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大樹のこころを聴かせて  作者: 梅谷理花
第三章 縹悟という男
34/54

34 ひとつの決意

「それで、体調は崩さずにすんだと」


「うん。これからはもう、大丈夫だと思う」


「よかったね」


 今週は晃麒の順番を飛ばして、鳶雄が来ている。今日もいつもの客間で、何気ない話をしていた。


「そういえば今週はどうして晃麒じゃなくて鳶雄の番なの?」


「ああ、練さんが謹慎になったでしょう。あれで家々の勢力図が揺らいでいるらしくてね。晃麒は当主屋敷に引っ込んでいるんだ」


「…………」


 あたしを逃がそうとして、謹慎になった、練。彼がどこまで家の意志を通そうとして、どこまであたしに同情していたのか、わからないままだ。


「黒道家は涼音さんの結婚に賛成の立場だから、オレは気楽に宗主屋敷に来られるけどね」


「鳶雄も、この結婚に賛成?」


「オレとしては話がややこしくて正直どうとも言えないと思ってるけど、父上にはなにか考えがあるらしい」


「そう……」


 あたしを巡って、様々な思惑が交錯する、道壱一族。


「あたし、……とんでもないところに来ちゃったんだなあ」


「逃げたくなった?」


「ううん。もう逃げないって、決めたから」


 ふと、鳶雄が黙る。丸眼鏡の奥で、瞳が深い色をたたえた。


「キミが逃げないと決めたとしても、キミを一族の人間として歓迎しない人間は、まだ一定数いる」


「……?」


「なぜなら、キミは一族の人間として必要不可欠な要素を欠いているから。ここまで言えば、わかるよね」


 あたしは鳶雄の言いたいことを察して、でも、すぐには噛み砕けずに、間があいた。


「……あたしに、能力がないから……ってこと?」


「そういうことだね。宗主様は血が入っていればいいという説得のしかたをしているけど、納得していない人はもちろんいる」


「それは、そうかもしれない、けど」


 鳶雄は座布団に座っている姿勢を正す。


「ところで、この里の人の中でも、能力が現れるのが遅い人というのがいる」


「個人差?」


「そんなところだね。でも小学校に上がると、もう能力がある前提で話が進むから、そのときには能力が現れていないと困るんだ」


「でも、そんなの……どうするの?」


 鳶雄は少し、あたしに顔を近づける。


「無理やり、こじ開けるんだよ。専用の儀式があって、それをするとほぼ確実に、能力が現れる」


「無理やり、こじ開ける……」


 そこで話が繋がって、あたしは目を見開いた。


「つまり、あたしもその儀式をすれば、能力が現れる……?」


「涼音さんの場合は半分しか血が入ってないから、かもしれない、だけど」


「そ、っか」


 あたしは突然の情報に、戸惑いを隠せない。一族の人間として、認められるための、儀式……。


「かなり辛いとも聞くから、積極的におすすめはしないけど。ただ、能力がないと一族の人間として認めないっていう人がいるのも確かだよ」


「……ありがとう、参考になる」


「いえいえ」


 あたしはここで生きていくと決めた。誰に認められるとかは考えてなかったけど、でも、この里で生きていくのに能力が必要だっていうのも、なんとなくわかる。


 能力を発現させるための、儀式、か……。




 その夜、あたしは早速縹悟にその話を振ってみることにした。


「今日、鳶雄から、能力を目覚めさせる儀式があるって聞いたんだけど」


「ああ……黒道家は、君の能力を開花させたがっているからね」


 また家の思惑の話か。あたしはちょっとイラっとする。そんなことより、あたしは縹悟がなにをどう思っているのかのほうが、よっぽど興味がある。


「あたしがもしそれをやったとして、能力は現れると思う?」


「……やりたいのかい?」


「一族の人間として、認められるのに必要だ、とも言われたから」


「…………」


 縹悟は黙り込む。しばらく考えるようにしてから、口を開いた。


「私個人の考えでは、君にも能力が眠っているのではないかと思っている。ただ、推測に過ぎないし、あの儀式は相当負荷がかかるから、君に無理にやれとは言わなかった」


「あたしは……やってみたい。ここで生きていくのに、必要なら」


 あたしは縹悟の目をまっすぐ見つめる。縹悟は戸惑うように視線を揺らした。


「君にその覚悟があるなら……やってみようか」

次話は12/30投稿予定です。

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