表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第二章『彼は無慈悲な夜の太陽』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/176

2-8『革新協会統帥、鷲花蒼雪』


 「よくやってくれたわ」


 鬱蒼とした森にひっそりと佇むコンクリート造りの無機質な建物の前に牡丹は現れた。相変わらず黒いコートを羽織り普段は被らない月の仮面も手に持っていた。

 渡瀬は牡丹に何の報告もしていなかったが、どこからか聞きつけた彼女は詠一郎を連れて渡瀬の元へやって来ていた。牡丹が常に“かくれんぼ”をしているせいで周囲からは神出鬼没のように見える。


 「もしかして、牡丹さんが尋問するんですか?」

 「いいえ、私はここで『彼』を待ち構えてみる。絶対に来るはずだから……多分」


 矛盾したことを言う。ここまでしておいて、牡丹はあまり自信が無いらしい。


 「その確証は?」

 「うーん、アイツが黙って見ているとは思えないわ。前に詠一郎と戦った時にも来たんだし、今日も来るでしょ。これが見え見えの罠だとわかっていてもね」


 アイツ、もとい革新協会の統帥は、以前詠一郎がリーナを始末しようとした時と同様に今日も駆けつけてくるだろうと牡丹達は考えた。リーナを捕まえたのは単なる餌という役割だけでなく、革新協会や能力者狩りに関する情報を聞き出せるだけ聞き出すつもりだ。ただ牡丹達が本当に確かめたいのは革新協会統帥の正体なのだ。


 「僕は尋問するだけでいいですか?」

 「えぇ。聞けるだけ聞いて、さっさとお帰りいただきましょ」


 牡丹は真っ暗闇の森の中へ消えていった。この建物も土地もツクヨミが所有しているものだが、今は使われなくなった施設だ。何の手入れもされていないが辛うじて電気は通る。渡瀬はリーナを尋問するため、錆びついた鉄製のドアをゆっくりと開いていた。


 ---


 「それでそれで~汀という人は力尽きて死んでしまったんですよ~とっても強かったんですがねぇ勿体ないですねぇモーマンタイって感じでしたねぇ」


 こちらがカツ丼も何も与えなくても、リーナは渡瀬達が知りたい情報をベラベラと嬉しそうに話してくれる。あの日、敵であるリーナの視点から見た能力者狩りの行動を鮮明に伝えてくれるのだが、所々恣意的な脚色が加えられているようで判断に困る。だがリーナの話自体は聞いていて面白いので渡瀬は興味津々に話を聞いている。


 「いや~あの時の穂高君は本当に強かったですねぇ私も本当に死ぬかと思いましたから~その時は統帥様に助けられましたけど~正直誰の手にも負えなかったんじゃないですかねぇ~」


 そう嬉しそうに語るリーナは、無機質な狭い部屋で椅子に縛られて身動きが取れない状態にある。それなのに、どうしてこんなにこの少女は楽しそうなのだろう。


 「その後の彼は弱くなったということ?」

 「そうですねぇそうですねぇ……経験値リセットってやつですかねぇビギナーズラックっていうものですかねぇ。暴走していたんですから手強いのは当たり前ですけど~確かにあの時程の強さはあまり見れませんでしたねぇ」


 リーナを正攻法で始末するのは難しいと詠一郎は言っていた。おそらくリーナは死なない。どれだけ殺してもリーナの体力が持つ限り倒すことは不可能だ。だから詠一郎も滅多に使わない術をリーナに使ったわけだ。もしかしたら能力者狩りも似たような術を持っていたのかもしれない。


 「それで、その後はずっと能力者狩りを?」

 「そうですねぇずっと付き合っている内に段々とお強くなりましたよ~私には敵わないかもしれませんけど~」


 おそらく能力者狩りはリーナに勝つことが出来なかったのだ、何らかの原因で。もしもリーナが能力者狩りに惚れていなかったら、彼はとっくのとうにいなくなっていたかもしれない。だが革新協会に確実に損害を与えているはずの能力者狩りを、いくら幹部とはいえリーナの一存で生かしているわけにはいかないだろう。


 「どうして、革新協会は彼を生かしておいたんだい?」

 「生かしていた、というよりも倒せるような人があんまりいないんですよねぇ私や統帥様を含めても数人ぐらいでしょうし~私が穂高君を殺す理由なんてないですし~統帥様は穂高君のことを気に入っているみたいですしおすし~」

 「自分達の方に引き入れようとしていた?」

 「殺すには惜しい人ですからねぇそんな計画もあるにはあるんですよ~でもでも~こちらも色々とあったので~」

 「和光事件のことかい?」

 「いやぁまさにそれなんですよねぇ~あの日は本当に色々とありまして~こちらも散々だったんですよねぇ」

 「彼の妹の件も関係する?」

 「うーん直接は関係してないと思いますけど~私にはわからないですねぇ」


 鷹取穂高の妹、鷹取椛の事件はわざわざ変な情報網を使わなくてもネットで彼女の名前を検索すれば一番上に表示されることだ。勝手にニュース記事が出てくる。和光事件との間に何らかの関係があるのは確かなはずなのだが、リーナはそれをはぐらかしているように見えた。


 「和光事件で、彼は一体何人殺した?」

 「ざっと一万ないし十万ぐらいですかねぇ」


 一万から十万という犠牲者の数字は幅があり過ぎる。そもそも警察の発表では犠牲者は一万人程度だ。


 「じゃあ、彼が民間人を殺したのは確かなことなのかい?」

 「語弊はありますけどそうですよ~」

 「語弊っていうのは?」

 「まー色々と端折って言いますと~その一万人以上の人達も穂高君の敵になったんですよ~」

 「それはどうして?」

 「貴方も能力者ならわかるんじゃないですかー? 親しかったお友達や罪のない人達が敵に操られて一斉に襲いかかってきた時に~穂高君がどんな反応をするか試されただけですよ~」


 リーナのその答えによって、渡瀬は能力者狩りがあの事件について触れない理由がわかったような気がした。

 やはり和光事件は只事ではない。渡瀬達が知らない『第三者』の介入が見られる。それも、かなり高位の能力者だ。


 「どうして革新協会はそんなことを?」

 「さぁ~私がしたことじゃないので知りませんね~」


 敵に捕まって身動きが取れないよう椅子に縛られた状態でよくそんな態度がとれる。いや、どうせ誰かが助けに来るという絶対的な自信による余裕か。中々に手強い少女だと渡瀬は思った。しかし和光事件の真相を知らなければ、能力者狩りの素性を知ることは出来ない。


 「革新協会の中で何か揉め事でも?」

 「まぁそれもあったりなかったりというか~」

 「成程。君達も大変そうだね」

 「私だってあのクローチェの人達は嫌いですしおすし~」


 聴取のしがいが無いと言えばない。どこからどこまでが彼女の、いいや統帥の策略かは謎だ。能力者狩りをまだ革新協会に引き入れたいと考えているのなら、ツクヨミの環境で肥やすだけ肥やしておいてから、洗脳でもして捕まえればいいかもしれない。だがやはり面倒な手段だ。

 リーナの話の真偽は華がいれば丸裸となるが、華の存在はツクヨミのトップシークレットであり、華をここまで連れてくるわけにも、リーナを本部に連れて行くわけにもいかなかった。


 「和光事件っていうのは、革新協会の内輪揉めに能力者狩りが巻き込まれたということかい?」

 「どちらかというと~内輪揉めの末に穂高君が狙われたっていう感じですねぇ」

 「どうして彼を?」

 「穂高君は私達の仲間をたくさん殺してくれているので~それはそれで復讐のバーゲンセールって感じなんですよ~一万人の命なんて軽いぐらいに~」


 なんて身勝手な連中だ。そもそも能力者狩りを生み出したのは彼らだというのに。

 革新協会は絶対的な悪だ。元々は被害者だった能力者狩りに対して復讐の連鎖というものを説くのも残酷な行為だ、彼も納得するわけがない。能力者狩りが復讐の念に囚われるのは最早当然のこと、彼は身の回りの人間を協会に殺されすぎた。


 「でもそれを統帥は許したのかい? 穂高君を気に入っていたのに?」

 「まー統帥様もなすにまかせよって主義なので~ある程度は好きにさせて不満を抑えるのも統帥様の仕事ですよ~」


 協会の統帥は内輪揉めを放置する程無能では無いはずだ。革新協会の敵である能力者狩りをいくら気に入っているとはいえ今まで生かしているのも、特別な理由があるはずだ。

 これは、こうなることを統帥が意図して引き起こしたことか?

 彼の計画で?

 一体、どこからどこまでが?


 「じゃあ和光事件を利用して能力者狩りを傀儡化することも出来たんじゃない?」

 「そりゃあまぁ……そうなんでしょうけどねぇ。穂高君は中々に手強い人なんですよねぇ」


 リーナが能力者狩りにそんな評価をするとは渡瀬にとっては意外だった。リーナが能力者狩りを手駒のように操ることだって出来るはずだからだ。この二人の間のパワーバランスが、単なる愛という感情だけで成り立っているとは思えない。


 「手強い? 彼が?」

 「さっき言ったじゃないですか~穂高君って暴走すると手に負えないって~そんな穂高君が大好きなんですけどねぇ」

 「じゃあ、どうやって彼の暴走を止めたんだい?」

 「いや~それが完全には止められてないですよ~」

 「止められてない?」


 能力者が暴走状態という段階に入るのは、敵からしても味方からしても非常に厄介なことだ。それを止めるに越したことはないが、暴走した能力者の九割は自壊という結末を迎える。それまでは目に入ったものの殆どを敵とみなして攻撃し続けてしまう。適切な処置を施せば抑えることも出来るが、革新協会は和光事件で鷹取穂高の暴走を止められていない。

 つまり彼は──()()()()()()()()()


 「少し喋り過ぎだよ、リーナ」


 突然建物の窓ガラスがパリィンと割れると、渡瀬とリーナの間に白いコートを羽織った男が現れた。腰まで伸びた長い髪、思いの外年の若い、いけ好かない声の男──革新協会の統帥だ。


 「へぇ、やっぱりお出ましになるんですね」


 彼が革新協会の統帥であることを渡瀬は知っている。だが今は能力を発動することが出来ない。渡瀬が拳銃を取り出そうとした時、丁度外で待機していた牡丹と詠一郎も扉を開けて部屋の中に入ってきた。二人共拳銃を統帥に向けていた。


 「五年ぶりの再会だから挨拶ぐらいはしてくれると思ってたんだけどね、鷲花(わしばな)君。貴方はちゃんと礼儀を知っている人間だと思ってたけど?」


 当初の予定では外で待機していた牡丹達が統帥に応対する予定だったのだが、彼が直接こっちに乗り込んできたため予定が狂う。


 「リーナを救出することが優先だと思いましてね。それに挨拶はここでも出来るでしょう」

 「さあっすが統帥様~やっぱり来てくれると思いましたよ~」


 突然現れた統帥の肩に担がれながらリーナは統帥の胸をバンバンと笑顔で叩く。手足を縛られたままのためイモムシのようだ。手錠をはめられた腕で叩かれるのも痛そうだ。


 「お前、本当に蒼雪(あおゆき)か? まさか幽霊じゃあるまい」

 「私が幽霊に見えますか? 澄み切った藍色の瞳、艷やかで美しい長髪、減らず口しか叩かない口。まさしく私じゃないですか?」

 「ああ、その気持ち悪い口ぶりはまさしくお前だな、鷲花蒼雪。死んだと思ってたお前が生きててくれて嬉しいぜ、お前がアホみたいなことをしていなければな」


 詠一郎がそう言い放つと、革新協会統帥──鷲花蒼雪は口角を上げてニコリと微笑んだ。そして彼は詠一郎、牡丹、渡瀬の順にその姿を確認してから口を開く。


 「『狐』、『剣』、『鶴』が一堂に会するとは私も恐れられたものですね。しかし、『(わたし)』には敵わない」

 「だから何? 今、ツクヨミ(ウチ)には鷲花君のことを知っているのはもう殆どいないのよ。こうしてまた会えたんだし、少し話さない?」

 「手短にお願いしますね。私も暇ではないので」


 今回の目的は直接革新協会統帥と戦うことではない。勿論向こうが戦いを仕掛けてくるのであれば戦っただろうが、以前詠一郎と出会った彼は能力者狩り以外には手を出さなかった。能力者狩りの素性を知るにはリーナからの情報提供が必須だったこと、そして鷲花蒼雪と邂逅した詠一郎の報告から牡丹が考えた作戦だ。まんまと彼が罠にかかったというよりは、それを知っていながらわざわざおいでなさったという状態だが。


 「貴方達の目的は一体何? 『フラワー』とかいう改造人間まで生み出して、ただ単に虐殺をしたかっただけ?」

 「そうですよ。事の真相は、貴方が一番ご存知だと思いますが?」

 「……私が? 何の冗談かしら」

 「いずれわかることだと思います」


 違う、少なくとも牡丹自身は向こう側の人間ではない。チラッと渡瀬は詠一郎の方を見たが、彼は軽く首を横に振る。ツクヨミのトップである剣城牡丹が鷲花蒼雪と密約を結んでいないと言い切ることは出来ない。だが渡瀬と詠一郎は、剣城牡丹がそんな人間ではないことを知っている。


 「あの能力者狩り……鷹取穂高はどうするつもりなんだ? あんな奴、お前ならすぐ倒せるのにどうして生かしている? 何が目的だ?」

 「彼は我々が求めている奇跡ですよ。この世界を終わらせるための────」


 その瞬間、リーナを抱えた蒼雪の隣に一瞬だけ人影が現れた。今、能力の無効化が解除された──そう渡瀬達が気づいた時には、もう蒼雪らの姿はなかった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ