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大樹のこころを聴かせて  作者: 梅谷理花
第四章 過去という幻影
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47 原点回帰

 あの夜以降、それまでは少し柔らかくなっていた縹悟の態度が最初の頃のように戻ってしまった。


 今朝もなんの会話もなく朝食が進む。あたしもどう接したらいいのか、わからない。


 こんな気まずいままでいたくないのに、でもきっとそう思っているのはあたしだけ。縹悟はむしろこれこそが当然くらいに思っているのだろう。


 嫌ってくれて構わない、なんて。あたしはそんなことがしたいわけじゃないのに。


 食べ終わった縹悟が手を合わせた後、すっと立ち上がる。あたしは声をかけられずに手に持ったご飯茶碗に目を落とした。


 ここ数日、縹悟とろくに話ができていない。縹悟が部屋から出ていくと、自然とため息がこぼれていた。


 ご神木に祈りに行くのも、気まずくて一緒に行けていない。なんか、どんどん悪い方向に転がっていってる気がする。


 あまり味のしない食事を終えて、あたしも部屋を出る。自分の部屋でつるばみに小紋を着せてもらって、客間に向かった。


「涼音おねーさん、おはよー」


 相談役のみんなは毎日代わる代わるあたしのところを訪れてくれる。あの夜縹悟と話した内容についても、かいつまんで伝えてあった。


 今日は晃麒の番らしい。あたしは笑顔を作る元気もなくふすまを閉める。


「おはよう、晃麒」


 あたしの覇気のない声を聞いて、晃麒はわかりやすく眉を下げた。


「あーあ、鳶雄にいの言った通りだ。相当落ち込んでるね」


「まあ、ね……」


 でも、彼らと話す時間は気を紛らわせてくれるから、これでも感謝しているのだ。


 座布団に座って、ついつい小さくため息が出てしまう。晃麒があたしの顔を覗き込んだ。


「おねーさんはこれからどうするの? 今度こそ練にいと逃避行でもしちゃう?」


「どうしたらいいのか、まだわからなくて困ってるところ。逃げたりは、したくない」


「ふーん」


 晃麒は少し意外そうにそう呟いて、なにかを考えるようにした。


「僕はよくひとをからかって遊ぶけどさ」


 突然晃麒が言い出した言葉に、あたしは思わず小さく笑ってしまう。


「自覚あるんだ」


「わざとやってんだもん、自覚あるに決まってんじゃん。そうじゃなくて」


 晃麒が頬を膨らませたので、あたしはおとなしく続きを待った。


「相手の地雷踏んじゃって喧嘩になることも、ないことはないわけ」


「うん」


「そーゆーときって、相手をなだめようとしても、あんま効果ないんだよね。だって考えを変えるかどうか、怒りを収めるかどうかって、決めるのは相手だし」


「そう、だね」


「だからいっつも僕が折れて謝るんだけどさ。なんか、なんていうんだろ。相手との関係がこじれたときに、変えられるのは自分のことだけなんだよなって、思うんだよね」


「…………」


 晃麒なりに、アドバイスをくれようとしている。それがわかって、あたしは心強さを感じる。


 ひとは変わらない。変えられるのは、自分だけ。


「あたしと縹悟のことも、それに当てはまるのかな」


「それはー、正直僕にはわからないけど。宗主サマは頑固だし、まずは涼音おねーさんがなりたい方向に変わっていくのが、近道かなとは思うよ」


 あたしが縹悟と、どうなりたいか、か……。それなら、考えればどうにかできそうな気がする。


「ありがとう、晃麒」


「あっは、お礼なんていいよ。なんか柄にもないことしちゃったや」


「たまにはそういう晃麒もいいと思うよ」


「うっわ超恥ずかしくなってきた」


 晃麒は顔を覆う。あたしは久しぶりに心から笑って、そのまま晃麒と雑談にふけったのだった。

次話は3/31投稿予定です。

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