11 銀薔薇の園
「私のステータスが異常に上昇しているの…………」
「え?」「はぁ?」「どういうこと?」
シュナの言葉に、俺たちは思わず首を傾げる。
ステータスが異常に上昇?
俺はどこか既視感を覚えたが、冷静に考えることにした。
「さっきのゴブリンを倒したからじゃないのか?」
「ゴブリン数匹ごときでこんなになるわけないでしょ。大体レベルも上がってないの。ステータスだけが上がってるの」
レベルも上がっていないのにステータスが上昇…………うーん、なんでだ?
4人で熟考していると、ナターシャが「はっ!」と声を発する。
「もしかして、スレイズの固有スキルのせいじゃない?」
「え?」
「ほら、この前教えてくれた固有スキル『信頼』だよ」
そういや、そのスキル、ファーストキス覚醒の時にスキルアップしたんだっけ?
あの時も、ステータスが異常に上昇していたが、あれは覚醒したから上昇したんだよな。
「その固有スキルってどんな効果があるの?」
「それは俺にも分からない…………」
俺が苦笑いで答えると、「そっか」と呟くメイヴ。なんかすまん。
物心ついたころにはあったが、スキル詳細には何も書かれておらず、固有スキルであるため、どんなものであるか誰にも分からなかった。
ナターシャは俺の固有スキルが発動したため、シュナのステータスが上昇したではないのかという。
でもな…………俺、使った覚えはないんだよな。
大体意識して使えたことなんてないし。
すると、シュナが物珍しそうな目を向けてきた。
「あんた…………固有スキルなんて持ってたの」
「ああ。使えない固有スキルだがな」
ほんとに。使えたらベルベティーンたちに見捨てられることもなかったのにな。
「『信頼』…………もしかして、スレイズが信頼した相手に発動するんじゃない?」
「信頼した相手に?」
「そう。シュナちゃん、さっきまでステータスは上がってなかったんでしょ?」
シュナはコクリと頷く。
「ええ。ゴブリン倒す前にステータスを確認したけれど、変化はなかったわ」
「シュナちゃんがスレイズのことを認めてくれたおかげで、スレイズがシュナちゃんのことを信頼できる相手と考えたんじゃない?」
確かに…………俺はさっきシュナを信頼できる相手と認識したな。
「つまりスレイズの固有スキル『信頼』は信頼した相手のステータスを上昇するスキルなんだよ! ねぇ! メイヴもステータスを確認してみてよ!」
と言われ、自分のステータスを確認するメイヴ。しかし、彼女は浮かない顔をしていた。
「…………ちょっとずつ上昇しているけど、そんなに上がっていないわ…………スレイズ、私のこと信頼していないのね。残念」
「え? 信頼してるけど…………なんで?」
「私は信頼していたのに…………」
「いや、俺もしてるけど!?」
「お兄さんたち、今日は一旦ここで止まりますよー」
馬車のおじさんに声をかけられ、俺たちは馬車を降り、宿へ。
その後も宿で話し合った。
しかし、なぜシュナのステータスが異常に上昇し、またメイヴのステータスはゆっくりと上昇するのかは結局分からず、そのまま放置。
そうして、山を越え、谷を超え。
1週間かけて移動し見えてきたのは、国で一番活気のある場所、王都グラスペディア。
中央の王城を囲むように城下町が広がっていた。
俺たちは馬車をある広場で降りると、地図を持っているナターシャに案内してもらった。
俺は歩きながら、街を見渡す。
うーん。
王都ってやっぱり人が多いんだな。
そこまで大きな通りを歩いているわけではなかったのだが、様々な職種の人間がいた。
そして、歩き始めて数分後。
ナターシャが足を止めた場所は大きな白い建物前。入り口の上には薔薇のマークが描かれた紋章があった。
「ここが…………シルバーローズ」
「そうだよ。私たちがこれから所属するギルド」
建物の中に入ると、ギルドの人たちでいっぱいになっていた。
武器や防具を装備している…………これからクエストにでも行くのか?
俺たちはどうすればいいか分からず、入り口で止まっていると、受付嬢らしき人が近寄ってきた。
「あなたたちは…………ナターシャのパーティー?」
「あ、はい」
緊張気味に答えると、彼女はニコリと笑ってくれた。
「話は聞いているわ。私はベル、このギルドの受付をやっているの。分からないことがあったら何でも聞いて」
「はい! よろしくお願いします」
ナターシャに続き、俺たちも大きな声で挨拶をする。受付嬢はなぜか動揺していた。
「げ、元気が非常にいいのね。こんな新人さん初めてだわ…………こほん、ええと、じゃあ、まずあの人の所に挨拶にいってきてもらおうと思うのだけれど…………用事とかはないわよね?」
「ないですが…………挨拶ですか?」
「ええ。挨拶はこのギルドの決まりなの。あ、荷物はその辺において。挨拶が終わった後、このギルドについて詳しく説明するから」
と言われるままに、案内される。
受付嬢は通りとは反対側の入り口へと歩いていった。
挨拶をすると言っていたが…………一体どこに連れていかれるんだ?
案内された場所に広がっていたのは薔薇の園。白、青、そして、銀の薔薇が咲き誇っていた。
「すごく…………きれいだね」
「初めてみた…………銀薔薇なんて本当にあるんだな」
噂にしか聞いたことがなく、存在すらしないと思っていた銀薔薇。
そんな花が目の前に可憐に咲いていた。
周囲を見渡すと、ベルさんはいつの間にかいなくなり、俺たち4人だけが残されていた。
え? 俺たちどうしたらいいんだ?
薔薇に囲まれた中央には芝生が広がり、俺たちからずっと離れた所にいたのは1人の女性。
銀薔薇と同じ色の銀髪。その長い髪は白いリボンで結われ、風になびく。
俺たちに気が付いたのか、銀髪の女性はゆっくりと振り向く。
綺麗な人だな…………。
凛とした顔立ちに、透き通った青の瞳。
すると、突然彼女は剣を構え、走り出した。
彼女の瞳は完全に俺を捕えている。
!?
「スレイズ!?」
それは一瞬だった。
ナターシャの叫びが響き、俺の首元にはさっと風が吹く。俺の灰色の髪は大きくなびいた。
…………うそだろ? 誰か、この状況を説明してくれよ。
俺はゴクリと息を飲む。
目の前の彼女の顔には優しい微笑み。そして、彼女の手には剣があった。
「君のレベル、とんでもなく高いね」
その鋭い剣先が俺の首元に向けられていた。少しでも動けば刃が首に切りこみそうになっている。
「まるで、ウルフハウルにいる連中と同じだわ」
女性の青眼には剣と同じ鋭さを感じた。
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