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大樹のこころを聴かせて  作者: 梅谷理花
第二章 相談役という鎖
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23 黒の昼

 なんだかんだ鳶雄に言いくるめられて、あたしは宗主屋敷からいちばん近いところにある里の喫茶店に連れて来られていた。


 ちょうどランチタイムで、そこそこ混んでいる。宗主屋敷の人も相談役の彼らもみんな和服だから、この里の人はみんな和服だと思い込んでいたけど、普通に洋服の人もいた。


「うーん、2組待ちか。宗主家権限で先に入れてもらう?」


 鳶雄が待ち人数名簿を見てさらっと怖いことを言ったので、あたしは慌てて首を横に振った。


「あたし、そういう権力の使い方とかしたくない」


「そっか。じゃあちょうど待合の椅子がひとつ空いたみたいだから座りなよ」


「ありがとう」


 ポップスがオルゴール調で流れて、人のざわめきがある店内。閉塞感のある里だと常々思ってきたけど、こういう場所もあるんだ。


「和服と洋服の人がいるけど、使い分けとかあるの?」


「偉い人は和服を着るのが慣例かな。あとは正装として着るときはみんな和服だね」


「へえ……」


 ちなみに、と鳶雄は悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「紫系統の色の和服は宗主家系列の人しか着ることを許されないので、涼音さんは嫌でも目立っているはずです」


「……!」


 言われてみれば、色の濃淡はあれどいつも用意されている和服は紫色だった。もちろん今日もそうだ。


「オレのこげ茶の羽織は黒道家の偉い方の人の色だし、たぶんすごーく目立っているだろうね」


「……恥ずかしい……」


「ふふ、まあ、涼音さんが待つと言ったんだから、ゆっくり待とうか」


「意地悪」


 でも、権力の乱用をするよりは目立つほうがマシだ。たぶん。




 そしてようやくあたしたちが席に案内された頃には、店中の注目があたしたちに集まっているのがひしひしと感じられた。


 ひそひそ声で噂話でもされているんじゃなかろうかと気が気じゃない。


 鳶雄はコーヒーとナポリタン、あたしはココアとサンドイッチを注文した。あたしは鳶雄に顔を寄せる。


「……噂話とか、聞こえる?」


「うーん、秘密」


 鳶雄はにっこり笑って、先に届いたコーヒーを一口飲んだ。仕方ないのであたしもココアを口に含む。


「ていうか、鳶雄は音が色や形に見えるんでしょう」


「見えるというか感じるというか、そうだね」


「こんなにガヤガヤしたところ、鬱陶しくないの?」


 鳶雄はぐるっと店内を見回した。丸眼鏡の奥で目を瞬かせて、ふわりと笑う。


「むしろ、音が多い方が好きなんだ。色鮮やかでね。音楽とかも普通に聴くよ」


「へえ、意外。静かなほうが好きなのかと思った」


「涼音さんは好きな音楽はある?」


 あたしはちょっと言葉に詰まる。好きで聴いていた音楽といえば……。


「男性アイドル、好きなんだよね……」


「いいと思うよ。オレは最近ボーカロイドに手を出し始めたんだ」


「それこそ意外。機械音なのに」


「それが面白い色味や形でね。けっこうハマってる」


「へえ……」


 それから届いた料理を食べながら、ふたりで音楽の話をした。


 他愛ない、道壱一族にも関係ない、なんでもない話。そんな話をしているうちに、あたしは少しだけ憂鬱が紛れていくのを感じていた。

次話は10/14投稿予定です。

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