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第二十三話 血路を駆ける


 乗り捨てられた自動車の間をすり抜けて進む。

 時折、自動車の下敷きになったゾンビが腕を伸ばしてくるので、その都度対処をした。

 岸辺さんと咲希が先導し、殿しんがりを俺と詩穂が勤める。

 凜々は自動車の上にあがって、全体を見渡す役割だ。


「中にもいるな」


 近くを通ると、自動車の窓を叩いてくる。

 流石に割って出てくることはないが、子供がびっくりしていた。


「屋根の上は進めないか?」

「どうかしら。この人数よ、移動に時間がかかるし、狭いわ。空から襲われた時に犠牲が出るかも」

「地上をいくほうがマシか」


 ほかにも乗り捨てられた自動車が使えないかと話し合う。

 結論は複数台での移動は孤立の可能性があるため危険、だった。


「渋滞を抜けるぞ」


 前方から岸部さんの声が聞こえ、まもなく自動車の群れを抜ける。

 ここからは列ではなく一塊になり、外側を俺たちと岸辺さんで囲んで進む。

 周囲を警戒しつつ進んでいると数体のゾンビが寄ってきた。


「俺が」

「えぇ、任せたわ」


 集団から外れてゾンビに向かい、抜刀とともに帯電した刃で首を落とす。

 そのまま刀を幾度か振るい、寄ってきたゾンビを全滅させた。


「すぐに戻って」

「あぁ」


 処理を終えてすぐに持ち場に着き直す。

 これを繰り返すことで着実に進んでいく。


「見ろ。あの建物だ」


 岸部さんが指差した先に大きな建物、市民会館が見えた。

 多目的ホールとしても利用され、避難所として指定もされている。

 災害が起こった時は多くの人がここを目指す。

 自衛隊が拠点を構えるにはぴったりの場所だ。


「みんな、頑張ってくれ。もうすぐたどり着けるぞ」


 その言葉を聞いて、安堵したように口数が増える。

 このまま何事もなく進めばいいが。


「ワォオオォオオォオォオオォオオオオ!」


 木霊する咆哮。連鎖する雄叫び。

 それが鳴り止まないうちに建物の陰や曲がり角から魔物の群れが現れる。

 数を数えるのも面倒な規模だ。


「どうやら彼らの縄張りに入ってしまったようね」


 よく人が通るから、それを狙って集まったか。


「ど、どうするんだよぉ」


 じりじりと寄ってくる魔物たちに、こちらもスキルをちらつかせて威嚇する。


「どうするもこうするも……」


 凜々がライフルを構える。


「手段は一つしかない」


 俺も刀を抜く。


「強行突破だ! 俺に続け!」


 岸部さんが小銃を撃ちながら包囲を破ろうと突っ込む。

 それに合わせて全員が地面を蹴って後を追い掛けた。


「ワォオォオォオオオォオオオ!」


 こちらが動けばあちらも動く。

 数多の牙がこちらへと迫り来る。

 ナイフが燃え、水の弾丸が飛び、血の結晶が放たれ、帯電刀を振るう。

 次々に魔物の命を断ちながら、前へ前へと突き進む。

 スキルと銃弾が乱れ飛び、数々の死体がアスファルトの上に横たわる。

 それに足を取られてしまったのか、子供が一人転んで群れの最中に取り残された。


隼人はやと!」

「俺がいく!」


 今にも飛び出しそうな父親を制し、助けに向かう。

 すでに魔物は子供を取り囲んでいる。

 大口を開き、喉元に噛み付こうとしていた。

 このままでは間に合わない。雷撃を放とうにも子供まで感電しかねない。

 思考は瞬間的に巡り、俺は稲妻で磁界を発生させた。


「上手くいけ!」


 浮かばせるのは刀。帯電した刃を磁力で操り、手元を離れたそれを薙ぎ払う。

 見えない糸で振り回すように一撃を見舞い、子供に群がっていた魔物を一掃した。


「よし!」


 帯電刀を手元に引き寄せ、死体の中から子供を拾い上げる。


「怪我は!?」

「す、擦り剥いただけ」

「そうか、よかった」


 無事を確認し、飛び掛かってくる魔物を斬り捨てる。


「もうちょっと頑張れ。すぐにパパの所に連れて行ってやるからな」


 稲妻を纏い、地面を蹴る。

 すでに凜々たちと距離が空いていた。

 魔物が無数に立ち塞がり、こちらを仕留めようと睨み付けてくる。

 その最中へと突っ込み、道路の脇に乗り捨てられた自動車を磁力で浮かばせた。


「喰らえ」


 帯電刀を振るい、その方向へと自動車は転がっていく。

 軌道上にあるものはすべて薙ぎ倒して押し潰し、自身を赤く染めながら建物に激突した。

 目の前は赤く染まり、その飛沫を散らしながら血の川を渡る。

 後方からの襲撃も雷撃で撃ち落とし、障害を排して凜々たちの元へと辿り着いた。


「隼人!」

「パパ!」


 父親に子供を渡すと二人は互いに抱き締め合う。


「ありがとう! 本当に!」


 感謝の言葉を聞きつつ、周囲に目を向けた。

 魔物の死体から流れる血は、出来る限り詩穂が吸収している。

 だが、それでもすべては吸いきれない。

 魔物の血に引き寄せられて、ゾンビまでもがこの場に乱入する。

 その数の多さの前では足を止めざるを得ない。


「あぁ、くそ! 弾切れだ!」


 岸辺さんは銃を捨ててナイフを構えた。


「凍らせても、燃やしてもキリがない!」


 氷塊の側を通り火炎を跨いで、魔物が、ゾンビが、押し寄せてくる。


「イヅナくん!」

「駄目だ。近すぎてこっちまで感電する!」


 馴染みの手は使えない。


「なら、私が囲いを――」


 大量の血液が俺たちの周りを囲い込んだ、その時だった。

 銃声が連続して鳴り響き、周囲の魔物とゾンビが横たわる。

 音がしたほうを見上げると、建物の屋根に数人の人間を見た。

 迷彩柄の衣服を身に纏い、手には小銃を構えている。


「岸辺! 生きてたか!」

「大杉!」


 自衛隊、岸辺さんの仲間だ。


「俺たちだけじゃないぞ」


 遠くから重い音が響き、それが曲がり角から姿を見せる。

 回転するキャタピラ、長い砲身、乱射される機銃、重厚な装甲。

 それは間違いなく戦車だった。

 それが魔物やゾンビを一掃しながらこちらにやってくる。


「わおっ! 映画みたい!」


 喜んでる場合じゃないけど、気持ちはわかった。

 けれども、気を抜いてはいられない。

 まだまだゾンビも魔物も大量にいる。

 再びスキルを振るい、俺たちはこの場にいる全員を守り続けた。

 そうして砲身から砲弾が飛び、耳を覆いたくなるような爆発音と共に多くが吹っ飛ぶ。

 その一撃で決着が付き、脅威は一体もいなくなった。


「よく戻ってきたな、岸辺」

「あぁ」


 二人はがっちりと手を握り合う。


「彼女らのお陰だ」


 岸部さんがそう言い、大杉さんがこちらを見る。


「キミたちはスキルホルダー、だね」

「えぇ、そうです」

「キミ達が彼らを守りながら進んでいたことは見えていた。礼を言うよ。だが……」

「大杉」

「無理だ。スキルホルダーを中に入れるわけにはいかない」

「でもっ」


 食い下がる岸辺さんに、大杉さんは首を横に振る。


「俺からも頼む。息子を救ってくれた恩人なんだ!」

「そうよ、私も助けられたわ!」

「いい子たちなんだ! 誰も傷つけたりしない!」


 そう口々に声があがる。

 その姿を見ていると胸に込み上げてくるものがあるが、どうにもならないことはある。

 俺たちは互いに顔を見あわせて頷き合い、代表して詩穂が言葉にする。


「皆さん。ありがとうございます。気持ちはとても嬉しいです。でも、私たちはこの先に行けません」

「でも」

「いいんです。私たちにはスキルがありますから、避難しなくても生きていけます。私たちは大丈夫ですから、心配しないでください」


 詩穂の言葉で嘆願の声は止まった。

 これでいい。


「自衛隊を代表してキミたちに礼を言う。民間人を、仲間を救ってくれた。協力に感謝する」


 そう言って彼らは揃って敬礼をする。

 それはとても光栄なことだった。


「元気でね」

「かならず生き残れ!」

「また会いましょう!」


 自衛隊と共に去っていく人たちを見えなくなるまで見送る。

 痛いほど振った手を降ろし、俺たちは一息をついた。


「さて、それじゃあ帰りましょうか」

「あぁ、そうだな。はやく拠点に帰って寛ぎたいよ、あたし」

「ミカン、大丈夫かな?」

「ミカン?」

「ポメラニアンだよ。拠点でお留守番してもらってるの」


 そう話ながら女性陣は歩き出す。

 俺もそれに続こうとして、ふと自分の両手が目に付いた。

 血で真っ赤に汚れた凄惨な手の平。

 だが、こうしたお陰で大勢の命を救うことが出来た。

 俺はこの汚れた手を誇りに思うべきだ。


「イヅナくん?」

「今いく」


 顔を持ち上げて四人を目に映し、足を前に出す。

 こうして俺たちは大きなことを成し遂げた達成感に満ちながら家路についたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一応、避難所なのだから 自分や仲間の親や兄弟が生きてる可能性もあるので 「岸辺さん、バスの中で渡したリストの人がいたら安全な拠点で元気にやってると伝えて下さい」 ぐらい言って別れ…
[気になる点] 電気も水もあるし、防壁まであって追い出す理由が不明瞭。
[気になる点] 前話の感想で車を磁力で動かせないか、と思っていましたが出来るようですね。それだとバスが動けないときにどうしてやらなかったのか、何らかの理由付けをしないと辻褄があわないかも?
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