろう?」
穂高が革新協会と戦う理由は明白だ。あれだけ恐ろしい噂が流れているということは、穂高の復讐心は相当なものなのだろう。昴には想像つかない世界の話だ。
「しかし、やはり革新協会も能力者狩りの存在を放っておいたわけじゃない。協会が穂高を狙って起きた事件が、六月の末に起きた和光事件だ。ツクヨミが穂高と接触できたのはその後、七月に入ってからのことだった。そして今、穂高はツクヨミの一員としてお前も通う出灰総合に通っている」
昴の推理通り、やはり穂高は和光事件に関わっていた。一人で敵の組織と戦って三ヶ月も生き延びていたなんて、穂高は相当強い能力者なのかと昴は思った。
「あの、質問良いですか?」
「何だ」
「和光事件と、穂高君の妹が殺されたのって関係ありますか?」
昴の質問に副メイドは少し驚いた様子だったが、すぐにフッと笑う。
「お前は鷹取椛を知っているんだな?」
「はい、勿論」
昔の穂高はサッカーを愛し愛されたサッカー少年だった。穂高も交友関係が広かったが、彼の妹である椛は化け物じみたコミュ力を持っていた。年上に甘えるのが上手い、いや相手より下手に出ておきながら相手をコントロールするのが上手い、その言葉に尽きる。
「どういう人間だったんだ?」
「天真爛漫で、とにかく音楽が好きな子でしたよ。穂高君達のお母さんが音楽教室をやっていたので、そこでピアノとかを習ってました」
「兄妹仲はどうだったんだ?」
「んー……お互い頑固だったのでしょっちゅう喧嘩してましたけど、仲は悪くなかったと思います。似た者同士だと思いますよ」
「そうか」
東京に来てからの二人の関係を昴は知る由もない。絆が深まったか、もしくは溝が深まった可能性だってある。己の身の回りの人間を見ていると、誰かを失ったことがきっかけで自暴自棄になることだってあり得た。
副メイドは昴の説明に頷いた後、一時の間喋らなかった。今の昴の説明を聞いて、何か思い当たる節があったのだろうか。昴が再び質問しようとすると、その前に副メイドが口を開いた。
「鷹取椛が殺された事件と、和光事件がどう関係しているのかは俺達も詳しくは知らない。本人が話したがらないし、証拠という証拠が無いからな。
それに穂高は記憶の一部分を失っている。能力者として活動する過程で奴は一時的に記憶喪失になっていた、その後遺症なのかPTSDなのか、五年前のこともよく覚えてないらしい」
その後遺症のせいで穂高が昴のことを覚えていないのだと昴は信じたかった。
「お前は五年前、何があったのか覚えているのか?」
「えっと……」
「いや、無理に話さなくてもいい」
「あ、大丈夫です。僕はすぐに福岡から逃げて、自衛隊に保護されました。そこが作戦基地みたいになっていて自衛隊の人達が慌ただしく動いていたことしか覚えていないです」
「家族も生き延びたのか?」
「いや、僕の母は死にました……父は海外にいたので無事でしたけど」
もしかしたら、穂高は福岡の惨状を間近で目撃してしまっていたのかもしれない。あの日、多くの人間が死んだ。穂高が一体どうやって生き延びたのかはわからないが、もしかしたらその時から穂高は能力者だったのかもしれない。
「福岡事変での大火災は覚えているか?」
「あぁはい、僕は岳城山っていう山の頂上にいたので……よく見えました」
「成程、第四師団が陣地を作っていた山か。火は怖いか?」
「いや、特にトラウマとかは無いですよ。そりゃグロいものは見れないですけど……」
「そうか」
副メイドはぶっきらぼうな男に見えるが、一応昴のことを気遣ってくれているようだった。確かに穂高のような劇物に触れるには、どこに地雷があるかもわからないものだろう。月日が経ったせいもあるかもしれないが、あの頃の快活なサッカー少年はもういないのだ。
「あの、もしかしてなんですけど……」
和光事件、四月デストラクションと能力者が関わった事件には最規模な災害や戦争でもそうそう出ないような数の死傷者が出ている。だがまだ昴達の記憶にも新しい福岡事変という一日だけの戦争には多くの謎が残っていた。
「ツクヨミって、五年前のことに関わってますか?」
一応はあの大事件を体験した身として、昴も福岡事変の真相が気になっていた。能力者という存在を知った今、そんな強力な能力を操る彼らが無関係とは思えなかったのだ。
副メイドは湯呑みのお茶を啜ってから、口を開いた。
「原因は、ツクヨミにあると言っても過言ではない」
思わぬ所で昴は福岡事変の真相に近づいていた。ならば──能力という不思議な力を隠すために活動している彼らが、どうしてあんな事をと昴は疑問に思った。
「だが、ツクヨミが起こしたというわけではない。ツクヨミはあの事件を防ごうとしたが失敗しただけだ。あの事件でツクヨミに所属していた能力者の殆どが死に、ウチは弱体化してしまった」
「じゃあ、どうしてあんなことが起きてしまったんですか?」
「そればかりは俺も知らない、というか詳しくない。俺がこの組織に入ったのは福岡事変の後だ、あの時は一諜報員として嗅ぎ回っていたぐらいだった。もうあの事件の内実を知っている人間も少ない」
革新協会のような危険な思想を持つ組織が福岡で暴れようとして、それを抑え込むためにツクヨミや各国軍が動いたという可能性も無くはない。これはとんでもないスクープになるだろうが、世界に与える影響が大き過ぎる。
「さて、お前が命を狙われている理由だが」
能力とツクヨミと鷹取穂高についての説明は終わった。今度は、昴が昴自身の身に降り掛かっている危機について考える時だった。
「正直俺達もわからん」
すっぽ抜けた副メイドの回答に、思わず昴はちゃぶ台にゴンと頭を打ち付けた。
「ど、どうして!?」
この副メイドという男は頭が切れそうなのに、昴よりもこの状況を理解しているはずなのに、彼がわからないと言うならば昴に推理は不可能だ。
「まず、お前を狙っている連中、革新協会の精鋭部隊とかいう『月の騎士団』についても大した情報がない。奴らと長く戦っていた穂高ならわかるかもしれないが」
「精鋭部隊と言う割には、あっさり負けてたんですけど……」
「穂高と織衣に勝てるような敵はそういない」
確かに剣を携えて白いコートを羽織れば騎士っぽくもなるかもしれないが、どうも騎士団という名称はあまり似合わないと昴は思っていた。和の感じが抜けきれない。
「ただ、俺達は最悪のパターンを考えている」
「どんなパターンなんですか?」
「和光事件の再来だ」
和光事件では一万人もの死者が出ている。負傷者はいなかった、巻き込まれた人間全員が死亡したのだ。おそらく、その中心にいた鷹取穂高を除いて。
それと同じことが出灰総合、それだけでなく池袋という多くの人々が行き交う繁華街を巻き込んで起こりかねない。
「和光事件が実際どういうものだったのかは今もよくわかっていない。証人がそう多くないのでな。ツクヨミはそんな事態に陥らないよう動いている」
「でも、またそんなことが起きるんですか?」
「奴らは何を考えているかわからない。少なくとも、お前のようなまともな人間ではない」
もしかしたら、学校内に既に敵が紛れ込んでいる可能性もある。池袋では和光事件より大きな被害が出るだろう、そんなことが起きて良い訳がない。
「そして、十川光輝の件だ」
まさか光輝の名前が出てくるとは予想していなかった、いいや関係無いはずがなかった。昴は驚きながらも黙って副メイドの話を聞く。
「奴は、革新協会の一員という可能性がある。奴も能力者だ、両親と、そして敵対していた不良グループを殺害した」
「ほ、本当に光輝君があの人達を? 穂高君達が現場にいたのはどうしてなんですか?」
「あぁ、穂高と織衣の話か? あの二人は現場を確認しに行っただけだ。周辺に犯人が残っている可能性もあるからな」
「そ、そうだったんですか」
ならばあの時、もしも光輝とバッタリ出くわしていたら──その先の事を昴は考えるのをやめた。
「でも、光輝君が革新協会に入っているってことは」
「ツクヨミにとっては排除対象だ」
「そんな……!」
穂高と一緒にいるためには光輝達革新協会と敵対しなければならない。逆に光輝と共に生きようとするならば、穂高及びツクヨミを敵に回すことになる。
「ど、どうにかならないんですか!? 光輝君は僕の友達なんです」
「十川光輝がどういった経緯で協会に加入したかにもよる。だが奴が両親をその手で殺害したのは事実だ」
「でも、光輝君は」
「そんな人じゃない、だろう」
昴の言葉を遮って副メイドが言う。そんな人ではない、とどれだけ昴が言っても、どれだけ友のことを思って言っても、昴の目に映る彼らはそれが全てではなかった。昴はまだまだ知らないことの方が多かった。
「何か大きな出来事が、例えば福岡事変や四月デストラクションのような事件に巻き込まれたら、少なからずそれからの人生に大きな変革を強いられる。自分自身にもな。仮に一つ一つが小さな出来事だったとしても、それらが積み重なっていくだけで人は美しくも醜くもなる。酷な話だが、お前が知らない内に十川光輝も穂高も変わっていたということだ。
何がどうであれ、十川光輝の件は最早警察の手に負える事件ではなくなった」
昴は自分を情けなく思った。光輝は悪に堕ちてしまった。日本を恐怖に陥れるテロ組織に入ってしまった。昴は彼が姉を失って悲しんでいた時も側にいたのに、彼の小さな変化に気づいていたのに、助けることが出来なかった。しかし、彼から能力云々の話を聞かされていたとしても、昴が穂高にそう思ったように、その変化を信じることが出来なかっただろう。昴は、自分の中で思い描いていた幻想と思い出から抜け出せなかった。
不安げな表情を浮かべる昴を案じたのか、副メイドはちゃぶ台の上に茶菓子を増やす。昴はそこまでお菓子を食べることは好きではないが、気持ちだけ受け取っておく。
「お前が苦しい立場にあることは俺も理解しているつもりだ。不安は多いだろうが、ツクヨミの護衛をお前につける。一応言っておくが、出灰総合を運営しているのはツクヨミだ」
「……え? そうなんですか?」
「あぁ。学園の関係者は全員ツクヨミのことを知っている。能力を持っていない奴が殆どだが、一応能力者もいる。まともに戦えるような能力じゃないから事務方に回しているが」
出灰総合高校を運営する学校法人は幼稚園から大学まで運営する大きな組織だ。学校がツクヨミと関係があるなら、穂高や織衣達が通っているのも納得がいく。
「能力者が絡む事件で親族を失った孤児は多く存在する。四月以前からな。そんな孤児のための教育機関としてあの学校はある。教員や事務員は、一応ある程度の事態は把握している。
出灰総合は妙に寮生や下宿している生徒が多いだろう? 架空の支援団体を作って学費とか生活費にツクヨミから資金を回している。おそらく福岡事変に巻き込まれたお前も、親がそこら辺のサポートを知って出灰に入れたんじゃないのか?」
昴が現在住んでいるのは父親が用意してくれた、というか父親が昔住んでいたマンションだが、食事等は学校が手配してくれている。洗濯等の家事は父親が雇った家政婦が週に一回家を訪ねてやってくれるため、昴自身の負担は大きくない。昴の父親は今も元気に海外を飛び回っているが、一人暮らしも大変だろうと色々考えてくれたのだろう。
「教員達は戦う術をあまり持っていないが、ある程度の対応は出来る。すぐに俺達を呼び出せるからな。
ツクヨミがお前を護衛することになってもそこまで支障はない。他の生徒は勿論何も知らないから表立って動くことは出来ないが、穂高を含めたツクヨミのメンバーが何人か在籍している。もしものことがあれば、すぐに駆けつけるだろう」
「穂高君達以外にも、出灰にはツクヨミの人が?」
「あぁ、一年に何人かな。ただ学校では極力目立たないようにと言い聞かせているから、見た目だけじゃわからないだろう……多分な。
残念ながら、お前に明かすことは出来ないが」
「どうしてですか?」
「正直どこから情報が漏れるかわからないからな。お前が狙われるようになった原因もわからない。穂高や織衣以外の面子が下手に接触して身分がバレると、各個撃破される可能性もある。
だから、表で頼るなら穂高や織衣、もしくは千代ぐらいにしておけ。穂高と織衣は個々でも戦えるが、コンビでは手に負えなくなる。あれでもな。学校側と他のメンバーにも事情は説明しておくから、お前は普段通りの学校生活を送ればいい」
実際に昴は穂高と織衣の二人の戦いをその目で見た。あの精鋭部隊だと言う騎士団の連中を一瞬で無力化してみせたのだ。相手も能力者のはずなのに、あれ程圧倒的なのは驚きだ。
副メイドはフッと息を吐いて腕時計を確認する。昴が窓から外を眺めると、空がオレンジ色に染まろうとしていた。
「長く話してしまったな。明日は休むか?」
「いや、明日は行くつもりです」
「そうか。無理はするなよ」
別れ際、昴は副メイドから穂高と織衣、副メイドの携帯の連絡先を渡された。何かあったら頼れと言う。その後副メイドに見送られた昴はエレベーターで一階に降りて外に出た。一階のメイド喫茶の脇には、出灰の夏服を着た穂高と織衣が話をしていた。近くで買ったのか、二人は片手に飲み物を持ち、織衣の方は相変わらず白いマフラーを首に巻いていた。
「穂高君のバーンって迎撃するやつとかパーンって光るやつとか、あれって絶対に剣を地面に指す必要があるの? あれで結構時間使ってると思うけど」
「違うよ、あれは雰囲気ってやつだよ。ほら、モチベーションとかルーティンとかってやつ。トリガーみたいなもんだし。
それより僕は姫野さんの糸のリロード時間の方が気になるんだけど」
「これでも早くなった方」
「八月からコンマ数秒ぐらいしか変わってないと思うよ!? 姫野さんにとってはあっという間かもしれないけど、僕にとってはかなり長い時間だからね!?」
「そもそも穂高君が光の速さで動いてる時に移動しか出来ないのが……」
「まだ僕に文句言うの!?」
二人は人が多数行き交う通りで口論を繰り広げていた。コンビで活動しているという分、仲は良いらしい……いや良いのかわからない。前に昴が尾行していた時の方がイチャイチャしていたと思う。あれはわざとだったのだろうか。
「えっと、二人共……」
「あぁ木取君。今から帰るの?」
「うん。えっと、護衛の人って」
「千代さんが送ってくれるらしいよ。僕らも学校で見張っとくから」
穂高の隣に佇む織衣もコクリと頷いた。織衣は織衣でまだ残暑が色濃い時期に首に巻いているマフラーは何なんだと思うが、穂高は穂高でまだ体に包帯がグルグルに巻かれている状態だ。
「穂高君のその傷って偽物?」
「うん、完治してるよ。全部演技」
「やっぱり……」
「穂高君は二十面相だから」
話をしていた昴達の元にバイクのエンジン音が近づいてきていた。通りの向こうからバイクで走ってきたのは千代だ。さっきと変わらない格好で、今度は赤いクルーザーバイクに乗っている。
「ようさっきぶり。その様子だと大丈夫そうね」
「すみません、バイクを壊してしまって」
「良いのよそんなこと。弁償しろって言われても無理でしょ?」
「そうですね……」
「ま、バイクは何度でも買えるもんだから気にしない気にしない。ローン払い終わってないけど」
千代も不思議な人物だ。やはりツクヨミの関係者、というか穂高の組織の先輩ということになるが、彼女は苦離紅茶狩惨堕荒騎士連合というグループを率いていたりと、割と悪目立ちしているように思えた。もしかしたらあの連合にも能力者がいるのかもしれない。
「それより、千代さんの腕の怪我は」
「あぁ、織姫に治してもらったから大丈夫よ」
「私が治しました」
「ほら、この通りよ」
「千代姉、あまり動くと傷口が開くから」
能力は便利なものだと昴は思う。あれだけの傷なら右腕を失っていてもおかしくなかったはずなのに、千代は今こうしてピンピンしてバイクのハンドルを握っているのだ。
千代は黒いフルフェイスヘルメットとグローブを昴にまた渡した。
「さ、早く乗りな。そういや織姫とタカ、アンタらも帰んの?」
「電車で帰ります」
「途中で穂高君に奢ってもらうから」
「……というわけです。じゃ、お先に失礼します」
もしかしてもしかしなくても、穂高は織衣に顎で使われているのでは、と学校とはまた違う一面を見せる二人の関係に昴は好奇心が止まらない。だが昴の記憶の中にある穂高は、とてつもなく女運が悪かった。
果たして姫野織衣は穂高の良き友人であってくれているのか。そんなことを考えながら昴はヘルメットを被ってグローブをはめ、千代のバイクにまたがった。バイクはあっという間に再び言い争いをしていた穂高達を抜き去って昴の家を目指す。その間、自然と千代の体にしがみついてしまっていたことに昴が気づいたのは、彼の家に到着した時だった。




