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大樹のこころを聴かせて  作者: 梅谷理花
第一章 道壱一族という呪い
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11 鳶雄

 廊下を突き当たって大広間の前まで来ると、ちょうどふすまの前にこげ茶の着物を着た青年が佇んでいた。蘇芳があれ、と声を上げる。


「どーしたの、鳶雄(とびお)?」


 鳶雄と呼ばれた青年はゆったり振り返る。蘇芳を見て丸眼鏡の奥の瞳を細めた。


「ああ、蘇芳。ちょうどお手洗いに行った帰りでね」


「ま、緊張するからなー」


「その方が『奥方様』?」


 鳶雄の言葉でふたりぶんの視線があたしに向く。あたしは少し緊張しながら頷いた。


「一応、そういうこと、らしいんだけど」


「そう」


 鳶雄はおっとりと微笑む。天然パーマの髪を好きなように散らしていて、それがふわふわと揺れた。


「なるほど、噂に聞いていた通りあまりいい音じゃないね」


「手触りもまだまだよくないんだよな」


「?」


 あたしがふたりの真意をつかめずに黙り込むと、鳶雄はあ、と声を上げる。


「ちゃんと自己紹介……はあとでもするけど、黒道鳶雄です。ふたりのふたつ上かな、よろしくお願いします」


「涼音です、その……よろしく」


 あたしと会釈をしあって、鳶雄は少し考えるようにした。


「うん、もとの音は悪くなさそうだね。早く素のキミが出せるようになるといいんだけど」


「そのためにおれたちがいるんだろ? 涼音が心を開いてくれるようにさ」


 蘇芳が楽しげに笑う。鳶雄は少し驚いたような顔をした。


「蘇芳、もう呼び捨てにする仲なわけ?」


「いや、勝手に呼んだ!」


「そういうとこだよ、キミは……」


 得意げな蘇芳とは裏腹に、呆れた表情の鳶雄。あたしと目が合うと鳶雄は苦笑した。


「ごめんなさい涼音さん、こいつ距離のとりかたちょっと下手なんだ」


「別に、なんでもいいけど」


 答えながら、午前中に会ったふたりを思い出す。


 さしあたり、晃麒と蘇芳が突っ走るタイプで、それをなだめているのが練と鳶雄なのだろう。


 4人とも面識があるみたいだし、あたしだけ部外者なのは、やっぱり緊張するな……。


「で、顔合わせって何時からだっけ?」


「もうそろそろ、だね。15時からの予定だから」


 あたしは藤色の小紋の袖を軽くまくって、腕時計を見る。14時53分。


 この腕時計はおじいとおばあが中学の入学祝いに買ってくれたもので、制服もなにもかも没収されてしまった中で唯一残った品だった。


「あと7分だけど」


 あたしが言うと、ふたりは顔を見合わせた。


「宗主様は5分前行動の人だからやばいぞ。早く席に着かないと」


「行きましょう、涼音さん。全員とすでに会っちゃったわけだけどね」


「……はい」


 あたしが最初に宗主と対峙した大広間。そのふすまを開けて、あたしたちはその中に足を踏み入れた。

次話は7/22投稿予定です。

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