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大樹のこころを聴かせて  作者: 梅谷理花
第三章 縹悟という男
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38 聴こえる音

 それから、あたしはまず小学校でやっている特別授業の時間にお邪魔して、小さい子たちと一緒に能力の扱い方を学ぶことになった。


 小学生の、それも低学年の子たちはまだ宗主がどうとかいうのはわからないみたいで、自然体で接してきてくれるのが可愛い。


 どうしておねえちゃんが小学校にいるの? って訊かれたときは、ちょっと、困ったけど。


 あたしは聴覚クラスに編入した。そこでは先生が床に落とした針の音とその本数を当てる、なんていう忍者みたいなことを普通にやっていて、なんだか面白い。


 そんなふうに面白がりながら訓練をしていたら、なぜかあたしだけ成長が速いということで一週間でひとつ上の学年に移されたりした。


 見えない力が後押しでもしているようです、と先生に言われたときは、少し複雑な気持ちになった。


 たしかにあたしはここにいることを決めたけど、それは運命とかそういうのじゃない。


 まあ、それは深く考えてもどうしようもないことで。成長速度が速いことそのものは、悪くないはずだ。


 そんなわけで、今日も特別授業に行って、宗主屋敷まで車で帰ってくる。


 つるばみに来客を告げられたので客間に向かうと、学ラン姿の蘇芳がちょこんと座布団に座っていた。見慣れた和服姿と違うから、なんだか物珍しい。


「よ、涼音。おかえり」


 蘇芳の声は名前の通り蘇芳色という感じで、ぱりっとしている。


「ただいま、蘇芳。学校帰り?」


「ん、そんなとこ」


 あたしは蘇芳の向かいにある座布団に座る。蘇芳はちょっと身を乗り出した。


「その後、訓練は順調?」


「うん。もうほとんど制御できるようになった」


「へえ、いい調子じゃん」


「ありがとう」


 蘇芳はうーん、と宙を見上げる。


「涼音の能力は聴覚から全部だっけ? どんな感じなんだ?」


「視覚の接続が優位だって言われたけど」


「ほう」


「全部の感覚が毎回反応するんじゃなくて、視覚はほとんど反応するけど、ほかの感覚は場合によるっていうことみたい」


「へええ……。儀式のあと気絶したって聞いたけど、たしかにそりゃ脳がパンクするわ」


「うん、そうなんだよね」


 そんなふうに蘇芳と他愛ない話をしていたら、いつの間にか夜が近付いていく。


 ふと廊下を歩く音を耳が拾って、あたしは客間のふすまの方を向いた。


「つるばみ?」


 一拍おいてふすまが開いて、予想通りつるばみが廊下に膝をついている。


「夕食が近いですけれど、蘇芳様はご同席されますか?」


「いや、おれは帰ります」


「かしこまりました」


 つるばみは微笑んで応じて、ふすまを閉めて去っていく。蘇芳が驚いたようにあたしの顔を見た。


「……ほんとに成長が速いのな、もう足音の聞き分けまでできるんだ?」


「そう、だね。しょっちゅう聞く足音とか鳥の鳴き声とかは、なんとなく」


「すげえや」


 純粋な褒め言葉に、あたしはちょっと照れくさくなって曖昧に微笑んだ。

次話は1/27投稿予定です。

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