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第5話 焼きそばとナンパ、そして一輪の花



 なんかワケわかんないままイベント会場から出された。早く、とかこっちへ、とか、肩とかお尻とか押されて飛び出したけど……


 結局、俺の結果は?


 出たくはなかったけど、出たからには何位か知りたいじゃん? 結果的にはスッゲー恥ずかしい事して損してんじゃんか。


 つーか、まだ神社の事何も言ってねぇーよッ‼ 何の為に出たんだよッ!? つか、あのイベント意味分かんねぇよッ!? 誰得ッ? ってか全員ヤベぇ奴ばっかだったじゃん!?


 はぁー。忘れよう。うん、そうしよう。今は祭りなんだ。楽しまねぇと、な!


「気分変えて、メシ、だなッ!」


 ちょうど屋台いっぱいの通りに出てるしな。身長が低くなって、人混みが鬱陶しく感じるけど、少し童心に戻った感じがしてウキウキしてきた。


 手持ちの財布の中には3000円程入っていた筈だ。そんだけあればそこそこは楽しめる筈。なにせこの祭りは町興しとしてそこそこの規模でやってるからな。何喰おうか? やきそば行くか?


 俺は1人で祭りを楽しむ事にした。寂しい奴だって? 仕方ねぇだろ? 今の俺を知ってんのはリヒトぐらいなもんだし、そもそもアイツいねぇし。言っとくけど友達ぐらい、数人、……いるんだからなッ!?






「兄ちゃん、やきそば1個くれっ!」


 俺はとりあえず腹を満たしたかった。昼から何も食ってねぇんだよ。スッゲー腹減った。


「あい‼ よぉぉぉ……」


 ん? どした? 俺の顔に何か付いてる? そういえばリヒト母に化粧されてから自分の顔見てねぇな? パンダメイクとかじゃねぇよな?


「どしたんだ? やきそばくれよ?」


 俺の言葉にハッとした兄ちゃんはバタバタとタッパに入れていく。雑過ぎぃ……。喰えればいいけど、そりゃないんじゃないの? 出されたのはタッパからハミ出る程の3人前くらいあるやきそば。盛り付けもクソもないんだが?


「兄ちゃん? 雑過ぎじゃない? ハミ出てるし」


「わわわ、悪ぃッ!? 手手手が、震えちまって、アハ、ハ、ハハぁ」


 病気なんじゃない? それ?


「ココも外もアチーんだから、無理すんなよ、兄ちゃん? で、コレいくらなの? ま、まさか3倍の値段とか言わねぇよな?」


「3、……150……100円ですッッッ‼」


 は? なに? 3? 150? 100?


「いくらだよッ!?」


「100円でいいですッ‼ 100円くださいッ‼ 君の100円をくださいッ‼」


 俺の100円ってなんだよ? みんなの100円だろ? 巡り巡ってみんなの100円だろ? つーか多分千円札しかねぇわ。ってか安っすいなっ!


「ごめんけど100円ねぇわ。はい、千円。え、なに? なんで手を掴むんだよ?」


 お金を出した右手を兄ちゃんが掴んできた。取るなら金を取れよっ! 俺の手は取れねぇぞッ!?


「ごごご、ごめんッ‼ お釣は900ぅ円ねッ!?」


 なんでそんなに慌ててんだよ? 早く終わらせて喰わせてくれよ?


「やきそば冷めるから早くしてくんない?」


「そそ、そうだよねッ、はいッこれッ900円ねッ‼ ありがとうございましたッ‼ また、来てくださいッ‼」


 いや、祭りで2回も同じ屋台に行くとか無いから。同じ店に行くとか多分無いからね? 俺は無いから。


 俺はお釣と焼きそばを受け取り、屋台から離れた。超特盛焼きそばを100円で買えたんだ。これはいろいろとデカい。胃的にも、金銭的にも儲けたぜッ‼


 俺は意気揚々と座れる場所を探して、たまたま人がどこかへ行ったベンチに腰を下ろせた。こんな人混み多いトコで座れるなんてラッキー!


 一応リヒト母からの借り物の浴衣なので、汚さない様に細心の注意を払い焼きそばを食べる。


「あぁ、このパサパサの絶妙な感じ、祭りだなぁ」


 飲食店とは違う屋台ならでは、の味。その味に毎年の記憶を思い出す。

(去年まではアイツも一緒だったな。元気にしてっかな? 千夏(ちなつ)の奴)


 俺は幼馴染の事を思い出していた。都会へ引っ越してから会っていない幼馴染。いつかはまた会いたいとは思っている。今の俺はもうあの頃の俺じゃないんだけどな


 自身の苦境に苦笑いしながら食べていると声を掛けられた。



「お・ね・え・ちゃ・ん? 1人でどうしたの? 寂しく焼きそば食べてないでお兄さん達と一緒に遊ばない?」


「飽きたらカラオケとかどう? 奢っちゃうよ?」



 大学生っぽい2人組が俺に声を掛けてきた。


 ……あれか? ナンパ? 俺にナンパかよ? プッ、クククッ、男なのに?


「あー? どしたんだ? なんで笑ってんだ姉ちゃん?」


「いや。プククッ、俺にナンパとか、ありえないから」


 マジありえないと思うんだけど? 心以外は女なんだけどな? ()()()()()()当然ナシ、なんだよ。


「あ? 何? 可愛いからって調子乗ってる感じ? 1回痛い目見ないと分かんない、かよッ!?」


 男は俺の腕を掴んで引っ張ってきた。ちょ、おまッ‼ 今はッ!?


「俺の焼きそばぁッ!?」


 引っ張られた拍子にマイ焼きそばは地面へと落ちた。なんとか浴衣へのダメージは防げた。クリーニング代とか馬鹿になんねぇからな。それより俺の焼きそばだよッ‼ なにしてくれてんだ、この男ッ‼


「なんだよその目ぇッ‼ 調教が必要ってかぁッ!?」


「ふざけんなよッ‼ 俺の焼きそば落ちたじゃねぇかッ!? せっかく屋台の兄ちゃんが、超特盛を100円で売ってくれたんだぞッ!?」


「「んな事で逆ギレしてんじゃねぇよッ!?」」


 あ? なにシンクロしてツッコんでんだ大学生? ()()100円なんだぞッ!? 姉の財布からコツコツ()()()()貯めた3000円の一部なんだぞッ!? 一体どれほど心身削ったか……。


〈ちなみに馬鹿な姉に小銭を札に両替してもらったんだ。もともと自分の金なのにな? 馬鹿だろ? 怒ると怖ぇけどな?〉


「お前らに分かるかッ!? チクショウめッ‼」


「「たかが100円だろッ!?」」


「いいや、お前らは敵だッ‼ 喧嘩するなら相手になるぞッ‼」


 俺は結構キレてた。お金もそうだが、食事の邪魔されたのが何より許せない。 まだ、()()()だったんだぞ!? あと20口はあった筈なんだ! 楽しみを奪いやがってぇッ‼





「……み、ミナちゃんッ‼ こ、こんな所にいたの? 探したんだよ? さ、皆の所に帰ろう?」


 唐突に横から声を掛けられた。は? 一体誰だよ? 俺のやきそば戦争に横入れするなんて誰なんだッ!?


 横目に見たその人物は……

(なッ!? なんだとッ!?)

 



 花の様に艶やかなウェーブ花柄の白い浴衣優し気な甘い香りを漂わせる一輪の花……俺の好きな花、花野さんだった。

 

「は、は、花野さんッッ!?」


「え? う、うん?」


 なんでここに? ってかミナちゃんって? え? 俺? 俺見て言ってんのッ?

 

「お、お兄さん達ごめんなさい! この子人当り強くてッ! ホラ、ミナちゃんも謝って!」


「え? ご、ごめん、なさい?」


 なんで謝んねぇといけねぇんだ? でも花野さんの前で変な事出来ねぇ。


「あ、いや、別に」

「悪ぃ、ただのナンパだ、そっちも気にしないでくれ」


 どうやらこの場は収まったようだ。男達は諦めてどこかへ消えていく。俺も少々熱くなりすぎてたみたいだ。


「あ、その、ありがとう。花野さん、助かったよ」


 よくよく考えてみれば今女だったんだ。腕力だけなら負けてたかもしれねぇ。この場は本当に助けられた。


「ん! 駄目だよ? 大人に喧嘩売ったら! それより、なんで私の名前知ってるの?」


 やッべぇぇぇぇっ!? 普通に男のつもりで話してたけど俺、今は別人、女だったッ‼ あー、んー、はぁー? 何て言えばいい? もしかしたら学校でこの姿で会わないといけねぇんだよな……?


「あ、えーと? 俺、……私はー、日々賀(ひびが)(あゆみ)って言います。えーと、その、アユム君とはいとこで、その、よく聞いてます。あ、顔とかは卒業写真で見たから知ってるんですよッ‼」


 ぐ、ぐるじぃ。助けて、鬼畜メガネマン。


「そ、そーなんだ。日々埜君の、いとこなんだ私の事とか、話してるんだ?」


 なにやら顔を赤くしている花野さん。俺がいとこって知ってなんで赤くなってんの? まさか、怒ってるとかッ!? 悪口言われてるとか勘違いさせたッ!? こんな喧嘩売る女にしたのは俺だと思ってるとか!? やべぇ。嫌われない様に可愛い子ぶった方がいいのか!?


「あ、アイツは関係ないからッ!? 私の焼きそば落としたから怒っただけなんだからねッ!?」


 どこのツンデレなんだよッ!? 可愛いってどんななんだよぉッ!?


「そ、そっか。ご飯の恨みはまぁ、怒る、よね? ねぇ? それより私は栞。シオリって呼んでよ? 日々埜君の友達だし、アユミちゃんも友達になろうよ!」


「し、シオリ、ちゃん? 友達になってくれるの?」


 は、初めて下の名前で呼べたッ‼ この姿になれて初めて良かったと感じたぞ? しかもいきなり友達認定ッ!? マジか‼ 女っていいなッ‼ ……それより俺はいつ友達になれてたんだ? 知らなかったんだが?


「もう、シーオーリッ! 呼び捨てよアユミッ!」


「あ、アユッ!? ……し、シオリ」


 は、初めて呼び捨てにッ!? しかも花野さんも俺の事、アユミってッ‼ いや、もうアユムとか知らんッ‼ 俺、アユミは今がとても幸せなんだけど……


「よろしい~! じゃあアユミ、一緒に祭り回ろうよ? その、今日、気になる人が来る筈なんだけど、えっと、なかなか見つけられなくて……せめて友達の高橋君だけでも見つけたいんだけど日々埜君のいとこちゃんだし、手伝ってくれないかなッ!?」


 ……気になる人、だと? おいおい、俺に手伝えと? ウソだろ? 天国から地獄の転換早すぎんだろッ!?


「あ、アユミ!? なんで泣いてんのッ!?」


「ワタシ、探-ス。気になる男一緒探-ス」


「なんでロボットみたいに感情が無いのッ!?」


「ボク、木偶型ロボットォー」


「助けて木偶ぇモーンって、役に立たなそうだよッ!? あははっ、アユミって面白いね?」


 全っ然探したくないんだけどォ? 見たくもないんだけどォ? 行きたくないんだけどォ? まぁ、リヒト探すのは俺的にも助かるけど。


「もー、ほら、見つかるまでデートしましょッ?」


「で、デー、ト、ですかッ!? 俺、私と祭りデートですかッ!? 行きましょうッ‼ さぁ、早く行きましょうッ‼」


 そうだ、2人きりで祭りを回るという事はデートなんだ! 好きな子とデート出来るんだッ‼ やったぜっ‼


 そんな喜ぶ俺に花野さん、いや、シオリちゃんが、俺の手を取り歩き出す。お、お手て繋いでデートですかッ!?


 どうにもエスコートはシオリちゃんらしい。それでも俺はひと時の至福を感じたのだった。



 あぁ、女で良かった






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