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ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第五章『少年よ銀河を渡れ』

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5-50『実験の産物』



 穂高が目を覚ますと、頬に固く冷たい感触があった。どうやら床の上で倒れていたらしく穂高は起き上がろうとしたが、手や足を縄で縛られていて床の上を転がることしか出来なかった。

 またリーナに捕まったっけ、と穂高はいつものことのように考えていたが、記憶を辿ると希と一緒に地下鉄に乗っていた際に革新協会からの襲撃を受け、謎のガスによって気を失ったことを思い出した。だがやはり直前の出来事を思い出してもやはりリーナの仕業なのではないかとも十分に考えられた、彼女なら穂高の後を追って大阪まで来ていてもおかしくないからだ。

 能力者を捕まえておきたいならこうやって体を縄等でしっかりと巻いて拘束した方が無難だ。手錠だけだと能力によっては簡単に逃げられてしまう可能性もある。例えジュエリーを奪ったとしても、能力の扱いに慣れている能力者なら少し出力は下がったとしても能力の発動自体に殆ど問題はない。穂高は能力を発動すると、自分の体に纏った光を利用し、自分の体から無数の光線を放った。


 「ふんっ!」


 穂高の体から放たれた光線は彼の体を縛っていた縄をバラバラにし、穂高は簡単に拘束から逃れることが出来た。


 「よしっ」


 自分がどれだけ路上や家で寝ている時にリーナに見つかって彼女に捕まってきたかと穂高は思いながら、自分が捕らえられていた部屋の中を観察した。部屋は案外狭く、モップやバケツ等の掃除用具が大量に置かれていた。ただモップや箒の先には血がこびりつき鼻がひん曲がりそうな異臭を発しており、穂高は思わず自分の鼻をつまんでいた。携帯が無いか穂高は確認したがポケットに入っておらず、ツクヨミの装備が入っている装備箱もポケットから無くなっていた。


 穂高達を襲撃してきたのは革新協会のはずだ。ならばここは革新協会の拠点だろう、もしやあの住吉大社の近くにある建設現場にカモフラージュされた拠点なのかと穂高は考えていた。

 革新協会の目的は何か。最悪の場合、穂高に同行していた希も捕らえられている可能性もある。この施設の全容の把握と希の捜索のため穂高は部屋を出ようとしたが、案の定部屋の扉は開かなかった。内側から鍵を開けたが、どうやら扉の外に何か置かれており、それが重しになっているようだった。

 しかし穂高は光剣を生み出すと扉ではなく壁を破壊して、壁から廊下へと出ていた。

 

 もっと厳重に警備されているものかと穂高は想像していたが、施設内は妙に静かで気味悪く感じられた。廊下に窓もなく地下の施設のようだが、穂高が捕らえられていた用具室は施設の一番隅にあるようで、穂高の靴音だけが反響する廊下を穂高は進んだ。暖房も入っていないようで防寒着も無いため穂高は少し凍えていた。強力な敵が出てくることも考えて警戒し不安もあったが、この大阪での修行で新たに手に入れた光と闇のネコ──能力の容量の残量を表す二匹が穂高に同行していた。穂高はまだその扱いに慣れていないが、急な実戦とはいえそれを忘れずに、その二匹のネコを連れて慎重に移動していた。


 廊下を進んでいくと角にぶつかり、穂高は光剣を構えて警戒しながら角を曲がった。待ち伏せていた敵はいなかったものの、その先の廊下に広がっていた光景を見て穂高は息を呑んだ。

 数十メートルはある長い廊下には血だらけの人間が倒れており、壁や床に血が飛び散っていた。しかも倒れていたのは白いコートを羽織った革新協会の人間だ。発動機を腰につけているのを見るにフラワーのようだが、どうして革新協会の拠点で革新協会側の人間が死んでいるのか訳が分からず穂高は立ち止まって考えた。


 既に渡瀬達が助けに来たという可能性、ならこの廊下の先の部屋に閉じ込められていた穂高を見つけているはずだ。革新協会の中で反乱が起きた可能性、誰が何の目的で起こしたのか、協会の内部事情をある程度知っている穂高にも想像がつかない。

 もしくは、革新協会が制御できない、暴走した能力者が暴れている可能性。もしもこの場所が穂高達が大阪で探していた革新協会のプラントで何らかの実験が行われていたとしたら、その産物として暴走した能力者が生まれた可能性もある。もし希もこの施設に捕まっているのなら危険だと穂高は思い、廊下に倒れる能力者達を飛び越えながら廊下を光と闇のネコと共に走っていた。

 

 見かけた扉を一つ一つ開けて部屋の中を確認しながら穂高は施設の中を進んだ。やはり何かの実験施設のようで、様々な薬品が置かれた倉庫や手術台のような拷問台のような奇怪な器具が並ぶ真っ赤な部屋ばかりだが、革新協会の能力者どころか生きている人間すら見当たらず、どこに行っても何者かによって殺された死体が転がっていた。廊下や壁には血液だけではなく嘔吐物や体液のようなものもぶちまけられており、異臭に耐えながら穂高は出口を探していた。


 実験室らしき部屋が集まっていた区画を抜けると上階へ続く階段が見えた。そこでようやく穂高は上から何かが来る気配を感じて身構えた。


 「ヌボオオオオオオオオォッ!」


 階段の上から腹部が肥大化した、元々は女性だったであろう化物が飛び降りてきた。右目に青い光を灯しているのを見るにおそらくフラワーの不良品だ。フラワーの生産過程で出る不良品は殆ど処分されると穂高は聞いていたが、この施設はこいつらを使って実験していたのかと穂高は推理した。しかし純粋な能力者と違い、無理矢理体に能力を植え付けられたフラワーは能力の出力に劣っている。不良品なら尚更だ、暴走したとしてもすぐに自壊する。

 穂高は光剣で化物の腹部を切り裂こうとしたが──その直前に、その化物の背後から無数の手が伸びてきていた。


 「オボォッ!?」


 化物の背後から迫っていた無数の手は彼女の体を掴むと、階段の上方へと一気に引っ張った。何事かと思って穂高がすぐに上を確認すると、化物は無数の手に包まれて一気に潰され、まるで捕食されたように見えた。後ろ姿だけがチラッと見えたが、それが穂高の目には──無数の人間が合体したようなクリーチャーに見えたのだった。


 「……え? こんなホラーな展開なの?」


 穂高は今までに多くの能力者と対峙してきた、勿論フラワーとも戦った。だが不良品は噂程度に聞いただけでそれ程戦った覚えはない。しかし今、あの化物を捕食したのはホラー映画やゲームに登場するような、明らかにこの世のものとは思えない造形の、見るだけで嫌悪感を感じる気色の悪い生命体だった。穂高自身も能力者として様々な非現実的なものを受け入れてきたが、久々に受け入れがたい現実と出くわしていた。


 あれも何かの能力の一つか、捕食した人間の数だけ合体して蓄えていくという能力も可能性としてはなくはない。だが穂高が知る身近な人間の中に、殺した人間の数だけ命のストックとして蓄えていく能力を持つ能力者、ツバキがいる。彼女はフラワーの生産に関わっているはずだ、もしも彼女が自分の能力を元にしてより強力なフラワーを作り出そうとしたなら、あんな生命体が生まれる可能性もあると穂高は考えた。

 ツバキが関わっていると絶対にろくな結果にはならないと覚悟を決め、穂高は階段を駆け上がってクリーチャーの後を追った。



 上のフロアの惨状も下と似ていたが、まだ生きているフラワーの不良品が屯していた。頭部や四肢が欠損していたり、破れた腹部から内蔵を露出させながらも襲いかかってくるそれらを光線で倒しながら廊下を進んでいくと、やけに騒がしい部屋に辿り着いた。穂高が扉を開き中の様子を観察すると、数体のフラワーの不良品が興奮した様子で奇声を発していた。その部屋の中心に置かれた手術台のような器具の上には紫のメッシュが入った少女、希が寝かされていた。


 「希さん!?」


 希の衣服ははだけており、周りで興奮している様子の不良品達の陰部を見て穂高は──彼らの目的を悟って驚愕した。


 「待て待て待て!」


 穂高は光剣を地面に突き刺して壁から光線を放つと、部屋の中にいたフラワー達は体を貫かれ、血飛沫を上げ断末魔を上げながら床に倒れていく。穂高は手術台の上に寝かされていた希の元に駆け寄り、その肩を掴んで揺すった。


 「希さん! 起きてください!」


 体を揺さぶると希はようやく目を覚まし、呑気に大きな欠伸をしながら起き上がった。


 「ん、どないした? そない慌てて……」


 目を覚ました希は、寝ぼけた様子でまず自分の体を見た。不良品達に襲われていた希の衣服ははだけ、その豊満な肉体の一部が露わになっていた。穂高はそれを直視しないよう顔を背けながらも、視界の隅に希の顔を捉えていた。

 希は穂高の方を見る。穂高は希がこの状況を見て何を考えたかを悟り、すぐに弁明しようとしたがそれよりも早く希の手が出ていた。


 「このけだものー!」

 「いっだーいっ!?」


 強烈なビンタを喰らった穂高は体をよろめかせ、手術台の端を掴んで体を支えていた。


 「う、ウチをこんな部屋に閉じ込めて一体何を……ってぎょええええええええーっ!? なんやこのバケモン!?」


 希は穂高が倒した不良品達の死体に気づいて驚き、手術台の上でドタバタと暴れていた。


 「あの……そいつらが希さんを襲おうとしてたので……あとこれどうぞ」


 穂高はメスや注射針などの器具が置かれていた棚から緑色の病衣を見つけ、希の方を見ないようにしながら彼女に差し出した。


 「そ、そうやったんか。そうや! 確かなんばでウチら眠らされて……タカちゃんも捕まってたんか?」

 「僕も捕まってたんですけど抜け出してきました」


 希は病衣を羽織ったがサイズがデカかったようでブカブカだ。目のやり場に困ったため穂高は常に首を背けながら希と話す。


 「ウチ、こんな気色悪いバケモンに犯されそうになってたん? てゆーかタカちゃんっていつもこんな変なバケモンと戦ってんの?」

 「あまりこういうのは見かけないですけど、これも能力者の一種なんです」


 渡瀬の説明を思い出すと、能力が暴走してそのエネルギーが枯渇した不良品が希を襲おうとした理由に納得がいく。能力者も元はただの人間である。食欲、睡眠欲、性欲の三大欲求を満たして基本的なエネルギーを得ようとするのだ。不良品も大概見た目はクリーチャーだがあれでも能力者だ、理性を失くしているだけに、より恐ろしい存在である。


 「いやごめんな、急にビンタしてもうて。ウチ、ビンタには結構自信があるんやけど痛くなかったか?」

 「慣れてるんで大丈夫です」

 「自分、そんな毎日ビンタされるような生活しとるんか?」


 そういえば前に織衣にビンタされたこともあったなと穂高は思い出した。あれもあれで中々に痛かったなと思い出しながら、穂高は希を連れて廊下へと出た。穂高は急ぎたかったが、左手を後ろから希に力強く握りしめられているため走ろうにも走ることが出来ずに、あのクリーチャーに警戒しながら廊下を進んでいた。

 

 「かわいいネコちゃんやな。これってタカちゃんの能力で作っとんの?」


 先程まで度々敵と出会ったり希にビンタされたりと集中力が途切れそうなこともあったが、穂高は光と闇のネコを維持する状態に慣れてきていた。二匹のネコは希を護衛するように彼女の両隣を歩いている。


 「そのネコは、僕が力尽きるまでのタイムリミットを表してくれてるんです」

 「今どんぐらいなん?」


 穂高は光と闇のネコを確認した。穂高が確認できた一番明るく、そして真っ黒な状態の時と比べると半分、いやそれ以上にネコの存在が薄れているように見えた。穂高が目を覚まし、能力を発動してからおよそ十五分程しか経っていない。不良品がそれ程強くなく数も少ないため出力は抑えられていたつもりだったが、その残量は残りわずかのように見えた。


 「まだまだ持ちますよ、大丈夫です」


 しかし希を心配させるわけにもいかなかったため、残り時間を穂高は伝えなかった。おそらく持ってあと十分ぐらいだ。だとすればあのクリーチャーの相手をするよりも、この施設から抜け出すことを優先しなければならない──が、廊下の先、突き当りに右方から突然血飛沫が飛び散ったのが見えた。


 「おわぁっ!?」


 後ろで希が驚いて叫び、穂高は身構えた。廊下の先から頭部が肥大化した不良品が血を流しながら逃げ出してきたが、その背後から伸びてきた無数の手に体を掴まれ、一気に後ろへ引っ張られていた。


 「な、なんやあれ……!?」


 廊下の先に、先程は後ろ姿しか見えなかったクリーチャーの正面が見えた。やはり複数の人間の体が合体した、というよりかは無理矢理繋げられているような造形で、数十もの老若男女の顔がそれぞれ独立してキョロキョロと辺りを見回しており、百本はありそうな足で器用に地面を移動しながら、数メートルもの長さに繋げられた大量の手を前へ伸ばして穂高達の方へ進んでいた。


 「希さん、目を瞑っててください!」

 「う、うん!」


 穂高は光剣を床に突き刺した。いつもなら思いっきり光り輝く刃、紫電一閃を放つところだが、地下空間で全力で放つとこの施設が崩壊して穂高達諸共潰される可能性がある。穂高一人なら何の躊躇いもなく放つところだったが、希を巻き込むわけにはいかなかった。


 「“紫電──」


 他の手段も考えたが、やはり自分が持ち合わせている中で一番手っ取り早く放つことが出来る技を使うことにした。渡瀬は言っていた、この技の方向やリーチを制限するだけで容量への負担も減ると、必殺の間合いを作るのが良いと、それがかっこいいと。この狭い廊下、前方へ一直線へ放つイメージを構築して穂高は光剣を床から抜いて、大きく振りかぶった。


 「──一閃”」


 床や壁、天井を伝って広がっていく眩い光は、クリーチャーに近づくと一斉に壁や天井から光線として放たれてその体を貫いた。そして穂高が剣を振って放たれた光の刃は狭い廊下を一直線に進み、クリーチャーの顔面へと直撃しまるで爆発したかのような光が放たれていた。


 「な、何かものごっつ凄いこと起きてない!?」 


 目を瞑っててもその光が眩しく見えるはずだ。穂高の攻撃は確かに直撃したはずだが、穂高は希を庇いながら後ろへと下がっていた。


 「ンバアアアアアアアアアアッ!」


 光が晴れると、クリーチャーの顔面、無数の顔に大きな切り傷が入っているのが見えた。それが体を丸ごと切り裂いていないだけ大した耐久力だが、驚くべきことにクリーチャーの体についた傷がみるみるうちに修復されていたのだ。

 威力が足りなかったかと穂高がもう一発放とうとした時、目の前から一気に無数の手が穂高に迫ってきていた。


 「希さんっ!」

 「ちょちょ、タカちゃん!?」


 穂高は希を後ろへ突き飛ばした。光と闇のネコが希を庇うように彼女の前に立ちはだかる。穂高は光剣を持って構えたが、無数の手に体を掴まれると、そのまま思いっきり壁に打ち付けられていた。


 「ぐはぁっ!?」


 一度だけでなく二度、三度と打ち付けられた所でようやく体を離されたが、穂高はその衝撃で廊下に倒れたまま起き上がれずにいた。


 「た、タカちゃん大丈夫か!?」


 すぐに希が駆け寄ってきたが、穂高は何とか踏ん張って立ち上がっていた。


 「……大丈夫です。慣れてるので」

 「ツクヨミってそんなヤバいとこなん?」


 骨が折れているような感覚はないものの体中に酷い痛みがあり、衝撃からか頭もクラクラとしていた。


 「……希さん」

 「な、何や?」

 「走りに自信はありますか?」

 「あんま早くないよ」

 「わかりました」


 希の返答を聞いた穂高は希の体を抱えると、クリーチャーから逃げるように一気に走り出した!


 「ちょちょ、タカちゃん!?」


 希は突然のお姫様抱っこに慌てているようだったが、後ろから追いかけてくるクリーチャーの存在に気づいてすぐに「ひょえっ」と怖がっている様子だった。


 「出来れば後ろ見ててください! ヤバそうならすぐに言ってください!」

 「今も十分ヤバいけど!?」

 「奴が近づいてきてたら言ってください!」

 「あ、あのバケモン結構足遅いみたいやで! ぐんぐん離れてくわ」


 穂高は元々走りに自信はあったが、体に光を纏えばさらに高速で移動することが出来た。施設内に張り巡らされている廊下の角を巧みに曲がってクリーチャーを撒き、自分の能力の限界が来る前に一刻も早く出口を探そうとしていた。

 


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