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大樹のこころを聴かせて  作者: 梅谷理花
第一章 道壱一族という呪い
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06 初夜

 宗主屋敷で白無垢から着替えたと思ったら、今度は道壱一族に五つある家の当主に挨拶に行くとかで宗主と一緒に里中を車で連れまわされた。


 宗主屋敷は里の南西にあって、西にある白道家、北にある黒道(こくどう)家、北東にある里の入り口を守る黄道(おうどう)家、東にある青道家、南にある赤道(せきどう)家、の順に挨拶をしていった。


 青道家は、当主家の長男である縹悟が宗主をしているので、その弟が当主をやっているのだという。


 他の家は代々当主家の長男が当主を務めているという話だった。血統主義の塊みたいな一族だ。


 車で通るだけでみんな宗主が来たとわかるようで、中には通りすがりに手を合わせてあたしたちを拝んでいるおばあさんとかがいた。


 そういうのを見ると、どうにも居心地が悪かった。


 あと、やっぱり最初に見た印象は間違っていないようで、この里には役所も病院も学校もそろっているらしい。とんでもない一族だ。


 そんなこんなで、宗主屋敷に戻ってきたのはもう夜になろうかという頃だった。


 あまりにも壮大な一族を見せつけられたので、こんな屋敷でも、少し見慣れているというだけでなんだか安心してしまう自分がいる。


「つるばみ」


 自分の部屋に戻ったあたしは、部屋着に着替えさせてくれているつるばみに声をかけた。


「なんでしょう?」


「もう……あの人と、一緒に食事しないと、だめだよね」


「…………」


 つるばみは手を動かしながら黙り込む。しばらく沈黙が落ちて、きゅっと帯が締まった。


「……今晩だけ特別に、お部屋に持ってこられないか交渉してみますね」


 できあがり、と軽く肩を叩いて微笑んでくれたつるばみに、ほっとする。


「ありがとう」


 部屋から出ていくつるばみを見送って、あたしは部屋に敷いてある座布団にへたりこむ。文机に突っ伏した。


「疲れた……」


 ごはんを食べて、お風呂に入って、もうとっとと寝てしまいたい。


 でも、現実はあたしの思ったようにはいかなかった。


 食事は部屋に持ってきてもらえたけど、そのあと。


 お風呂に入って、どうにか寝巻きくらいは自分で着られるようになったあたしが部屋に戻ると、つるばみが待ち構えていた。


「つるばみ?」


「……こちらにお召し替えください。お手伝いいたしますね」


 つるばみの声が少し硬い。不思議に思いながら言われるままに寝巻きと襦袢の中間みたいな和服を着る。


 絹でできているらしいこれは肌触りがよすぎて、なんていうか、なにも着ていないみたいだ。


「こちらへ」


「え?」


 つるばみが部屋のふすまを開ける。あたしはこれからなにが起こるのかわからないまま部屋の外に連れ出された。暗い廊下を、屋敷の奥へ向かって進む。


 最初に宗主に会った大広間の前に着いたと思ったら、つるばみは左に曲がった。


 よく見るとその方向に細い廊下がある。あれ以来ここに来ることなんてなかったから、気付いてなかった。


 廊下の奥は木製の壁になっている。つるばみは数ヶ所をコンコンと叩いて、なにをしているんだろうと思っているあたしの前で、隠し扉になっていた壁を開けた。


「……!」


 砂利と飛び石、そして灯籠。その先には、小さな小屋がある。こんな小屋があるなんて、当然のように知らなかった。


「おいでませ」


「……はい」


 つるばみに手を引かれながら、小屋へ向かう。扉の外側に大人の手のひらくらいの大きさがある古びた南京錠みたいな鍵がついているのがなんだか威圧的だ。


 今は開いているらしいその鍵をどかして、つるばみは扉を開けた。


「中へ。私はここまででございます」


「中に、なにが……?」


「…………」


 つるばみは答えない。あたしはどんな心もちでいればいいのかわからないまま小屋の中へ入った。


 後ろで扉が閉まる。視界には、小屋の床に敷かれた少し大きいひと組の布団と、奥に座っている宗主。


 まさか、そんな。嘘でしょ……?


 こんなの、絶望だ。背中から、錠前が閉まる冷たくて無情な音が聞こえた。

次話は6/17投稿予定です。

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