【何も特徴がないから】ってパーティーを追放されたんだけど、親戚の誘いで暗殺者ギルドに所属したら『天職』だった模様。~誰にも記憶されない少年は、悪徳貴族やパーティーを駆逐することで【影の英雄】となる~
短編にまとめてみました(*‘ω‘ *)
面白かったら、あとがきもお読みいただけると幸いです。
ボクは子供のころから、誰かの助けになりたかった。
だから、学園生の時からずっと人助けを続けてきたのである。成績はとにかく平凡だったし、ボクの活躍なんて本当に微々たるものだったけど。
それでも、間違いなくボクの人生の目標は人助けだった。
だけど――。
「あー……。えっと、リーシャス、だっけ? お前、追放な」
「え……?」
ある日のクエスト直後。
ボクはリーダーから突然の宣告を受けた。
驚き黙っていると、彼はどこかバツが悪そうにこう続ける。
「お前、何も特徴がなくて……。なにやってるか、分からないんだよ」
「なにをやっているか、分からない……?」
それはいったい、どういうことなのか。
ボクはたしかに平々凡々だ。身体能力も魔法も、さらには外見さえも。それでもパーティーのために、人のためにできることは全力でこなしてきた。
それなのに、リーダーは何を言っているのだろうか……。
「とにかく、お前は今日限りでクビだ! よく分からねぇけど!!」
だが、その違和感に異を唱える前に。
リーダーはそう言うと、踵を返して他の仲間に合流するのだった。
そして、聞こえてきたのは彼らのこんな会話。
「いま、誰と話してたんだ?」
「えー……? いや、なんて名前だっけ……」
「分からねぇなら、考える意味もないってことだな!」
そんなことって、ある……?
ボクは呆然と、酒場に消えていくかつての仲間を見送る。
そして街の中にポツンと、立ち尽くすのだった。
◆
「どうして、誰もボクのことを認めてくれないんだろう……?」
思えば、学園生時代からそうだった。
授業の後の清掃も、人一倍頑張ったのに誰も褒めてくれない。先生からのお願いも、積極的にこなしてたのに感謝されなかった。
今になって思えば、そんな『小さな何故』ばかりだ。
「はぁ……」
ため息が漏れる。
夜の街。家々の明かりに照らされた道も、そろそろ闇に染まり始めていた。
もうじきここは、真っ暗闇の世界になるだろう。そうなる前に、ボクも家に帰らないといけない。そう思って、一歩を踏み出した。
その時だ。
「あぁ、ここにいたのか。――リーシャス」
「…………え?」
ボクに、声をかける人があったのは。
どこかで聞き覚えのあるそれに、ゆっくりと振り返る。するとそこには、長身痩躯の初老の男性が立っていた。こちらの名前を口にした彼は――。
「あ、ダイス叔父さん。どうしたんですか?」
ボクの、叔父だった。
名前はダイス。親類の中でも、とにかくミステリアスな雰囲気漂う人物だった。だけど同時に、ボクのことを一番気にかけてくれた、そんな優しい人。
懐かしい顔を見て嬉しくなったボクは、すぐ彼に駆け寄った。
「あぁ、リーシャスに少しだけ話があってね?」
「話……?」
ボクが首を傾げると、ダイス叔父さんは一つ頷く。
そして、こちらの手を取って言うのだった。
「私たちには、キミが必要なんだ。その平凡さで、人助けをしないか?」――と。
とても、真剣な眼差しで。
ダイス叔父さんは、強くボクの手を握りしめた。
彼に連れられるがまま、向かった先。
そこは、想像の斜め上を行く意外な場所だった……。
◆
「ここって……?」
「あぁ、ここは――『暗殺者ギルド』だよ」
ダイス叔父さんに導かれるまま、たどり着いたのは薄明りが頼りな建物の中。彼はここを暗殺者ギルドと言った。でもボクは、思わず首を傾げてしまう。
だって、暗殺者ということはつまり――。
「叔父さん。人助けと暗殺、って……正反対じゃないの?」
そうだった。
暗殺ということは、誰かの命を奪うということ。それはどこか、人助けとは繋がらないように思われた。しかし、ダイス叔父さんは首を左右に振る。
そして、ボクの目をジッと見てこう言った。
「そんなことはないんだ、リーシャス。私たちの暗殺者ギルドは厳格な規則によって、管理されている。そして、その規則によって暗殺する対象は――」
その時だ。
「う、うわああぁぁぁぁぁぁん……!」
「えっ……?」
幼い女の子の泣き声が、聞こえてきたのは。
その場にそぐわないそれにボクは驚き、その声のした方を見た。するとそこには、まだ年端もいかない少女の姿。
出で立ちからして、貴族の女の子、だろうか。
ぬいぐるみを抱えた彼女は、母親を探して泣き続けていた。
「どうしたんだい。アネッサ」
「……ダイス様。実は――」
そんな彼女の傍らにいた黒服の女性――アネッサさんに、叔父さんが声をかける。すると、この少女が泣きじゃくっている理由が判明した。
「また、あの貴族の仕業です。この子の両親は、残念ながら――」
「……殺された、か」
……殺された?
ボクはその言葉に、思わず耳を疑った。
だって、あまりに現実味がなかったから。だけど状況からしても、ダイス叔父さんの言う通りのようだった。この女の子の両親は、ある貴族によって殺されたのだ。貴族のことはあまり詳しくない。それでも――。
「……ダイス叔父さん。この女の子、これからどうなるんですか?」
「ひとまず、今すぐに命を狙われることはないだろう。だが現状のまま放置しては、悲劇が繰り返される可能性が高い」
「それって、どういう……?」
ボクの問いかけに、叔父さんは逡巡してからこう語った。
「一人、こういった行いを繰り返す貴族の男がいるんだ」――と。
◆
ある貴族の男がいる。
名はデイビッド・アルジャス――近年、貴族の中でも頭角を現している人物だった。だが、その躍進には裏がある。
簡単な話。
彼は自分にとって、都合の悪い相手を殺害しているのだ。
「さらには、殺した貴族の財産を奪うなど、窃盗も行っている。王家ももちろん認知しているが、下手に手を出せば何をするか分からない相手だ」
「それで、今までずっと放置されている、ってこと……?」
「あぁ、そうだ」
「…………」
ボクが声を震わせたのに対して、叔父さんはあえて淡々と答える。
こんな話があって良いわけがないと、本気でそう思った。ボクは拳を強く握りしめる。どうにかできないのか、と考えた。
だが、しかし――。
「デイビッドは、独自に暗殺集団を雇っている。こちらが無策に飛び込めば、きっとすぐにバレてしまうだろう。この任務には、異常なまでの隠密が必須になる。それこそ『誰の記憶にも残らない』ような……」
「…………」
叔父さんが語る。
すなわちデイビッドをどうにかするには、凄腕の暗殺者が必要だということ。しかし、どんな暗殺者であっても『記憶に残らない』なんて、不可能だった。
ということは、八方ふさがり。
そう、思われた。
「そこで、だ。――リーシャスに、頼みたいことがある」
「え……?」
その時だ。
ダイス叔父さんが、ボクの肩に手を置いてこう言ったのは。
「キミには、自身が気づいていない才能がある。その極限までの平凡さ――限りなく『記憶されない』その力を、私たちに貸してくれないか……?」
真っすぐな、叔父の視線。
最初は彼の言うことが、信じられなかった。
だけど、ボクは肩越しに涙する少女のことを見て思う。
もしかしたら、ボクにしかできない『人助け』なのかもしれない――と。
それならば。
ボクは、唾を呑み込んでこう答えた。
「分かったよ、叔父さん。ボクは――暗殺者に、なる」
たしかな決意を込めて。
このような悲劇を二度と、繰り返さないために……。
◆
デイビッドは、ワインを楽しみながら夜景を楽しんでいた。
「あぁ、あの夫妻も惨めだったなぁ。儂に逆らわなければ、このように命を落とさずに済んだものを……」
そして、思い出すのは自分の目の前で無惨な死を遂げた貴族の夫婦。
本当にただ自分にとって、目障りだっただけ。なにか罪を為したわけでもない、善良といえば、限りなくそれに近い者たちだった。
だが、デイビッドには罪悪感というものが欠如している。
自分の行く道に転がっていた石ころを、蹴とばした程度の認識しかなかった。
「ふふん。さぁて、次はどうやって上を目指すか……?」
だから、もう次のこと。
自分の指示で殺害された者たちのことなど、忘却していた。
だからこそ、彼は気付かなかったのだ。
「ん、誰だ……?」
自分が蹴とばした石が、恐ろしい獣を呼び覚ましたことなど。
「お前は、何者だ……?」
そこには、一人の少年が立っていた。
あまりに平々凡々で、特徴のない顔立ちをした少年。ゆらりと歩み寄ってくる相手に、デイビッドは言い知れぬ恐怖心を抱いた。
椅子から立ち上がり、後退りしながら思う。
「け、警備の奴らは何をしている……!?」
なにかが、おかしい――と。
このように平凡な少年一人の侵入を許す、など。
デイビッドは、そんな違和感を抱きながら尻餅をついた。
すると、そんな彼に少年はこう言うのだ。
「ごめんなさい。これも、人助けなんです」――と。
それは、あまりにも凡庸で。
どこにでもいる、普通の人が口にする台詞のようだった。
「が……っ!?」
少年の手にしたナイフが、デイビッドの喉元を切り裂く。
血が噴出し、瞬く間に悪徳貴族は絶命した。
倒れる男を見下ろして。
少年――リーシャスは、静かな祈りを捧げるのだった。
◆
悪徳貴族――デイビッドが暗殺されて数日が経過した。
後に騎士団が捜索に入り、彼の犯した今までの罪が露わになる。暗殺集団は解体され、方々に散っていった。だがしかし、不思議なことが一点残る。
いったい、誰がデイビッドを殺したのか。
民衆の間では、その話題で持ちきりになっていた。
様々な憶測が飛び交い、中にはその暗殺者を讃える者もいる。あるいは、暗殺という行為自体を忌避する者もいた。
だが、みなが同意したことがある。
これによって、更なる悲劇は起こらないだろう――と。
一人の少女が、王都の中央にある公園で遊んでいた。
友達もいない彼女は、子供たちの輪から離れた場所にいる。
「どうしたの、お嬢さん?」
「え……?」
そんな彼女に、一人の年上の少年が声をかけた。
とても平凡な人物だ。
「みんなと一緒に、遊ぼうよ」
「え、怖いわ。わたし、そんな勇気ないの」
少女の言葉に、少年は微笑む。
そして、腰を落として視線を合わせて言うのだった。
「だったら、ボクも一緒に言いに行くよ」
「え? あの、ちょっと……!?」
少年は、女の子の手を取って子供たちの輪の中に連れて行く。
「みんな、ボクたちも混ぜてくれないかな?」
そうして、気軽にそう言うのだった。
すると子供たちは、満面の笑みで答える。
「いいよ、一緒に遊ぼう!」
少女は次いで、子供たちに手を引かれ。
気付けば楽しく遊んでいた。
「あぁ、あなたのお陰で助かりました。えっと……?」
そして、ふと。
先ほどの少年に感謝を述べようとして、周囲を見渡した。
だが、首を傾げてしまうのだった。
「あの方は、どのような顔をしていたのでしょうか……?」――と。
そんな少女を遠くから見て、微笑む少年がいた。
「頑張ってね。キミは、一人じゃないから」
その少年――リーシャスは小さく、そう言って背を向ける。
そして、叔父であるダイスと合流して歩き出すのだった……。
お読みいただきありがとうございました。
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