1-9『コイツくそうぜぇー!』
横浜港の夜空に現れたオーロラのような鮮やかな光は、敵の目を惑わせるには十分だった。オーロラに包まれた白コートの男は、頭部を鉄パイプで強烈に殴られて床に倒れてしまう。その間に地面からニュルニュルと生えてきた気色の悪い触手でさえ、彼はすぐさま光剣を手に生み出して叩き斬る。
「“光り輝く武装戦線!」
突然、彼の目の前に光を放つ数体の人間が現れた。これは彼の能力ではなく、偶然似たような能力を持っている能力者が敵の中にいたというだけだ。
だが、何人もの能力者を相手に戦ってきた彼にとっては、それも珍しいことではないだろう。同じ能力を持っているのなら、ただ単に相手を上回れば良いだけの話だ。
彼曰く、所詮連中の殆どは『フラワー』に過ぎないという。彼がフラワーを呼ぶ敵の個体がどれ程の強さなのか、彼の戦いぶりを間近で見てもアテにはならない。
「“紫電”」
彼が光剣を壁に突き刺すと、敵の背後の壁から放たれたレーザー光がその胸部を貫いた。同時にその体の内側から無数の光が放たれ、内部から崩壊するようにその体は朽ち果てていった。
三人、四人、五人と次々に敵が倒れていく。合計で八人もいたはずの革新協会の能力者は、頭数では勝っていたはずなのにたちまち倒されていく。
相手がどんな類の能力を持っているかは事前調査がないとわからない。しかし調査して調べようにも実際に相手が能力を使っているところを見なければ何の能力か見定めることはほぼ不可能だ。敵が未知数の力を持っていると想定できる状況では、彼の戦果は出来すぎたものだった。詠一郎達ならまだしも、複数人を相手にして真正面から突っ込むなんていうのは大胆というか恐れ知らずというか、織衣には信じられない戦いの立ち回りだった。
結果、港の一角に積まれたコンテナが赤く染められて戦闘は終結した。コンテナに磔にされた敵を見て、こんな死に方はしたくないと織衣は心底思っていた。彼の戦いを見学させられることになった織衣に気を遣ってくれたのか、依然として刺激が強い光景だが幾分マシに思えていた。
彼は停泊していた船の側に停められた白いワンボックスカーのリアハッチを開けて、中をゴソゴソと物色していた。懐中電灯代わりに自分の能力で指先に光を灯して見ているらしい。織衣も一応能力を発動して太刀まで携えて戦闘の準備は整っていたが、自分の出番は無くなったと思い、被っていた仮面を外して能力を解除していた。革新協会が使っていた車の側に向かったが、彼は織衣が近づいても何の反応も示さなかった。
「何が書いてあるの?」
織衣は能力者狩り、もとい鷹取穂高という少年の様子を伺いながら聞いた。織衣はいつも通り制服の上からツクヨミの黒いコートを羽織り、首には白いマフラーを巻いていた。穂高はツクヨミの装備箱をまだ持っていないが、黒いコートだけ着させられていた。
「取引の内容だよ。『ソイル』一つあたり『道具』一箱」
織衣も資料を何枚か手に取ったが、色々な数字が暗号のように書かれていて、何を示しているのかはピンとこなかった。
「道具って、武器か何か?」
「そうだよ。多分アサルトライフルが十丁ぐらいなのかな」
正規品のライフルなら一丁あたり高いもので二十~三十万ぐらいだろう。革新協会はおそらく正規のルートから武器を入手出来ないため、もしかしたらもっと値が張っているのかもしれない。
「ソイルっていうのは?」
「人」
「人?」
織衣の問いに対し穂高は淡白に答えたが、答えとしてはあまりにも恐ろしいものだった。聞かなければよかったと織衣は後悔したが、知識が中途半端なままでは彼に置いていかれるかもしれないと、覚悟を決める。
「どうして人が土?」
「花の土台だからだよ」
武器や麻薬の密輸や売買に関しては織衣も詠一郎達から経験談として濃密な話を聞いたこともあったが、実際にその現場に立ち会うのは初めてのことだった。しかも彼らは、人と武器を交換している。
「それって、どういう意味なの?」
「人間に能力を植えて能力者が咲く。それで生まれたのがフラワーっていう改造人間みたいな能力者。フラワーを生み出すのが工場っていう場所で、革新協会の下っ端の殆どがフラワーっていう改造人間だよ」
それを聞いて言葉を失い唖然とする織衣を放って、穂高は再び目線を書類に戻していた。
革新協会は独自の暗号を用いて取引や情報伝達をしている。その中に存在するフラワーのこともツクヨミは把握していたが、それが何を指しているのかは副メイドですら知らなかったことだ。
フラワーという暗号を聞いて、華が珍しく不機嫌そうにしていたのを織衣は思い出す。そしてフラワーが能力を植え付けられた改造人間という事実が能力者狩りによってもたらされると、華はますます不機嫌になって紅茶をいつもより多く飲んでいた。
──能力者は、意図的に作り出すことが出来ない。
それが能力者達の世界では周知の事実、いや鉄則だった。それが簡単に出来てしまうのなら今のツクヨミが深刻な人員不足に悩まされることもなかっただろう。仮に革新協会がフラワーという改造人間を簡単に生み出せてしまうのなら、彼らはまだまだ巨大な組織に成長できる余地を残しているということである。
さらに深刻なのは、フラワーという改造人間の原料である人間を革新協会に売り捌いているのが、最近になって日本でも幅を利かせるようになったイタリア系マフィア、十字会であるということだろう。
「他に、何かあるの?」
恐る恐る織衣は穂高に問う。そんな怖がるほど穂高は一見怖く見えないが、やはり彼女の中に染み付いた能力者狩りのイメージはそう簡単に消えない。
穂高は持っていた書類をポイッと車の荷室に捨て、能力を解除してから口を開いた。
「殆どは今月のノルマとか敵対組織に関する情報とか、武器とか機械のマニュアルとか、ありきたりなものばっかりだよ。
本当はプラントの情報が欲しいんだけど、中々無いんだよね」
革新協会の研究所であり、改造人間であるフラワーを製造する拠点でもあるプラント。能力者狩りが今まで収集してきた膨大な量の情報を元に、副メイドが十字会の流通経路も探って調査する羽目になっていた。しかしやはり重要な拠点ということもあって簡単に見つけられるものではないようだ。
穂高が車のリアハッチを閉めたタイミングで、視界の端が眩しく光る。見ると、一台の真紅のスーパーカーがけたたましいエンジン音を響かせながら走ってきていて、二人の側で停車した。中から降りてきたのは、黒スーツ姿の詠一郎だった。
「赤が好きなんですか?」
二人にスポーツドリンクが入ったペットボトルを投げ渡す詠一郎に穂高が聞く。
「かっこいいだろ?」
何とも子供らしい理由だ。
「目立ちませんか?」
「目立っても良いんだよ、普段はな。やっぱスーパーカーといえば赤だろ」
「私は嫌」
詠一郎は他にもスーパーカーだとかスポーツカーを所有しているが、織衣が見た車は全部赤かった。高級車ならもっとエレガントでクラシックな雰囲気の方が織衣の好みだ。しかし……乗ってみたいという気持ちも無くはなかった。詠一郎と乗りたくないだけである。
「じゃあ、赤い部屋は好きですか?」
「その年でよくそんなネタ知ってるなぁ……俺は好きだぜああいうの。学生の頃は友人をひっかけて遊んでたな。
お前は好きなのか? こんな真っ赤になってるが」
港の照明に照らされるコンテナターミナルを見ながら詠一郎は言う。
「僕は好きじゃないですね、こういうの」
「へぇ、よく言うぜ」
それが彼の本心だったのだろうか。その答えは嘘には聞こえなかったが、真だと考察するには判断材料が少なかった。
正直な所、織衣はなぜ自分がこんな場違いというか、わざわざこんな血生臭い場所に連れてこられたのか、まだ理解出来ていない。学校帰りに詠一郎から連絡があり、電車で一人横浜まで向かうことになり、なぜか能力者狩りこと鷹取穂高に同行することになっていた。
あくまでこれは、『能力者狩り』ではなくツクヨミの任務という体になっている。この横浜港の一角にある革新協会の拠点を調査し、十字会との関係を探ること。織衣も一応は戦闘に参加するため自分なりに作戦を練っていたのに、穂高によるパワープレイで大体解決出来てしまうのだから恐ろしい。実際に能力者狩りの戦い方を参考にしようと間近で観察しようにも、穂高の派手すぎる技の流れ弾に当たって死にそうになるため、おとなしく距離を置いて見守ることしか出来なかった。
あの能力者狩りが、この場所にいる。ごく自然なことであるかのように、味方として鷹取穂高が側にいる。その状況が織衣にはなぜか不思議に思えていた。
彼と出会ってから、かれこれ一週間が経とうとしていた。自分や緋彗を助けてくれたことには感謝してもしきれないが、その礼を改めて言うことは出来なかった。いざ礼を言おうにも、穂高の目を直視すると恐怖心が勝ってしまうのだった。
この港に転がっている革新協会の連中の姿を見れば、感謝の気持ちすら吹き飛んでしまう。いくら味方とはいえ、殺し方に美しいとか醜いとか拘っているのは、織衣には理解できないものだった。織衣はこの組織に入ってから何度も人の死体を見てきたが、今日はまだ抑えている方とはいえ見るも無惨な光景だ。詠一郎達が殺しに躊躇いが無いのは、そういう経験を長く積んできたからだと納得出来なくはないが、同い年らしい穂高があんな躊躇せずに戦っている姿を見て、こんなにも生きている世界が違うのかと織衣は終始驚きっぱなしだった。
「お前はもう帰らないのか? もう二時ぐらいだぜ」
織衣が携帯を取り出して時刻を確認すると、もうとっくに日付を過ぎてしまっていた。明日は一応休みだが、織衣ももう寝たい気分だった。
だが穂高は、まだ警戒を緩めていなかった。
「いえ……まだ、敵はいます。いや、来ます」
北の空を見ながら穂高は言った。織衣も同じ方向の空を見上げたが、澱んだ曇り空が広がっているだけだった。
「成程な」
「構えてください」
「言われなくてもわかっとる」
穂高が黒い腕輪を右手に装着して額にかざし、詠一郎は黒い指輪をはめた右手を空に掲げた時、織衣もようやくそれに気づいた。彼女が来る、と。
織衣も再び黒い手袋を取り出して右手に装着し、額にかざした。腕輪、指輪、手袋に埋め込まれた宝石が輝き、穂高と織衣の右目には青い光が、詠一郎の右目には赤い光が灯されていた。織衣は詠一郎同様に顔に黒い仮面を被り、北の空から勢いよく舞い降りた彼女の姿を視認した。
案の定能力者狩りを狙っていた彼女を、穂高はスッと躱していた。かなりの勢いで空から迫ってきていたはずなのに、彼女はフワリと港に降り立つ。
その降臨の時、港は一瞬の静寂に包まれた。彼らは港や工場群の照明に照らされながら対峙する。そんな中、先に口を開いたのは彼女の方だった。
「いやーお久しぶりですねぇ穂高君~今日もお元気そうで何よりです~」
相変わらず白いセーラー服の上に白いコートを羽織り、白い手袋をはめ大鎌を持つ金髪碧眼の少女、リーナ・ヴァリアントは意気揚々に話し出す。牡丹に蹴り飛ばされていたはずなのにピンピンとしているのは、彼女の不死身の能力によるものだろう。
穂高の両隣にいるはずの織衣と詠一郎の存在は気にしていないようで、リーナは穂高と話を続ける。
「何か用? 部下を殺されたことで珍しくお怒り?」
「そうですねぇそうですねぇ~一仕事終わらせてぐっすりと夢の世界を満喫していた時に呼び出される身にもなってほしいですよねぇ~私は警察さんとか消防さんみたいに血税でお給料を貰っているような人間ではないですので~ボランティアで助っ人をやっているわけではないので~」
大鎌をブンブンと振り回しながら、リーナはニコニコと微笑んでいた。機嫌が悪い、と言いたいらしいが織衣の目にはリーナが不機嫌なように見えなかった。
「でもでも~こう見えて私って結構仲間思いだったりして~つまりは可愛い可愛い部下を殺されたことが結構ショックといいますか~やっぱり死んだ人達の仇は取らないといけないのかなーと思うわけなんですよね~まー全部ウソですけど~」
「で、要するに遊んでほしいと」
今の話からどこをどう要約すればその結論に至るのか織衣にはわからない。織衣と詠一郎は互いに目を合わせ、こいつらやばい、と無言で頷いた。織衣はますます穂高とリーナの関係性に疑問を抱くばかりだ。
「理解が早くて助かりますよ~あ、銀髪の方もお久しぶりですねぇ隣にいる殿方はどちら様ですかー?」
リーナは織衣への挨拶をスッと済ませると詠一郎に大鎌を向けた。もっと言うことがあるだろうと織衣は思うが、敗者に興味はないらしい。
「あー、もうすぐ上司としてこいつをいたぶることになる男だ」
「そんな感じなんですか!?」
ツクヨミには織衣の先輩は数多くいるが、上司という立場の人間は絞られる。詠一郎の一言に穂高は驚いていたが、いたぶるというのはあくまで詠一郎なりの冗談だろう、多分。
「え~穂高君をいたぶっていいのは私だけですよ~見たことのない能力をお持ちのようですし~私は満足したら大人しく帰りますので~ちょっと私と手合わせ願えませんかー?」
「能力者狩りとじゃなくて、俺とか?」
「それなりにハンサムな方ですし~やっぱり数々の修羅場を掻い潜ってきたような大人の風格を持ち合わせているように見えますし~何よりかなりのSっ気を感じますね~」
「詠さん……そういうお店に通ってるって噂は本当だったんだね」
「ちょっと待て、俺にあらぬ疑いをかけるのはやめろ、風評被害だ。
あとその噂を流した奴は誰だ」
全ての物事を見透かしている葛根華という女だ。織衣に軽蔑の目で見られる詠一郎はブンブンと手を振って慌てているようだった。それを見て大笑いするリーナに対し、穂高は興味がなさそうにしていた。
「冗談じゃないですか~真に受けるだなんて気持ち悪いですよ~」
「こいつくそうぜぇー!」
完全にリーナのペースだ。彼女に対してまともに会話を試みると頭がおかしくなってしまいそうだ。
「そういうわけで穂高君には少し休んでいただきまして~貴方は私が満足するまで戦ってもらうってことでよろしいですかー?」
「良いよ」
そう答えたのは詠一郎ではなく穂高であった。
「お前が決めるんじゃねぇよ!」
「嫌なんですか?」
「ま、むしろ好都合だけどな!」
リーナを無力化させる任務のため詠一郎はここにいる。穂高に同行して好き勝手暴れさせておけば、勝手に向こうからやって来てくれるだろうと詠一郎は言っていたが、まさにその通りだった。
「リーナを殺す気ですか?」
「そうだが、もしかしたら好きだったりするのか?」
「いえ。良い結果を期待しています」
「偉そうな奴め。まあ良い、俺があいつをけちょんけちょんにしてやるよ。
織衣、お前は港の出入り口を見張っててくれ」
遅かれ早かれ警察がやって来るに違いない。詠一郎とリーナの戦闘を見学したいという気持ちもあったが、今は詠一郎の指示に従った方が良いだろうと織衣は現場を離れた。
山積みにされたコンテナの上に腰掛けて、織衣はターミナルの出入り口を監視する。だが暇だ、つまらない。かといって現場に足を運んで戦いに巻き込まれて怪我をするのも嫌である。周囲の景色をキョロキョロと見回すと横浜のみなとみらいや羽田空港まで見えるが、全然ロマンチックでもない。ひよっ子の自分は大人しくしているしかない、織衣はそう諦めるしかなかった。
「暇そうだね」
「ひああああっ!?」
一人でいたはずなのに突然声をかけられて、織衣は柄にもなく悲鳴を上げて驚いてしまう。
「そんな驚かなくても良いじゃん……」
気配もなしに、穂高が織衣の隣に腰掛けていた。織衣は蜘蛛糸を伝ってここまで登ったが、彼は一体どうやってここまで登ってきたのだろう? 光の能力にそんな上手い使い方があるのだろうか、それとは関係なしにびっくりさせないでほしいと織衣は思う。
穂高はツクヨミのコートについているフードを深く被っていた。顔は見えづらくても、右目に灯す青い光ははっきりと見える。
声だけは、口調だけは優しく聞こえるのだ。普段の行動はそんな風に見えないのに、やっていることはとても人間とは思えない。
「……いつも、あんな感じなの?」
「何が?」
「リーナとの戦い」
「ああ、リーナにとっては暇潰しとか気分転換みたいなものだよ」
何とも迷惑な話だ。暇潰しや気分転換に殺し合いなんてしたくないし巻き込まれたくもない。
「前に、私達を助けてくれた時も?」
すると穂高は「いや」と首を横に振る。
「あの時は、半ば本気で君達を殺しにかかってたと思うよ。よく生きて帰ってこれたね、しかも五体満足で」
それを聞いて織衣は背中にゾッと寒気を感じた。それが予めわかっていたのなら、やはりもっと早く助けるタイミングがあったのではと織衣は思うのである。現場を傍観していた穂高に対しても、牡丹に対しても。
「ねえ、貴方は詠さんが……あの黒スーツの人が、リーナを倒せると思う?」
自分達より圧倒的にリーナとの付き合いが長いと思われる穂高の意見を聞いてみようとする。だが、再び穂高は首を横に振った。
「もし君が、絶対に死なない能力を持っていたと仮定して。どうすれば自分は死ぬことが出来ると思う?」
穂高が出した問題に、織衣は自分にある限りの能力の知識で考える。仮にそんな能力を持っていたら、常人には体験できない喜びも苦しみもあるかもしれないが、絶対に死なないのなら死ぬわけがないし、もし死んでしまったら矛盾することになる。
「……わからない。何度死んでも生き返ることが出来るなら、不死ってことでしょ? 私には無理」
古より多くの偉人達も望んだ奇跡がそこにある。それが敵となると何とも恐ろしいものだ。穂高はうんうんと頷いてから口を開いた。
「じゃあ、能力って絶対に発動すると思う?」
する、と織衣は言いかけたが、その前に彼女は気づいた。能力者というものはその証大抵何かしらのジュエリーと呼ばれる装身具を持ち、大体はそれを使って能力を発動するものだ。原則として本人が自分の意思で発動しようとしなければ能力は使えない。
「つまり、能力は持っていても使えなきゃ意味がないってことだよ」
しかしジュエリーが無くても能力は一応発動出来る。織衣達がわざわざジュエリーを身に着けて額にかざすのは、すぐ戦闘に移るためにギアを上げたいからだ。おそらくリーナは自分が死んだ時に自動的に生き返るように、わざわざ条件を指定して能力の発動を制限している。常に能力を発動している状態では体力を消耗してしまうからだ。
「リーナが能力を使わないって、どういう状況?」
「さあね。それはあの人が考えることだよ」
穂高は、リーナを無力化することを条件にツクヨミに加入すると言っている。その理由はおそらく、今日のようにリーナが穂高のことをストーキングしているため、その存在がツクヨミに迷惑になると彼が気を遣っているからだろう。
ならば、もし詠一郎がリーナの無力化に失敗したら? だれも彼女を無力化出来なかったら?
彼は今のまま孤高の能力者狩りとして生き続けるのだろうか? 革新協会が暴れれば暴れるほど、能力者狩りもまた暴れることになる。そうなれば、さらに能力者による被害は広がっていくばかりだ。それはツクヨミとして好ましい事態ではない。革新協会同様に、能力者狩りもツクヨミの敵となりかねない。
ならばその時、能力者狩りは織衣達の敵となってしまうのか?
織衣達を助けたのに?
そう気づいた時、隣に座って夜空を眺める彼を見て、織衣は今一度彼を恐ろしく思うのであった。




