第3話 神性力?何ソレ?
「なぁ、アユム?」
「あー? なんだよ?」
俺達は2人で横に並んであの神社へと向かっていた。それにしてもリヒトの奴デケぇな? 俺が小さくなっただけなんだけど。
そういえば、こうして俺の為に一緒に解決してくれようとするなんて、イイ親友を持ったもんだ。
「お前、異常に可愛いみたいだな?」
「ブフォッ!?」
なに? お前、俺に気があるとか……? イヤイヤイヤイヤ、何言っちゃってんの!?
「リヒト、お、おまっ、おまっ、俺の事っ!?」
「違う。勘違いすんなボケ。お前の見た目はたしかにアイドル顔負けだが、周囲の好奇な目が鬱陶しい。どうにかしないと俺はお前を嫌いになるだろう」
こいつ本当に親友なのか? 超絶自分勝手じゃねぇか? ってかどうにもならないから今歩いてんだろッ!?
「わ、分かった。俺は少し離れて歩くから--」
「お前は馬鹿か?」
リヒトの奴、俺に切れながら腕を掴んできた。なんだよっ!? どうにかしろって言ったのお前だろッ!?
「俺から離れるな。今のお前は可愛いって言っただろう? 変な男にちょっかい出されて面倒になるだろうが」
ちょ、ちょっと--
……自分勝手すぎじゃねぇ? 自分が面倒くさがりなだけだろ? 何で俺がお前に振り舞わされなきゃいけねぇんだよっ! キュンとかするとか思ったのか?
「バーカ、バーカ」
俺はそこそこの力でリヒトの腹を殴った。でも男の時よりはかなり弱いみたいだ。それに拳が痛いけど今コイツに顔を見られたくないんだ。なんか守って貰ってるみたいな感じが恥ずかしくて……デレ、じゃなくて、テレ、だからなっ‼
「フッ。親友が妹にでもなったかの様だ」
「誰が、妹だぁーーーッ‼」
俺はムカついて全力で殴ったんだが、痛かったのは俺だけみたいだった。チクショウ。
~古ぼけた神社~
「ホントにこんなトコに神社があったんだな?」
「だろ?俺も今日初めて知ったんだけど、前からあったっけ?」
2人で例の神社の敷地に入ったんだけど、未だにここに神社があった記憶が無かった。
敷地はそこそこ広く、100坪はありそうだ。目測だけだから分かんねぇけど、外から見た外観よりかなり広く感じる。
さっき来たときは小さく感じたんだけどな? いや、外から見たら小さく見えたって感じか?こんなに大きいなら知ってるハズなんだけどな? 見た記憶すら無いとはなんとも不思議だな。
「で? どんな少女がお前に謎の光を?」
「あー、たしか、変わった巫女服を着たガキだったな」
多分ここの巫女モドキだとは思うんだけど、子供のオモチャ? でこんな奇怪な現象起きるか、普通?
「変わった巫女服? それはあの、賽銭箱の横でうつ伏せに寝てる子供か?」
「へ? あ、居たぁぁぁぁぁっっ‼」
俺は俺をこんな姿にしたガキを見つけて指を差して叫んだ。アイツがもし俺をこんな姿に変えたんなら元にも戻せるだろ?って希望も込めて叫んだ。
俺の声が聞こえたのか、うつ伏せのガキは身体を半分起こして、
「うるさいんじゃぁっッ‼ ボケぇッ‼」
とか言ってきた。そしてまた寝そべった。アイツ何なんだ? つーか仕事しろよ? なに神の社でくつろいでんだよ?
俺は一刻も早く元の身体に戻る為に、走ってガキの下へと向かった。
「おい、ガキッ‼ 俺を元の身体に戻せッ‼」
思ったより早く解決しそうだ。何がどうなってこんな姿になったか分かんねぇけど、変えた本人ならどうにかなんだろ。
俺の考えを知ってか知らずか、ガキは面倒くさそうに呟いた。
「誰じゃお前は? 可愛い顔して言葉が汚いぞ? 女なら女らしく可愛くあれよ? じゃぁな」
そしてまたうつ伏せに寝た。な・ん・だ・よッ‼
「俺の話を聞けって言ってんだろッ‼ 俺を元にも・ど・せッ‼ ウガァーーーッ‼」
「ぴゃぁっ!?」
俺の声に驚いたガキはようやく起き上がった。そしてゆっくりと歩いてきたリヒトも来た。
「おいおい、子供相手になに威嚇してんだ? 言葉を選んでやれよ?」
偉そうにリヒトの野郎メガネを上げながら挑発してくる。俺を挑発する前にコイツをどうにかしろっ‼ 一応声には出さずに目で訴える。ガキが機嫌を損ねて戻してくれなかったら困るからな。
「フンッ、他愛もな--」
「消えろメガネ。失せろ陰険」
俺の目の錯覚か、リヒトのメガネにヒビが入った気がする。ぜってぇ今イラついてんだろ? 親友よ、お前も俺の仲間入りだ。このガキを懲らしめよう。ぺんぺんタイムだ。
…………
「ご、ごめん」
「あぁ、すまなかった。やり過ぎたと反省している」
あれからガキにぺんぺんした。2人で太鼓の様にぺんぺんした。時には楽しく、時には激しく、徐々に泣き出す童女に気付かずに、ぺんぺん、ぺんぺん、と。
そして、童女は……
漏らした。
言っておくが小の方、ね? この時点でやり過ぎたと後悔した。調子に乗ってしまったみたいだ。流石に漏らすとは思わなかったから、正直焦った。そして、今に至る。
「うわぁぁぁん、うぇ、うぇッ、ゆるじでよォォぉっ‼」
もうぺんぺんタイムは終わったんだ。でも童女にトラウマを植え付けてしまった。童女は俺達にもうやめてと訴えてくる。もう俺達は何もやってないのに、やめて、と。流石に罪悪感が襲ってくる。ど、どうしたらいいんだよッ!?
「なぁ? コイツは元々男だったんだ。
どうやったら元に戻んだ? お前がやったんだろう?」
えぇぇぇぇぇッ!? 今ッ!? めっちゃ泣いてんだろッ!? 何お前、闇に目覚めたのかッ!? 属性が鬼畜メガネに上書きされるぞッ!? 空気を読めよっ空気をッ‼
「ぞごのぉッ、お前、ズズッ、あの邪な企みの者なのがぁッ?」
泣きながらも答えてくれるようだ。話が進む半面、正直今は気が進まないんだけど?
「ん? あぁ、多分そうだが、何故邪な? 者だと?」
リヒトが俺の代わりに話を進めていく。たしかに俺は何もしてねぇぞ?いや、ここで男2人は殴ったけど...花野さんを助ける事以外何も考えてなかったぞ? 花野さんって知ったのは殴った後だけど、さ?
「お前、ズズッ、女の子に、不埒な感情を、
抱いで、襲おうどじてただろ? ヒック、ヒック」
「アユム...犯罪って知ってるよな?」
「違ぇからっ! 俺は花野さんを助けただけだからッ‼ お前も知ってんだろッ!? つか、説明しただろッ!?」
おかしいな。鬼畜メガネなら理解してると信じてたのに。
「ふぇっ!? 違うのかッ!? お前じゃなかったのかッ!?」
「違うわッ‼ 俺が助けて花野さんとお別れした後にお前が来たんだろッ!? なんだ?俺が花野さんに逃げられたのかと思ってたのか?」
「......うるさかったから怒鳴りに行っただけじゃ」
ぜってー勘違いだろ。なに俺から顔を背けてんだよ? しれっと泣き止んでんのも分かってんだぞ? はぁ、まぁいいか。誤解が解けたなら早く戻してもらわねぇと。つか、元に戻るってのも意味分かんねぇよな? なんで簡単に性別変わんだよ?
「分かった分かった。俺もここで暴れて悪かった。ごめんな? それで、早く元に戻してくんね?」
「無理じゃ」
「「は?」」
俺とリヒトは同時に声が出た。てか、なんだって? 無理? は?
「いや、だって、お前が俺に、は? 違うのか?」
「いや、儂のせいじゃ。儂がその、(勘違い)ごにょごにょ……したからお前を女にした。女の子の恐怖を味わえ愚か者、と」
「だったら元に戻してくれよ? どうやったかは分かんねぇけど、やったんなら出来んだろ?」
「だから、今の儂には無理じゃ。ちょーっと力を使い過ぎて、その、今は神性力が足りんのじゃ」
は? 神性力? 何ソレ? 生まれてこの方初めて聞いたんだけど?
「そもそもお前らは儂を何だと思っているのじゃ?」
「ガキ」
「童女」
「クソがぁぁぁぁッッ!?」
なに切れてんだよ!? 逆に怖ぇよ、お前。
「儂はこの地を守る神、大地主之神様の子植山姫之神であるぞ‼」
「だから?」
難しい名前言われてもピンと来ねぇよ。つか、なんやらかんやら、かみ? ん? 神?
「儂はここの神様だっちゅーのッ‼」
「はぁッ!? お前みたいなガキがッ!?」
「ウソは泥棒の始まりだという。ぺんぺんが足りないのか?」
「う、嘘じゃないモンッ! ホントだもんッ‼」
なんだ? 語尾に「じゃ」とか言ってたのに、「だもん」ってやっぱガキじゃねぇか。そんなにぺんぺんが嫌か?
「証明出来るのか? お前が神だと分かる何かを。それに本当にアユムを元に戻せるのか? お前みたいな童女に?」
え? お前マジで神様かもって思ってんの? そりゃ、性別変えるなんて人間には無理な話だけどさ? こんなガキに何が出来るって言うんだよ? 神様とかいるワケねぇだろ? 俺達は現実に生きてんだぞ? ファンタジーかっての。
まあ、そのファンタジーな意味不明のせいで女になってんだが。
「じゃあ、雨降らすか? ホレッ」
ポッ、ポッ、サァァッ、ザァァァッ、ズザァァァッッ‼
おいおいおいおいッ!? 本当に雨、っつか嵐来てんじゃねぇかッ!? マジなのか?このガキマジで神様、なのか?
「もういい。濡れるのは鬱陶しい。さっさっと止めろ」
リヒトは無表情で答えていた。すげぇな、俺、正直ビックリなんだけど?
次第に雨は止み、クソあっつい気温に戻っていった。
「フフン、分かったかお前達っ! 私はホントに神なのだッ‼ ひれ伏せいっ‼」
「神ならアユムを元に出せ駄神」
偉い強気だな、リヒトの奴。ガキでもコイツ、本当に神様なんだぞ?
「む、無理じゃ。儂には力が……」
「ならひれ伏せろ。詫びろ」
「あ、う、すみませんでした」
おいおい、なに神様に土下座させてんだよ? リヒトの奴本当に鬼畜なんじゃ……?
「どうせ、力が無いというのは面倒事なのだろう? 俺達はお前のせいで面倒に巻き込まれたんだ、上から偉そうにするな。馬鹿にしてんのか?」
「は、はひぃッ! 面倒に巻き込んでごめんなさいですッ‼」
見るに堪えないぞこの光景。誰が好き好んで童女を土下座させてんだよ。俺は流石に見てられず、童女を立たせてあげた。
「そんなに謝らないでくれ。悪いのはお前だけじゃないんだ。神様なんだろ? もっと神様らしくしてくれよ?」
「ッ!? お、お前ぇ、可愛くていい奴だぁ。私は今お前が好きになったぞ? その、お前には迷惑を掛けた。すまなかった」
好きになられてもなぁ……今の俺はホントの俺じゃないし、なにより童女に好きとか言われてもな。それに謝られても元に戻れないんじゃ意味無いし、な?
「おい、いいのか? ソイツのせいでお前はその姿にされたんだろ? 悪いのはソイツだろ? 早く戻す努力をさせないといけないだろ?」
「いや、そうかもしれないけど、」
「お前、このままずっとその姿でいいのか? 女のままでいいのか? 俺は面倒事は嫌いだから何もしないぞ? なぁ、駄神?どうやったらアユムを元に戻せるんだ?」
「この神社に、その、信者を、1万人はいるのじゃ。あと、社を綺麗にせねば神性力は溜まらん」
1万人の信者? それにこのボロッちぃ社を綺麗に? 何年かかんだよ、それ?俺、男に戻れんのか?
「はぁ。俺はパスだ。全てはソイツの責任だろ? そんな面倒受けるつもりはない。アユム、女として困ったことがあれば親友として、助けてやるが、男に戻る条件は不可能に近い。諦めろ」
「そ、そんな……」
俺は少し楽観的に考えていたのかもしれない。そもそも簡単に性転換出来るってのがおかしいんだ。リヒトの奴も協力はしてくれないらしいし……
というか俺はこれから男として生きれなくなった? ウソ、だろぉ?
「な、なぁ?俺はその条件をクリアしたら、戻れるんだよなぁっ!? 頑張ったらいつか、男に戻れるんだよなぁっ!?」
「もちろんじゃ‼ 絶対に戻すと誓おうッ‼ その、すまない、儂のせいでッ‼」
頑張ったらいつかは戻れるって事だよな?
「リヒトッ‼ 俺は諦めねぇぞッ‼ ぜってーすぐに元に戻ってみせるからなッ‼」
俺の目には雫が滴っていた。きっとさっきの雨のせいだろ。
俺はやる。やってやるッ‼ ぶっちゃけ意味分かんねぇけど、頑張ってやる‼ 信者なんて10万人だろうが100万人だろうが集めてやるッ‼
負けてたまるかッ‼
ぜってー男に戻ってやるッ‼