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第二部後編 六十四話「キスのあと」のあと アスター視点その一

 少し前に遡る。

 グローワームの岩洞にて。オーガの群れに襲われたアスター達は──



─────────────

(アスター)


 垂れ下がる鍾乳石の影。左、四頭。右は六頭か。差し当たり、アスターは手前にいる敵をチェックした。奥にはもっとうようよいるだろうが。

 この広場から抜けられる通路はざっと見て五つある。

 


「おい、小太。魔物の気配が強いのはどの通路だ?」


 隣で身構える小太郎にアスターは耳打ちした。



「……そうすね。たぶんイアン様は一番左端の道を選ぶかと」


「よし」



 右六頭は放っとくか。取り敢えずイアン達が進む左側を空けなくては──アスターは方針を固めた。


 柱の影から奴が現れる前に駆け出す。



「行っけええええええーーーー!!!」



 叫びながら、青い光の中をアスターは走った。一番手前の柱、異形が襲ってくる寸前に(ラヴァー)を振り下ろす。



『う……硬い』



 石でも斬っているみたいに硬い。分厚くよく締まった筋肉だ。

 アスターに袈裟斬りされた異形……オーガはあえなく、くずおれた。振り上げていた金棒が地面に落ち、派手な音を立てる。



『げ……あんな巨大な金棒……(ラヴァー)で受けたら数回で折れてしまうぞ』



 この鉄製の棍棒は非常に野蛮であった。

 力のあるものが振るえば、破壊力は抜群である。持ちやすいようスリムな持ち手から次第に太くなっていく形状──シンプルだが機能的なデザインだ。打撃面には幾つもの突起が飛び出しており、威圧感を醸し出している。

 

 アスターは後ろを駆け抜けて行くイアン達の気配を感じながらオーガを観察した。


 高度な知能・技巧は持たず、力だけで戦うタイプだ。動作は鈍く連携もしないだろう。



『頭数が多くなければ、大したことはない。厄介なのはこの金棒だ。剣で受ければ折れてしまう……しかし、これは何のための突起なのか。これじゃあ、相手に突き刺さって戦いにくいではないか』



 金棒から突き出すトゲトゲの有為性が気になった。それと製法も。



『後から取って付けたようには見えぬ。中から突き出すよう加工したのだ。この戦いにくい阿呆な造形を作り出すのに無駄な技術を注ぎ込んでいる……………………と、こんな呑気に考えてる場合じゃないぞ』



 取り敢えず、金棒の突起物は威嚇のための物だと結論付ける。


 前方で剣の折れる金属音が聞こえた。サチか、カオルか……青い薄闇の中では誰がやらかしたかはっきり見えない。イアンは普段阿呆だが、剣に関してそんなボケはかまさないから違うだろう。


 アスターはラヴァーをしまい、倒したオーガの金棒を持ってみた。



『重い……こりゃラヴァーの二倍はあるぞ』



 ちょうど良く背後に気配を感じたので、試しに使ってみることにした。


 牙を剥き、飛びかかって来るオーガ。人型とはいえケダモノだ。

 人間と変わらぬ応対ができる知的な天狗や河童とは大違いである。彼らに語りかけて、まともな返答は期待できないと思いつつも……

 


「よし、いいぞ。いい所に打ち込んできた。褒めてやろう……むむむ。何という力の強さだ」



 拾った金棒で相手の攻撃を受けてみた。余りの力強さに吹っ飛ばされそうだ。何とか踏ん張るも体ごと持って行かれる!……と思ったのでアスターは手を離した。


 オーガは突然抵抗がなくなったために地面へ勢い良く突っ込んだ。その間にアスターはラヴァーで斬りつける。



「アスター様、何遊んでんすか?」



 後ろから小太郎の声が聞こえる。見られていた。



「む……オーガの持ってる金棒が気になっただけだ」


「もう……真面目にやってくださいよ」


「お前こそちゃんと打ち合わせ通りやれよ?」



 喋りながら二人同時に腰を落とした。

 頭上をブーーーンと金棒が過ぎていく。

 左右、二頭のオーガに挟まれている。ほぼ同時に、それぞれ向かい合うオーガへ刃を突き刺した。



「やっぱ、硬いっすね。人間は柔らかいすよ」



 小太郎は飄々と呟きながら刀を振った。

 彼の身長はイアンと同じくらいあるが、エデン的な顔は幼過ぎる。剣技はまだ発達途中だ。さりとて、反射神経、洞察力、精神力は一流である。総合的に見ればイアンより能力値は高いかもしれない。


 加えて何事にも動じない寛容な性格はアスターとも相性が良かった。表面の印象通り、大人しく真面目ではある。慣れないと取っ付きづらいのは短所。潔癖性や余計なこだわりがないのは長所。また、細やかな気配りや思いやりも感じられる。ここら辺は忠兵衛と通ずるのでエデン人の特徴なのか。


 飄然としながら、時折達観しているように見えるのは過酷な経験を積んだからなのだろう。だが、ひねくれた所はなくイアンやシーマに比べると断然素直である。つまり扱いやすい。


 アスターは自らが祭り上げた王の三代目を気に入っていた。



「ちょっとでも怪我したら、その(まげ)をちょん切ってやるからな? 覚悟しろよ?」


「じゃあ、アスター様は(ひげ)を切ってくださいね」



 緊迫した空気の中、こうやって軽口を叩けるのは嬉しい。時々、言葉が通じない時は教えてやればいいのだ。



「イアン達は行ったか?」


「ええ……」



 小太郎は不安を滲ませた。気持ちはアスターにも痛いほどよく分かる。


 イアンとサチを行かすことに決めたのは最後の砦だからだ。と、同時に守らねばいけない存在であることがアスターを悩ませていた。


 イアンは剣に置いては天才的である。

 実のところ、アスターは自分より勝っていると思っていた。イアンに以前勝ったのは経験と狡知のお陰だ。純粋な強さだけならイアンの方が上。


 そして、サチは圧倒的な力を内包している魔人である。平均以下の運動能力は通常モード。危機が迫った時に能力は発動する。


 アスター、忠兵衛、小太郎の方が通常時だったら能力は高い。だが、ただの人間だ。


 最終局面に置いて化け物的な二人を配置するのは妥当な判断と言えばそう。守るべき対象でないのなら。


 加えて、この二人はちゃんと自分の能力を分かっていなかった。戦略的に能力を使えるかが難しい。特にサチは全く使いこなせていない。イアンにおいては精神が未熟だ。

 カオルとイザベラが足を引っ張ることも考えられる。


 相撲で遊んでいる時、イアンと忠兵衛からカオル達のことを聞いた。彼らに対するアスターの評価は違うものになっている。


 強い殺意を持った暗殺者であれば、幾らでも寝首をかけたのである。あの二人はそれをせず邪魔するどころか手助けまでしていた。

 あの女王の命で来たにしてはヌル過ぎる。無駄な動きだらけで、てんでやる気を感じられないのだ。要するに流されて、深い考えもなしについて来たのだと思われる。それはそれで問題だが。


 忠兵衛の話だとカオルは女王と切れている。アキラの死により絶縁したのだと。蓬莱山までついて来たのは友人であるイアンを気遣ってのことだと。

 

 大体は納得いく。気になるのは一点。

 イアンと「友人」という点だ。謀反の後、別れるまでイアンとカオルは主従関係だったはず。


 二人の空気からは、わだかまりが感じられた。


 イアンは裏切られたことに対する怒り。カオルは羨望転じて妬心(としん)※を抱いている。上手く協力して戦えるとは思えなかった。


 イザベラに関してはよく分からないが、サチのことを気に入っているので、手出しはしないと思われた。ただし、意識せずとも自分勝手な振る舞いが足を引っ張る可能性はある。



『ま、ごちゃごちゃ考えても仕方ない。あとは天に任せるしかあるまい』



 アスターは眼前に迫ったオーガの首を斬り飛ばした。勢い余って、返り血が目に入りそうになる。少しでも気が緩めば、命を取られる世界だ。


 

『集中するぞ』



 オーガの肉は硬い。

 ラヴァーのような大剣でも斬り辛いのだから、打刀※の小太郎と忠兵衛はもっと辛いだろう。



『とっとと終わらせよう』



 奴らを一カ所に集める。

 集める場所までは打ち合わせていない。状況判断で察してもらおう。出来るはずだ、小太郎と忠兵衛なら。


 だだっ広い洞は芋虫の発する青い光で満ちていた。天井全体が光量多めの星空である。この不自然かつ美しい光景には誰しも心打たれた。

 

 人が「光」に惹きつけられるのは自然の理だ。人だけじゃない。羽虫だって光には引きつけられる。燃焼という化学反応で放たれる光も無論美しいが、闇を照らす生命力というのはまた別格である。珍奇だからではなく、命と光が直接結びついているからこそ魅力を感じるのかもしれない。


 しかしながら、青という色は不安も誘起させた。


 憂鬱に喰われる前にさっさと片付けたい──とアスターは思った。


 気まぐれなのかなんなのか。鍾乳石の堆積する場所はまばら。一カ所、集中的に堆積している箇所があった。位置的には広場の左端。

 幾つもの石柱が天井から槍のごとく突き出しているため、天然の(おり)が出来上がっていた。


 オーガの巨躯では石柱の間を潜り抜けるのは不可能だ。が、人間の体格なら可能である。知能の低いオーガを集めるにはそこが最適かと思われた。



『あとはレーベに貰ったアレが上手く発動してくれればいいのだがな』



 魔法の札は魔術師でなくても使える──とは言っても万全ではない。

 使用者の精気を消耗する。消耗量は封じた魔術のレベルにより異なる。高度な魔術だと全く発動させられない場合もある。



 出発前に聞いた。寝不足で呂律の回らぬレーベの話だと……



「普通の人で一日使える量は低級魔法三枚れす……それも一度には使えまえんよ……アスターさんは普通の人より体力はあいますけど、魔力はほとんどありまえん。テストで札を発動させられたのは奇跡的れした……重大な場では他の人に頼んだ方が無難れしょう」



 徹夜で札に魔術を封じていたので、レーベの疲労困憊は予想以上だった。大きな隈を作り、ほとんど目も開けられていない状態。見た目では眠っているのか起きているのか分からないほど。今にも倒れそうだった。無茶を言って本当に悪かったとアスターは思う。


 エデン行きが決まった翌日には発ちたかった。だから、一晩で魔法の札を二十枚作れと依頼したのである。



『こちらも命懸けなのだ。許せ』


 

 他にもイアンが可愛がっていた孤児の世話まで頼んでいるし、頭が上がらない。そう、あの孤児はレーベと同じ学匠の学校へ入れることにしたのだ。寮の部屋も同じにするよう手配したから、何から何まで世話をしてもらうことになる。


 後で埋め合わせをしないことには、何かとんでもない反撃をされそうで恐ろしかった。


 レーベはこうも言っていた。



「これは……昨日作ったのではなく……運良く封じてあった札ですが……特に転移魔法メタフォーラとバースト系のイクリクシーは相当の魔力を……要します……同行するサチ・ジーンニアに使わせてくらさい……彼なら発動させられると……思います……」



 ──だがな、そのサチ・ジーンニアがそばにいないのだよ



 アスターは向かってくる金棒を避けつつ、別のオーガの体からラヴァーを抜いた。

 目の端に映った小太郎へ声をかける。



「小太!! もっと進め!! おまえが先導するんだ!」



 ──シーマは特別な力を持つ妖精族とな? その三代目なら札の魔法を発動させられるやもしれん




※妬心……妬む心

※打刀……日本刀

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