第7話 俺はやっぱり女になったんだ
「ただいま、母さん」
「おかえりなさ……ちょ、どうしたのッ!?」
俺達はそのまま、リヒトの家まで帰ってきたんだ。道中は俺の草履の鼻緒が切れたこともあって、リヒトが背負ってくれた。流石に恥ずかしいから顔は背中にうずめてたけどな? いい歳して、おんぶは、なぁ?
それより、ボロボロなんだ。草履も壊したし、浴衣も土で汚れてしまった。多分破れてるとこもある。髪もグチャグチャだし、なにより泣いた跡がハッキリと分かってしまう。
「ご、ごめん……リヒト母、俺、俺……」
地面で躓いてコケたとかで済ませれる状態じゃない。明らかに何かあった、そんな恰好なんだ。誤魔化せないにしても、言いづらい。男に襲われかけた、なんて。
「リヒト、何があったのか後で聞くわ。それよりアユミちゃん、着替えないといけないし、一旦お風呂にしましょうか?」
状況を察したのか、リヒト母は俺を脱衣所へと送った。俺は言われるがままに、そのまま脱衣所へと向かった。今の俺に出来る事なんて無かったしな?
ちなみにこの家は昔からよく来てたから、風呂場はどこかは知ってんだ。それでも後ろを歩くリヒト母は、何も言わずに笑顔で俺を見てる。
「あ、その、俺、脱がなきゃいけねぇから、ここまでで、いいんだけど?」
「アユミちゃん、浴衣の脱ぎ方分かるの?」
「あ……いや、お願い、します」
脱衣所に着いて浴衣を脱がしてもらったんだけど、俺が着てた浴衣、結構土汚れが目立つ。やっぱり破れてたし、もう着れないんじゃないのか?
「リヒト母? その浴衣、もう駄目、だよな?」
「そーねぇ? まぁ、要らない物だし気にしないで? あ、汚いからって要らないって意味じゃないからね? ウチはもう着ないだろうって意味だからね? 仁美も私も別のがあるし、ね?」
ホントかどうかは分からない。でも俺には申し訳ない気持ちがあるんだ。
「俺のせいでごめん、いつか、返すから」
「じゃ、一緒にお風呂入る?」
「ちょっ!? それはナシッ‼」
「残~念。着替えは用意しておくわね?」
「お、おぅ。ありがとう、リヒト母」
どこまでが冗談か分かんねぇんだこの人。止めなかったらマジで一緒に入りそうな気はする。そりゃあ、仁美さんの母だけあって美人だ。40代前半だったと思うが、20代後半にしか見えない。断る理由が無いっちゃないんだけど、俺の方が恥ずかしいんだ。
リヒト母がいなくなったのを確認してから、服を脱ぐ。ま、服っていっても、下着なんだけど、身長の割には大きい胸、下半身はもちろん、無い。身体が女になったおかげか、ムラムラはしない。ただ、ふ~ん? くらい。
それから風呂場で身体を洗い、湯船で足を伸ばした。
そして、おもむろに胸を揉んでみた。べ、別にいかがわしい思いがあった訳じゃねぇからなッ!? 本物かどうか、試したかっただけなんだ。その、先端とか、どんな感じなんだろ、とか……
「んっ」
ッ!? なんだッ!? 背中がゾクッてしたッ!? ヤバい、これ以上は危険だッ‼ 女ってみんなこんな感じなのかッ!?
結果、俺はそそくさと風呂を出た。あのまま続けたら俺は男に戻れそうになかったし。長風呂すると、出た時に変な目で見られそうだし。そもそもここ俺ん家じゃねぇしなッ!? ははは、はは。
「やっぱ、俺、女になっちまったんだ、よな? ……はぁ」
自身の女の事実を確認し、俺は溜息交じりに服を着る事にした。
脱衣所にあった着替えは、
スポーツブラ?(黒)
女性用パンツ(白)
可愛い猫のシャツ(黄色)
ブルマ(紺)
……嘘、だよな?
ガチャッ
俺がリビングの扉を開いたら声を掛けられた。
「聞いたわよ、アユミちゃん。大変だったわね? 辛かったわね? 困ったことがあったら何でもお義母さんに言ってね?」
「じ、じゃあ、このブル--」
「あ、そうそう、リヒト、どう思う? 可愛いと思わない? アユミちゃんの恰好」
「あぁ、可愛いとは思うよ? それよりあの脚--」
「あ、2人ともちゃんとご飯食べた?」
おい、絶対ワザとブルマ置いただろ? なんで追及をさせてくんねぇんだよッ!? 浴衣を駄目にした責任って言われれば我慢してやるけど。流石にリヒトの前だと恥ずかしいんだからなッ!?
「ご飯は、いいや。それより、寝巻は頼むよ? リヒト母ぁ?」
「ばっちグゥー!」
40代前半のリヒト母はご機嫌にウインクをして笑ってる。
(そのウインクが胡散臭いんだよッ‼)
俺は呆れながらリヒトの前のソファに腰を下ろした。コイツはコイツでDSPでゲームをしている。ちなみにDSPは携帯小型ゲーム機だ。俺も持ってるが、今は持って来てない。自宅にある。
「なぁ? どこまで進んだ?」
俺はソファの上であぐらを組んで聞いた。ちなみに今巷で流行ってて、俺達もやってるのがMHPというゲームだ。M(魔物)HP。略してMHP。
「お前、それを気を付けろよ」
リヒトは、俺の方を一瞬だけ見てそんな事を言った。それって何だよ? 何を気を付けんだ? つーか俺が聞いてんだっつーのッ‼ 俺はリヒトの画面をのぞき込もうと身を乗り出した。何も考えずに。
「お、おまッ!? 肌ッ、クソッ、死んだ。」
「え? どれどれぇ? はぁッ!? お前ッ、もうこんな先まで行ってんのかよッ!?」
俺のランクより上、上級クエストまでいってやがった。しかもこの装備、俺見た事ねぇ。何このカッケー全身真っ黒装備ッ!?
「なぁッ!? この装備どうやったら作れんだッ!?」
「それよりお前の装備を改めろ」
なんだ? 俺の装備って、弱いから聞いてんだろ? 何を改めんだよ? 俺は覗き込んだ態勢のまま首を傾げた。両膝に手を置き、前屈みでリヒトを見たまま。
「何言ってんだ、お前? 装備が弱いから聞いてんだろ?」
「違う、あー、クソッ‼ 分かれよッ!? お前の胸が、腹が、太ももが目に着くんだよッ‼ お前今男じゃねぇんだよッ‼ 気を付けろって意味だろッ!? 察しろよッ‼ お前の露出を守る装備が弱いって言ってんだよッ‼」
「なッ!? ンな事分かるかッ!? 大体お前俺に気はねぇっつってたじゃねぇかッ!?」
リヒトが俺の身体が気になってる事に気付いて、慌てて距離をとり、ブルマを見られない様に俺はシャツを伸ばす。伸ばしたら伸ばしたで胸元が伸びるワケだが……
「気には、しないつもり、なんだが、あまり油断しないでくれないか? 俺にも、他の奴にも」
「……なんだぁ? お前、結局俺に欲情しちゃうのかぁ? 男って知ってんのにぃ? ケダモノだな、お前。ホラッ、ブルマだぞぉ? チラッ。イヒヒ」
なんか楽しくなってきた。親友だからこそ、イジリやすい。普段クールキャラなのにな? 鬼畜メガネ破れたりぃっ‼ ガハハッ。
「ッざけんなよッ‼」
リヒトは笑う俺を押し倒して、俺の上でマウントを取った。そして、腕を抑えつけて口を開く。
「今のお前如き、この程度なんだぞ? 俺はお前が親友じゃなかったら……」
「な、なんだよ?」
俺はどう足掻いても動けず、ただただ聞く事しか出来なかった。何もしないだろう信頼はあったんだけど、な? 流石に実際に押し倒されるとわかった。何も出来ねぇ……。
「こーらっ‼ リヒトッ‼ アユミちゃんを襲わないッ‼ 祭りであった男達と同じ事、アンタはしたいの!?」
どこから来たのか、リヒト母は現れ、リヒトの頭を叩いた。
「ッ!? す、スマン。アユム。俺はただ、今のお前に自覚を……」
言いながらどいてくれたリヒト。俺は今の自分をちゃんと自覚しないといけないんだよな? 男じゃないから、気を付けろって言いたかったんだろ? 親友だから身をもって教えてくれたんだよな? ……そうだよな?
「俺も挑発して悪かったな? その、女として気を付けるけど……俺、もともと女じゃねぇからな!? いろいろと知らねぇんだからな!? 女の事ッ‼」
「あぁ、分かってる。だから明日くらいに姉さんには帰ってきてもらう。ちょうど向こうも夏休みだろうしお前の為に、な?」
は? 仁美さんが? 何をすんだよ?
「やるぞ? お前の女性化強化合宿。じゃねぇと、学校なんか行けねぇからな?」
「……ゥ、ソぉ?」
いつの間にか決まってたようだ。リヒト母も頷いている。
っつーかさ、俺は女になりたい訳じゃなくて、男に戻りてぇんだからなッ!?