第8話 心も女に変わっていく?
「くぅふぁぁぁぁぁ~っ」
ベッドから身体を起こして大きく伸びをする。これは普段の行いだったが、俺は少し違和感を感じた。
「んぁ? ……あぁ、そうだったな。俺は女になってしまったんだよな?」
寝ぼけてはいたが、どこかで夢なんじゃないかって思っていた。だけど身体はしっかりと女のままだ。見下ろす胸はしっかりと張っている。
はぁ、相変わらずいいお胸を付けてやがんな……
自分で見たらなんとも言えない。だけど男だったら興奮してしまうだろう。
「はぁ、なんでこんな目に遭ってんだろうな?」
現実逃避したくなる。考えても仕方ないんだけどな?
俺は溜息を吐きつつも朝食を貰う為に部屋を出た。
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「あら、おはようアユミちゃん」
「おはよう、リヒト母。ちなみに俺はアユムだぞ?」
「ふふっ。か~わ~い~い~」
「女子高生かよッ!?」
あー、頭痛くなってきた。朝からツッコませないでくれよ。
それより、もう朝食が出来てる。パンと、スクランブルエッグ、と……
「おいっ!? なんで机にブルマがあるんだっ!?」
信じられない。なんで朝食と一緒に置かれてんだよ。しかも、アレ、昨日俺が履いてたやつ?
「冗談よぉ、冗談。はい、どうぞ」
リヒト母は何故か俺にブルマを手渡してきた。何故、今俺に?
「間違えても履かないからなッ!? なに残念そうな顔してんだよッ!?」
おいおい、大丈夫か? この家。こんな感じだったか? 俺が女になって扱いが違う気がするんだが?
「おい、アユム。さっさとご飯済ませろよ?」
「あ? あぁ、そうだな。いただくよ」
俺は一応ブルマをポケットに入れ、席へと着いた。そこら辺に置いといたらまた着替えに出されそうだしな。
「そういえば、リヒト、お前の父さんはどうしたんだ? 昨日も見てないけど?」
「あぁ、今は仕事で出張中だ。いつか帰ってくんだろ」
へー、そう。まぁ、いいけど。俺の身体をみて驚かれるのも面倒だから別にいいか。
「いただきます」
俺は普通に朝食を頂くことにした。うん、普通に美味い。誰でも作れるモノだけど、他所の家のモノは美味しく感じる。
「アユミちゃん、はいどうぞ? ホットコーヒーね? ミルクと砂糖もあるからね?」
「お、ありがとう、リヒト母」
俺はいつも通りミルクと砂糖を多めに入れた。うん、甘いの美味しい。
「……」
ん? なんだリヒトの奴? 俺の顔になにか付いてんのか?
「ズズッ、どうしたんだ?」
俺は甘いコーヒーを口に含みながら聞いた。なんでそんなに不思議がってんのか意味分からん。
「お前、おかしくないか?」
……は? なにがおかしいんだよ? 俺は特に変わってねぇだろ? まぁ、身体は女になってんだけどな?
「いつも通りだろ? 何言ってんだ?」
「いつも通り? 本気で言ってんのか?」
だから何が言いてぇんだよ? 俺はいつも通りにご飯食べてるだけだろ?
「アユム、お前、女になってきてないか?」
はぁ? 今の俺はどう見ても女だろう?リヒトの方がおかしくなったんじゃないか?
「いや、どう説明すればいい?」
「何が言いてぇんだよ、さっきから!」
だんだんイラついてきた。もったいぶるなら聞いてくんなって言いたいんだが?
「お前、いつから甘党になった? 前からブラックだったろう?それに昨日の泣き方……お前らしくない」
「なっ!? お前ここで泣いた事言うな、よ? ん? 俺、ブラックなんて飲んでたか?」
んぅ? 俺、甘い方が好きなんだけど? アレ? いつからだっけか? というか、ブラックコーヒーとか飲めねぇぞ?
「お前はいつもコーヒーはブラックで飲んでいた。自分でおかしいとは思わないのか?」
その言葉がおかしいと思うんだが? 俺は、……俺は? ん? なんか変じゃね?
なんで俺、なんだ?
「なぁ、なんで俺、自分の事俺って言ってんだっけ? んぅ? それが普通だよな? アレ? 俺男なのになんで疑問に思ってんだ?」
なんかワケ分かんねぇ……昨日まで男だったろ? なんで男に違和感感じてんだよ?
「まさか、心も? 嘘だろっ!? アユム、お前絶対男だと忘れんなよ!?」
「は? 忘れるかよ。俺は俺だろ? 馬鹿にしてんのか?」
喋りながらも朝食はいただいた。ご馳走さまでした、っと。
「母さん、俺達行かなきゃなんねぇ場所が出来た。もし姉さんが帰ってきたら家で待っててもらえるか?」
朝食を食べ終えたばかりの俺の腕を掴んでリヒトは立ち上がった。
急にどうしたんだよ? まだコーヒー飲んでゆっくりしてぇっつーのに。
「分かったわぁ、暑いしアユミちゃんの事は守るのよ? 昨日みたいな事したら、分かってるわよねぇ?」
昨日みたいな事? 俺を押し倒して上に乗った事か? 別にあんなの気になんねぇっての。あんなの喧嘩してた時の日常茶飯事だ。それにリヒトが俺を襲うなんてしないだろ?
俺達、親友なんだから。
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「なぁ、どこ行くんだよ?」
俺達は着替えてリヒトの行きたい所へ向かって歩いていた。目的地、どこなんだろな?
ちなみに俺の服装は昨日みたいにショート短パンスタイル。自分で言うのはアレだけど、色白美脚だ。だからあんまり太ももは出したくないんだ。
だってみんな俺の足を見るんだぞッ!?
みんな見るのは足か胸なんだが、足は生足なんだ。男の時とは違って恥ずかしい。長めの薄手スカート履けばいい? 馬鹿言うな。スカートは流石に抵抗あったからこれしかなかったんだよ。
「あの駄神の所に行くぞ? 聞かなきゃならん事が出来たからな。家が近いのは良かったよな?」
あぁ、間違いない。こんな格好で長時間歩いてたら恥ずかしくて死にそうだ。その前に暑くて死にそうなんだけどな。
なんだかんだですぐ着く距離だ。リヒトの家から10分掛かんねぇから。そうだ、帰りにコンビニでアイス買おう。うん。アチーんだよ、マジで。
~古ぼけた神社~
「お~い、ガーキー、どこだー?」
俺達は神社に着いて、ガキ...神様童女を探していた。だけど、どうにも見当たらない。
「なぁ? いたか?」
「いや、いないな?」
2人で探したんだが、姿は見えなかった。神ならここに居る筈なんだがな?
「はぁ、どうする? アチーしもう帰らないか?」
俺は早く涼みたかった。朝とはいえもう暑いんだ。昼間だとバターの様に溶けてしまう事間違いなし。早く帰りたい。だけど、リヒトはとある呪文を唱えた。
「おい、『ぺんぺん』されたいのか? 今度は『ばんばん』いくぞ? いいのか?」
「は、はいぃぃぃっッ‼ ここに、おるのじゃぁぁぁっ‼」
神様童女は社の下から出てきた。あー、そんなトコに隠れてたわけね? 猫かよ……
「なぁ? お前の聞きたい事ってなんなんだよ?」
俺はずっと気になってたんだ。朝から急に行くなんて言い出すからさ?
「おい、駄神。お前の呪いは身体を女にさせるだけなのか?」
んぁ? 変な事聞いてんなぁ? 身体を女にさせる、だけ? ん? 他になにかあるみたいな聞き方だな?
「おいっ鬼畜メガネ小僧ッ‼ 呪いとはな、ん、でも、なぃで、すぅ……」
なんだ? さっき凄い勢いで捲し立てようとしたのに。リヒトの顔見て怯えだしたぞ?
リヒトの顔を覗き込んでみたら、そこに般若がいた。俺も思った。
……怖ぇ。
「さっきの質問の意味が分からなかったのか? お前のケツ、ブチ壊すぞ」
俺でも分かるぞ、その声音。早く答えてやれ、神様童女よ。マジでケツがやべぇ事になんぞ?
「あぅ、えと、あまり、長いと、心が、身体に、引っ張られて、いずれは、あるべき、姿に、です」
「そうか、どうしようもないな、お前は。……ん? アレはなんだ? なぁお前はアレ何に見える?」
リヒトは神様童女に何かを指さして探させている。俺にはよく分からない。だってあるのはマンションだろ?
「んぅ? 大きな建物しか見えないのじゃが?」
「違う違う、もっと身を低くして見てみろ」
ん? もしかして、アイツ……?
「んむぅ? 何があるのじゃ?」
「もっと腰を落としてケツを上げてみろ。あぁ、そうだ、そうしたら叩きやすいだろ……」
「悔い改めよッ‼」
スパアァァァァァァァンッッッ‼
「いッ!? ヒャァァァァァァッッッ‼」
あぁ、いい音させんなぁ……そうだな、悔い改めてほしい。早く俺の身体を元に戻してくれよ。
「お、おまッ、ぺんぺんはッ‼」
「今のはthe スパァンだ。ぺんぺんではない。なんだそんなに顔を赤くして? まさか俺の神の手に惚れてしまったのか?」
「ち、違うわっ‼ その、ちょっと、アレだけど……もうお前はここに来るなッ‼」
「断る。なんだお前?調子乗ってないか? なんで人様の行動を制限出来ると思っている? 神にでもなったつもりか?」
「儂は神じゃと言ったであろうがッ!?」
「ハッ。駄神は神ではない」
「う、うぅぅぅぅっ」
お、おい? 泣かしてんじゃねぇよ? うわぁ、コッチ見て泣いてるよ。あー、面倒くさいな、全く。
「ほら、こっち来い」
俺は見てられなくて呼んでしまった。だって可哀想だろ? 女の子が泣いてんだぞ?
「うぅぅ、アイツ、嫌いぃっ」
「分かった分かった。怖かったな?」
俺は小走りに抱き着いてきた神様童女を優しく介抱してあげた。なんだか心の底からそうしたい気持ちになったんだ。頭を撫でると神様童女は落ち着いてくれた。はぁ、良かったよ。
「アユム、今本心で受け入れたんだよな?」
この鬼畜メガネは当たり前の事を不思議がって言っている。可哀想だと思うのが普通だろう?
「当たり前だろ?」
「お前、昨日まではこっち側だったろう?」
「はぁ? なんでお前と女の子泣かす側なんだよ?」
意味分かんねぇ事言うなよ?ん? あれ?俺、昨日この子のお尻ぺんぺんしたよな? なんでそんな事したんだっけ?
「進行が早すぎないか? おい、童女?」
「へぅッ!? あ、そのー……おそらくホルモン反転が影響してるの、かも……」
お前ら何言ってんだ? 俺は俺だぞ? 何も変わってないだろ?
「男が強かったから、今は女が強いって事か? だったら女の身体に引っ張られる心が女寄りだったら」
「そうじゃな、進行は早いやもしれん。このままでは本当に女になる。そうなれば、人格も……」
おいおい、なにそんなに深刻そうに話してんだよ? 俺が心まで女になるって思ってんのか?
「俺は男だっつーの! 心配すんなよ! やることは決まってんだっ‼」
そうだ、信者を集めてここを綺麗にするだけ。頑張ればどうとでもなるだろ?
だから笑ってやる。
俺は大丈夫だ、負けねぇからってな‼