第十七話 武器を求めて工房へ
翌朝になって俺たちは拠点を後にした。
咲希の案内で刀匠の工房へと向かう。
「便利だなぁ。イヅナのスキル」
建物から建物へ。
瓦礫橋を渡して先へと進む。
そうして歩くことしばらく、それらしい建物が見えてくる。
「あそこか?」
「そうそう。あちゃー、結構壊れてるなぁ」
「前に来た時はもっと立派だったのに」
「凜々も来たことがあるのか?」
「はい。私たち四人で見学に」
「へぇ。俺も見て見たかったな」
物作りの過程は、なんであれ見ていて楽しい。
「この辺に降りよう」
工房近くに瓦礫橋を渡して地上に降りた。
すると、物陰に隠れていたのか、ゾンビがふらりと現れる。
数は三体。
俺たちは顔を見合わせると、稲妻を纏い雷撃を放った。
§
「先客がいたみたいだな」
「ですね……」
刀匠の工房に入った所、刀や剣は一振りも見付からなかった。
置いてあったと思われる場所はあったが、すべて空になっている。
「考えることは皆、一緒なんですね」
「あぁ、こんな世界になったんだ。誰だって武器がほしくなる」
多分、近隣の住民が持って行ったのだろう。
「そう言えば咲希は?」
「あれ? いませんね」
周囲を見渡しても姿が見えない。
その場でキョロキョロとしていると奥のほうで物音がした。
凜々と慎重に近づいてみると、足元に物が転がってくる。
その先ではあぐらを掻いた咲希が部屋を荒らしていた。
「咲希ちゃん?」
「あぁ、二人とも。見付かった?」
「いや、収穫ゼロだけど、なにしてるんだ?」
「決まってるだろ? 刀を探してるんだ」
そう言いながらまた物を放り投げた。
「ここのじっちゃんが言ってたんだ。業物を盗まれないように隠してあるんだって」
「それならまだどこかに残ってるかもな」
「探してみましょう」
凜々とも別れ、手分けして工房を探す。
刀を作るための釜の中から生活スペースまで。
あらゆる所に目を通しつつ、室内を巡った。
「ん?」
そうしているとふと視界の端にひらひらとしたものを見る。
焦点を定めると、それは優雅に空を飛ぶ蝶々だった。
「こんなところに」
廊下の奥へと向かう蝶々をなんとなく追い掛けてみる。
木材の床を軋ませて歩き、角を曲がると障子の隙間に入っていくのが見えた。
続けて入ると畳の感触を足に感じ、古風な絵が描かれた掛け軸が目に入る。
「立派な和室だな」
和室を横断して掛け軸の前に立つ。
「こういうところが怪しかったりするんだけど」
ベタだな、と思いつつ掛け軸を捲ってみる。
「あ」
すると隠し金庫が姿を現した。
「電子ロックか」
内部電池が生きているのか、画面に表示はされている。
番号がわかれば開くことが出来るんだけど。
「番号は……流石にないか」
掛け軸の裏や金庫の側面に付箋で番号が書かれていないかと思ったけれど流石になかった。
ここのじっちゃんと言う人は用心深いみたいだ。
「スキルでどうにか出来ないか?」
金庫に触れて稲妻を流してみる。
すると電子ロックがでたらめな音を鳴らして内部の何かが弾けた。
部品が畳みの上に散乱し、鍵が開いたような音がする。
「……まぁ、結果良ければすべて良し!」
深くは考えないことにして金庫の重い扉を開く。
中には一振りの刀が納められていた。
「――光ってる?」
それは淡い光を放ち、静かに鎮座している。
手に持って見るとずっしりと重い。
柄に手を掛けて刀身を引き抜いてみると、刃に浮かぶ波紋が見て取れた。
「綺麗だ――なッ!?」
刀身を眺めると共に、勝手に右手に稲妻が発生する。
強制発動されたそれは右手を伝って刀身に伝播し刀が帯電した。
それと共にスキルの強制発動が解ける。
「な、なんなんだ?」
咲希によれば業物の一振り。
まさか妖刀? そんなバカな。
「いや……」
でも、スキルもあり得ない力だ。
あり得なかったことが起こり続けている。
なら、妖刀もあり得ることになるのかも。
「……そう言えば」
周囲を軽く見渡してみるもいない。
俺をここに導いた蝶々がいなくなっている。
知らないうちにどこかに逃げたみたいだ。
「イヅナくん!」
突然、響いた凜々の声。
緊急事態。
すぐに和室を後に、抜き身の刀を持ったまま廊下を駆けた。
「どうした!?」
工房まで戻ってくると、ライフルを構えた凜々を見る。
銃口が向けられた先では、咲希が凍えるナイフで魔物を裂いていた。
「敵襲です!」
咲希の側をすり抜けて魔物がこちらに迫る。
だが、それは半ばほどで凜々に撃ち抜かれた。
「嗅ぎ付けられたみたいだ! 手を貸してくれ! イヅナ!」
「あぁ、すぐに!」
全身に稲妻を纏い、帯電した刀を携えて駆ける。
前線に立ち、受けた指南を思い出し、鉄パイプを振るうように刀を振るう。
身に迫る魔物を迎え撃った一閃は、いとも容易く毛皮と肉と骨を断つ。
帯電の熱によるものなのか、それは斬るというより、焼き切ると言ったほうが適切だった。
「わおっ! なんだよそれ!」
「和室の金庫で見付けた」
「いいね! 最高じゃん!」
「あぁ、最高だ。試し切りがてら殲滅するぞ!」
「オッケー!」
押し寄せる魔物を俺と咲希で叩き切り、撃ち漏らしを凜々が仕留める。
魔物を一体斬り伏せるごとに刀の扱いを理解した。
殲滅する頃には刀の振り方を形にするところまで持っていく。
まだまだ素人から抜け出せないけど、なんとか物に出来そうだ。
「お疲れ様です」
「あぁ、お疲れ」
「なんとかなるもんだなー」
死体の中で一息を付く。
「こいつらも持って帰るのか?」
「いや、内臓ごと斬ったり撃ったりしてるから絶対肉が臭い」
「ですね。あれはもう経験したくないです」
「そんなにか。じゃあ、刀も見付かったことだし帰ろう」
「そうだね。血の臭いでゾンビが寄ってこないうちに行こう」
すでに目的は達し、長居は無用。
抜き身の刀を鞘に戻すと帯電状態は解除され、普通の刀へと戻る。
それを心底不思議に思いつつも、刀匠の工房を後にした。
「あ、そうだ。たぶんそれ数千万は下らないから、大事にしたほうがいいぞ」
「数千っ!?」
目玉が飛び出そうなくらいの値段だ。
「……いつかちゃんと返そう」
それまでは大切に使わせてもらおう。
壊さないように慎重に扱わないと。
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