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涙の流星群  作者: 最上優矢
第四章 忘却の夏

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39/81

口論

 二人の刑事が大浦家から去ってから数十分後、ようやく父と母が帰宅したのだが、二人とも見るからに興奮していた。


 父と母に興奮の理由を訊くと、二人は喜んで自分たちが興奮している理由を語ってくれた。

 どうやら両親は警察署にただ呼び出されたわけではなく、たくさんの幻想事件を幻想捜査係の刑事から聞かされたらしい。


 それで目を爛々と輝かせ、饒舌になっているわけか、とぼくは心底あきれた。


 子ども心を忘れない大人というのも、案外厄介なものだと、ぼくは目の前の父と母から教わった。


 それはともかくとして、父と母は死者蘇生事件について何も知らなかった。

 なので、ぼくらは幻想捜査係の刑事たちが大浦家を訪れていたことを、ずばり両親に打ち明けた。


 最初は気持ちが昂っていた父と母も、二人の刑事の目的を知ると、たちまち冷静になった。


 ぼくらは夏奈さんの身に起こった幻想事件を含め、父と母にすべてを説明した。

 それが済むと、ぼくは涙交じりに今の心境を語った。


 父は目をつむったまま、母は手を組んだまま、ぼくの言葉に耳を傾けていた。


「ぼくらがしたことは、夏奈さんを不幸にすることだった。夏奈さんを悲しませることだった。夏奈さんを傷つけることだった。

 それは決してなかったことにはできない真実だ。

 だというのに、ぼくらはこれからも夏奈さんにウソをつき続けようとしているし、ウソをついたまま友達という関係を続けようともしている。

 本当に救いようがない子ども以下の子どもだよ。……けど、そんなぼくらでも絶対に曲げてはいけないものがあったんだ。

 それは信念。

 どこまでも卑怯者で嘘つきのぼくらでも、自分たちが信じる考えだけは絶対に曲げてはいけないと、少なくともぼくは気付いた。希望である信念だけは絶対に曲げてはいけない、そうぼくは気付いたんだ。

 だからさ、ぼくらはこれからも夏奈さんにウソをつき続けるよ。

 それがウソをついたぼくらのけじめだと思うんだ」


 自分の話を終えてから、ぼくは父と母の様子を恐る恐る観察した。

 父は身動ぎもせず、集中したように固く目をつむったままだった。

 母は涙目でぼくを見つめ、けれど涙が浮かんだ目は決してこすらず、絶対に手を組むのをやめなかった。


 そんな重苦しい雰囲気を最初に破ったのは、ぼくらの母、大浦奏だった。


「わたしから言わせればね、翔……あんたはもう充分よくやっているわ。

 悪意のない純粋な心をフル活用し、それで考えあぐねた結果、これぞというような最善の一手を思い付いている。

 あふれんばかりの優しさで、友達の未来を考えている。

 ねえ、それでもう充分ではないかしら。

 あとは幻想捜査を専門に扱う刑事さんたちに、すべてを任せましょうよ。

 それがいいわ、そうしなさいよ、翔。

 わたしはね、あとで翔が傷ついて立ち直れなくなることが恐ろしいの。怖いの。

 あんただってもう子どもじゃないんだから、子を想う母の気持ちを、どうか理解してあげてちょうだい。どうか察してあげてちょうだいよ、翔」


 そこでついに母は手を組むのをやめ、両手で顔を覆い、ワッと泣き出してしまった。


 ぼくは母が泣き出すのを見て、こちらももらい泣きしそうになり、たまらず目頭が熱くなった。


 そんなとき、ぼくらの父、大浦隼人がようやく目を開け、「翔」とぼくの名前を呼んだ。


「お前の気持ちはよく分かった。だから、これはおれからの忠告だ。

 ――これ以上の深追いはやめておけ。絶対に後悔するぞ。

 これはお前たちの手に負えないものだ。

 夏奈ちゃんの幻想事件は専門の刑事たちに任せて、お前たちはいつもどおりの日常に戻りなさい。いいな?」


 いいはずがなかった。

 それで引き下がるぼくではない。


 こうして、ぼくは三十分以上も父と口論をすることになった。

 結果、父のほうが折れる形で、この口論は終わりを迎えた。

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