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愛多ければ憎しみ至る2

 

 その日、僕は不思議な夢をみた。

 僕が風邪をひいて、ベッドの上で寝込んでいる夢だ。

 何だかとってもリアルな世界で、熱でボーッとする感覚や、喉がイガイガする感じなど、まったく現実での病気の時と同じ感覚である。

 ふと、目を横に向ければ、そこには見知らぬ人が佇んでいた。

 何やら見慣れぬ赤地の和装を着て、編笠を深く被った法師のような出で立ちである。


「……貴方は?」

「おやおや、お忘れですか。かつてもこうして病床の貴方の元へお尋ね申し上げましたのに……」

「……何か、ようですか?」


 何か霊的なものだということは分かったが、はて、以前どこかであっただろうか。

 妖の類はそれこそ星の数ほど見てきたので、いちいち個体を把握などはしていないから、わからなかった。


「何のよう、でございますか。そうですね。我が背子せこべき宵なり細蟹ささがにの蜘蛛のふるまひかねてしるしも――と言った所でございます」

「あの……なんのことだか、さっぱり」

「ふふふ、それでは、この顔を見れば何か思い出すでしょうかねぇ」


 そういってその法師は、深く被っていた編笠をくいと上にあげた。

 そこから現れた顔は、異形。

 全くもって、’’蜘蛛”そのものであった。


「我が傷の恨み、ここではらさでおくべきか!」

「なっ……!!」


 瞬間、その蜘蛛顔の口の部分から勢いよく飛び出してきた白銀の糸が、上体を起こしている僕の身体にまとわりついた。

 とても頑強な糸であり、必死に腕で押し切ろうとしてもビクともしない。

 なんの恨みかは分からないが、この異形の法師が僕に敵意をもって攻撃しているということは確かなようであった。


「くそっ! いったいなんの恨みがあってこんなこと!」

「黙れ、にっくき頼光の子孫! 貴様の先祖とその部下に受けた傷を癒すのに、数百年の時がかかったわ! もはや頼光は死に、この燃ゆる復讐の火炎の矛先は、彼奴の血を色濃く受け継いだお前しかいない!」


 ああ、また頼光絡みか!

 僕の母方の家の先祖――源頼光みなもとのよりみつ

 平安時代中期に藤原道長に使えた武士であり、かの有名な四天王を引き連れて、古今東西妖怪退治に走り回った豪傑の名前である。

 その名は妖怪たちに忌み嫌われており、彼が持つ退魔の血を色濃く受け継いだ僕に出会う妖怪達は9割が逃げ出し、1割が襲いかかってくる。

 本当にはた迷惑な話であった。


「さあさあさあ、頼光の子孫よ! 我が千草(ちぐさ)の糸によって絞め殺してくれようぞ!」

「くそっ……!」


 絶対絶命かと思ったその時、僕の部屋のドアが大きな音を立てて開いた。


「大丈夫か! ヒカル!」

「クレナ!」


 現れたのは、我が家のお狐様、紅御前である。


「!! なんだ、妖狐が何故、この家に!」

「ふん、貴様、土蜘蛛じゃな。なるほど、ヒカルはライコウの子孫じゃったか。とりあえず――その糸を離せ!」


 クレナの手から紅蓮の炎が放たれ、その火は蜘蛛法師の口から伸びる糸のみを焼き切った。

 よし、両手が動く!


「くそ、妖狐の狐火と霊糸は相性が悪いか。ならば、我が鎌の手で引き裂いてくれよう!」

「ヒカル、こいつを!」


 クレナがこっちに投げてよこしたのは、僕の愛スコップ、雪切丸である。

 地面に落ちたそいつをすぐに拾い上げ、上段に構えた。

 ふむ、こいつで反撃と行こうか。


「なっそいつは……まさか膝丸!?」

「いや、雪切丸だっ!!」


 僕の霊気が篭っているらしい鉄のスコップをみてひどく狼狽した敵に向かい、袈裟斬りに一閃。

 その攻撃は、奴の胴体をかすめるのみであったが、威力は絶大であった。


「ぎゃあああっ!」


 家が揺れんばかりの悲鳴をあげたそいつは、ものすごいスピードで逃げ出していった。

 ふう、ざまあみやがれ。


 ◆◇◆


 翌朝、食卓にて昨晩の事件について話し合うことにした。


「なあクレナ。あれって何の妖怪なんだ?」

「ふむ。あれは土蜘蛛というあやかしじゃ。めっちゃ強い蜘蛛」

「めっちゃ強い蜘蛛」


 ものすごいアバウトな解説だった。

 僕は現代っ子なので、スマートフォンで検索をかけてみると、平家物語など様々な作品に取り上げられている有名な妖怪であり、頼光が退治したらしい。


「まったく、ご先祖のせいで北の大地に来てまでも妖怪に追い回されるなあ」

「ヒカルは、若い頃のライコウにそっくりだからよのう」

「知り合い?」

「まあ、ちょっとしたな」


 朝ごはんの卵かけ御飯をかき込みながら、クレナは懐かしそうになにやら回想を始めたようだった。


「小春が寝ている間にお兄さんがそんな目にあっていたなんて……。不覚です」

「いや、小春も頼光の血を少し受け継いでるから、危険だよ」

「心配は無用です。それにしても、お兄さん何だか顔が赤くないですか?」

「ああ、ちょっと体調が悪くてな」


 昨日の晩から、どうも身体がだるい。

 どうやら風邪を引いてしまったみたいだ。


「それは、土蜘蛛の呪いやもしれぬな」

「え、そうなの?」

「うむ。あやつには状態異常のデバフをかける技があるゆえ」


 状態異常のデバフて。

 それめっちゃウザい敵キャラじゃないですか。


「えーじゃあどうすれば」

「土蜘蛛を倒せば問題なかろう」

「どこにいるかわかります?」

「ふん、あそこまでお主に恨みがあるのじゃ。今夜にでも向こうから乗り込んでくるじゃろう」

「あーそうなんすか。じゃあ何か対策を立てなきゃですね」


 のんきに朝ごはんを食べながら妖怪退治の算段を立てるというのもシュールな光景である。

 そこで、今日のメニューをペロリと平らげた小春が箸をお椀の上に置いて一息つくと、こう言った。


「小春に策あり、です」







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