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ウォントビーアヒーロー  作者: 紐育静
第五章『少年よ銀河を渡れ』

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5-29『渡瀬の能力』



 夕食を終えると、穂高はあおさぎに戻ってきた渡瀬に車で再び大阪城公園に連れてこられていた。いつも渡瀬と共にいるエリーの姿がなかったが、二人が泊まっているホテルに一人残っているらしい。以前穂高は渡瀬にエリーのお守りを頼まれたことがあったが、一人で大丈夫だろうかと穂高は思っていた。

 夜の大阪城はライトアップされ、周囲を囲む高層ビル群の夜景と合わさって、海外では見られないような独特の歴史を感じられる風景が広がっていた。


 普段なら二十四時間一般開放されている大阪城公園は、設備の点検という理由で入口が封鎖されていたが、入口に立っていた警備員は顔パスで穂高達を中へ通した。あの警備員はツクヨミの関係者なのかと穂高が渡瀬に聞くと、そうかもしれないねと曖昧な答えが返ってきた。

 この誰もいない大阪城が、今夜の修行の舞台となる。


 「良い夜景だね。東京じゃ見られないものだよ」


 コートを着込んでも体が震えるような寒さの夜だが、渡瀬はコートも着ずに黒スーツ姿で白い息を吐きながら言っていた。


 「あの……ここで何をするんですか?」


 ツクヨミは夜に活動することは多いが、、夏の夜は蒸し暑いし冬の夜は凍えるほどの寒さだ。ツクヨミの装備箱に入っている黒コートは通気性の良いものと防寒性のあるタイプを選ぶことも出来るし温かいインナーもあるが、能力者と言えど自然には中々勝てないものだ。

 穂高の隣に立っていた渡瀬は穂高に笑顔を向けながら口を開いた。


 「じゃあ、僕と戦ってみようか」

 「え」

 「こうやってサシでやることはなかったからね」


 穂高は今までに二度、渡瀬と刃を交えたことがある。七月、穂高がツクヨミに入って間もない頃、千葉で軽く暴走した翌日に渡瀬が雨京高校の跡地まで連れて行ってくれた時、花咲病から戻って暴走を始めた時(穂高の記憶にはない)だけだ。前者は敗北(穂高が降参)、後者は引き分け(渡瀬達によればそうらしい)、二戦一敗一引分という結果だ。能力者狩りだった頃の穂高は相手の能力なんか気にせずにとっとと済ませようとする時もあったが、戦いが長丁場となれば相手の能力を看破する必要がある。しかし、穂高が渡瀬の能力を殆ど見たことがなかった。


 「ただ、特別に僕の能力を教えてあげるよ」


 渡瀬のその言葉を聞いて、穂高は心が踊っていた。穂高は一人の能力者として、多くの能力者達と戦ってきた能力者狩りとして渡瀬の能力に興味を持っていた。特に渡瀬達のように、赤い光を持つ能力者達が持つ能力は穂高達のような普通の能力者と違ってかなり強力だ。今後の戦いの参考にもなる。


 「穂高君は、僕の能力は何だと思う?」


 前に穂高が渡瀬と戦った際に、渡瀬は穂高に雷の剣を見せたことがあった。あの時点では『雷』の能力という風に穂高は理解していたが、実際に彼の能力と戦った穂高は、渡瀬のそれは一つの能力ではなく『雷』を内含する大きな括りの能力だろうと穂高は考えていた。


 「雷と……何かの複合だと思います。言霊とか、思考に関係する能力かなって」


 渡瀬が持つジュエリーはサファイアの黒いグローブだ。それはリーナと同じで、彼女のライフイズ何とかという『再生』の能力は支配系(ドミネート)の系統に属している。そして赤い光を目に灯す渡瀬はリーナの能力の上位互換であるはずだが、リーナの能力でさえかなり強力である。そのさらに上となると、それこそ神に等しいぐらいだ。


 穂高の答えを聞いた渡瀬はその答えを嘲笑っているのか、いやそういうわけではないだろうがそれが外れと言わんばかりにフフッと笑っていた。穂高も渡瀬と半年近く付き合ってきて、いつもニコニコしていて感情が読み取りにくい渡瀬でも、その僅かな笑い方の違いで彼の感情がわかるようになってきていた。今の笑いは違うと言っている。


 「雷はそうだね、あくまで一部に過ぎないよ。でも言霊とか思考ってのは遠くないかもしれないね」


 すると渡瀬はスーツのポケットから青い宝石……サファイアの装飾が施された黒いグローブを取り出していた。


 「穂高君は能力の系統はわかるよね?」

 「いや……細かな区分けは覚えていないです」


 能力者狩りだった頃の穂高は相手の能力の系統なんて気にしていなかったしそもそも知らなかったのだ。ツクヨミに入ってから副メイド達から何となく学んだが、どのジュエリーがどんな能力だったかたまに頭から抜ける時があった。


 「僕達が持つ能力は四つの系統に分けられるんだ。

  まず操作系(オペレート)。一番単純で見てわかりやすい能力だね。相手にバレやすいっていう欠点もあるけど、その欠点を補えるぐらいには便利で扱いやすいんだ。穂高君とか緋彗ちゃんとか、能力者の八割はこの系統だね」

 「八割もですか?」

 「他の系統の能力が扱いに難しいというか、出力の調整が難しいから能力の発現の時点で殆どの人が死んじゃうからね」


 穂高の能力は『光』も『闇』も派手過ぎるため相手にバレやすい。自分の能力を他の能力に見せかけるようにカモフラージュするという戦術もあるにはあるが、それはまず自分の能力の扱いに慣れてからの話である。


 「次に干渉系(レイド)。対人戦、特に能力者との戦いに特化した能力で、(受付嬢)さんの“独り身の選球眼(マインドリード)”、副メイドさんの“幻影魔法少女(マジカル・ファントム)”、エリーの“黒白(こくはく)”がそうだね。能力を作用させる相手がいることが前提になっているし割合は結構少ない方だけど、ツクヨミにはまぁまぁいるね」


 曲者ぞろいの面子が揃っているなと穂高は思っていた。


 「次に創造系(クリエイト)。無から有を生み出すという意味では操作系とあまり変わらないけど、創造系は物体に自分の能力を付与出来るっていう最大の武器があるんだ。上手く使えば妖刀とか作れるね。千代の“本当の偽物(リアル・フェイク)”がそう」

 「千代さんの能力で妖刀を作ったらどうなるんですか?」

 「さぁ、相手の能力をコピーできる刀が出来るんじゃないかな。千代は不器用だから出来ないけどね」


 ツクヨミが使用している装備箱という不思議なアイテムも創造系の能力者の力を借りて作られたものらしい。千代は不器用というか気分にムラがあるから集中力が持たなさそうだと穂高は思っていた。


 「最後に支配系(ドミネート)。これは相手を自分が作り上げた空間内のルールに引きずり込んで戦う能力だね。強力だけどその分出力の調整が難しくて、発現したとしてもすぐに暴走して死んじゃう人が多いんだ、だから全体の割合だと一番少ないね」


 渡瀬の能力が属する系統でもある。確かに穂高は今まで多くの能力者と戦ってきたが、支配系の能力者は渡瀬とリーナぐらいしか見かけたことがなかった。


 「この世界に存在する能力は数万種以上と言われているけど、それら全ての能力は辿っていくと『操作』、『干渉』、『創造』、『支配』の四つの能力に繋がるんだ。この四つの能力から枝分かれしていって能力の系統が生まれたんだよ。

  さらに細かく分けて、操作系(オペレート)の『現象』、『力』、『生命』、『気象』、干渉系(レイド)の『感覚』、創造系(クリエイト)の『創造』、支配系(ドミネート)の『支配』。ツクヨミはそれぞれの系統の頂点にあると思われる最上位の能力をこの七種に体系化したんだ。僕達はこの七つの能力を持つ能力者を“守護者”と呼び──」


 渡瀬はジュエリーである黒いグローブを右手に着けた。渡瀬の右目に赤い光が灯る、穂高達のような普通の能力者が灯す青い光とは全く別物だ。


 「こうして赤い光を持つんだよ。穂高君は、こんな能力者を何人も見てきたでしょ?」


 渡瀬は笑顔でそう言いながら自分の右目を指差していた。

 穂高が見たことがある赤い光の能力者、もとい守護者と呼ばれる人間達は……渡瀬に詠一郎、牡丹、ジャンにオスカル、ツバキ、そして革新協会の統帥だ。穂高は七人の守護者全員と出会っているし戦ったことがある。


 「詠一郎さんが『力』の能力を持ってるのは知ってますけど……他の能力って見ればわかりやすいものなんですか?」

 「あくまで昔のツクヨミが大きな括りでざっくり作っただけだから、どんな風に能力を使うかはその人次第かな。あくまで参考程度にって所だね。詠一郎さんは『力』、牡丹さんは『創造』……牡丹さんは面白い使い方をするけどね」


 そもそも頂点に立つという七つの能力の分類がざっくりし過ぎていて、結局のところそれぞれの能力が何をどう出来るのかはわかりにくい。牡丹の能力が『創造』と言われていても、あんな遊び感覚で使われていてはピンと来ない。オスカルが持っていた『感覚』の能力は相手の五感を狂わせるという風に作用しており、それがかなり厄介だったと穂高は思い返す。

 渡瀬が持つジュエリー、サファイアのグローブは『支配』の系統に属するものだ。そして『支配』の系統の頂点は一つしかない。


 「じゃあ、渡瀬さんの能力は『支配』なんですか?」

 「うん、そうだね」

 「……支配って具体的に何をどうするんですか?」


 支配系(ドミネート)の説明を聞く限りだと、自分が指定した範囲内にのみ適用されるルールを課すというような空間支配の類の能力だ。渡瀬が以前穂高に見せた、あの『雷』の能力に似せたメカニズムが穂高には推理できなかった。


 「支配系能力は能力者が指定した特定の範囲内、空間内でしか作用しない。その広さを上手く調整しないとすぐに能力が暴走しちゃうぐらいには調整が難しいけど、かなり強力な能力なんだ。ものにしてしまえば何も怖くないんだよ。例えばこんな風に──」


 渡瀬は右手からマジックのように光り輝く剣をポンッと生み出した。それはデザインこそ違うものの、穂高の『光』の能力で作る光剣と一緒だった。心なしか渡瀬の剣の方がかっこいい。

 さらに渡瀬は左手から禍々しいオーラを放つ黒い剣を生み出した。これも穂高の『闇』の能力で作られる黒剣と一緒だ。やはりこちらも渡瀬のデザインの方がかっこいい。後で真似しようと穂高は思った。


 「僕は穂高君のモノマネをすることだって出来る。僕の『支配』の能力は、全ての能力の上位互換でもあるんだよ。普段は雷の能力っていう風に偽ってるけどね。詠一郎さんや牡丹さんにも。

  千代は頑張って僕の能力をコピーしようとするけど、千代でも上手く出来ないみたいだね」


 渡瀬の説明を聞きながら、穂高は顔を引きつらせながらも微かに笑っていた。穂高は以前から渡瀬との格の違いを感じていたが、穂高が想像していたよりも渡瀬は遥か雲の上に存在するような強さの能力者かもしれない。改めて、彼が味方でよかったと穂高は思っていた。


 「……じゃあ、何でも出来るってことですか?」

 「出来ることは出来るけど、やろうとすると能力が暴走しかねないから制限はかけているよ」

 「それは、僕に教えても良いことなんですか? 牡丹さん達にも秘密なのに?」


 渡瀬は光剣と黒剣を消すと、ポケットに手を突っ込んでフフッと笑っていた。


 「こう見えても、僕は穂高君のことを信用しているよ? 牡丹さん達よりかはね」

 「同じ土地の生まれの(よし)みですか?」

 「フフ、そうかもね」


 それは穂高にとってとても光栄なことだったが、意外なことでもあった。穂高の目には渡瀬が牡丹達のことを信頼しているように見えていたからだ。だが渡瀬の能力は彼の説明が本当ならあまりにも危険だ。暴走なんてしたら誰も止められないかもしれない。牡丹達に危険視されないように何となくはぐらいかしているのだろう。


 「そんな神様みたいな力を持っている存在を相手に戦えと?」


 穂高はジュエリーの腕輪こそ着けているものの、まだ能力を発動していなかった。渡瀬の能力はわかったが、渡瀬も穂高と同じ能力を使えるようで、さらに他にも術があるはずだ。おかげでますます勝ち筋が見えなくなっていた。


 「じゃあ、僕に勝てるかもしれない一手を教えてあげるよ。穂高君もよく知っているはずだよ、“紋章共鳴”っていうものをね。穂高君は誰から教わったんだい?」

 「……革新協会の統帥からです」

 「成程ね。どういう風に教わった?」

 「能力の暴走状態を制御できるようにして、より強大なパワーを出せるようにする術だ、と」


 能力者が暴走すると、その能力者の限界を超える出力で能力が使用される、宿主の意思に関係なく。勿論それは能力者の崩壊を招くが、その暴走という状態は危険ではあるものの上手く扱えるようになれば非常に強力であることは穂高も能力者狩りの頃から知っていた。


 「少し違うね」


 グローブを着けていた渡瀬の右手に赤い光が灯され、点滅するように光っていた。


 「ただ無闇矢鱈に能力の出力を上げればいいってことじゃないんだよ」


 渡瀬の右手には黒い刀のような物体が生み出されていた。その形状には見覚えがあった、牡丹が前に穂高に見せたものと似たようなデザインのものだ。どうやらそれは、彼ら守護者だけが持つ武器らしい。


 「何が違うんですか?」

 「力任せに暴れるのとは違うってことだよ。僕達は自分の能力の方向性を定める必要があるんだ。紋章共鳴はどうやら火事場のクソ力を出すためだけのものだと勘違いしているみたいだからね、穂高君は……いや、穂高君の中に眠る人は」


 渡瀬が目を見開いた。その瞳と言葉に穂高はこの冬の寒さ以上の悪寒を感じていた。

 気味が悪いことを言う。穂高の中にもう一人の人間がいるわけがない。花咲病はもう治っているはずだ、他の人格があるとも思えない。


 『嘘』


 だが──穂高は知っていたはずだ。彼は何度も目覚めさせたのだ。

 そう、私は知っている。


 

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