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034◆大蛇


◆大蛇


朝方、結構冷え込んだようで、周りの草は朝露でしっとり濡れていた。

人と比べメイアの体温が高めなのと、眠っている間あたしを尻尾で覆ってくれたため、とくに寒さは感じなかった。


今は何時ごろだろう? この世界に来てからは自分の体内時計とのずれが大きくて、感覚では時間の見当がつかなくなっている。


相変わらずシルフは爆睡しているが、メイアはあたしよりも早く起きていて、眠っていたあたし達を見守っていてくれたようだ。


と、メイアが急に体を起こし立ち上がった。 辺りを見回して何かを警戒している。

あたしは、シルフが落ちてこないかの方が心配で、メイアの頭ばかりを見ていた。


シュルッ シュルッ

革砥かわとで刃物を研いでいるような音が聞こえてくる。 ひどく不安になるような音だ。

でも、この音は絶対にどこかで聞いたことがある。


そうだ、蛇が舌を出したり引っ込めたりする音だ。


ズルズル  ジャリッ

体を引きずる音も聞こえてくる。 もう近くにいる!


グォーー

メイアが吠える。


その方向を見れば、なんと巨大な蛇が鎌首を持ちあげて、こちらを見ているではないか。

大きさは、メイアの5倍はある。


空に逃げるか。 

そう思ってメイアの方にゆっくりと近づこうと1歩踏み出した途端、大蛇は信じられないスピードであたしに向かって来た。


恐ろしさのあまり、体が固まって動くことができない。


大蛇はあたしを飲み込もうと口を大きく開けた。 2本の鋭い牙が光る。

もうダメ!


頭を抱え、その場にしゃがみ込んだと同時に、もの凄い閃光が走った。

一瞬目の前が真っ白で何も見えなくなる。


ビチッ バシャッ バシャッ

目が慣れてきて、辺りの様子がぼんやりと見えてくると、なんとあの大蛇の体が真っ二つになっていた。

いったい何が起きたのだろう。


ぼーっとしていると、シルフがもの凄い勢いで飛びこんで来た。

その勢いで、あたしは尻もちをついてしまう。


シルフ、もしかして今のは、あなたがやったの?

シルフの顔をよく見ようと思い、両手でそっと体をはさむと小刻みに震えている。

体も異常なほどに冷たい。 


大蛇は体が半分になっても、まだかすかに動いている。

この場所は、大蛇の血の臭いが漂っているので、他の獣が集まって来るかも知れない。


メイア! 別の安全そうな場所まで移動しよう。

あたしは、シルフを抱いてメイアに跨った。


再び上空から降りられそうな場所を探す。

それにしても、大鮫、巨大烏賊、大蛇となんでも想像以上の大きさで、生きた心地がしない。


もしかしたら、この先には人が安全に暮らせるような町や村は、無い可能性もある。


この時、あたしは初めて弱気になっていた。


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