蛇足・断片・番外③~悪と謀略~
【『悪』の扱いについて】
物語に登場する『悪』(※人とは限りません)。本編の方で、『ラスボスがラブリーチャーミーなかたき役ではアカン』的なことを書きましたが、覚えておられますでしょうか。
『悪人』『脅威』『巨悪』……。
物語に影を落とすそれらの要素は、『制した/乗り越えた感動』の素ですが、諸刃の剣でもあります。
『悪』ですから、当然ヤツらは『悪い事象』をもたらします。
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・人が傷つく(物理&心情両面。最悪死ぬ)
・搾取される
・仲間内から、住処から追われる
・陥れられる
・負ける
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ええ、シリアスです。気鬱になりますね。
そしてこれらには大概残酷描写がセットとなります。
匙加減を間違えると、読者が逃げていきます。流血をはじめとした残酷描写が苦手な読者は一定数いますから。
特に『劇薬』と思われるシリアス――『悪の所業』がこちら↓↓↓
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・仲間の裏切り
・仲間の死
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念の為言っておきますが、入れたら読まれないわけではありません。思わぬどんでん返しや、お涙頂戴にも需要はあります。
問題は、物語がイージーモードではなくなることです。
そのせいか、この二つが登場する高評価作品にはなかなか出会いません。描くのが難しいからか、読者が逃げるからか……どちらかなのかはわかりませんが、たぶん作品自体が少ないのです。
『仲間』キャラは、描写も台詞もある程度ありますし、読者(無論作者も)愛着を抱きやすくなります。そのキャラを死なす(『裏切り』も最終的には討伐=死という結末を辿る)となると……主に心情面で後を引く要素となるので、作品全体の雰囲気を重苦しく変えてしまう危険性があります。
なので、投入するなら、扱いには注意した方がいいでしょう。重苦しさを無くそうと『死』を軽く流すと、『主人公=軽薄野郎』と捉えられる→なりきりたい主人公ではなくなる危険性もありますね。うーん、難しい!
ですが。
『悪』を軽~く、イージーに描いてしまうと、今度は『感動』が目減りします。困りましたね。
じゃあどうすりゃいいのよ(怒)
一つ、提案です。
ホラー要素を入れましょう。
大丈夫。血みどろスプラッタを書けとは言いません。
参考にしたいのは、和ホラー。ド派手にキルしていろんなモノが飛び散る海外ホラーではありません。
海外ホラーがヴィジュアルに訴える恐怖なら、和ホラーは心に訴える恐怖です。
不気味な、いかにも出そうな空間、雰囲気――想像を掻き立てる恐怖なのです。
そんな和ホラー、小説――特に『悪』の描写に応用できると思いませんか?
以下、使えそうな材料を挙げてみます。
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①不気味かつ不可解な現象、事件
②正体も意図もわからない黒幕
③水音、濡れた感じ
④静かな空間で際だつ何気ない音
⑤サイコ、狂気、常軌を逸したエゴ
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①の不可解な現象や事件なら、例えば誘拐されて記憶をなくして戻ってくるとか、戻ってきた後発狂するとか。⑤は、悪役令嬢ものなら乙女ゲームヒロイン(※実質的な悪役)が担っていたりしますね。
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未知は恐怖です
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『わからないこと』、これが大事です。⑤にしたって、常識の外側にある=行動原理を理解できず、この先どんな行動をするかもわからないから、薄ら寒さを感じるのです。
グロさはないけど怖い=『悪』の強さをいや増せると思いませんか。
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【謀略について】
『悪』の一種、『謀略』は勧善懲悪ストーリーの要です。『謀略』は、大まかに分けて次の二つに分けられると思います。
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①個人を陥れる系
②組織・集団を陥れる系
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例を挙げましょう。
まず①。個人を陥れる系の謀略。
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とあるラブラブカップルを想像してください。それぞれの名前を仮にヨチ子とパル夫にします。パル夫は財閥の御曹司。ヨチ子は婚約者です。
ここで悪役、玉の輿を狙うワル子が登場します。パル夫の妻の座におさまりたいワル子は、ヨチ子を婚約者の座から引きずりおろすために、ヨチ子を人気のない蔵の前に呼び出します。どうでもいいお喋りをした後、ワル子は隙をついてヨチ子を蹴飛ばして蔵の中に放り込み、扉に鍵をかけて一晩放置します。蔵の中には、ワル子があらかじめ仕込んでおいた手癖の悪い男がいる……という感じ。
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陰惨な例でごめんよ(´・ω・`)
上記において、陥れる対象はヨチ子という『個人』です。
この種の謀略の良いところは、個人レベルの話なので難しくなく理解しやすいこと。そして共感を得やすいところです。実際、書籍化作品や高評価作品には、この手の謀略が多く見られます。また、個人レベルの話なので、ジャンルを選ばず取り入れることができ、使い勝手もよいのです。
注意すべきと思えるのは、個人レベル故にモノによっては『些細なこと』と捉えられる危険性があることです。
次。②の集団・組織を陥れる系の謀略の例です。
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敵対する二つの国、A国とB国がある。
もしB国が、A国の小麦輸入ルート上に傭兵部隊を送り、小麦貿易を邪魔するとどうなるでしょう? A国が小麦の自給率の低い国なら、A国内の小麦の値が高騰、そのうち食糧不足に陥るかもしれません。
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上記において、陥れる対象はA国の民衆と政府という『集団・組織』です。
この謀略の良いところは、スケールの大きさでしょうか。例えば時事問題を彷彿とさせる題材にすれば、読者の共感を掴むことができるかもしれませんね。
逆に注意すべきなのは、スケールが大きくなるが故の『小難しさ』です。この謀略、国家規模だと頭に地図を思い浮かべなければなりません。また、作者の頭では明確なイメージや利害関係でも、読者にそれをはっきりと伝えるのは至難の業です。
また、陥れる対象が集団・組織なことから、作品ジャンルによっては、取り入れにくさもあります。
(例1)
【異世界の学園を舞台にした恋愛】
学園=閉じられた空間での平和な日常
大規模な謀略とは離れた立ち位置
(例2)
【勇者パーティーの冒険譚】
設定上、国家等との関わり合いが薄い
ゲームベースの【個VS個】を繰り返すストーリー(ダンジョン攻略ものとか)
(注意)これらのジャンル全てが大規模謀略と無縁というわけではない
①と②をミックスしたり、並列させたり、物語にはさまざまなパターンが見られます。
謀略ですから、伏線を張ったりの作業も必要ですが、長々と広げず小さくまとめた方が理解を得やすいと思います。




