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第4話 夏祭りイベント

 


 男に戻る条件を聞いた後、俺達は一度リヒトの家へと帰る事にした。空がオレンジがかってきた大通りを歩きながら、ふとさっきの話のやり取りを思い出した。


「なぁ? お前、本当に手伝ってくれないのか?」


 俺のこの身体を戻す工程が面倒だと、リヒトに言われた事が気になった。親友なら、って思ってたんだけど、な。


「そう気を落とすな。今のお前は可愛いからまだ生き(よう)があるだろ? 文句があるならあの駄神に言え。面倒だが、面白そうなら手伝ってやる今は、その気にならない」


 ぐぅぅぅぅうっ! なんて自分勝手な奴っ! お前はやっぱり鬼畜メガネだなッ‼ 少しは可哀想とか思えよっ!?


 でも、そーだよな。こんな意味不明に付き合えってのも無理な話だよな? 完全に常識の範囲超えてるし。言ってる事は間違ってないのかも、な?

 

「はぁ、俺、少なくとも数日は女のまま、だよな?」


「だろうな? 俺の考えだと、()()()()20歳までは女だろう」


「え? ウソ? マジ? ……学校は? ってか家族に何て言えばいいんだ?」


 ヤベー。超絶ヤベー。学校もそうだけど、家族はヤベぇわ。アイツら、多分今の俺見たら、ヤベぇわ。特に姉と、妹。俺がこんな姿だと知られれば……ヤベぇわ。俺の身が、心と体がヤベぇわ。


「や、ヤベぇわ」


「今は夏休みだろ? 数日なら俺の家に泊まればいい。姉の部屋も空いてるしな。落ち着いたら帰れ」


「ま、マジかよ……お前、俺の神かよ……」


 クソな親友かと思ってたけど、なんだよ、ちゃんと心配してくれてんじゃねぇか。それにしても助かった。なにか(たくら)みがなければいいけど。


「あぁ、一応貸し1つだぞ? ん? ……フッ。なかなか面白い事を閃いたぞ?」


「ンだよ? いかがわしいのはNGだぞ?」


「ハッ、今のお前くらい腕力でどうとでもなるだろ? 答えは今日の祭りで分かるぞ? くっくっくっ」


 わ、腕力でだとッ!? 今まで俺に勝った事ないくせに何余裕ぶってやがんだッ‼ それは俺が女だからか? クソッ‼ コイツの家に転がり込んで大丈夫なのか? 俺の事襲ったりしないか? 貞操の……ピンチか?


「おい、何してんだ? 胸と下半身隠して……俺が襲うとでも思ってんのか? お前馬鹿か?」


「お、お前ぇッ! 俺の事散々可愛いとか、腕力でどうとでもなるとか言ってたじゃねぇかッ!?」


「あぁ? ……違いないが、お前なんか興味ない。むしろ男だと知ってて欲情するかボケ」


「お? おぉう? そうか。そうだよな?」


 何勘違いしてんだ、俺? 自分が可愛いからって思いあがってた? うわッ! 何ソレ? すっげー恥ずいじゃんッ!?


「おい、そんな可愛いポーズすんな‼ 周りを見ろッ‼」


「え?」


 気付いたら、色んな人に注目されてた。車の中の人までずっと見てた。頬を両手で押さえて顔を赤らめてる俺をみんな見てる。俺を? みんな?


「……」


 恥ずかしくてそっとリヒトの服を掴んで顔を隠した。



「「「「「「「「「チッ‼」」」」」」」」」」




 なんか、すっげー波長の合った舌打ちが聞こえた気がする。気のせいか?


「はぁ、おい? だから面倒だと言ったんだ。早く離れろッ‼」


 リヒトが俺を突き放す。なんだよッ‼

 

「くっつくな! 暑苦しいんだよッ‼」


 つ、冷てぇーッ!? 少しは守れよクソがッ‼


「いいだろッ!? みんな俺を見てたから隠れたってッ‼」


「お前は乙女かッ!?」


 ぐッ!? ここで認めたらいけないッ‼ 俺は、男なんだぞッ!?


「は、早く帰るぞッ!? ここは居心地悪いッ‼」


 ここは俺が折れてやるよッ‼ 一時的な離脱だ。決して負けたわけではないからなッ!?


 俺達はその場を早足で去った。いろんな人が見てる大通りで騒ぐだけ騒いで……





 ~高橋家~



「あら、おかえりなさい。リヒト、アユミちゃん?」


「あぁ、母さんただいま」


「ちょ、ちょっと、リヒト母!? 俺はアユムですけどッ!? アユミじゃないですけどッ!?」


「お義母さんだなんて、お・ま・せ・さ・ん? ふふふっ」


「おかあさんとか言ってませんけどッ!?」


 玄関でこれだよ……1日持つのか? コレ?


「母さん、夜の祭りにコイツも行くから、さ? 100%イケる? ()()にさ、出そうと思って」


 は? 祭りに行くのか? いや、さっき言ってたような気はするけど、俺この姿で行きたくねぇぞ?

いや、服じゃなくて、女じゃって意味だけどな?


 つか、何? 100%とか、アレって?


「何ですってッ!? ……くふふッ。いいの? 周りの女の子が()()()()()()わよ? リヒトぉ?」


 うわッ!? リヒト母、目が光ってんぞッ!? 何ッ!? 何すんだッ!? おいッ!? 俺を連れてどこに……ッ!?


 やめッ!? 俺はッ‼


 男なんだぁぁぁぁッッっ!?




 …………






「お待たせ、リヒト。母さん久々燃えたわ。あんな子なかなかいないもの!」


「あぁ、母さんの腕は世界レベルだしね。腕に劣らないモデルはそうそういないけど、まぁ、たまたま居たし? 面白そうだし?」


「そうよ‼ そうなのよッ‼ あの子凄いのッ‼ 宝石どころではないわッ‼ むしろ私の方が負けてたのよッ!? 私もまだまだのようなの。リヒト、アユミちゃんは大きくなったら私が貰うわ?」


「あー、多分大丈夫じゃないか? ()()()()本人に聞いてみてくれよ?」


「さすがリヒトね? それより……アユミちゃーん!? いつまで廊下にいるの? 早くこっちきなさーい?」


 あー、リヒト母の声が聞こえるわー。つーかさっきから聞こえてんだけど、何? リヒト母って化粧か何かが世界レベルの人なの? 知らねーんだけど? ってか、仁美さんもモデルとしてはかなり有名だし、ここの家系地味に凄くない? リヒトの奴も黙ってたら、まぁ、イケメンじゃねぇかなぁーとは思うけど。


 俺の家系なんて(へー)(ボン)だぞ? まぁ、姉と妹は上級に届いてそうだけど。



「もう! 早くこっちにいらっしゃいッ‼」


 ぅわッ!? リヒト母に腕を引っ張られた勢いでリビングに入ってしまった。あ、うぅぅ、リヒトの奴、俺を見てやがる。なんだよコレ、家族ぐるみの公開処刑かよッ!?


「いいな。さすが母さんだ。参加者には悪いが、これは余裕だろ?」


「私の腕では彼女の全てを出し切れなかったわ。それでも、余裕でしょ? 何もしなくても楽勝だとは思うけど、ね?」


 は? 高橋さん方? 何を言ってんの? 俺、なんか祭りでやんの? 祭りって、屋台とか花火とか、まー、俺はやんねぇけど盆踊りとか? じゃねぇの? 参加者ってなんだよ?



「さて、準備は万端だな。勝ち戦に行こうか? アユム。お前が()()()()()()()非常に楽しみだッ‼ クフフッ」


 なんだよ、俺は最終兵器かなんかかよ? なんで祭りを壊す前提で行かなきゃいけねぇんだよ? つか、行きたくねーんだけど?


「なぁ、俺、なんで浴衣来てまで祭りに行かねぇといけねぇんだ? 行くにしてもさっきの服でいいだろ? つか、ぶっちゃけ行きたくねぇんだけど?」


「アユム、これはお前の()()()()()んじゃないのか? 信者を増やすんだろ? ならまずはお前が有名になって神社の事を言いまわればいいと思うんだが?」


「……あー、なるほど? 俺が目立って神社の宣伝をすると……それで俺を目立たせる為に化粧とかいろいろと……馬鹿なッ!? 俺は俺の為に目立たねばならぬのかッ!?」

 

「そうだ、貴殿は目立たねばならぬ。愚民共に力を誇示(こじ)し、己が為に衆目の光と成れ」


「は? なんて?」


「お前が頑張ればみんな幸せ」


 行くしかないのか? つか、別に大会とか出る訳じゃねぇもんな? 祭りに行くだけだもんな? 可愛い恰好で歩き回ればいいだけだろ? 楽勝楽勝ッ‼







 ~夜の夏祭り~



 楽勝なんて簡単に言うもんじゃないよな、うん。




「受け付けはコチラで~すッ‼」


 若い男の人が呼び込みをしている。出来れば見たくない。横に立ってる立て看板も見たくない。


「ホラ、行くぞッ!? なに踏ん張ってんだッ‼」


「い、行かねぇッ‼ 絶っ対に行かねぇッ‼ お前、騙したなッ!? 俺を罠に()めやがったなッ‼」


 現在祭りの一部、美少女コンテストの受付前で争っている。行かせたいリヒトは俺の腕を引っ張り、行きたくない俺は地面に足を着き踏ん張って、死に物狂いで抗っている。


「おい、聞けッ、コレに出て、祭りを()()()()()()ッ!?」


「お前の正気はどこに行ったッ!? 誰が出るかッ!?」


 一進一退の攻防は終わりが見えない。だけど時間が過ぎれば俺の勝ちなんだ。邪悪な笑顔を浮かべるリヒトに負けるわけにはいかない。悪いが、俺は男のプライドに賭けて勝たせてもらうッ‼


「仕方ないな」


 リヒトは力を緩めて諦めた様だ。はぁ、助かった。美少女コンテストとか、罰ゲームもいいとこだからな?


()()()()()()()()()()()()


「なん、だ、とぉ?」


 今、この場でその返却は割に合わなすぎるだろッ!?

 

「か、考え直さないか? 他に出来る事があれば、何でもしてやるからッ‼」


「……決定事項、だ」


「ば、馬鹿な……俺には、拒否権すらないのか?」


「受け付けまでは付き合ってやる。さぁ行こうか?」


 くそッ。出たくねぇ。どうにか、出来ないのか?


「すいません、エントリーお願いします。名前? あー、アユミ、で」


「その子が? ……あー、そりゃ出るわな。任せとけ」


 あああああああぁぁぁぁっッッ。終わった。エントリーも、俺の男のプライドも終わった。






 …………

 


『エントリーナンバー、22番ッ‼ アユミさんですッ‼』


 出るしかねぇのか? はああああぁぁぁぁっっ。俺は俯きながらトボトボと歩いてステージに立った。せめてリヒトの野郎の思い通りにならないよう心掛けて。


「あの子ヤバくね?」

「めっちゃ可愛くないッ!?」

「なんで下向いてんだ? 早く顔あげてくれよ?」

「なんかお淑やかでいいなッ‼」

「アリよりの、嫁だ。間違いない。」


 反応おかしくねぇか? つか、最後の奴アブねぇな。誰が嫁だッ!?


『では、アユミさんッ‼ 好きな食べ物はッ!?』


 食べ物? 好きなモンなんていろいろあんだろ? まー、よく食べるモノでいいか?


「ば、バナナをよく頂きます」


 

「「「「「ゴクッ」」」」」


 なんだよ、ゴクって!? お前らも朝食べんだろッ!? なんで生唾飲む音が聞こえんだよッ!? お前ら気持ち悪ぃよッ!?



『いい答え頂きましたぁッ‼ では次に、好きな飲み物、頂きましょうかッ!?』


 なんで飲み物なんだよッ!? 食べ物とそう変わんねぇじゃねぇかッ‼ でも一応答えないといけないか? 毎朝飲むし、アレかな?


「ぎ、牛乳をいっぱい飲みます」



「「「「「ゴクッ」」」」」


 ガタッ


 だからゴクッってなんだよッ!? てかなんで審査員席のオッサンまで立ってんだよッ!? お前らも牛乳ぐらい飲むだろッ!? なんなんだよお前ら? 普通の人じゃないのか?



『求める以上の答え、非常に喜ばしい事ですッ‼ では次に、好きな部屋着を教えてくださいッ‼』


 はぁ!? 部屋着ぃ? ここではそんな質問すんのか? 普通好きな色とか、好きな物とかじゃねぇのか? でも答えないと終わんねぇよな? 部屋着か……なんだっけか?


「えと、えと、下着しか着てない、と思います」



「「「「「…………」」」」」



 やっと大人しくなったな? そうだよな、こんなクソ暑い時期に服とか着てねぇよな? 下着でウロついて姉とかによく蹴られるけど、涼しいもんな?



『……やばッ! あー、ちょっと鼻がツーンとしますが、アユミさんはもうちょっと危機感がないと危ないですよ? ...最後の質問にしましょうか? ズバリ、彼氏はいらっしゃいますか?』


 はぁッ!? 彼氏ぃ!? ふざけんなよッ‼ 俺に彼氏なんかいるわけねぇだろッ!?


「彼氏なんかいませんッ‼」



「「「「「フォーーーーーーーッ‼」」」」」


 ガタガタガタッ‼



 なんだ? なんでそんなに俺を見んだよッ!? 俺は男だっつーのッ‼


「み、見んな、コッチ見んなッ‼ 馬鹿ッ‼」


 顔が熱い。両手で顔を覆って見られない様にした。それが引き金となるとは知らずに。



「なんだ、可愛いとは思ったが、天使だったか」

「なんだあの可憐な少女はッ!?」

「あの子本当に人間かよッ!?」

「彼氏がいないだとッ!?」

「ワンチャンアリってことか……?」

「押せばイケんじゃねぇか?」

「「「「「俺の嫁だッ‼」」」」」



 なんだなんだッ!? なんか会場の雰囲気がおかしいぞッ!? 


『あ、アユミさん早く裏へッ‼ 非難をッ‼』


 はぁッ!? 避難ッ!?



 俺は言われるがままに会場裏へと逃げた。どうなってんだこのイベント? 毎回こんなんなワケ?



 女となって始めての夏祭りは大波乱で幕を開けたんだ

 






 

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