表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第二章『彼は無慈悲な夜の太陽』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/176

2-6『連れ去り御免』


 渡瀬はポケットから三枚の新聞の切れ端を千代に手渡した。その新聞記事は副メイドが入手したものだ。その記事にはこう書かれていた。


 『中二女子行方不明 夕暮れに姿を消す

  警視庁は18日、東京都練馬区の学校に通う中学2年生の鷹取椛さん(14)が行方不明になった事件で、公開捜査を始めた。椛さんは17日夕方に兄と共に外出していたが、突然姿を消してしまったという。練馬区の商業施設の監視カメラに椛さんらしき人物が映っていたが、その後の消息は不明で……』


 『死体遺棄容疑で男三人を逮捕 十字会が関与か

  東京都練馬区の鷹取椛さん(14)が行方不明になっていた事件で、警視庁は19日、死体遺棄容疑でイギリス国籍の男三人を逮捕した。三人はいずれも容疑を認めており、「武蔵野市内の空き地に埋めた」と供述。警察の捜索により武蔵野市内で遺体が発見され、警察は三人の聴取を続けている。

  警察関係者によると、三人はいずれもイタリア系マフィア、十字会による大規模な麻薬取引に携わっていた可能性があり、組織犯罪対策部と共同で捜査に当たっているという……』


 『複数の容疑がかかる三人の被疑者 拘置先で自殺

  6月17日に発生した、練馬中二女子誘拐殺人事件で強制性交・死体遺棄等複数の容疑がかかっていた三人の容疑者が、20日未明に拘置先の光が丘署で死亡しているのが発見された。三人はいずれも刃物を用いて自殺したとみられている。拘置所内で被疑者が死亡した件について警視庁は監視体制について調査を開始すると共に、光が丘署署長相島逸郎警視は記者会見で謝罪した。

  なお、20日未明に警視庁や自衛隊の車両が光が丘署に頻繁に出入りしていたという情報について、相島署長は「被疑者三名が死亡した事件に対応したもの」と説明し、巷で噂される警官が数百人死亡した事件については否定した……』

 

 千代は記事を読み終えると、また深い溜息を吐いていた。千代のこんなにうんざりしている表情を見るのは久々だ。能力者狩りの癖の強さを、ようやく思い知ることになる。


 「何だか、点と点が線で繋がった気がするわ。でも、和光事件にどう関わってるかが気になるわね。自暴自棄になったとも思えるけど」

 「そう。その件について、千代にちょっとお願いがあってね」

 「え、アタシに?」


 渡瀬は携帯を取り出すと、副メイドから送られてきた任務の計画書を千代に見せる。内容は、千葉方面での革新協会・十字会拠点の制圧である。


 「彼を、少し暴れさせてほしいんだ」


 千代は露骨に凄まじく嫌そうな顔をした。彼女はあらゆる感情がすぐ顔にでる、華が能力を使う必要もない彼女の裏表のなさを渡瀬は好んでいる。


 「どゆこと? 本領を発揮させろってこと?」

 「少し掃除するぐらいで大丈夫だと思うよ。千代と北斗が監察役で……そうだね、織姫ちゃんも連れて行ってくれないかい?」

 「どんだけ織姫を酷使させる気よ。ここ一、二週間で何度も死にかけてんのよ」

 「大丈夫さ、彼は織姫ちゃんを殺せない。それに、織姫ちゃんだって十分に戦えるんだから」


 千代はまた深い溜め息を吐いて、赤く染めた自分の髪をクシャクシャに掻いていた。こうして面倒な仕事を千代に押し付けるのは何も今回が初めてではない。むしろこういった仕事は渡瀬に押し付けられていることも多いが、渡瀬の意図に千代はすぐに気づいてくれたようだ。


 「……わかったわ。私は千葉の方で能力者狩りを暴れさせる。んで協会の連中がそっちに気を取られている間に、アンタはアンタでやらないといけない仕事があるのね?」

 「話が早くて助かるよ。というわけで今日はよろしく。今日の分に加えて、今度美味しい焼肉でも奢るからさ」

 「はぁ……あんな接しづらい奴を連れて行くのは面倒臭いわ」


 渡瀬も能力者狩りにそんな印象を抱いている。彼はどこか掴みどころのない、秘密を多く抱えている人間だ。それは渡瀬も言えた口ではないが。

 だからこそ、似た境遇の彼に渡瀬は興味を抱くのだった。


 ---

 --

 -


 渡瀬は、能力者狩りは革新協会の傀儡だと考えていた。何も確証があるわけではない。今のところは。

 物的証拠があるわけでも、状況証拠があるわけでもない。ただ、鷹取穂高が本当に能力者狩りであるという証拠さえもない。織衣と出会ってから、能力者狩りによるものと思われる事件は発生していない。

 華の能力が何故か能力者狩りには効かないため、全ては彼による説明を元にした情報だが、確かにそれは副メイドが集めてきた情報と殆ど一致している。

 殆ど、である。

 本来、彼は法に則って然るべき処罰を受けさせられる立場にある。どんな人間が相手でも、怪我をさせることすら許されない。正当防衛も考慮されるが、彼の行為はその範疇を遥かに凌駕している。

 この三ヶ月の間で能力者狩りが殺害したと思われる人間の数は調査の結果、一万人以上に及んだ。その内一千人程が革新協会の能力者で、三百人程が十字会の構成員、そして残りはただの一般人だった。

 

 能力者狩りは一般人に手をかけた。ただそれはあくまで副メイドらによる推測によるもので、彼が手をかけたという確かな証拠はなかった。

 能力者狩りとツクヨミが接触する二週間程前、六月二十日に和光事件が発生した。元々練馬区光が丘周辺は四月デストラクションでも多くの死傷者が出て人口流出も相次いでいたが、そんな一帯でさらに一万人程の死者を出した凄惨な事件が発生した。当然一般人が巻き込まれたわけだが、被害者の中には白いコートを羽織った革新協会の能力者も存在した。

 当初、それは革新協会内部で何らかの内輪揉めが発生した結果であるとツクヨミは考えていた。だが一万人もの人々は、確かに能力者狩りと同じ手口で殺されていた。普段ほどの残虐性は見られなかったが、その切り傷や裂傷、体に空いた大穴は彼の能力によるものだと思われた。

 ならばどうして、能力者狩りは罪のないはずの一般人を殺してしまったのだろう? テロ組織と戦っていたはずの正義のヒーローが、どうして突然一般人を巻き込んでしまったのか。


 能力者狩りは和光事件への関与を否定した。彼の所業でなかったら、一体誰の仕業なのだろう? ツクヨミのその問いに、彼は何も答えなかった。

 いや、答えられなかったのか? PTSD等による自己防衛的な記憶喪失でも起こしているのか?

 どうして華の能力が効かない? 彼女の『瞳』から逃れることは余程の防御能力がない限り不可能だ。

 どうして彼は、能力者狩りを禁止されても動じることがなかったのか? あれ程の復讐心を持って戦っているように見えたのに、何故?

 能力者狩りが既に革新協会の手に堕ちてしまっているのなら。彼がただの操り人形に過ぎないのなら、納得できる部分もある。彼が革新協会の間者としてツクヨミへ加入した可能性も十分に残っている。

 だが渡瀬は、能力者狩りは自分達の仲間だと信じていた。五年前──彼と初めて出会った時のことを、渡瀬は忘れていない。

 あの時の鷹取穂高は、紛れもなく一人のヒーローだった。



 『お前は一体、どうしたいんだ?』


 車の走行音や雑踏が騒がしい中、電話の向こうから副メイドの声が聞こえた。秋葉原の電気街は今夜も明るく、殺伐とした世界など忘れてしまう。


 「彼がどんな戦いをするのかなって、何となく思っただけです」

 『そうか。それはせめてお前が同行してほしかったがな』

 「はは、できることなら僕も間近で見たいですよ。ただ、今日はそれよりも大事な仕事があるので」

 『千代と北斗ならどうにかしてくれるだろう。既にもう暴れまわっているのでな。そちらは任せた』

 「はい」


 渡瀬が電話を切り、携帯をポケットに入れて辺りをキョロキョロと見回すと、まだ夜の十時頃だが人通りはいつもより少なく感じ取れた。まだ革新協会による深い傷は癒えていないようだ

 現場は呼び込みのメイド達が大勢並んでいて、それに応じる野郎共も多い。渡瀬もよく声をかけられるが、一つ一つ丁重に断りながら道を進む。

 とても革新協会というテロ組織の拠点があるような場所とは思えない。街を行き交う人々の中に能力者がいるかもわからない。しかし渡瀬が能力を発動しようにも、もう発動出来なくなってしまっていた。


 「ここかな」


 渡瀬の目の前には、どこにでもあるようなネットカフェがあった。八階建ての雑居ビルの三階にあったが、他の階の店は営業していないらしい。

 渡瀬は中に入り、受付の女性に対応されていた。せっかくだから会員証でも作ってみるかと渡瀬は思う。案内に従って紙に氏名や誕生日を書いていると、側にあったドリンクバーに歩いてくる一人の少女の姿があった。


 「あ゛」


 渡瀬の姿を見ると、彼女は驚きとともにまずい、と感じているようだった。金髪碧眼で、白いセーラー服を着て白い手袋をはめた華奢な少女──リーナ・ヴァリアントが、紙コップを持って佇んでいた。


 「やあ奇遇だね。君みたいな人もこんなところに来るんだね」

 「本当に奇遇なんですかねぇ……あ、もしかして私に一目惚れしちゃったとかですか~?

  貴方のような塩顔系のハンサムな方に好かれても~残念ながら私には穂高君しかいませんので~」

 「ああごめんよ、残念ながら僕も君のことがタイプじゃないんだ。それより、君に聞きたいことがあるから一緒に来てくれないかい?」

 「やっぱりナンパじゃないですかー私が連れ去られちゃう流れみたいですねぇ……ちなみにどうしてここがわかったんですかー?」


 渡瀬は自分の右手を額にかざしながら言った。勿論もう能力は発動しない。


 「僕の能力は、広い範囲に作用するんだよ。それで僕の能力が作用しない不自然な場所を探すだけさ。さて、大人しくついてきてくれるかい?」

 「うーん連れ去られるのもナシではないですけど~やっぱりそう簡単に連れ去られるわけにはいきませんので~」


 リーナがパチンと指を鳴らすと、先程まで渡瀬達に愛想を振りまいていた受付の女性が渡瀬に拳銃を向けた。奥の部屋からもドタドタと激しい靴音が聞こえ、ぞろぞろとガラの悪そうな連中が渡瀬を囲んでライフルを向けていた。彼らは能力者のようには見えない。おそらくこの空間では能力が使えないため、わざわざ雇われた傭兵だろうと渡瀬はテキトーに考えていた。

 だが、彼らの敵は渡瀬だけではない。


 「残念、相手は僕達じゃない」


 すると突然、ネットカフェの入り口が勢いよく蹴破られ、傭兵達の視線は自然とそちらを向く。そこには重装備の機動隊員がライフルの引き金に指をかけて、今にも銃弾を放たんとしていた。 


 「じゃ、そゆことで」


 偶発的に、いや渡瀬が想定していた通りに発生した銃撃戦の中で、渡瀬は颯爽とリーナの体を抱えていた。


 「あーれー」


 そのまま銃撃戦の混乱の中、外に停めていた車にリーナを乗せて渡瀬は現場を去っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ