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ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第二章『彼は無慈悲な夜の太陽』

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2-15『能力者のために』



 「うぎゃー!?」


 善治の後ろを走るリーナのすぐ後方の道路に光線が着弾する。アスファルトの道路に亀裂が入り、まるで雷が落ちたかのように真っ黒に焦げてしまう。


 「第二波が来たか。次も気をつけるんだな」


 リーナの前を走りながら善治は淡々と言う。今、無数の光線が彼らを狙って放たれているというのに怖気づく様子はない。


 「気をつけるとかそんな問題じゃないですよー! あこーさんは怖くないんですかー!?」

 「俺はお前を盾にして走っていたい」

 「あぁそうですねぇ私ならどんだけ貫かれても不死身ですからねぇ……って、か弱い乙女を盾にするとはどんな了見ですかー!」


 全力疾走しながらもノリツッコミをするぐらいの余裕は残っているらしい。それもそのはずだ、リーナは体に光線が直撃したとしても死ぬことはないし、今までに何度も当たっている。ただそれでも彼らが逃げずに追いかけているのは、彼の様子を観察するためだ。


 「向こうのビルから飛んできたな。段々と北上しているのか」


 善治の視線の先には立川駅周辺の市街地があった。立川駅の直ぐ側にある高層マンションの屋上から、先程の光線が空に向かって放たれていたのだ。その空を往く光線はさながら流れ星のようで、つい目を取られてしまう。だが一瞬でも油断するともれなく光線は自分達の方へと襲いかかってくるのだった。


 「なんでこんな状況なのにそんなに冷静なんですかー!? もう訳がわからないですよー!」


 善治は市街地の上を駆けていく人影を必死に目で追った。空を駆けていくのは、体に光と闇を纏った少年だった。額に生えた二本の黒い角と相まってその姿はさながら鬼のようで、体には花の紋章が咲き乱れていた。


 「奴がとうとう目覚めた」

 「奴?」

 「お前の大好きな人間だ」

 「あれがですかー?」


 能力者狩りをこよなく愛していたリーナでさえ、あの姿には流石に引いているようだった。


 「良いですねぇさあっすが穂高君~♪」


 気のせいだった。


 「そんなことを言っている場合か。あれは本気で殺しに来るぞ」

 「そんなこと言いつつあこーさんだって穂高君のことを遠目から観察しようとしてるじゃないですか~ていうかあこーさんは自分の能力で空を飛んだ方が早いんじゃないですかー?」

 「無理だ。俺の能力はお前達程万能じゃない」


 『鳥』の能力を使用して空を飛んだ場合、確かに地上の障害物に左右されず空を高速で移動できるが機動性に欠ける。そのため能力者狩りが放つ光線に当たる可能性が高くなってしまう。あくまで善治の能力は、テレポート系の能力者に頼らずに速く移動できる手段にすぎない。

 相模原から八王子、立川へと段々と東京都心へと進んでいく能力者狩りは、移動しながら周囲に攻撃を加えていた。だが無差別攻撃ではない。暴走した能力者狩りが放つ光線は、迎撃に向かう革新協会の軍勢を的確に貫いていた。能力者を、いや敵を殺すために生み出された自律砲台と呼ぶべきか。


 「奴が全員を抹殺したらどうなると思う?」

 「どういう意味ですー?」

 「奴が復讐の対象を失ったらどうなると思う?」


 善治が走りながらリーナの答えを待っていても彼女は黙ったままだった。おしゃべりなリーナにしては珍しいことだ。沈黙のまま二人は人気が無くなった街中で車の上を飛び越えながら数百メートル程を一気に駆けていくだけだ。

 リーナはあの時の彼を唯一間近で見ていたのだ。能力者狩りは、あまりにも人を殺し過ぎた。


 「奴は悪に堕ちるべき人間ではなかった。統帥はそう言っていた」


 能力者狩りは正義のヒーローだったか? 都市伝説ではそう語られることも多かったが、彼自身は頑なにそれを認めようとはしなかった。


 「あこーさんはこうなることがわかってたんですか?」

 「ここまでだとは思っていなかった。統帥は殺すのが惜しいと言っていたが、あれを見れば確かに頷ける」


 警察や自衛隊の誘導を無視して、善治達は走り続ける。何とかその姿を捉えられる能力者狩りは、中央線沿線を新宿方面に移動していた。


 「大丈夫ですかー!?」


 国立駅前の交差点で、突然二人組の少女が現れた。一方は銀髪で首に白いマフラーを巻いていて、もう一方は赤みがかった黒髪の少女で、二人共ブレザーの制服の上に黒いコートを羽織って月の仮面を被り、それぞれ太刀と双剣を装備していた。


 「あっ」

 「……あ」


 そしてリーナと目が合った瞬間、その少女らとリーナは立ち止まった。銀髪の方の名は千葉の方でも見かけた姫野織衣、赤い方は姫野織衣と共にリーナの襲撃を受けた少女だったと善治は気づく。


 「織姫ー、ここはもう大丈夫っぽいから次は練馬……あ゛」


 また二人組が彼らの前に現れる。一方は目に黒いバンダナを巻いた青髪で黒スーツ姿の変人、もう一方はスケバンのような長いスカートの黒いセーラー服っぽい装備の藤綱千代であった。


 「奇遇だな」

 「貧乏くじって感じね。で、アレは何? 何が何だかさっぱりなんだけど──」


 千代が話している最中に、再び夜空が激しく光り輝いた。空を駆ける無数の流れ星は、急に軌道を変えて善治とリーナ目掛けて迫ってきていた。それを善治は刀で、リーナは大鎌で弾き返し、再び千代の方を向く。


 「奴は俺達を滅ぼすために自律砲台だ。今のところ俺達しか狙わない」

 「じゃあ放っといたらアンタら死ぬの?」

 「どうだか。お前達は何をしている?」

 「民間人を避難させてんのよ。これから化物共が暴れ回る予定だから」

 「化物共?」

 「そ。近づくだけで死にかねないから、こうやってアタシらは走り回ってるだけ、おけ?」


 姫野織衣達は身構えているが、千代という女自身に戦闘の意思はない。能力は発動しているようだが、今ここで自分達が戦っても意味がないことはお互いにわかっていることだ。今優先するべきは、あの手に負えなくなった鬼の対処だ。


 「で、アンタらはアイツを殺しに行くの?」

 「いいや、味方の保護と観察だ。アイツと戦おうとは思わない」

 「えー穂高君と戦うのもありじゃないですかー」


 善治の後ろでリーナは駄々をこねる。この三週間程、『光』の方としか付き合えなかったリーナにとっては今すぐにでも完全体の能力者狩りに会いたいのだろうが、自分がむしろ火に油を注ぐだけの存在だという自覚は無いのだろうか。流石に今はリーナでも殺されてしまう可能性があった。


 「アンタらは自分達を守る、アタシらも自分達を守る、んでアレの対処はウチの化物共に任せる。戦う理由はナシ、おけ?」

 「不毛な戦いをする余裕は無いからな」


 千葉での騒動の際、暴走した『光』の方と戦う千代達を善治は観察していたが、彼女らは周囲への被害を最小限に留めて能力者狩りの暴走を抑え込んでいた。流石に東京湾に沈めるのは可哀想だと善治は思ったが、能力者狩りがいわば半身しかなかった状態だったとはいえ彼女達が、いや特に藤綱千代の強さは別格だ。今の能力者狩りと対等に渡り合えるかはわからないが、注意が必要な存在だ。


 「わかった。じゃあ行くわよ」


 千代は織衣達に合図して、善治とリーナの前から去っていった。周辺地域から複数の煙が上がっているのを見るに、革新協会の拠点にもそれなりの被害が出ているようだ。けたたましいサイレン音が街中に鳴り響いているのを聞くと、四月の事件を思い出す。


 「リーナ、行くぞ」

 「はーい」


 そして再び、東京の夜空に無数の流れ星が駆けていた。

 流れ星は高速で地球の大気に突入し、光を放ちながら儚く消えていく。多くの人々はその刹那の出来事を待ち遠しく感じることだろう。しかしその短い命の儚さは、能力者狩りの残り僅かな命を表しているのかもしれなかった。


 ---


 能力者狩りは一度荻窪付近で北上する素振りを見せたが、再び新宿方面へと進路を変えた。渡瀬は中野駅前のビルの屋上で、東京の夜空を駆けていく無数の流星、もとい光線を眺めていた。

 その光景はまるで、聖書のような宗教的寓話に出てきそうな災厄そのものだ。ヨハネの黙示録で例えるならそろそろラッパが吹かれても良い頃合いだ。この世界の終末の時を告げるかのように、周辺にはサイレンが鳴り響いている。

 能力者狩りは渡瀬が立つビルの向かいに陣取った。彼らは大きな通りを挟んで対峙する。おそらく、既にお互いの攻撃が届く範囲にある。先程まで好戦的に見えた能力者狩りも、今は渡瀬の出方を伺っているようだ。彼が今、渡瀬を知り合いとして認識できているかはわからない。

 その姿は鬼と瓜二つだ。体に光と闇を纏い、額に二本の黒い角を生やしたただの化物だった。着ている学ランが何とか人間らしさを留めている。


 「凄いわね」


 渡瀬の横から女の声が聞こえた。見ると、黒いコートを羽織った牡丹が隣に佇んでいた。更に向こうには黒スーツ姿の詠一郎が現れた。


 「すいません、牡丹さん」

 「謝ることは無いわ。想定外と言えば想定外だったんだし。まさか、ここまで暴れ回るとは思ってなかったけどね」


 やり過ぎよね、と牡丹はフフフと笑っていた。能力者狩りが能力を二つ以上持っているという可能性は無くはなかった。ただ、彼らの頭からはその可能性が欠けてしまっていた。能力者の全体に占めるツインやトリプル、能力の複数持ちの割合は全体の一パーセントにも満たないぐらいだ。むしろ能力者狩りが革新協会の傀儡である、という方が現実味があったのに。

 違う、『闇』は保護されていたのだ。おそらく花咲病で分裂した光は問題なかったが、闇の方はただの殺人マシーンのような状態だったのかもしれない。手荒いようだが、鷹取穂高という少年を生かしておくには闇を監禁するしかないと革新協会は判断し、光の方が鷹取穂高として生きていた。そしてツクヨミが彼に接触し、ツクヨミなら彼を助けられるかもしれないと考えた革新協会が丸投げした、というのが事の顛末か。

 だがやはり、どうして協会がそこまで能力者狩りに拘るのかは理解できなかった。


 「どうしますか、牡丹さん」

 「どうするもこうするも、放っておくわけにはいかないでしょ。

  詠一郎、副メイドには伝えたわよね?」

 「今頃政府との調整で大忙しだろうな」


 後処理をどう決着させるか頭を悩ませるのは、副メイドと政府のお役人達だけで十分だ。先程渡瀬が副メイドに一報を入れた時点で東京都心には避難指示が発令され、何度も経験してきた市民は迅速に避難している。能力者一人の暴走を止めるためと言うには、少々大掛かりなものだ。これだけ大規模な避難指示が発令されるのも四月以来である。


 「彼は処分しますか?」

 「いいえ」

 「アレが元に戻ると思うか?」

 「やってみるだけやってみるしかないでしょ」


 能力者は暴走状態に陥ると、その殆どが自分でその力を制御できずに死んでしまう。このままでは鷹取穂高も一時間と立たない内に力尽きてしまうはずだ。その最悪のシナリオは、何としてでも防がなければならない。


 「私達は、能力者のために存在するんだから」


 渡瀬の隣で牡丹は夜空を見上げていた。再び無数の流星が空を駆けていく中、牡丹はトパーズの装飾が施された小さな黒い剣を、詠一郎はオブシディアンが埋め込まれた指輪を、そして渡瀬はサファイアの装飾が施された黒い手袋を、それぞれ自分の額にかざした。


 「ごもっともな大義名分ですね」


 三人の右目には赤い光が灯され、それぞれのジュエリーに剣、狐、鶴の紋章が刻まれた。向かいのビルに佇む能力者狩りは、両手に光剣と黒剣を持って佇みながら、こちらを笑顔で見ているように見えた。


 「五年前のようだな」


 サイレン音が鳴り響く街の各所から煙が上がっていた。四月の時も五年前の時も、街は戦場に成り果てた。


 「ダメよ、もうあんなことは繰り返しちゃいけないんだから」

 「どうやって止めるんです?」

 「きっと彼は、死に場所を探してるんでしょ」


 三人がそう話す間にも、能力者狩りは無数の光線を数波に渡って放ち続ける。渡瀬達三人にまだ飛んでこないのを見る限り、まだ彼は革新協会と戦い続けているようだ。その憎悪に満ちた執念が垣間見える。


 「これも、鷲花君の計画の内だって言うのかしら」


 暴走状態にある能力者を助け出すことはほぼ不可能に近い。こうして牡丹達が集まったとしても、倒すことは簡単かもしれないが宥めることは困難だ。だがそれでも、彼を助けなければならなかった。

 これ以上、不幸な能力者を生み出さないために。


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