下
宮元と話しながらカラオケボックスに入ったので席は隣同士になった。回りを見渡すと、女子と男子が交互に座っている。合コンのようだな、と思いながら5年ぶりに会っても皆、すぐに馴染めていることに感心する。
「 広田の○○の歌聞きたい人!」
宮元の悪ノリが始まる。ハイッ、ハイッと全員の手が挙がる。
「やめてよー。もう、忘れてるって!歌えないって!」
悪あがきもむなしく、懐かしいイントロが流れる。画面には可愛いアイドルのPVが。ここで場をしらけさせる私ではない。ぶりっ子を捨てノリノリで歌う。ちなみに私は音痴だ。うぅ、恥ずかしい…。やっとの思いで歌い上げ、宮元にマイクを押し付け、今、はやりの人気グループの歌をお返しに歌わせる。
「 宮元がラブソングをあま〜く歌います!静かに聴いてあげて!」
宮元に頭をはたかれる。宮元の下手なラブソングをBGMに横の寺山君と近況報告をし合う。彼はミュージシャンになる夢を追っているらしい。そのせいで2留だけど、と自嘲気味に笑う。堅い職業に就く卒業生が多い中で彼のように夢を追い続けている人は珍しい。かく言う私も堅実な人生設計しか描けないし追いかけたい夢も持っていない。少し寺山君を羨ましく思う。色々な人生があるものだな。プロデビューできるといいね、と応援した。
宮元が歌い終わり、早瀬とゆっこにウケねらいではない可愛い曲をリクエストする。あぁ、彼女達のような立ち位置に今日はいるつもりだったのに、と思うが、時すでに遅し。
「そういえば、宮元は今何してるの?」
茶化してばかりで肝心の近況を聞いていなかった。
「 ん?一浪してるからまだ学生。大学院に行くつもりだから当分学生だな。」
「学生はこれから肩身狭くなってくるね。」
「早く社会に出なきゃな。お前も婚期を逃すなよ。」
余計なお世話である。宮元は彼女と結婚するつもりなのかな。どんな人だろう。気になる気になる。宮元がタイミング良く、
「広田の彼氏ってどんなやつ?写メとかないの?」
あら、宮元もひょっとして気にしてくれてた?
「宮元の彼女も見たい!」
お互い携帯を交換して写メを見せ合う。
「ふ〜ん、誠実そうな人じゃん。こんないい人そうな人を騙すなんて悪い女だなー。」
谷山君が会話を聞きつけて、私の携帯を宮元からむしり取る。携帯が皆に回される。あちこちで、優しそう、いい人そうだね、広田が貢がせてる人か、かわいそうに、なんて勝手な声が聞こえる。かっこいいという声が聞こえず少しがっかりする。
「貢がせてない!ラブラブだもん〜。」
と、のろけてみせる。宮元お彼女は三つも年下なのに大人っぽくて綺麗だった。正直、負けた、と思った。
楽しい時間はすぐに終わる。私と早瀬は門限があるので3次会には名残惜しいが行かず帰ることにした。今度このメンバーに会えるのはいつになるのだろう。もう会えないかもしれない、と思うと急に寂しくなった。
一緒に勉強して大学に進んだ仲間だが今は皆別々の道を歩いている。皆、色々なことを経験して大人になりながら。高校生の頃よりは成長したな、と思う。一人前になったような顔をしていたあの頃が恥ずかしい。経験が知識を増やすのだと知った。成長しなければ分からないことも多いことも知った。これからも、年を重ねて初めて知ることだらけだろう。同じように迷って成長してきたメンバーがいることはとても心強かった。高校の頃に戻ったようにお喋りをしていても中身は大きく違っている。また会えるとき恥じないように成長していたいな、この場所に来てよかったと思った。
再会を誓って別れる。宮元とも当分会えないな、と思っていると、
「俺も彼女が待っているから帰ります!今日はありがとう。また会おうな。」
と、宮元の大きな声が響く。心の中でやった、と呟く。三人で居心地のよかった場所に背を向けていつもの日常に向かって歩き出す。早瀬とも途中で別れて二人きりになる。
繁華街なので深夜前でも街は明るくにぎやかだ。少々うるさいぐらいだ。静かでなくてよかった。余計、ドキドキしてしまう。
「今日、本当はもう少し人数多かったらしいな。俺も有田と一緒に行くつもりだったのにドタキャンされた。」
「あ〜そういえば、高森も来るとかゆっこが言ってたなぁ。」
「その名前は禁句じゃねぇの?!」
私がさらっと口にした元彼の名に私の様子を伺うように宮元が尋ねる。
「振られたからあんな人、嫌い。」
むくれる。
「いや、でも俺は五分五分くらいで両方悪いと思ったよ。」
笑いながら宮元。
「うん。私も悪いと思ったからこないだ会ったとき謝った。初めて素直に謝れたよ。」
「偉いじゃん。貢がせてすみません、とか?
まぁ、二人の事情は二人にしか分からないしな。回りには絶対分からないよな。」
なんだか意味深だな。
「色々あるよね、失恋はしんどいよね。」
野暮なことは聞かず二人しんみりしながら切符を買った。
「宮元、どこで降りるの?」
「△△駅。お前は**駅だったよな、確か。」
覚えててくれたんだ、嬉しくなる。一緒にいられるのは後四駅か。楽駆った分、別れが辛くなる。
「今日は盛り上がったな。親しいやつが少なかったからどうなることかと思ったけどなんとかなるもんだな。広田がいてくれてよかったよ。」
「ふ〜ん。久しぶりに会うだけで結構盛り上がるものだね。」
言ってから、もっと素直に、私も宮元と会えて嬉しかったとか、何で言えないかな、と後悔した。私の駅に着く。
「じゃあ、バイバイ。またいつか、かな。」
「おぅ。たまにはこっちの方にも遊びにこいよ。何でもおごってやるぞ。」
「ほんと?!フランス料理でもおごってもらおうかな。」
「金、無い。」
「じゃ、またね。」
「おぅ、また。」
一回振り返って微笑んで別れる。もしかして誘ってくれたのかな、茶化したことをまたもや後悔。まだまだだな。これからもっと上手に振舞えるようになれるのかな。なんて思いながら一人になった家路を急ぐ。何年後かに宮元に会ったら素直に話せるようになったらいいな。
メールが鳴る。彼氏かな、宮元にときめいてしまった分、少し罪悪感が生まれる。宮元からだった。ん?何で?
「俺の連絡先、幹事の山本にメールしといて。メアド聞かれたのに言うの忘れてた。
そういえば、広田の誕生日三日前だよな。おめでとう。お互い頑張ろう。」
あら、誕生日まで覚えててくれたの。二日前だけど。でも嬉しい。
「分かった。ありがとう。宮元も一週間くらい前誕生日だったよね。おめでとう。
また、そっちに遊びに行く。おごってね。」
短いメールを2,3回して終える。今度こそ本当にさよならだ。
宮元のことが好きなのだろうか。好きだなぁ、と思う。ただ、付き合うとか男女の関係には絶対にならないだろう。これからも。宮元とはまた会うだろう。同窓会とか、遊びに行ったりして。けれど、その時にもお互いの傍にはもっと大事な人がいるのだろう。それで良い気がする。友達と恋人の間とでも言えばいいのだろうか。響きはいいがとても中途半端だが気分は悪くない。新しい男女の関係があると知れたことも今日の収穫の一つである。こんな関係がいつでも続くといいな。そんなことを思いながら同窓会は幕を閉じた。
読んでくださった方、ありがとうございます。
小説を書くのはとても難しいですね。
評価していただけると嬉しいです。