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ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第二章『彼は無慈悲な夜の太陽』

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2-12『稲光』



 ツクヨミに加入するためには、絶対に葛根華による面接を通らなければならない。彼女の『瞳』の能力で相手の経歴を洗いざらい調べ尽くして選別するのだ。性根から危険な人物と、表面上は危険な人物を。

 だが、能力者狩りは華の面接を合格したわけではない。彼は初めて、華の能力が効かなかった。それが花咲病によって彼の能力と人格が分裂していた結果なら、華の能力が誤作動を起こしたのだと納得出来ないこともない。

 本来能力者狩りのツクヨミへの加入は保留されるはずだったが、牡丹の鶴の一声で加入が決定されていた。能力者狩りが、革新協会の傀儡という可能性も鑑みた上で、だ。

 

 能力者狩りは校門に張られていた規制線を破り、高校の敷地内に侵入する。彼は校庭の真ん中に陣取ると、光剣を構えて笑みを浮かべていた。その表情はさながらチャンバラごっこに胸を膨らませる少年のようで、渡瀬との戦いをとても楽しみにしているようで、彼の戦闘狂たる一面を見ることになる。

 渡瀬はそのフィールドに足を踏み入れる。ツクヨミはとにかく目立つことを嫌う、昼間から屋外で戦うことなど滅多にないが、幸いなことにこの場所に人目はない。思う存分暴れていい。

 先程まで眩しかった青空を、段々と暗い雲が覆い始めていた。渡瀬はサファイアの装飾が施された黒い手袋を右手にはめ、能力を発動する。


 「立花道雪は知ってるかい?」

 「柳川藩主立花宗茂の、義理の父親ですね」

 「そうそう。彼は若い頃、木陰で休んでいた時に雷に打たれたんだ。でもその時彼は、愛刀で雷神を叩き斬ったんだって」


 渡瀬は自分の額に手をかざし、そして離す。


 「それは後に“雷切”と呼ばれた。どう? かっこいいと思わない?」


 右目に赤い光を灯した渡瀬の手には一本の太刀が生み出される。それは刀身に激しく光る稲妻を纏っていた。


 「君は『光』、僕は『雷』。相性は五分五分ってところかな」


 辺りの空をすっかり覆ってしまった雷雲からゴロゴロと不穏な雷鳴が鳴り響く。これでフィールドは完成した。


 「僕は、君の実力を知りたい」


 合図があったわけでもないのに、お互いに剣を構えて同時に踏み込んだ。光剣と雷剣が眩い光を放ちながらぶつかりあう。

 初撃は拮抗。

 続く攻撃も拮抗。わずかに能力者狩りが渡瀬に押されたが、そのスピードに遅れはない。それどころかスピードは能力者狩りの方が上回っていた。剣と剣が激しくぶつかる度に目が眩む程の光が放たれるも、渡瀬と能力者狩りはお互いに笑いあった。一瞬の無駄な思考すら許されぬこの状況、一瞬の隙が即座に死へと誘うこの状況を二人は楽しんでいた。能力者狩りの剣戟が突きへと変わったところで、渡瀬は身を引いて雷剣を彼に向けて唱える。


 「地に嘶け、“雷霆”」


 それは能力者狩りの実力を信じた一撃。空に立ち込める雷雲から一斉に無数の雷が能力者狩り目掛けて放たれた。無数の稲妻が迫り、激しい雷轟が辺りに鳴り響く中、能力者狩りは冷静に光剣を地面に突き刺した。


 「“紫電──」


 光剣を中心に地面を放射状に光が這っていき、一斉に地面から空に向かって放たれた光線が渡瀬の雷を迎撃する。光と光が激しく干渉しあって何とも鮮やかな光景が渡瀬の前に広がった。能力者狩りは自分に向かって雷が直撃するコンマ数秒程度の間に最善の判断をした、だが渡瀬は判断を誤った。

 まだ、能力者狩りの攻撃は終わっていない。光の中から、光剣で渡瀬に斬りかかろうとする能力者狩りが飛び出てきた。


 「──一閃”」


 雷を迎撃したはずの光線が、激しく屈折を繰り返しながら渡瀬の方へ急に進路を変えていた。それを躱すだけの時間はあったが、渡瀬は躱そうとしなかった。


 「はは、眩しっ」


 だが能力者狩りの反撃は渡瀬に届かない。無数の光線と能力者狩りの一閃が渡瀬に到達しようとした直前、渡瀬の前に一人の少女が立ちはだかった。


 「“ジャッジメント”」


 能力者狩りの前に立ちはだかったのは黒ロリータファッションの少女、エリーだった。彼女は指鉄砲を穂高に向け、その指先をクイッと回してみせた。


 「“リバース”」


 その瞬間、能力者狩りの攻撃が全て“反転”した。渡瀬に襲いかかろうとしていた無数の光線も、能力者狩りの光剣すらも、その攻撃全てが能力者狩りに向かう。

 だが能力者狩りの判断も早い。すぐに光剣を手放して、即座にその場から後退した。自分の攻撃が自分に返ってくるとは思っていなかっただろう。


 「いやぁ死ぬかと思ったね」


 目の前に佇むエリーに渡瀬は言う。その口ぶりは、とても九死に一生を得た直後とは思えない。


 「本当に?」

 「本当だよ」


 渡瀬の様子にエリーですら疑問を抱いているようだ。渡瀬は詩音の頭を撫でながら、彼らと距離をおいた能力者狩りに問いかける。


 「多分、エリーの能力は君にとってかなり厄介だと思うよ。君みたいに攻撃的な相手ほど、エリーの能力は力を発揮する」


 エリーが持つもう一つの能力は“黒白(こくはく)”と呼ばれている。これは『反転』の干渉系(レイド)能力で、今の場合は渡瀬に指向していた攻撃を全て反転させた、という次第だ。エリーが持つジュエリーはルビーの宝石がついた黒いチョーカーで、それに合わせたのかはわからないがファッションの黒ロリチックにしている。

 『ネコ』と『反転』の能力を持つエリーのように能力を重複している能力者は珍しく、『ツイン』や『トリプル』と呼ばれるが、エリーの『ネコ』の能力は殆ど実用性がない。


 「僕達は一心同体なんだよ、君とは違ってね。君はこの三ヶ月の間で、一人で戦うことの厳しさを知っているはずだよ。

  どうして、君は戦うんだい?」


 能力者は生まれながらにして能力者という先天的なものではない。皆いずれも、どこかで能力を発現するきっかけとなる出来事があった。奇跡を祈り、そして奇跡の力を得て戦った理由がある。

 しかし能力者狩りは首を横に振った。


 「それは、もう一人の僕に聞いてください」


 すると能力者狩りの体は煌めきながらフッと消えていった。いなくなった、というわけではない。渡瀬がそう気づいたのは、雷雲に包まれた空が光り始めた時だった。


 「きれい……」


 その空を見たエリーが呟く。暗い雲に覆われていた空に、鮮やかの紺碧色の、光のカーテンが現れた。


 「“極光(オーロラ)”だね」


 極域でよく見られる発光現象だ。夏場の日本で見られる光景ではないだろう、『光』の能力者たる能力者狩りだからこそ出来ることだ。

 やはり能力者狩りは、どうもド派手な戦いが好きらしい。戦いにおいて美に対するこだわりがあるらしい。勝つためには美しさなど必要ない、だがこれほど感服できる美しい戦いもない。

 そう、今も戦いだ。能力者狩りは渡瀬達の目の前から確かにその姿を消した。今、彼はこのオーロラに紛れているはずだ。


 「成程、目を奪うって感じなのかな。変わった趣向の技だね」


 渡瀬はこの戦いの間で能力者狩りの弱点を見抜いていた。『光』の能力で光に近いスピードで動く能力者狩りの動きを完全に見切ったわけではない。その動くを目視で捉えることは不可能だ。


 「でも残念」


 だが渡瀬は、背後を振り返って雷剣の刃先を何もない方向に向けた。それと同時に、雷剣の先に能力者狩りが現れた。渡瀬が持っている雷剣は、寸分狂わず能力者狩りの喉元を突ける位置に向けられていたのだ。まるでそこに、能力者狩りが現れるのを知っていたかのように。


 「どう? まだ戦う?」


 能力者狩りは光を放ちながら再び渡瀬の前から消えた。すぐに渡瀬は雷剣を右横に向けた。またしてもほぼ同時に、能力者狩りが現れる。その喉元に雷剣の刃先を突きつけられて。


 「無駄だよ、僕の前で瞬間移動なんて無意味なんだから」


 能力者狩りはワープしているわけではない。ただ移動しているだけだ。彼が光速で移動できるかは誰にもわからないだろうが、それに近いスピードでも傍目には瞬間移動に見えるだろう。

 能力者狩りは渡瀬の顔を見ながら、顔を引きつらせていた。その目は得体の知れないものを初めて見た時のような、驚きと畏怖の感情に満ちていた。その目の周りには花の紋章が咲き乱れていた。


 「僕の、負けです」

 「良いのかい? もう負けを認めちゃって」

 「貴方のことが怖くなりました。貴方の能力、『雷』じゃないでしょう」

 「さあ、それはどうかな」


 能力者狩りは能力を解除した。能力者狩りはてっきり勝ちに固執するものかと渡瀬は思っていたが、彼はあっさりと敗北を認めた。いいや、実際の戦いなら能力者狩りは撤退していただけかもしれない、彼の能力なら逃げることも容易いはずだ。

 だが渡瀬もこれ以上の戦いを望んでいるわけではない。能力者狩りの花咲病の症状はかなり深刻だ、この短時間でもう花の紋章が顕現している。渡瀬が能力を解除するとエリーも解除し、渡瀬の背後にスッと隠れた。


 「ちなみにだけど、僕に勝ったらどうするつもりだったんだい?」

 「その花咲病ってやつの治療法を聞きたかっただけです」

 「簡単なことだよ。どこかを彷徨っているもう片方を見つければ勝手に融合するよ」


 一応は同じ組織の先輩で仲間である渡瀬に対して能力者狩りが質問という手段を選ばなかったのは、情報というものはまず相手を潰してから聞き出すものだという一連の行為が身に染みてしまっているからだろう。そもそも花咲病の予防策は無闇矢鱈に能力を発動しない、つまり能力に頼らないことである。能力者狩りたる彼にはそれが不可能だった、だからここまで重症になったのだ。分裂という段階にまで来てしまったなら、根気よく分裂したもう片方を探すしかない。


 「でも、僕はそのもう一方がどこにいるかわからないんです」

 「見当もつかない?」

 「本当に、わからないんです」


 嘘をついているようには見えない。花咲病というのは分裂した能力側が勝手に暴れ出すケースも多い。彼が鷹取穂高の能力を形成していた個体なら、自分が好き勝手暴れるためにわざと人格の方の自分から逃げている可能性もあった。だが彼からはその意図を感じられなかった。


 「じゃあ、知ってそうな人を見つけるしかないね」


 渡瀬はニコニコと笑いながら、数十メートル離れた校門の方を向いた。


 「そこにいる誰かさんは知っているのかな?」


 渡瀬と能力者狩りが刃を交えた時から彼女はそこにいた。渡瀬が彼女に問いかけると、校門から一歩踏み込んだだけで渡瀬の目の前まで飛びかかってきて、その手に持つ大鎌で渡瀬の首を狙わんとしていた。

 だが渡瀬の首に刃は届かない。エリーが間に割って入ったわけではない。渡瀬の首から数ミリ程度の猶予を残し、大鎌がピタリと止まった。それを見た能力者狩りは驚いている様子だった。


 「やっぱり貴方は只者じゃなさそうですねぇ」


 白いコートを羽織り白い手袋を両手にはめた白いセーラー服姿の金髪碧眼の少女、リーナは大鎌を戻すと当然のように能力者狩りの側に陣取っていた。


 「どうして、貴方は穂高君との戦いで手を抜いたんです?」


 尚もニコニコと微笑む渡瀬の目には、赤い光が灯されていた。


 「リスクマネジメントってやつさ」

 「答えになっているような気がしませんねぇ」


 この短い戦いの間で渡瀬の能力が『雷』ではないと気づいた能力者狩りとリーナは大したものだが、渡瀬はテキトーに答えをはぐらかしていた。


 「さて、リーナちゃんは一体何をしに来たんだい? ただ見物をしに来たってわけじゃないだろう?」


 するとリーナは能力者狩りに抱きついてみせた。能力者狩りは心底嫌そうな顔をしているが、抵抗する素振りは見せない。


 「私はもう一人の穂高君の居場所を知ってるんですよ~」


 これは取引だ、と渡瀬は理解する。以前と違って、いやリーナを誘拐した件もあってか彼女への懲罰とやらは終わっているようだ。能力は無効化されない。


 「何か取引でもしたいのかい? 残念ながら僕達はお金ぐらいしかトレード出来ないなぁ」

 「簡単な話ですよ~私はもう一人の穂高君の居場所を教えて~貴方達は穂高君を助け出すだけなんですから~」


 それは取引になっていない。渡瀬は鷹取穂高を助けるために人格たる彼の居場所を知りたいのだ。彼女の話を聞く限り、ツクヨミ側にしかメリットが見受けられない。


 「それは取引になってる?」

 「そうですよ~これはれっきとした取引ですよー?」


 リーナは白コートのポケットをゴソゴソと漁ると、ポイッと渡瀬に鍵を投げ渡した。鍵には札がついていて、そこには神奈川県内の住所が記されていた。


 「どうしてここに彼がいるとわかるんだい?」

 「だって私達が監禁していますので~」

 「わざわざ敵に居場所を教えて助けに行かせるのってすごく一貫性のない行為に思えるけど?」

 「いやいや言ったじゃないですか~穂高君は私達の手には負えないって~」


 ふむ、と渡瀬は鍵を握りしめて考え込む。

 傍から見るに、これは明確な罠だ。あからさま過ぎる。その場所に呑気に向かえば待ち伏せに遭う可能性が非常に高いし本当に鷹取穂高の人格がいるかもわからない。革新協会統帥、鷲花蒼雪が待ち構えていたら勝つことは不可能に近い。

 これは革新協会が与えた試練か?

 何のために?

 誰のために?

 これもまた、彼らが鷹取穂高を生かしていた理由なのか? いくら殺すのが惜しいと考えて革新協会が保護していたとしても、花咲病の治療をわざわざツクヨミにさせる意味もわからない。

 もしも革新協会が自分達の計画のために能力者狩りを生かしておきたいと本当に考えているのなら、これはツクヨミの人間がしなければ成功しない、と革新協会が判断した可能性がある。それはツクヨミとしては願ったり叶ったりというわけだが、どうも一筋縄ではいきそうにない。

 何はともあれ、現地に向かってみないと推理しようがない。今頼れる情報は、リーナから渡された鍵に記された住所しかない。


 「ではでは~私の要件はこれだけですので~」


 リーナは能力者狩りの体を離して、大鎌を持ってスタスタと立ち去ろうとする。そんな彼女に渡瀬は問いかけた。


 「僕達は、革新協会に期待されてるって理解しても良いのかい?」


 リーナは足を止めて、天を仰いだ。先程まで空を覆っていたはずの雷雲は煙のように消えてしまい、夏の日差しが再び差し込んでいた。


 「私が、穂高君を助けられるわけないじゃないですか」


 リーナの立場は、その言葉に全て込められていた。


 

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