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ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第一章『機械仕掛けの子鬼』

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1-10『不死身の死』



 能力者狩りに付き纏う少女、リーナ・ヴァリアント。

 副メイドの調べで、二〇〇九年八月八日生まれの十五歳、イギリス人の父親と日本人の母親とのハーフで、イギリス出身日本育ち。二〇一九年頃から両親や妹とともに行方不明となっており、捜索願が出されていることまでは判明している。だが彼女は自分の名前を偽っている可能性が高く、おそらく彼女自身は姉妹の妹の方だと思われる。なお、ヴァリアント一家が行方をくらました理由は、父親が裏社会との取引に失敗したことによる夜逃げだと考えられている。

 それが副メイドが数日で調べ上げたリーナ・ヴァリアントという少女についての情報だ。織衣からの聞き伝えで、リーナが不死身の能力者だということは詠一郎も知っている。それ以上に、革新協会を個人的に憎んでいると思われる能力者狩りと、革新協会に属しているリーナの二人の関係性に興味を抱いていた。


 「お前が、能力者狩りと知り合ったのはいつ頃なんだ?」


 どうしたものかと考える素振りを見せながら、詠一郎は無数の血溜まりを挟んで岸壁の縁に佇むリーナに問う。リーナの輝く金色の髪が港の灯りに照らされている。


 「そうですねぇあれは三ヶ月前……そう、あれは第二の始まりの日……」


 目を閉じてリーナは彼との思い出を語り始めようとする。今から三ヶ月前というのは、俗に四月デストラクションと呼ばれる戦後最悪の日のことだろう。この奇妙な関係がその時からずっと続いているとすれば、能力者狩りの行動理念というのも大分揺らいでいるように見えなくもない。


 「あぁ、長くなるなら聞く気はねぇよ」


 そもそも詠一郎は長々と話を聞くつもりはなかった。知りたいことがあるなら副メイドに調べさせて、真偽は華に確かめさせればいい。詠一郎は地面に片手をついて一気にスタートし──瞬時にリーナの目の前まで移動した。


 「それと、戦う時は前を見るんだな」


 右目に灯された赤い光とともに、リーナの顔面を蹴ろうとする詠一郎の右足にも赤い光が纏われた。リーナはその蹴りを避けるだけの余裕があったはずなのに、彼女はただ顔面から蹴りを受けてしまっていた。その衝撃は凄まじく、蹴飛ばされたリーナは停泊していた貨物船の障壁をも貫通し、そのまま衝突した衝撃で海の向こうに見えるクレーンが倒壊してしまったように、常人なら体の原型を留められないはずだ。

 だが、命を奪った感覚がない。


 「そんな小学生じゃないんですから~前を見ずに街を歩いてる方だって大勢いらっしゃるじゃないですか~」


 大穴が空いた貨物船の上に現れたリーナは、笑顔で大鎌をクルクルと回していた。


 「……見た目はガキンチョじゃねぇか」


 常人が喰らえば勿論即死、仮に相手が身体を強化している能力者だとしても、あれだけ正面からもろに受けてしまっては並大抵の奴は動けなくなるはずだった。やはり噂通り『再生』の能力持ちで、もしかしたら遠くからこちらへ一瞬で移動できる能力も持っているかもしれない。


 「え~貴方も私の体が貧相だとおっしゃるんですか~?」


 彼女が平気でいられるのは、能力者狩りの証言から考えるに『再生』の能力によるものだが、そもそも攻撃自体無かったことにしてしまう『無効化』の類の可能性もある。あるいは限定的な時間操作の類か。


 「お前を見ているだけで、能力者狩りの趣味が知れる」


 リーナがこの場所へどこからか飛来してきたこと、そして蹴飛ばされた対岸から瞬時に手前の貨物船まで戻ってきたのを見るに、おそらくリーナはもう一つ、瞬間移動の類の能力を持っている。おそらくそれはテレポート程便利な能力ではない。


 「え~穂高君は多分ロリコンとか小児性愛者じゃないですよ~」


 おそらくもう一方の能力は、戦う上でそれ程強力ではない、もしくは使い方を限っている可能性がある。やはり恐れるべきは彼女のその不死身という特性だ。


 「多分って言ってやるなよ」


 多くの能力者とは違ってリーナの右目に青い光が灯っていないのは、詠一郎や織衣達のような能力の発動をオンオフで切り替えるタイプではない。おそらくリーナが傷ついたものに触れた時か、自分自身が死んだ時という限られた条件でのみ発動する条件発動型だろう。


 「まー私は穂高君がどんな性癖を持っていても受け入れますけど~」


 僅かな時間の間に交わされた会話の中で詠一郎が出した結論は、『とりあえずぶっ潰してみる』だった。


 「あと、前を見てても無駄だ」


 再び詠一郎はタッと駆け出してリーナに接近する。それを察知して、詠一郎の目の前に迫る大鎌。その巨大な刃物に対し、詠一郎は己の拳一つで対抗する。刃物に生身をぶつけようとする詠一郎に驚くこと無く、リーナは笑いながら詠一郎の拳を斬り裂こうとするが──詠一郎の拳は、大鎌をガラスのように粉々に破砕した。そのまま詠一郎は、無防備になったリーナの腹部に二発目を叩き込んだ。

 何本もの骨が粉砕される痛ましい音が響いた。だが、リーナ(ゾンビ)にそんなものは関係ない。詠一郎は次にリーナの首を狙おうとしていたが、リーナの大鎌が復活していることに気づいて、とっさに自分の顔を腕で守る。


 「何ですか今の技~何か技名とか無いんですかー?」


 リーナが持つ大鎌は確実に詠一郎の首を狙っていた。詠一郎は自分の右腕でその刃を防いでいる。だが、その腕が斬れることはない。


 「昔は言ってたが、今は感覚だよ感覚」


 能力はわざわざ技名を叫ばなくても使用に問題ないが、能力の方向性を定める重要な要素でもある。


 「え~やっぱりそういうセンスも一種のモチベーションだと思うんですけどねぇ~」

 「三十手前のいい大人が、『狐月流“風林火山”』とか言ってるのも見るに堪えないだろ」

 「うっわきっついですねぇ」

 「だから嫌なんだ」


 からかうように言いつつリーナは大鎌で詠一郎を力いっぱい薙ぎ払おうとする。が、その直後に詠一郎は大鎌の刃を鷲掴みし、力づくでリーナから奪ってみせた。


 「ありゃー私の鎌がー」


 だが、自分の武器を奪われてもリーナはそれほど困った素振りを見せない。詠一郎はリーナに大鎌で斬りかかると、その切れ味は抜群で彼女の頭と胴体が綺麗に分かれた。だがどうせまた再生するだろうと考えた詠一郎は、懐から拳銃を取り出し、その銃口をなおも笑い続けながら飛翔するリーナの顔面に向けた。

 放たれた弾丸がリーナの顔に着弾すると、ただの自動拳銃の銃弾とは思えないほどの威力で、彼女の頭部は跡形もなく消し飛んだ。もうその場には肉塊と呼べる固形物すら消え、血溜まりしか残っていない。

 残されたリーナの胴体の方は、詠一郎によって地面に叩きつけられ強烈なパンチを喰らい、港の地面に大きな亀裂が入った。が、その瞬間詠一郎が持っていた大鎌が背後へ強く引っ張られ、詠一郎は大鎌を手放した。

 詠一郎の背後に、再び彼女が現れる。


 「いやはや~力押しって感じですねえ」


 リーナは詠一郎の背後から回し蹴りを仕掛けようとするも、その動きを見切った詠一郎はリーナの蹴り上げた右足を掴んでいた。そのままの姿勢でリーナは話し出す。


 「貴方の能力って~引力とか重力を操る感じですかー? 何だか地球からの愛が普段より重く感じるんですよねぇ」

 「そうだな、間違っちゃいないが正解でもない。

  ところでこの体勢のままだとお前のパンツが丸見えなんだが良いのか?」

 「え~別に見られても困るような容姿ではないので~あ、もしかして発情でもされちゃったり~?」


 詠一郎は無性に腹が立った。だが小娘の言葉にわざわざ憤ってもいられない。


 「ガキンチョに興味はねぇんだよ」

 「もー皆私が子どもだとロリ体型だのバカにしますねぇー」

 「お前がロリだろうが何だろうが俺には関係ねぇ!」


 やはり可愛くねぇ奴だと思った詠一郎は、掴んでいたリーナの足を両手で持ち直し、ブンブンと彼女の体を振り回してハンマー投げのようにリーナを近くの倉庫に向かって投げ飛ばした。

 それでも怯むことなく元気な様子でリーナは倉庫だった瓦礫の中から出てきたが、彼女は宙に浮かぶ巨大な物体に見惚れていた。


 「覚悟しな!」


 排水量一万トンを超える巨大な貨物船が、瓦礫の中に佇むリーナの頭上から襲いかかった。体中に響く壮大な地響き、丈夫な建造物が無惨に押し潰される轟音、そして少女の凄まじい悲鳴が横浜港に響き渡っていた。



 リーナが言うように、詠一郎が引力や重力を操っているというのはあながち間違いではない。詠一郎がそれをメインに使っているためそう錯覚するだけだ。能力は相手にバレてしまうと出力が下がってしまう、戦いにおいては相手に能力が曝露されるのを防がなければならない。

 陸上に貨物船が鎮座しているという奇妙な光景が詠一郎の目の前にある。下敷きにされたリーナの姿は見えなくなった。


 『詠一郎さん』


 耳につけていた通信機から、機嫌が悪そうなオペレーターの声が聞こえた。


 『あまり暴れないようにしてくださいねって言われてましたよね?』


 どういうつもりなんじゃコラ、とオペレーターは言いたげな様子だった。ツクヨミは極力事を荒らげてはいけない。勿論戦いも効率よく、現場を荒らさないよう力加減をしなければならない。こうして港の設備を次々に破壊していては、ツクヨミが補償金として回す裏金の額も跳ね上がるし、行政側や治安部隊にペコペコとを頭を下げなければならなくなる。


 「すまん、俺の給料から引いといてくれ」

 『それは私の仕事ではありません。従順なメイドさんに言ってください』

 「ごめんて」


 ツクヨミの給与を管理している副メイドは容赦なく詠一郎の給与から罰金を差し引いていくだろう。だがリーナを倒そうと思えば、ウォーミングアップがてらこれだけ暴れる必要もあったのだ。


 手応えは確かにあったが、やはりリーナの能力は優れている。彼女の能力には、一度に回復できるダメージの度合いに限界が存在する可能性もあったが、そんなものは関係ないらしい。一度完全に死んでしまった状態、それも体が原型を留めてもいない状態から復活できるというのは、この世界の禁忌に触れてしまうような、何とも不思議な能力だ。

 目の前に堂々と鎮座する貨物船をまた動かしてリーナを探すのも面倒だと考えた詠一郎は、一息つこうと缶コーヒーでも買いに行こうかと考えた。そんな彼の耳に入ってきたのは、あの少年の声だった。


 「勝ったおつもりですか?」


 放置されているトレーラーの上に、能力者狩りこと鷹取穂高が立っていた。少し腹の立つ口ぶりに難はあるが、詠一郎に忠告してくれているのだろう。


 「あれぐらいで死ぬと思うか?」

 「思ってないなら、倒せばいいじゃないですか」


 なんでこんなガキに煽られなきゃならんのかと詠一郎は少し腹が立った。


 「ぶっちゃけ本当に仕留められるかは五分五分ってところだな。あんなの久々に見た」

 「倒せるなら早くしてくださいよ。いい加減自衛隊とかも来ちゃいますよ」

 「いや、準備運動がてらちょっと戦いたくなった。あんなの中々出会えないかもしれないからな」

 「好奇心で港を破壊するのはどうかと思います」


 なんでこんなガキに正論を言われなきゃならんのかと詠一郎は腸が煮えくり返りそうになった。


 「持続的なダメージを与えても、リーナの自己再生能力に限界はありませんよ。火口に一日放り込んでも這い出てきますから」


 経験者は語る。


 「へぇ、そんな化物の相手しろってのか?」

 「追い返したいなら満足させるだけで良いんですよ。リーナにとって戦いは食事みたいなものなので。

  ほら、もう起きたみたいですし」


 穂高が視線で示した方向、その先にある貨物船の外殻を内側から叩く音が聞こえた。


 「貴方でも殺せないですか、あれは」

 「言っておくが、俺は端からあいつと正攻法で戦うつもりはないぜ?」


 詠一郎はフッと笑って、貨物船の内側から元気よく出てきたリーナの方に視線を戻した。


 「話は変わりますけど、あの銀髪の子、なんて名前なんですか? 呼びかけづらいし、話しかけても素っ気ないんですけど」

 「ああ、アイツは姫野織衣、織姫って呼ばれることが多い。見た目はクールぶっててツンケンしてるかもしれないが、割とちょろいぞあいつは」

 「そうですか。あとなんであの子はこんな時期にマフラー巻いてるんですか?」

 「知るか。本人に聞けよ」

 「じゃあ気が向いたら聞いてみます」


 穂高は一瞬でその場から光に包まれて消えてしまう。あいつの能力も中々だなと思いながら視線を戻すと、詠一郎の視線の先にはクルクルと大鎌を回すリーナの姿があった。


 「ほんと不死身なんだな」

 「いやー鉄屑に埋もれるのも久しぶりなんですけど~なんというか地味なんですよねー」

 「これを地味とは贅沢なもんだな」

 「もっと何かアクション性のある戦い方がしたいですし~斬新な手段で殺されたいですし~。

  あ、そういえば貴方の目ってどうして赤く光るんですかー?」


 詠一郎の右目に灯された赤い光。通常、青い光が灯されるのが能力者という証だ。それが、人ならざるものだということを示す。

 ならば、それが赤い理由はなんだろう?


 「お前の能力を内包する上位互換の能力と、お前の能力からさらに細かく分かれる下位互換の能力があるように、能力は突き詰めていくと系統樹のようにいくつかの頂点となる存在がある」


 リーナは詠一郎の説明がよくわかっていないような面持ちだったが、構わず話を続ける。


 「いくつかあるその頂点の一つが、俺だっていうことだよ」


 そう語る詠一郎の頭上には、大量の石油が入ったタンクが浮いていた。


 製油所から無理矢理かっぱらったタンクでリーナを押し潰す。中から油が溢れ出てきたのを確認した詠一郎は、ポケットに入れていたライターを着火し、リーナの方へぶん投げた。

 爆発音に似た轟音と共に、耳をつんざくような少女のうめき声が聞こえたような気がした。横浜港の一角は盛大に炎上し、空が赤く染まるほどだった。少々派手にし過ぎたかと詠一郎は思ったが、そんな反省は杞憂に終わる。


 「油を浴びた気分はどうだ?」


 燃え上がるタンクの中から、リーナは無傷で出てきてみせた。あまりにも強力な能力、いや能力者だ。この世から消えたはずの命さえ再生出来るとなると、そのためにかなりのエネルギーを必要とするはずなのに、彼女は何度でも蘇る。その能力だけではなく、その内に秘めるエネルギーもあまりにも危険だ。


 「いやーあの独特のベトベト感も悪くないかなって思いますねぇ」

 「そうか。じゃあ何も感じないところまで行ってしまえ!」


 詠一郎はリーナに一気に近づくと、今度は空の彼方にまで彼女を蹴り上げていた。あっという間にリーナの姿は見えなくなり、地上には大鎌だけが残されていた。


 「宇宙……いや、アイツって宇宙に行ったらどうなるんだ?」


 リーナの生態に悩む詠一郎が彼女の生存を確認できたのは、十数秒後に自分の目の前に舞い降りてきたのを見た時だった。自由落下してきたわけではなく舞い降りた、という表現が正しい。


 「お前どうやって帰ってきやがった」

 「いやータダで宇宙旅行ってのもいいかなと思ったんですけど~やっぱり生身で行くと生死を繰り返しながら数年間は周回軌道上を回らないと帰ってこれないかもしれないので~大気圏に突入する前に戻ってきました~」

 「俺は宇宙の果てまでぶっ飛ばしたつもりだったんだがな」

 「いや~私と穂高君を引き寄せる力はどんな力にも負けませんよ~」


 リーナが持つもう一方の能力か。その引き寄せに似た能力を、リーナが穂高を中心に使用しているのも奇妙な話だ。使いようによっては便利そうなのに、どうしてわざわざそんなことに使ってしまうのか。


 「戦車に轢かれたことは?」

 「はい、穂高君に」

 「海に沈められたことは?」

 「それも穂高君に」

 「船のスクリューに巻き込まれたことは?」

 「ちょっと前に穂高君に」


 そんな拷問まがいのことを受けながら今も生きているリーナもリーナだが、それを試している穂高の方も大概である。見方によってはただじゃれあって戯れているだけなのかもしれないが、あまりにも桁外れではた迷惑な遊びだ。


 「でもでも~やっぱり穂高君じゃないと楽しくないといいますか~貴方の戦い方って使命感だとか命を懸けているだとか~そんな気持ちを全く感じられないんですよねぇ」

 「俺にどうしろと」

 「何か大切なものを賭けませんかー?」

 「何だよ、俺には車ぐらいしか残ってないぜ」

 「面白くないですねぇこれだから貴方はつまらない男なんですよぉ~」


 リーナは轟々と燃え盛る港をバックに、詠一郎に大鎌で斬りかかろうとする。


 「というわけで、もっと殺し合いましょうよ~」


 詠一郎は両手をポケットに入れたままその場に佇んでいた。リーナも油断することなく彼に斬りかかるが──その動きが止まる。



 「“紋章共鳴”」


 リーナは、驚いたような表情を初めて詠一郎に見せた。それもそのはず、彼女は今、自分の意思で自分の体を動かすことが出来ない。困惑しているリーナの姿を見て、詠一郎は嘲るように笑った。


 「言っただろ、数ある能力の頂点の一つが俺だって」


 赤い光が灯された詠一郎の右目を中心に、花の紋章が広がっていく。詠一郎の体に咲き乱れていくように。


 「あっ……がぁっ……!?」


 リーナはまともに喋ることすら出来ていない。ただただ戸惑ったような表情のまま、詠一郎の前で立ち尽くすだけだ。


 「俺の能力は、『力』。ざっくり言えば、力なら全部操ることが出来る」


 それは操作系(オペレート)の中でも非常に強力とされる能力だった。詠一郎がリーナの胸に右手をかざすと、人差し指にはめられていた指輪が光を放ち始めた。


 「能力者は『奇跡の力』を手に入れた人間のことを言う。しかしどんな奇跡をものにしようと、それを使うのは人間だ。

  お前にはわかるか?

  それが能力者の欠点であり、最大の弱点だってことが」


 人間が行動するためには思考が必要だ。それは能力を操る上でも同じことである。多くの能力者が、奇跡を願って奇跡の力を手に入れたように。

 詠一郎は、リーナの体ではなくその内側、彼女の精神力の破壊を狙った。


 「さあ、俺に力を貸せ。『狐』の守護者よ」


 詠一郎がそう唱えると、彼の額には二本の黒い角が生えていた。

 死ぬ、とリーナは悟ったのだろう。自分の本当の死を、人間としての死を。それでもなお、リーナは歪な笑みを浮かべながら詠一郎を見ていた。


 「あばよお嬢ちゃん。俺は薄幸そうでミステリアスな女が好みなんだよ」


 リーナの体に、詠一郎と同様の花の紋章が広がっていく。それがリーナの体全体に咲き乱れると──リーナの体は、真っ黒に染まっていた。



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