第二十九話 敵地偵察
「短剣を手に入れた今、殺人鬼との戦いも近いわ」
あの火男と決着を付ける時が側まで来ている。
あの日、家庭科室から飛び出てきた火炎のせいで尚人との友情が壊れてしまった。
仇討ちとは言わないが、俺が殺人鬼を止めないと。
「相手は本気で私たちを殺しにくるわ。だから、出来る限りの準備をしましょう」
「具体的には?」
「そうね……まずは殺人鬼の拠点を突き止めることが先決だわ」
殺人鬼も人だ。戦い続けてはいられない。
俺たちのように拠点を構えているはずだ。
「拠点が見付かれば行動を把握しやすいし、作戦も練りやすいわ」
「それもボイスが教えてくれるといいんだけどなぁ」
咲希はラジオのほうをちらりと見る。
ノイズ混じりの声は響いてこない。
「忙しいって言ってたし、次の機会がくるまでは私たちで出来ることをしないとだね」
「そうですねー。拠点がどこにあるかー……手がかりは凜々さんとイヅナさんが争ったという二人組にありますねー」
「ボイスが言うには殺人鬼の手下だからな」
現状、唯一の手がかりだ。
「その二人はスキルホルダーではなかったのよね?」
「あぁ、間違いない」
使う素振りも見せなかったし、使われていたら首の傷だけじゃ済まなかった。
「なら、拠点はキャンプ場の近くにあるはずよ」
「あぁ、スキルもなしに遠出は出来ないもんな」
「この近くで拠点に出来そうな場所は……」
「数は絞れますが、まだまだ多いですねー」
徒歩で移動できる距離に限定して、拠点に出来そうな場所に印を付ける。
各自で印を付けていると、ふとペンが止まった。
「少年院……」
「どうかしたの? イヅナくん」
「あぁ、ここじゃないかと思って」
少年院に印を付ける。
「なるほど、少年院。ここなら壁もあるし魔物やゾンビが入り込み辛いはず。あの日、なんとか持ち堪えられたかも知れないわね。キャンプ場からも近い」
「じゃあ、あの二人は」
凜々と目が合う。
「受刑者かも」
人に向かってバットを振り下ろすのに、首筋にナイフを当てるのに、些かの躊躇もなかった。
世界がこうなったから変わってしまったのか、もしくは最初からそう言う人間だったのか。
どちらにせよ危険だ。
「確かめてみる必用がありそうね。真央がいれば安全に偵察も出来るし、二人が少年院にいるなら内部の大まかな間取り図もほしい。一度、少年院に行ってみましょう」
「だな、準備しよう」
手早く準備を整えて、少年院へと向かった。
§
「ここがそうか」
背の高い建物の屋上から見下ろした少年院。
敷地を取り囲む高い壁に破損はなく、以前の状態を保ち続けている。
あれなら押し寄せるゾンビや魔物も跳ね返せるだろう。
唯一、空からの侵入だけは防げないが。
「グラウンドにも、どこにもゾンビが見当たらないね」
「片付けたんでしょう。もしくは中で死者が出ていないか」
「殺人鬼が率いてる受刑者たちって言うからにはもっと殺伐としてるもんだと思ったけど、静かだなぁ」
「まぁ、少年院の受刑者全員が重犯罪を犯してる訳じゃないからな」
とはいえ、重かろうと軽かろうと警察のご用になったことに変わりはないけど。
「でも、警戒はするべきだ。慎重にいこう」
「はいー。では、行きますよー」
屋上から降りて、壁の近くへと向かう。
そこから真央が蝶々の分身を向こう側へと送り込む。
その間、俺たちは真央を守るために周囲を警戒する。
「どうかしら?」
「人がいましたよー。ご飯を食べているみたいですー」
「やっぱり中で人が生きてるのか」
閉じ込めるための壁が防護壁になった。
「あの二人もいるでしょうか?」
「いるかもな。真央にしか様子がわからないし、確かめられないけど」
「むーん。では、試してみましょうかー」
そう言うと真央は俺の手を握る。
瞬間、脳内に映像が流れ込んできた。
「うぉっ!? 凄い、見えた」
「おー、やれば出来ましたー」
蝶々視点で物を見ることができ、中の様子を把握できる。
真央のスキルはこんなことも出来るのか。
「どうですか? イヅナくん」
「あぁ、なんというか不思議な気分だけど……見付けた。あの二人だ」
キャンプ場で争った二人組を揃って見付けた。
やっぱりここの受刑者だったか。
「それにしても」
「そうですねー」
「なになに? どうしたんだよ」
「格差が酷い」
「格差?」
「一部の連中が食堂のテーブルを独占してるんだ。ほかは地べたに皿を置いてるし、喰ってるものも余り物みたいだ」
「それに一人前にしては少ないですねー」
スクールカーストならぬ少年院カースト。
あの二人は上位に位置しているようでテーブルで食事をしている。
「大人の人も見当たりませんねー」
「そうだな……」
どこかにいるのか、もういないのか。
「殺人鬼を見付けられればいいけど、顔を知らないからな」
「今回はあくまで偵察よ。中に人がいるとわかっただけでも収穫だわ。あとは大雑把に間取り図を書いて撤収しましょう」
「あぁ、そうだな」
食堂から蝶々が移動し、廊下を渡る。
蝶々を介して見える光景を頼りに簡易的な少年院の間取り図を真央と二人で書き上げていく。
それもあと少しで完成というところで、進路先にある扉が音を立てて開く。
部屋から出てきたのは少年院の中で初めて見る大人。
背が高く、すらりとしていて、髪型はオールバック。
その人は蝶々の存在に気がつくと視線を持ち上げる。
そうして見えた正面顔を見て、心臓が跳ねた。
「――この人、知ってる」
「え?」
「担任の……先生だ」
加西繁文。
「どうして、こんなところに」
俺のクラスを受け持つ先生であり、家庭科の教科担任だ。
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