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ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第五章『少年よ銀河を渡れ』

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5-44『能力の捉え方』



 ツクヨミの大阪支部へと戻ると、穂高は事務所に入りソファに座った。仕事中だった瓦屋には席を外してもらい、黒猫に変身したエリーにもあおさぎの看板猫として店先に居座ってもらい、事務所には穂高と渡瀬だけが残った。渡瀬は穂高に水を渡し、向かいのソファに座った。


 「落ち着いたかい?」


 穂高はコップの水を飲み干し、首を縦に振った。車の中でボーッとしている内に気分は落ち着いてきていた。


 「じゃあ長い話に耐えられそう?」

 「今するんですか?」

 「いや、さっきの穂高君の発作に関係があるかもしれないからね」


 今は頭痛や吐き気も収まり、念のためにとジュエリーの腕輪も外していた。穂高がボトルからコップに水を注いでいると渡瀬が話し始める。


 「穂高君は、自分の能力はどういう能力だと思ってる?」


 あまりに初歩的な質問に、穂高は驚きつつ答えた。


 「光、と闇です」

 「どうしてそう思ってる?」

 「……自分が持っているから?」


 渡瀬の質問の意図が読めず曖昧な答えを返した穂高に、渡瀬はクスッと笑っていた。


 「例えば、穂高君はこの部屋の照明を消したり点けたり出来るでしょ?」

 「はい」


 穂高は指先を天井の照明に向けてチカチカと点滅させた。これぐらいは容易いことだ。この場合、穂高は照明の電源のオンオフを切り替えているわけではなく、照明から放たれている光を奪って戻しているだけだ。電源は点いたままである。


 「じゃあその力を持っていることに気づいた能力者本人が、自分は照明を消したり点けたり出来る能力だ、まぁ例えるなら『照明』の能力かな。その人が自分の能力をそう思い込んだら、その能力者は照明を光らせたり消したりすることしか出来なくなるんだ。もしかしたら穂高君みたいにビームを出したり光り輝く剣を作ることが出来るかもしれないのに。勿論その能力者の容量に左右されるけど、もったいないって思うでしょ?」

 「そうですね……」


 能力者狩りだった頃の穂高はとにかく光や闇について調べ、それに類似する現象について片っ端から調べ尽くして自分で試したりもした。自分の戦いに応用出来ると考えたからだ。


 「じゃあ穂高君は、自分の能力が『光』と『闇』だけだと思う?」


 他に何かあるかと穂高は考えたが、穂高が使える能力に他に思い当たるようなものはない。穂高が首を傾げていると渡瀬は能力を発動し、右手に光と闇が入り混じった、まるで太極図のような球体を作り出して口を開いた。


 「僕が考えるに、穂高君の能力は『光』と『闇』に収まっているようなものじゃない。もしくは、他にも能力を持っているよ」

 「別物ってことですか?」

 「それか、光と闇を内含する上位の能力かな。それがさっきの穂高君の発作にも繋がると思うんだ。穂高君にも心当たりがあると思うよ、例えば──」


 渡瀬はスーツジャケットのポケットの中から、赤いルビーが煌めく黒いチョーカーを取り出して穂高に見せていた。


 「それは、オスカルの……」


 能力者が持つジュエリーは能力者によって多少デザインが異なっていた。渡瀬が持っているのは、オスカル・ヴェントゥーラのジュエリーだ。オスカルとエヴァが殺された日、穂高はそれに触れ不思議な夢を見たのだ。


 「あと穂高君は織姫ちゃんの過去も見た。多分それは、織姫ちゃんが能力を発現した時のものだよ。勿論僕やエリーもいたし……穂高君が言う赤いバンダナとかサングラスの奴もいた。穂高君がこのチョーカーに触れた時も誰かの記憶を見たでしょ? 多分それはオスカルのものだよ。彼が能力を発現した時の記憶が見えたんじゃないかな」

 「それって、渡瀬さん達にも見えてるわけじゃないんですか?」

 「僕はそういう方法では見えないかな。華さんの能力とも違うからね。

  そして住吉大社で穂高君に発作が起きたのは、多分あの場所に色んな気が溜まっていたからだと思うよ。僕らが持っているジュエリーは、負のエネルギーの塊みたいなものだからね。どういうことかわかる?」


 夢には懐かしい知人や土地が出てくることもあれば、知らない人間ばかりいる未知の世界に放り込まれることだってある。しかし穂高が見たそれらの夢はもう偶然と呼べるものではなかった。


 「穂高君は、能力者が能力を発現したきっかけを知ることが出来るんだよ」


 笑顔の渡瀬が持つチョーカーのルビーが赤く煌めいた。


 「……それが、僕のもう一つの能力?」

 「さぁね。もしかしたらそれと光も闇もひっくるめて一つの能力なのかもしれない。穂高君はそれを手に入れた記憶はない?」

 「全然ないです」

 「二つ持ち(ダブル)とか三つ持ち(トリプル)の能力者は、一度に全部能力を発現することもあれば別々に能力を発現することもあるんだ。無意識に発現したとは考えにくいけどね。

  穂高君のその能力は……何と呼べばいいかわからないけれど、他にジュエリーを持っていないってことは系統は一緒のはずだよ。問題なのは、それが穂高君の意思に関わらず無意識に発動されているかもしれないことなんだ」


 無意識に能力を発動し続けていると勿論体への負荷は大きくなる。容量が小さければ尚更だ。穂高はただでさえ他の能力者に比べて容量が小さいのに無意識に他の作用を持っているのなら無駄が大きくなってしまう。


 「どうすればコントロール出来ますか?」

 「うーん、それが何かしら制限された条件で発動されることを祈るぐらいかな。多分トリガーはあるはずだよ、ジュエリーに直接触れるとかね。穂高君の容量は小さいからすぐにエネルギーを補給しようとして、逆にその容量から溢れ出るぐらいのエネルギーを住吉大社で一気に吸収しちゃったのかもしれないね。穂高君はそういうのに敏感かもしれない」


 穂高は今まで寺社仏閣を訪れてもそんな妙な発作を起こしたことはなかったが、能力者になってからは住吉大社が初めてだった。能力のエネルギーが多く集まる場所に行くと穂高は過剰摂取してしまう可能性があるのだろう。アルコールに弱い人間が匂いを嗅いだだけで酔うのと一緒かと穂高は考える、酒を飲んだことはないが。


 「今日、オスカルのジュエリーで試してみますか?」

 「さっき倒れたばかりじゃないか、今日はやめておいた方がいいよ。前に触った時も気絶しかけてたからね。一日か二日は寝込まないといけないぐらいには大きな負荷がかかるのかもしれない」


 渡瀬はオスカルのジュエリーをポケットにしまう。そんな雑な扱いで大丈夫なのかと穂高は思っていた。

 

 「出来れば今回の修行で、穂高君の能力がどこまでいけるか試してみたいね」

 「どういう風にですか?」

 「そうだね……捉え方の幅を広げてみるとか」


 狭めるのは簡単だ。さっき渡瀬が言ったように能力が作用するものを照明だけに限定するだとか、指先をライト代わりに使うだけだとか、穂高でもすぐに思いつくことだ。そうすれば容量の小さい穂高でも負担なく能力を使えるが、それでは革新協会や十字会と戦えない。しかし光と闇の要素を持つ大きな一つの能力はすぐには考えつかない。


 「穂高君は紋章共鳴を使えるよね?」

 「はい、一応」

 「どういう名前をつけてる?」

 「……月光と新月です」


 いざ言えと言われると恥ずかしいものだ。戦闘中はそんなものを気にしなくてもいいが、言わないと上手く発動してくれないのだ。それも渡瀬が前に説明した能力の方向性というものなのだろう。


 「どうしてそういう名前をつけたんだい?」

 「暗闇の中に光があるかないか、その違いを考えただけです」

 「成程ね。前に穂高君が暴走した時にその紋章共鳴を見たことがあるけど、あれは凄かったね」


 そもそも穂高は実戦で紋章共鳴をあまり使ったことがなかったし、それを手に入れたのも六月末の話である。渡瀬達は七月に暴走した穂高はとても良かったと口々に言うが、穂高自身は何も覚えていないためその感覚を思い出せないのだ。


 「紋章共鳴は、一時的に自分の能力の出力を大幅に引き上げる奥義みたいなものだよ。これは一度暴走状態を経験して生き延びないと感覚は掴みづらいだろうね。

  ただ、紋章共鳴は全力で火事場のクソ力を出せばいいってものでもないんだ。確かに能力の暴走状態に近づけば物凄いパワーを得られるけど、当然体への負荷は大きくなる、容量の小さい穂高君なら尚更ね。

  だから前に説明したように、方向性を決める必要があるんだよ。自分の能力に名前をつけて魂を吹き込むように、紋章共鳴も名付けで使用範囲を制限することで、より効率良く、負担を軽減して使うことが出来るんだ。穂高君の紋章共鳴は無闇矢鱈に出力を上げすぎているから、もう少し幅を狭めた方が戦いやすくなると思うよ。穂高君は簡単に自我を失いそうだし」

 「でも、それだと能力の幅が狭まるんじゃないんですか?」

 「あくまで紋章共鳴に限った話だよ。穂高君は紋章共鳴を月になぞらえて使っているでしょ? 満月の夜は明るいし新月の夜は暗い。考えれば単純なことだけど、月は光と闇の両方の側面を持っていると思わない?」


 夜も光の多い都心で過ごしていると実感しにくいが、満月の夜と新月の夜は空の明るさが全然違う。渡瀬はその満月を光、新月を闇と捉えて穂高の能力を『月』という風に解釈しているようだ。


 「でも、月は自分から光らないじゃないですか」


 ただ、穂高の光の能力は穂高の体から直接光を放っている。今更メカニズムなんて深く考えることはないが、月はただ単に太陽の光が反射して光っているように見えるだけだ。


 「じゃあ自ら光っているのは?」

 「太陽ですね」


 そう自分で答えて穂高はハッと気づいた。そう考えつくように単純で簡単な問答に渡瀬は誘導していたのだ。考えてみれば簡単なことだが、穂高は自分の能力をそんな大きなスケールで考えたことはなかった。


 「太陽……もとい恒星は地球のような惑星とは違って大きな質量を持っていて、遠く離れていても地球からも見えるぐらいには光り輝いているんだよ。自分の力でね」

 「でも、それは闇と関係ありますか?」

 「じゃあ太陽じゃなくて恒星と考えてみようか。恒星は途方もない年月を経て巨星となり、やがて超新星爆発を起こすものもある。でも、もしも恒星が一定以上の質量を、例えば太陽の三十倍以上の質量を持っていた時……」

 「ブラックホールになる?」

 「そう。中心部である核は際限なく収縮を続けて、やがて光すらも逃れられなくなる程の大きな質量を持つようになる。それが光を奪っている、と表現できるかはわからないけどね」


 闇の能力を持っている穂高は勿論ブラックホールについても調べていた。まずは超新星爆発、その前に白色矮星や主系列星など天文学について様々なことを学ばなければならず、穂高は途中で諦めてしまった。そもそもブラックホールから光が逃れられないという意味すら理解できなかったからだ。


 「月に太陽、そしてブラックホール……それら全てを含めるものって思い浮かぶかい?」

 「太陽系ですか?」

 「太陽系にブラックホールは無いよ。でも、太陽系が含まれる天の川銀河の中心部にはあるね」

 「……じゃあ、銀河?」


 穂高がそう答えると、渡瀬はニコニコと微笑んだまま自信ありげに言った。


 「それが、穂高君の能力だよ」

 「へ?」

 「天の川銀河は銀河系の一つだけど、まぁ大きくひっくるめて銀河ってことで良いんじゃないかな。Galaxy……良いね、ギリシア神話の女神ヘラの母乳と言われるミルキーウェイか。天の河、銀色の河ってのもおしゃれだね」


 あまりにもスケールの大きい解釈に驚いている穂高をよそに、渡瀬は銀河という名前を気に入っているようだ。


 「銀河の能力って、銀河を操るってことですか?」

 「ううん、それはどんな能力者でも出来ないことだよ。それはあくまで例え話さ。

  穂高君の能力は、自分を含めて指定した対象を、例えば恒星とか惑星になぞらえて特定の力を与える、って感じかな。穂高君は太陽として光を操れるしブラックホールとして闇も操る。

  どう? 穂高君の能力を僕なりに拡大解釈してみたけど」


 スケールが大きすぎて理解するのに苦労しそうだが、確かに操れるかもしれない能力の幅は広がるため穂高は胸を躍らせたが、それは風呂敷を広げすぎだとも考えていた。自分の能力の幅が広がるのはワクワクするが、穂高の体が耐えられるとは思えない。


 「でも、その能力がさっき言っていた『能力の発現を知る』っていう力に関係しますか?」

 「天体観測って感じかな」

 「見えないものを見ようとするってことですか?」

 「フフ、そうかもしれないね。例えば太陽の光が地球に届くまで八分かかるように、僕達に見える星々の光は過去のものなんだよ。もしかしたら今頃大爆発を起こしてる可能性だってある。

  それらの過去の光は望遠鏡を覗かないと見えないこともあるでしょ? 僕もパッと理由付け出来ないけど、まぁ多分そんな感じでいいんじゃないかな」


 急に渡瀬の説明がテキトーになったが、例えば超新星爆発を能力の発現と例えるのなら性能の良い望遠鏡で観測することが出来る、と穂高は考えた。超新星爆発は恒星の成れの果ての姿であるが、能力者としての誕生は人間としての終わりでもある。


 「華さんの能力や僕が千代の過去を見せたように、誰かの過去を見ることが出来る能力自体は結構あるんだ。でも、能力者が持つジュエリーに触れることがトリガーになって、能力が発現した時の状況を知るっていう能力は聞いたことが無いね。使い方が限定的過ぎるし、結構負担も大きそうだから有用性はあまり見出だせないかな」

 

 使わなくて良いのなら使いたくはない能力だが、これは穂高の意思に関係なく発動してしまうことだ。織衣の過去を見てしまった際はそもそも織衣のジュエリーに触れた覚えもない。それを知ったところで戦いを優位に進めることも出来無さそうである。


 「もしも穂高君が太陽とか、太陽じゃなくてもアンタレスとかアルタイルとか他の恒星、さらには地球とか月とか色んな惑星になぞらえて能力が使えるなら能力の幅が広がりそうじゃない?」

 「でもそんなにスケールを大きくすると、僕の容量じゃ耐えられないんじゃないですか?」


 能力の容量が大きい能力者ならロマンのある話だが、穂高の一番の欠点がそれだ。強大な能力を操るだけの器を穂高は持ち合わせていないのだ。


 「一度に全部を使おうとしなければいいのさ。僕もそういう使い方をしているからね」


 渡瀬の能力は『支配』だ。渡瀬が言うにはこの世の全てを支配して操る事が出来るという恐ろしい力だが、それを聞く限りだと結局が出来るのかわからないし、おそらく穂高がその能力を持ってしまったらものの数秒で力尽きるだろう。


 「僕は普段能力を使う時、まず出力をかなり抑えるんだ。大体二パーセントから五パーセントぐらいだね」

 「一パーセント単位で出力を調整出来るんですか?」

 「慣れれば簡単に出来るようになるよ、マラソンの走るペースを調整するみたいなものだからね。

  勿論僕は自分の能力が作用する範囲も制限する。普段は大体出力を制限して、多くても半径数キロぐらいかな」


 半径数キロなら軽く山手線の内側は入る。大阪環状線もそうだろう。穂高にはそれが制限しているようには聞こえなかった。


 「さらに僕は能力を作用させる対象も制限する。相手が一人なら万々歳だね」

 「……多くてどのくらいいけますか?」

 「五パーセントぐらいでも数千ぐらいはいけるんじゃないかな」


 渡瀬の能力が暴走してしまったら、この世の終末のような恐ろしい事態になりそうだと穂高は想像した。そうならないために渡瀬は出力を一パーセント単位で細かく設定しているのだろう。かといって制限しても数千人を相手にするのは無茶苦茶な……と穂高は考えたが、自分もそんぐらいの人数は相手にしたことを思い出して、そうでもないかと納得することにした。


 「それに支配系(ドミネート)能力の特徴として、能力が自分が定めた範囲内でしか作用しないんだ。僕が能力を使おうとしたら相手に対して有効な能力を使える、でも相手が範囲外にいたら僕は何も干渉出来なくなっちゃうんだ。遠距離攻撃が得意な相手はあまり好きじゃないね」


 つまり渡瀬と対戦する場合、渡瀬が支配している範囲内にさえ入らなければ渡瀬は攻撃できないし、渡瀬は相手に攻撃が出来なくなる。しかし五パーセントぐらいの出力で半径数キロの範囲で能力を使える渡瀬に攻撃するには最早ミサイルが必要なレベルだし、ミサイルを撃ってもそれが渡瀬の能力が作用する範囲に入った途端に無力化される可能性もある。知れば知るほど渡瀬の弱点が見えなくなってしまう。


 「支配系(ドミネート)の戦い方の基本はね、相手を自分の土俵に引きずり込むんだよ。その土俵に入ってしまった時点で相手の負けさ。押し出しでも上手出し投げでも、うっちゃりや波離間投げでもいい、どう勝負をつけるかは僕の自由だよ」

 「……それ、土俵から出てません?」

 「フフ、じゃあ素首落としとかかな」


 やはり穂高より能力者として先輩ということもあって渡瀬の能力の使い方や考え方は非常に参考になった。渡瀬は強大な自分の能力を安定して制御するために様々な制限を細かく設定して戦っている。一方で穂高は自分の能力が作用する範囲なんて考えたことがない、操作系(オペレート)はそんなことを考える必要があまりないからだ。勿論自分の攻撃のリーチぐらいは考えるが、例えば穂高が多用する“紫電一閃”という技だと光の斬撃も光線も先方に一キロ以上飛んでいってしまう。それが非効率ということなのだろう。


 「つまり、自分の能力に制限をかけるってことですか?」

 「うん、効率化ってところかな。必殺の間合いがあるとかかっこいいと思わない?」

 「思います」

 「フフ、穂高君の場合は光が飛んでいく方向とかを制限するだけで大分負荷はかからなくなると思うよ。東京に帰ってからも、そういう一つ一つの無駄を省くことを意識して戦うといいかもね」


 この効率化こそが渡瀬が言っていた、穂高が出せる全力を引き上げるということなのだろうと穂高は理解した。無駄な部分を削ぎ落としてそのエネルギーを使うことが出来ればより威力も増えるし体への負担も減る。


 「……それを今日の夜にやるんですか?」

 「うん」

 「出来るものなんですか?」

 「実験みたいなものさ。やっぱり実戦あるのみだからね」


 もしもあの住吉大社の側にある革新協会の拠点の護衛が強かった場合、本当に死にかけるなら渡瀬は助けてくれるだろうが、本当に死にかけるまでは助けてくれないだろう。渡瀬が参戦してしまうと穂高の修行にならないからだ。

 能力の残量を示す二匹のネコのことも気にしながら、能力の出力を調整して、さらには『銀河』の能力を試さなくてはならない。頭では理解できても体にはすぐに慣れなさそうだと、穂高はこれからの戦いが怖くなりつつあった。


 渡瀬の講義が終わり、穂高はコップの水を飲み干す。いつの間にか具合も回復していて、今夜の作戦にもどうにか耐えられそうだと穂高自身は感じていた。だが渡瀬は珍しく浮かない表情で口を開いた。


 「ただ、僕が恐れるのは……穂高君の月だよ」

 「月?」

 「穂高君は、能力者狩りの都市伝説を知っているかい?」

 「まぁ……嫌でも耳に入りましたけど」


 穂高本人も四月から六月頃にかけて東京で流布していた能力者狩りに関する都市伝説は知っていた。何かとリーナが情報を仕入れてくるし学校でも時たま話題に上がることがあったのだ。


 「じゃあその能力者狩りにどんな異名がついてたか知ってる?」

 「……月狂い(ルナティック)?」

 「そう。月は人を狂わせると言うからね。狂気を英語でルナティックと言うように、満月の夜に狼男は狼になるし悪魔崇拝者は黒ミサを執り行う。

  もしも穂高君の能力がそういう面を持ち合わせているなら、穂高君自身どころか周囲の人間にもそれが作用してしまうかもしれない」


 満月の夜には犯罪発生率が上がるという都市伝説だってある。そんな噂が生まれるぐらいには、満月は人の感情を昂ぶらせる効果があると信じられてきたのだ。


 「僕がその力を持っていて、月に狂わされているかもしれないってことですか?」

 「そうかもしれないね。そして、穂高君の周りにいる人もね。どうも穂高君の周りには変な人間が集まっているように思えるんだ。僕を含めてね」

 「はは……」


 穂高は織衣や斬治郎達から、その面倒事への巻き込まれ癖をどうにかしろ度々言われているが、そこに巻き込まれに行くのは穂高が月の狂気に当てられているせいかもしれないし、穂高が望んでもいないのに彼の周囲で度々そんなことが起きるのは、周囲の人間にも作用しているからだという可能性もあるということだ。

 思い当たる節があるといえばある。それだけに自分の能力がどれだけの力を操れるのか楽しみでもあったし、無意識に作用しているかもしれない自分の能力の可能性に穂高は恐怖を感じていた。



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