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第三十九話 侵入


「先日は失態をおかしたが、これで必要なものはすべて揃った」


 ラジオからノイズ混じりの音声が響く。


「攻め時だ。少年院を攻略して殺人鬼を捕らえる」

「捕らえる? たしか少年院には殺人鬼のほかにまだ一人スキルホルダーがいたはずよね」

「あぁ、だが、彼はもうこちら側に引き入れてある」

「それって大丈夫なのか? 裏切りとか、二重スパイとか」


 咲希の意見はもっとも。


「あぁ、失態のこともあってより注意深く聞いている。不穏な動きはないし、彼には重要な情報を与えていない。聞き漏らしはないさ」

「それなら大丈夫、ですかね?」

「むーん」


 誰もが先日のことを気にしている。

 この場にいる俺以外の全員が切断されて、全滅寸前だった。

 それを思えば慎重になるのも当然。

 それでも今はボイスを信じて行動するほかにない。

 加西先生を捕らえ、スキルホルダーの悪印象を払拭する。

 そうしないと人々に受け容れてもらえない。


「信じていいんだな? ボイス」

「あぁ、信じてくれ」

「……わかった」


 今一度、ボイスを信用しよう。


「作戦の内容はどうなっているのかしら?」

「あぁ、これから話す。まずは――」


§


 夜。

 月が真上に昇るころ、俺たちは少年院の壁に張り付いていた。

 いよいよ少年院に踏み込み、加西先生を――殺人鬼を捕らえる。

 作戦開始を告げるのは田角による壁の切断だった。


「敵襲!」

「魔物が入って来たぞ!」


 グラウンド側の壁が崩れ、そこで偽物の魔物がなだれ込む。

 それに対処するために出てきたのが、こちら側に寝返った峰里みねざとだ。

 峰里は冷気を操り、攻撃で次々と偽物を処理していく。


「おいおいおい、俺一人にやらせる気かよ。桑山も木船もいねぇんだ。隠れてないでテメェらも働け!」


 怒鳴られて建物からジャージ姿の何人かがグラウンドに出る。

 これで建物にいる人数が大幅に減った。


「今のうちだ」

「あぁ、行こう」


 それを見計らって、俺たちはグラウンドの反対方向から侵入する。

 血の結晶で出来た坂を登って壁を越え、下り立つと建物の窓を割って侵入した。


「真央。案内して」

「はいー、そのまま進んでください」


 この場にいるのは俺と筆崎、凜々、志保、咲希の五人。

 真央は近くの建物で相坂と共にいる。

 蝶々の分身を使っての案内役だ。

 前方にひらひらと舞う蝶々を見付けて角を曲がる。

 その先にも蝶々がいて俺たちを誘導してくれた。


「その角の先に二人いますよー」


 走る速度を落とし、ゆっくりと先の廊下を見る。

 その先では懐中電灯を持った二人組がそわそわとした様子で話し合っていた。


「おいおい、襲撃ってマジかよ」

「壁が老朽化してやがったんだ。簡単に崩れ落ちたってよ」

「大丈夫かなぁ。まだ死にたくねぇぞ、俺」

「大丈夫だって。いざとなったら先生がどうにかしてくれるって」

「でも、あの人、人殺しだぞ? 足手まといになったら」

「変なことは考えるな。何も考えずに従ってりゃ生きていける。殺人鬼でもいないよりマシなんだからな、世界がこうなっちまったら」


 そう話ながら二人は仕切りに周囲を警戒している。

 それは俺たちを探しているというより、魔物を恐れていると言った風だった。


「侵入はバレてないみたいだ」

「騒がれる前に無力化する。俺がやろう」


 筆崎がスキルを発動し、二人の足下に墨溜まりを置く。


「なんだこれ?」

「ぎゃっ!?」


 そこから突き出た棒の一撃によって顎を打った二人はそのまま気を失って倒れる。

 これで道が空いた。


「もうすぐだ」


 気絶した二人を跨いで、先へと向かった。

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