第2話 冒険者ランク
第2話更新です。
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『フェロウシャスシリーズ』
それは、一般的な魔物と比べ、特に獰猛な種類に付けられた名だ。
その中でも厄介なのが、フェロウシャスベアをはじめとした大型の魔獣。
単体で村ひとつを壊滅させる程の力を持つと言われている。
そのため見つかり次第討伐するのが通例となっている。
冒険者であれば、Aランクパーティ、もしくはSランクが駆り出される。
時には軍が派遣されることもあるほどだ。
今回カーティル達が受けたフェロウシャスベア討伐は、Sランク冒険者であれば、一人でも余裕で対処は可能だ。
Sランクパーティ〖暁闇の雷霆〗は、Sランクのマギサ、ファオスト、ウカミと、Aランクでリーダーのカーティル、そしてアクティフの五人で構成されている。
冒険者ギルドの規定では、パーティとしてのランクは平均値で定められる。
例えば、Aランク二人とBランク一人、Cランク二人ではBランクパーティとなる。
ランクがバラバラのパーティも存在するため、パーティのランク決めの見直しが検討されているが、パーティ内でそこまで個人の実力に差があることはあまりない。
冒険者ギルドのランク設定は、FランクからSランクまで存在する。
また、「ランク外」として設けられている、討伐などは行わず、市街での清掃やお手伝いなどを行う、危険なことをしたくない人のための名前だけのGランクが存在する。
Fランクは無能、才能なしと判断された者。この判定だった者は大抵が冒険者にはならず、他の職業を選ぶ。
Eランクが普通のスタート地点であり、「駆け出し」とも呼ばれる。
Dランクも「ビギナー」と呼ばれ、Eランクの者が慣れてきた時に昇格する。また、カードの期限切れの際はこのランクからスタートである。
Cランクで「一人前」と呼ばれるようになり、Bランクで「一流」となる。基本はここで止まる。
そして、さらに努力した者がAランクに、才能ある者がSランクになる。
この世界には様々な職業が存在する。
その中でも群を抜いた割合を占めるのが冒険者である。
現在、何百万といる冒険者の中でもAランクは千にも満たない。
そしてSランクともなると、数十人しか存在しない。
それほどにAランク以上は狭き道なのである。
対人戦ではAランクは軍の小隊規模から中隊規模を、Sランクであれば大隊規模から連隊規模まで制圧可能と言われている。
しかし、あくまでこれは範囲攻撃が可能な人物の話であり、高ランクの者でも対魔物や一対一に特化した、対人戦や対集団を得意としない者も多い。
カーティルもその例だ。彼が〖暁闇の雷霆〗のリーダーを務めている理由の一つが、彼は一対一であれば、同じパーティのSランク三人にも負けることはないからだ。
しかし、複数人(体)、それも大人数が相手となると戦えなくなる。それ故にAランクなのだ。
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王都の分厚い城壁を抜けた一行は、フェロウシャスベアの最後の目撃情報があった王都近郊の『呪縛の大森林』の深部へと向かっていた。
「カーティルさん。いつも通りちゃちゃっと討伐して、エルブ採取ですか?」
「ん?まぁ何もなければそうだな。」
「えっと、その言い方ってことは、何かありそうなんですか?」
アクティフが面倒臭そうな顔でそう尋ねる。
それに対しカーティルは至って真面目に答える。
「嗚呼、森林に入ったのに殆ど魔物と出くわさない。これはヤツが相当力を溜め込んでる可能性がある。警戒を怠るなよ。」
「それはまた、大変そうですね。」
アクティフが更に顔を歪める。しかし、先程よりも緊張感を持ったようだ。
魔物は他の魔力を持つ生物を捕食することで力を増す。
本来は魔物がそこら中に闊歩しているはずの呪縛の大森林だが、かなり奥まで進んでいるカーティル達は未だ数匹としか戦闘になっていない。
彼らの場合、戦闘といっても、数瞬の間に終わるのだが。
魔物は人間を見つけると見境なく襲ってくる。
呪縛の大森林では、常に幻惑や精神攻撃が働いている。
耐性がないと、これを防ぐことができず、動けなくなるものが多い。
このことからここは呪縛の大森林と呼ばれているのだ。
単に魔物が襲ってくるだけならまだしも、動けなくなったところに来られてはどうしようもない。
それはカーティル達も例外ではない。
マギサのような高位の魔法使いであれば、身動きが取れなくとも魔法で何とかできるかもしれないが、普通の者では対処不可能だ。
よって、マギサを含めカーティル達は全員、幻惑耐性の指輪を装備し、惑乱防止魔法をマギサが施している。
そのおかげで彼らは何の問題もなくここまで進むことができている。
彼らが呪縛の大森林に入ってどれ程の時間が経っただろう。
なかなか標的が見当たらず、そろそろマギサの魔法に頼ろうかとしていた時、アクティフがパーティの動きを止めた。
「見つかったのか、アクティフ。」
「はい。数は2、距離はおよそ200と210。周囲にそれ以外の気配はありません。」
「2体いるのか。厄介だな。」
カーティルはアクティフの報告を聞き顔をしかめる。
しかしすぐに真剣な顔つきになり、少し殺気を放ちながらパーティーメンバーに指示を下す。
「よし。一気に片を付ける。マギサが2体同時にスリープを掛け、少しでも効いた様子を見せたら、俺が奥のヤツを狙う。ウカミは手前のヤツを殺ってくれ。」
マギサはフードの下で頷き、ウカミは「承知した」とだけ返答する。
それに対して不満を漏らしたのは残りの二人だった。
「私とファオストはどうするんですか。」
少し不満げに顔を膨らませながらアクティフがカーティルに尋ねる。
それに同調してファオストも何度か頷く。
「嗚呼、お前らには万が一の時に手を貸してもらう。もしマギサの魔法が効かなかった場合はアクティフ、お前が両方の足を奪え。ファオストは俺やウカミの剣がヤツに傷をつけられなかった場合は、素材は気にせず、間違いなくお前が潰せ。」
それを聞き、アクティフは「はいっ。」と元気よく頷いた。
しかし、もう一人はそうではなかった。
「それだと俺の出番はねぇんじゃねぇーか?お前らの剣が通らなかったことなんぞ見たことねぇぞ。」
ファオストは拳を打ち付けながらカーティルに問いただす。
「まぁその可能性が高いだろうな。」
「リーダー、俺も戦いてぇんだが。」
「それはわかってるが、お前が殺ると素材が使い物にならなくなっちまうだろ。」
「それはそうだが……」
ファオストはその見た目に似合わない、少し悲しげな顔をする。
彼は人一倍殺しが好きではあるが、こういった可愛らしい一面も隠し持っている。
しかし、このことを知っているのはカーティル達一部であり、巷では戦闘狂のような言動から多くの者に畏怖される存在だ。
だがそれは決して嫌われているわけではなく、少し近寄りがたい存在という感じであり、現に拳闘士や武闘家を目指す者からは尊敬の対象となっている。
そんな彼がこんな一面を持っていることを世間が知れば、女性人気が高まりそうだ。
「わかった。帰りの要らない魔物は全部お前に任せる。それで良いな。」
「あ、あぁ。」
カーティルは自分より一回り以上大きいファオストを相手に一歩も動じることなく、更には威圧までして彼を黙らせた。
ファオストは不本意そうだが、カーティルに逆らうことなくそれ以上は文句を口にしなかった。
これがパーティーメンバーのみが知る〖暁闇の雷霆〗の日常だ。
「全員準備は良いな。」
カーティルの声で全員が戦闘態勢に入る。
フェロウシャスベアまでの距離はまだまだある。
しかし次の瞬間、全員が気配を完全に消した。
そして、カーティルの次の一言で一斉に動き出す。
「行け」
後で少し改稿するかも知れません。
パソコンの調子が悪いため、9・10月の更新ができません。
次回は11月末に3話更新します。