蛇足・断片・番外②~共通認識、この厄介なるもの~
突然ですが、以下の文に共感できますか?
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リストの『ラ・カンパネッラ』の4、5のトリルは難しい
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大半の人は、「……は?」もしくは目が点になるでしょう。意味不明な文だと。
この文がわかるのは、リスト作曲『ラ・カンパネッラ』(※ピアノ曲)を知っていて、かつ楽譜を読める人、心から共感できるのはピアノ演奏経験者くらいでしょう。
ちなみに4、5のトリルとは、右手の薬指と小指を交互かつ高速で隣り合う二つの鍵盤を、例えばレミレミレミレミ……みたいに弾く部分(下図)。右手はこんな配置。字が見えにくくてごめんよ……。
速度は秒速8音くらい(素人た~にゃんの人差し指&中指トリルがそれくらい。プロはもっと速いかな)。
曲の中盤あたりに、小指と薬指で絶え間なく高速トリル弾きながら、同じ右手の親指で1オクターブ下の音を弾く、鬼畜部分があるのですよ。
ただでさえ小指と薬指にゃ力が入りにくいのに、高速かつ音の長さを均等に保ちながら約10秒間弾き続けろなんて……。さらに演奏指示はP(弱く)。力任せに弾くより難度が上がります。繊細に弾かないと曲の雰囲気ぶち壊しになるという……orz
ここまでの長ったらしい説明につきあってもらってようやく、読者はさっきの文が朧気ながら理解できると思うのです。
動画で見るなら“La Campanella Liszt piano”で検索かけると出てくる。俯瞰で奏者の右手に注目してみてね☆
(注)んなもん俺だってやれるさ! と、訓練なしに挑戦はダメよ。指を痛めるからねっ!
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共通認識――常識とは実に厄介です。
当然知ってるよな? って書いてみたけど、それ、本当に読者に通じているのでしょうか?
例えば若者言葉。
た~にゃん実は「それな」の使い方がイマイチわかりません。いや、これでも書き手ですしググれば(←Googleで検索することよ)わかるんでしょうけど、ついつい忘れちゃう。
例えばゲーム用語。
例えば『モンハン』。どんなゲームなのかは知っています。テレビCMで何度も見ましたから。モンスターを倒すゲームでしょ? でも出てくるモンスターの名前――例えば『イヴェルカーナ』は知らない。同様に『Fate』なんかも、絵面と大雑把なストーリーは知っていても細かいキャラ名や魔法詠唱とかは知りません。
どんなに有名で知名度のあるゲームでも、プレイしたことのある人にしかわからん知識はあると思います。
例えばテンプレ。
悪役令嬢ものも追放聖女も、知らない人は知らない。
例えば服飾用語。
ノースリーブにマーメイドラインくらいはわかるかな。じゃあそこの男子、フィッシュテールって何のこと? パニエって何かしら?? ジュストコールって知ってる?
例えば歴史用語。
クリッパー、ガレー、コグにジャンク。
さて、何のこと?
例えば武器兵器関係。
ロングソードは剣だ。両手剣でクソ重い。バリスタは弩(←ルビナシで読めるか?)だけど、どうやって撃つのかな? じゃあグレネードランチャーはどんなものでしょう?? ベトン弾ってなぁ~んだ?
例えばBL。
『左』に『かけ算』、『リバ』、『総受け』。あと『ネコ』も。全部説明できるかしら?
例えば……。
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挙げた中に、一つ二つは「何だ??」と思ったモノがあったと思います。
書き手であるあなたがそうなら、きっと読者にはもっと『わからない』があると思います。
『わからない』が一つ二つならいいんです。でも、作中に『わからない』があふれていると読者はストレスを感じます。
「これは常識」と思っても、一度『この内容は万人が知っているのか』を考える。そして、必要ならできる限りざっくりとした短い説明をさり気なく入れる。
重箱の隅をつつくようなことですが、作品を読むだけで、例えばBLの基礎知識がつくような描き方をされていると、連載あるあるな読者離れを少しでも防げるのではないでしょうか。
ざっくりと、短く、さり気なく(重要)。
それから。日本語の語彙も共通認識ですね。言い回しは物語の雰囲気に関わるので重要だと思いますが……。たまに思います。今どきの若い子は『まずは隗よりはじめよ』とか『貴様こそは不倶戴天の敵! チェエストオォォ!!』とか、意味が通じるんだろうか……? と。
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……と、ここまで共通認識=よくないモノ、のように書きましたが、こんな一面もあります。
【共通認識=強力な共感要素と事前学習】
『とある分野』と、『とある分野を好きな集団』がある。そこに『とある分野』に詳しく言及した『物語』がある。『とある分野を好きな集団』にとって、その『物語』には「わかる! わかる!」がたくさん詰まっている――深く没入できる物語になるのです。
また、『とある分野』が好き=事前学習で基礎知識があるので、『物語』の理解が早く、知っていること故に頭を使わないで済みます。
『ゲーム好きな集団』にとって、『ゲームに言及した物語』は『ゲーム』についての基礎知識があるがゆえに、『ゲーム』と類似した世界観を理解しやすく、共感もしやすい。また、サッカーが好きな人は、ルールを熟知している(事前学習)わけですから、PK戦のシーンのアツさ――手に汗握る感覚を共感しやすいのです。
『とある分野を好きな集団』の人口が多ければ多いほど、『とある分野の基礎知識』=共通認識は、強力な威力を発揮します。お客さんが多いわけですから、『物語』へのレスポンス――なろうではPVが増えるのです。
なろう利用者がどの分野を好む集団なのかを分析できたらいいのになぁ。