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大樹のこころを聴かせて  作者: 梅谷理花
第四章 過去という幻影
48/54

48 それでも

 数日後、やっぱり静かに過ぎてしまった朝食の終わり。すっと席を立った縹悟に、待って、と思い切って声をかけた。


「なんだい」


 縹悟は淡々と振り返る。感情がこもっていない、事務的な声だ。


 でもあたしはめげるわけにはいかない。箸を置いて、縹悟の瞳を見上げた。


「今日は、あたしも一緒に、ご神木に祈りに行かせて」


「…………」


 縹悟は驚いたようにふちなし眼鏡の奥の目を瞬かせる。やっと感情が見えた。


「だめ?」


「……構わない、が」


 戸惑うように、それでもいいという答えが得られてほっとする。あたしは所在なげにたたずんでいる縹悟をよそに手を合わせて立ち上がった。


「じゃあ、待ってて」


「ああ……」


 困惑する縹悟は無視して言いたいことを言って、部屋から出る。縹悟に先に行かれないように急いで自室に戻って小紋に着付けてもらった。


 上着を着せてもらって、玄関に向かう。草履を履きながら門のほうを見ると、ちゃんと車が待機しているのが見えた。


 縹悟が中にいるのを確認して、その隣に乗り込む。運転手が静かに車を発進させた。


 窓の外に視線をやりながら、縹悟がそっと口を開いた。


「どんな、心境の変化だい?」


「……変わったのは、縹悟のほうでしょ」


「…………」


 あたしの返事に、縹悟は黙ってしまう。そのまま会話もなく、車は青道家当主の屋敷に向かった。


 屋敷に着いて、隠し扉をくぐって、ご神木の前。縹悟が扉を閉めたところで、あたしは縹悟のほうに向き直った。


「縹悟」


「……なんだい」


 縹悟の怪訝な視線が降ってくる。あたしは目を閉じて胸に手をやり、すう、とひとつ息を吸った。


「あたしは、……これからも縹悟と一緒にここに来るし、食事だって一緒に食べるし、夜も……一緒に寝る。たとえ縹悟が母さんの面影を追っているだけで、あたし自身に興味がないとしても」


 目を見て決意を言いつのると、縹悟は面食らったようだった。


 縹悟はしばらく驚いたような表情で固まる。ややおいてあたしから目をそらすようにうつむき、ぽつりと言葉をこぼした。


「何故?」


 あたしの答えは、もう決まっている。


「これからずっとそばにいるのに、無視して生きていたくないから。どんな結婚でも、相手のことを知らないままでいたくないから」


「そう、か」


「別に縹悟に同じようにしてほしいとは言わない。これはただの、あたしの決意表明」


「…………」


 黙り込んでしまった縹悟に、あたしはつとめて笑いかける。


「ほら、一族の安寧を祈るんでしょ」


「あ、ああ」


 縹悟は大樹に向き直って手を合わせる。あたしも一緒に祈りを捧げた。


 この大樹にも、誓おう。あたしは、縹悟のことを知りたいという気持ちを、諦めずに生きるんだ。

次話は4/7投稿予定です。

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