表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第五章『少年よ銀河を渡れ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

140/176

5-51『エクリプス』



 あのクリーチャーはその造形は最早この世のものとは思えないぐらいだが、あの自己再生能力が厄介だ。リーナの能力に似ているが、ツバキも自分の能力を使えば誰かの命を身代わりに出来る。おそらくあのクリーチャーにはそれと似た能力が備わっていて、もし革新協会の実験によって生み出されたものならば、穂高達が想像もしない力を持っているかもしれない。

 もし渡瀬達と一緒にいれば、いやその場合は穂高が何もしなくても渡瀬がどうにかしてくれるかもしれないが、穂高が一人で相手をするなら紋章共鳴を使うという手もあった。だがもしも自分の能力が制御できなくなった場合、今一緒に行動している希にも被害が出かねなかった。容量の残量が残り少ない時に得体の知れない化物と戦うのは危険だと穂高は判断し、希を抱えて出口を探していた。


 クリーチャーは希の言う通り、図体がでかいせいか足が遅いようですぐに撒けたが、他に生存者、フラワーすら見当たらない状況なら穂高達を探しているかもしれない。ばったり廊下の角で出くわさないか穂高が警戒しながら走っていると、大型トラックが通り抜けられそうな大きな金属製の黒い扉の前に辿り着いた。


 「あ、これが出口なんちゃう!?」


 穂高が希を下ろすと彼女はすぐに出口を開こうとしたが、ドアノブがついているような単純な扉ではなく、鍵が入りそうな鍵穴も見当たらない。扉の周囲を探すとカードリーダーのような機械が壁につけられていた。


 「あ、これカードキーがいるみたいやで! なぁタカちゃん、何かカード持ってない?」

 「ゼェ……ゼェ……コヒュー……ハァ……ゴッホォ……」

 「ごっつ疲れとるやんけ!?」


 穂高は地面に膝をついて息を整えようとしていたが、穂高は体力的に限界を迎えていた。先程クリーチャーに攻撃された時点でそれなりのダメージを受けていた上に、希を抱えて全力疾走した穂高の体は想像以上に疲労していた。


 「一時、休めば……大丈夫です。それで何でしたっけ? 何がいるんですか?」

 「多分カードキーや! 何かそこにタッチするっぽい機械があるねん! ホテルとかにあるやつが!」


 おそらくこの施設にいる革新協会の人間が持っているはずだ。あの暴走していたフラワー達が持っているとは思えない、ならば下の階で殺されていた能力者の誰かが持っている可能性がある。

 しかし下へ戻るのもリスクがあった。またあのクリーチャーと出会う可能性があるからだ。そんな暇はないと思い、穂高は立ち上がった。


 「希さん、ちょっと後ろ下がっててください」


 穂高は光剣で思いっきり扉を叩き斬ろうとした。しかし光の刃を放っても扉はびくともせず、少し焼け焦げたような跡が出来ただけであった。


 「めっちゃ丈夫やんこの扉」


 力技で穂高は扉を破壊しようとしたが、もしかしたら能力で何かしらの対策が施されているのかもしれない。大人しく下へ戻ってカードキーでも探そうかと穂高が溜息を吐いた瞬間、背後の壁からミシミシと崩壊するような音が聞こえてきた。


 「え」


 穂高の体は反射的に動き、その衝撃から希を庇うように前へ立ちはだかった。亀裂が入った目の前の壁が勢いよく破られると、飛び出てきた無数の顔が穂高達のことを見ていた。


 「ユ…………テ……」


 クリーチャーは何かを訴えかけているようだったが、他の顔も同時に何かを喋っていて上手く聞き取れなかった。穂高は光と闇のネコを見て能力の残量を確認したが、ネコは二匹共消えかかっていた。全力で技を放つことが出来るのはあと一回、この化物相手に何か効きそうな手はないかと穂高は考える。

 

 ──『銀河』。渡瀬が推察するに穂高の能力は『銀河』まで拡大して捉えることが出来るらしいが、いきなりそんな大きなスケールを理解しようにもどうやって能力として使えばいいか、穂高はまだ結論を出せていなかった。しかし現時点で穂高の『光』の能力を太陽、『闇』の能力を月と捉えれば、それを組み合わせて何か強力な一撃を生み出せないか。新しく技を生み出すにはまだ時間が必要だったが、穂高は自分が持っていた技を組み合わせることで、自分がイメージする技を出せるのではないかと思いついた。

 穂高はクリーチャーに光剣を向けて、その刃先から光線を放った。それと同時に左手に黒剣を生み出す。


 「“満月”」


 光剣から放たれた光線が化物の顔面に着弾して貫くと、その醜い体の内側から無数の光線が放たれ、まるで爆発を起こすように眩い光を放つ。クリーチャーは耳をつんざくような叫び声を上げながらも、その体から伸びる何十本もの腕で穂高達を捕まえようとしていた。

 希は眩しさで目を覆っていたが、穂高は黒剣を化物に向けて暗黒の光線を放った。その暗黒の光線は、強烈な光を放ちながら爆発する化物を覆うように暗黒に染めた。


 太陽が月の陰に隠れてしまうように、普段は太陽の光を反射している月も地球の影に隠れてしまう天文現象がある。それは月食と呼ばれ、完全に見えなくなるわけではないものの、月の偽物の光が失われてしまう。


 「──“月喰い”」


 “満月”による光の爆発で、その無数の腕や顔が体から引きちぎれ、粉々になった各部は暗黒の光線で生み出された杭によって壁や天井に磔にされた。クリーチャーが体を再生しようにも、もうそれらが繋がることはない。


 「の、能力ってヤバいんやな……」


 その光景を目の当たりにした希はそんな感想を述べていた。あのゾンビ女と何度も戦ってきた穂高もこういうタイプの能力者との戦いがわかってきていた。どれだけ傷をつけても再生できるのなら、ただ単にその動きを封じてしまえばいいだけだ。

 そう考えていた穂高だったが、壁に杭で打ち付けられた化物の体、床に転がっていた腕や頭部が再び動き出そうとしていた。


 「まだ生きているのか……!」


 穂高はこのクリーチャーが一つの生命体であると考えていた。しかしこれはいくつもの化物が、革新協会によって生み出された多くのフラワーが結合しているだけの大きな集合体だったのだ。


 「な、何とかならんのかタカちゃん……ってどうしたんその体!?」


 希が慌てて穂高の腕を掴み、穂高は自分の腕を見た。穂高の体には既に花の紋章が咲き乱れていた。まだ満開ではないが限界が近い。穂高達を見守っていてくれていた二匹のネコも消えかかっていて、元気がないのかぐったりとしてしまっている。これが最後の一発と思って威力を強くし過ぎたか。

 能力の容量を超え、クリーチャーの体の各部を打ち付けていた杭が消えようとしていた。まだ能力を使うことは出来るし、このクリーチャー達を始末することは出来る。だがこれ以上能力を使うと穂高の能力が暴走しかねない。

 その二択なら、穂高の答えは決まっていた。


 「希さん」


 穂高は自分の腕を掴んでいた希の手を振り払って言った。


 「この施設の最下層の廊下を奥まで進んだところに、用具室みたいな部屋があります。そこまで逃げてください。

  そこだけは狙わないようにしますから」


 ここで自分が能力を解除すると、おそらく希は助からない。だが例え穂高が暴走したとしても、このクリーチャーさえ倒してしまえば希がまだ助かる可能性はある。希を殺すのが、自分かクリーチャーか変わるだけだ。


 「どういう意味や、それ」

 「少し無理をし過ぎたんです。もうじき、僕は……なんというか、自分を制御できなくなりますから」

 「ちょっ、タカちゃん死ぬ気なんか!? やめときやそんなの、そんなカッコつける時やないで!?」


 一度穂高が振り払ったが、希は負けじと穂高の腕を、花の紋章が咲き乱れる不気味な腕を掴む。

 

 「大丈夫やって、ツールさんやちーちゃんも言ってたんや。

  奇跡は、願えば起こるって」


 今、ここで起こりうる奇跡。ほぼ力尽きる寸前の穂高が暴走しない可能性。希が新たな能力を発現する可能性、それは一番最悪だ。

 そして残る可能性は──彼が助けに来ることだ。

 穂高達の背後にあった扉から、ピピッと電子音が聞こえた。その音を聞いた穂高と希が後ろを振り向くと──その扉が勢いよく開かれ、穂高に直撃した。


 「あうっ!?」


 まさか扉がこちら側に開くとは思わず、開いた扉の直撃を受けた穂高は床に倒れていた。


 「た、タカちゃーん!?」


 穂高が扉の向こうを見ると、そこには黒スーツ姿の茶髪の青年と、黒ロリファッションの少女がたたずんでいた。


 「──例えば『日、蝕え尽きたる』と日本書紀に記されていたように、(エクリプス)という天文現象は古来から観測され、特に様々な神話で最高神と崇められる太陽が隠れてしまう日食という天文現象は世間を揺るがしかねない重大な出来事だったんだ。それが人々に混乱を与えたり、それを超常現象のように扱って利用する人もいた」


 限界を迎えた穂高の能力が解除され解放されたクリーチャー、それを構成していた化物達はバラバラに動き出し、渡瀬の元へと押し寄せていく。まるで彼にすがるように、助けを求めるかのように。


 「元々穂高君の『闇』の能力の使い方は日食に似ているよ、光を闇で包んでしまうからね。光を奪うことは視界を奪うのと殆ど同じ、それは強烈な恐怖を呼び起こすことが出来る。

  “月喰い”ってのも良いけど、太陽……いわば地球にとって神のような存在を食べてしまうんだから“神喰い”ってのも良いんじゃないかな。その方が様になると思うよ」


 渡瀬はスラスラとそう述べると、床に転んでいた穂高と彼の側でしゃがんでいた希に笑顔を向けていた。


 「ユル……シテ」

 

 ツバキという狂った人間の実験達として生み出された化物達は、突如として現れた渡瀬に助けを求めるかのように集まっていく。彼らは渡瀬を攻撃しようとしない、もう彼の能力の範囲内にいるのだ。


 「“機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ”、圧倒的な力で物語を無理矢理収束させてしまう舞台装置。容量が限界を迎えて力尽き、絶体絶命のピンチに駆けつけてきた僕は、まさしくそう思えないかい?」


 渡瀬の右目には赤い光が灯されていた。彼の『支配』の能力、未だに謎に包まれているその強力な能力で、渡瀬は目の前にいた化物の顔に手をかざした。すると、化物達の体は跡形もなく消えていった。



 「の、能力ってヤバいんやな……」


 渡瀬の能力を見た希が、改めてそんな感想を述べていた。穂高は起き上がろうとしたが、やはり体力が限界だったためもう起きる気力がなかった。


 「災難だったね穂高君。でもちゃんと僕の言いつけは守っていたみたいだね」

 「……わざと遅れてきたんですか?」

 「まさか、僕がこう仕組んだわけじゃないよ。それより大丈夫?」

 「渡瀬さんの一撃、結構効きました……ゴフッ」

 「た、タカちゃーん!?」


 願えば、奇跡は起こると渡瀬達は言う。しかし穂高はその文言にあまり興味が無かった、これだけ能力者として戦ってきてもだ。

 だが希は、最後まで奇跡を願っていたのかもしれない。きっと穂高が、いや渡瀬達がどうにかしてくれる、と。まだ信じる気持ちが足りないな、と思いながら穂高はまるで眠るように意識を失っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ