第2話 謎の性転換
幼女に変な光を当てられて困惑したアユムだったが...
「おいッ‼ やめろって! 目が開けれねぇだろッ!?」
俺がいくら止めろと言っても全然光が収まらない。ぁんのガキッ! やっていい事と悪い事が分かんねぇのか!? そう考えていくうちに段々と光が収まっていく。不思議と身体が軽くなった気がしたが、今はどうでもいい。目を開け、周囲を確認して子供を探す。
「おいッ! どこだガキッ!? チッ、逃げたのか?」
せっかく花野さんを助けていい感じになったと思ったのに。今度会ったら絶対お尻ぺんぺんしてやるからなッ‼
クソッ、それよりそろそろ予定時間だよな?
急いだほうがいいか?
俺は急ごうかと足を踏み出したが、ズボンがやたらと下がってきて歩きづらい事に気付いた。何故かシャツも伸びている気がするし、靴も何故かブカブカだ。視界もなんだか低く感じるんだけど?
(あー? なんだこれ? 暑くて変に感じるだけか?)
俺は特に気にせずに待ち合わせのコンビニへと急いだ。歩いても5分と掛からないだろう距離だけど。遅刻はあまり好きじゃないんだ。
そしてズボンを持ち上げながら急いで向かっていたら、やたらとトイレに行きたくなってきた。もう目の前にコンビニが見えるというのに。よく見たら俺の親友がコンビニ前の日陰でアイスを食べて待っていた。
(やばい、遅刻か? しかしお、オシッコが、うぅぅッ)
俺は早足に親友の下へと向かい、
「ちょ、ちょっと待ってろッ! トイレ行ってくるから!」
とだけ伝え、コンビニに入った。
コンビニの中は凄く涼しく、少し緩みかけた。
(や、やばいッ! なんでこんなに我慢できなくなってんだ!?)
意味が解らないまま男の店員にトイレを使う事を伝え、お腹とズレ落ちてくるズボンを押さえてトイレへと直行した。
猛ダッシュでトイレへと駆けこみ、ブカブカのズボンとパンツをスポーンと脱ぎ、便座を上げる余裕も無かったのでそのまま座って用を足した。
…………
(ん? なんかオシッコってこんな感じだったっけ?)
凄い我慢した後の解放感なのか、いつもと違う違和感があった。何というか、出方が違うような感覚。
出し終えた俺は一応拭いとこうと紙をとって、見たんだ。自分のアソコを。数分はフリーズしていたかもしれない。
「は? ...え? ...あれ? ...どゆこと~?」
別に大事にしていた訳ではないけど、無くなってた。無くなったというか、別物になってた。別物っていうか、性別? ...変わった?
あれ? 俺って男じゃなかったっけ?
さっきからおかしいと思ってたんだよ。やたらと服がブカブカの割には胸が少し張ってるし。髪の毛もなんか伸びてる気がするし。身体がやたらと軽く感じるし。全体的に視界が低いし。
「ええええええええぇぇぇッッ!?」
何があった? なんでこうなった? さっきまで男だったろッ!? 落ち着けッ! 落ち着けッ‼ 思い出せッ‼
男達を殴った。
ここまではセーフ。
花野さんと話した。
ここもセーフ、だよな?
ガキにライトを当てられた。
もしかして...それからか?
「ね、ねぇちゃん大丈夫か?」
やばい、コンビニの店員だッ‼
さっきの声が響いてたのかッ!?
「だ、大丈夫ですッ‼ 問題はありませんッ‼」
トイレは、だけど。俺自身は大問題だぞ、これ? とりあえずはココから出ないとな。
トイレから出てきた俺をカウンターから店員が心配そうに見てくる。というか少し鼻の下が伸びている様に感じる。むしろ身体を乗り出してずっと見てくる。
(うわっ、気持ち悪いなオッサン)
そういえば、と思い振り返って見た。そこにあるのは鏡だ。真実を映す鏡。そこに映る俺は見た事ないくらい超絶可愛い女の子だった。自分で言うのもアレだけど、アイドルみたいな可愛さだ。自分で自分に惚れそうになってしまう程に。
髪は天然気味のゆるふわパーマを肩にかかる程度の長さ。顔は端正整った綺麗系でもあり可愛い系な印象。身体はシャツ越しだから...
(やばッ!? 下着ないから胸がッ!?)
今初めて自身が恥ずかしい恰好をしていると気付いた。お、俺、何でこんなに恥ずかしいとか思ってんだ? 男だった時はよく上半身裸で川とかプールとかで遊んでたってのに、今は同じことが出来そうにない。
下着がないと、形が、先端が見られてしまう。それにズボンとパンツがずれ落ち気味だ。何故か恥ずかしいと意識してしまう。俺は下がるズボンと胸を押さえながらゆっくりと店から出た。
しかし、出たら出たでそこも地獄だった。
今度は照り返す灼熱の陽射し。慌てて日陰に逃げ込むが、そこにも問題があった。
それが、俺の親友。名前は高橋 理仁。小学生からの友達で、親友。属性は知的メガネ。
(完っ全に忘れてたわ)
「おい、そこの女子? 俺は君の事を知らないぞ? なんでトイレを待たなければいけないんだ? 俺はそもそも親友を--」
「リヒト、シャラップ。まずは俺の話を聞け」
「...は? もしやアユムか? どうした? 夏休みの見ない間に性転換手術でもしたのか?」
コイツ凄いな。俺の面影一切ない状態なのに。あのメガネに何か機能が付いてんのか? 俺の言葉を認識...って声も違うわ。つーか今気付いたわ。俺、声も可愛いなッ!?
「この時間に来て当然の様に話してきて、俺の呼び名を答えて、挙句に話し方で分かるぞ?」
「お前は名探偵かッ!?」
「いや、普通の中学生だ」
この常識と非常識を併せ持つ逸材こそが俺の親友の由縁だ。なかなかに面白れぇんだよコイツ。それよりこのズレ落ちる服どうにか出来ないか?
「な、なぁ、リヒト? とりあえずお前んちに上げてくんねぇか? 急にこんな姿になって、服とか胸とか色々困ってるんだよ」
「あぁ...ソレは問題アリだな。分かった」
言いながら家へと歩き出す親友。やはり頼りになるのは親友という存在だよな? 俺は落ちるズボンと胸を押さえながら親友リヒトに着いて行った。俺を見る周囲の好気的な目に怯えながら。
~高橋家~
リヒトの家は2階建ての普通の一軒家だ。そのリヒトの部屋で落ち着こうと思ったんだけど、着いて早々リヒトの母にバレた。内心どうしたらいいか迷ったがリヒトの言葉で全てが片付いた。
「母さん、アユムが女になった。合う服を見てあげてよ」
ドストレート。110キロの打ちやすいホームランボールだ。しかし、リヒトの母。
「あらそう、あらあらあら! とっても可愛くなってぇ。リヒトのお嫁さんになっても私は大歓迎だわぁ!」
ゴールはがら空きだぁッ‼ キーパーがいないPK状態だッ‼ なんでも受け入れすぎだろッ!?
っていうかリヒトは親友だが、恋人とか嫁になるつもりないから‼ 俺が男だって知ってんだろッ!?
そんな点取り合戦にツッコミ不足な俺は息も絶え絶えに着替えに行った。着替えはリヒト姉のモノを使うらしい。その言葉に俺はドキドキしていた。
リヒトの姉、仁美さんは現在大学生で少し離れた有名大学に通っている。つまりは家を出ているんだ。その為か、使わない下着や服は置いたままになっている。
ちなみに、リヒトの姉さんは黒髪美人でモデル業もやっている。俺は親友の姉の隠れファンだったりするんだけど、恥ずかしくて誰にもカミングアウトしてない。
そんな一種の憧れの女性の下着を身に着けるんだ。何とも言えない高揚感...男だったらただの変態だけど、今は女だ。俺は今女なんだ。胸はBかCカップ? くらいあるし、下は、アレだしな。身長が150くらいしかない様だけど、問題ないだろ。俺が仁美さんの下着つけても問題ないだろ。
(ふ、ふふ、へへへっ...)
そうしてリヒト母に着けてもらいつつ、なんとか落ち着いた。いや、落ち着かないけど、服は落ち着いた。もうズボンが落ちる心配は無いし、胸も守られた。恰好はヒマワリの黄色いイラストの女性もののシャツにショート短パン。暑いから丁度いい恰好で助かる。短パンすぎてちょっと恥ずかしいけど、海パンで歩くみたいなもんだから、と気にしない様にした。
着替えた俺はリヒトの待つリビングへと向かい、扉を開いた。
「悪ぃ。今日の予定ダメにしちまったか?」
今日の予定を狂わせたのは俺だ。何があろうと予定を考えた人からしたらあまりいい思いはしないだろう。だからしっかりと謝りたかった。親友だからではなく、ちゃんとした人として。
「気にするな。俺とお前の仲だろう? それよりその身体、いや顔もか。どうしたんだ?」
俺は分かる限りの事を教えた。その曖昧な説明だけで信じてくれるのかは分からなかったけど、リヒトは真面目に聞き、答えを出した。
「そうか、分かった。ではその神社に今から行こうか?」
時刻は15時。夜の祭りにはまだ余裕があるが、果たして元の姿に戻れるのだろうか? 果たしてあの子供はいるのだろうか?
俺達はあの小さな古びた神社へと向かったのであった。
平日は「双月の白銀姫」の更新をしますので
そちらも見てもらえたら幸いです。
それでは続きはまた来週。