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大樹のこころを聴かせて  作者: 梅谷理花
第一章 道壱一族という呪い
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09 練

 晃麒の名前を呼んだ青年はあたしに気付くとぺこりと頭を下げる。


「突然失礼を。……入っても?」


「……どうぞ」


 晃麒とはうって変わって丁寧な人だ。青年はまた一礼してから部屋に入ってきて、晃麒の頭をげんこつで軽く叩いた。


「打ち合わせに来ないから探しに来てみれば。油を売っている場合じゃないぞ」


「あはっ、だって『奥方様』気になるじゃない」


 はた、と青年はあたしの方を見た。晃麒と見比べるようにして、流れるような仕草で畳に膝をついた。そのまま頭を下げる。


「奥方様とは知らず、重ね重ね失礼を。あとこいつの言動も許してやってください」


 頭を思いっきり押さえつけられた晃麒は痛い痛いと文句を言っている。でも青年は離す気がないらしい。


「あの……そんなに、かしこまらなくても。あたし、そんな大層なものじゃないし」


「ご寛大なお心、感謝します」


 青年は頭を上げる。晃麒の頭も離した。晃麒はむすっとしながらも青年の隣で正座に姿勢を直した。


「名乗りが遅れましたね。白道家の当主嫡男、白道(れん)です」


「……涼音です」


 練、と名乗った青年を観察する。今日はやたら見たことのない人が現れる日だ。


 知的な四角い眼鏡をかけていて、長めの髪を後ろでひとまとめにしている。


 服の生地はよく見ると灰色の他に銀糸も織り込んであるようだ。首に香り袋がかけてあって、そこだけ色味がある。これはラベンダーの香りだろうか。


「なんだかんだ練にいも涼音おねーさんに会ってみたかったでしょ?」


「あのな。あとでお会いするとわかっているのに先走る奴があるか」


「えー」


 ふたりのやりとりを観察しながら聞く。あとで?


「あとで、ってことは、午後のお客って、あなたたち?」


 そうですね、と練が頷いた。


「あとふたりいますが、そのことでしょう。なんでも、この里に不慣れな貴女のために、相談役として各家から同じ年頃の者を集めることになったとか」


「……そう」


 不慣れもなにも、慣れたいともあまり思わないけど。


 それを言ってもどうしようもないのはわかっているから、曖昧な返事に留めた。


 練は言葉を続ける。


「同じ年頃、といっても俺はもう22ですし妻もいますから、だいぶ離れているとは思うのですがね」


「そう、なんだ」


 22歳で結婚しているのは相当早い気がする。婚約者がどうのとか言ってたし、この里ではこれくらい当然なのだろうか。


「それで、相談役とはどういうものかという事前説明に晃麒が来なかったので探していたわけです」


「てへぺろー」


「反省しろ、まったく」


 というわけで、と練は立ち上がる。


「午後にまたお会いいたしましょう。こいつは俺が連れて行きますので」


「……はい」


 ぐいぐい連れて行かれながら、晃麒は面白いことを思いついたように笑った。


「そのうち練にいと涼音おねーさんが略奪駆け落ち大恋愛したら面白そうだよね?」


「バカなこと言ってないで早くついてこい」


 ……なんだかにぎやかなふたりだ。練が一礼してふすまを閉めると、一気に部屋の温度まで下がった気がした。

次話は7/8投稿予定です。

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