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妖狐は歳だが役に立つ3

「はぁあああ、ぬっくぬくじゃぁ、ぬくぬく祭りじゃぁ……」

「ぬくっぬく祭りです。あ、お兄さん、冷蔵庫からみかんを取ってきて下さい」

「あ、妾も! ついでに皮も剥いてたもれ」

「おお……兄さんに皮まで剥いてもらうとは……。さすがの小春もそこまでは要求できなかったです。紅さま、マジリスペクト」

「ンフフ〜。妾ってほら、可愛いから何を言っても許される節があるじゃろう?」


 コタツに下半身を入れて、机の上でグダーっとなっている2人が、訳のわからないことをほざき始めた。

 昨日、紅様を家に連れて帰ると、母親と小春は2人で一通り彼女をもふり倒して、この家に置いておくことをアッサリと承諾した。

 そして、その翌日には、この有様である。

 何だこの、ダメダメなコンビは……。


「あの、紅さま。何ていうか、その、一応神格化なさられているのですし、ほら、威厳とか……」

「んあー? 威厳なぞ、とうの昔に犬に食わせてやったわ。むっ、これだけぬくいと、もしかしてアイスクリームを食べることも可能なのではないか……?」

「いや、そんなものすごい発見みたいに言われても……。何だこれ、敬意とかいらない感じか?」

「えー? 妾、腐っても上級の妖な訳だしー。尊敬は集めておきたいよのぉ。全く尊敬する要素がなくとも、敬うがいいぞ、ヒカルよ」

「ぜってー嫌だわ……。紅さま――いや、もう、言いづらいからクレナいいか。お前、自分が居候の身だという自覚があるのか?」

「ふむ。まあ、なきにしもあらずと言ったところか」


 なきにしもあらず。

 あまりポジティブな肯定ではなかった。


 俺が連れてきた妖狐のクレナちゃんは、本人の言う通り確かに可愛い見た目をしている。

 白い耳と尻尾はモッフモフだし、目はぱっちり二重で、肌は雪のように真っ白。

 髪の毛は金色にキラキラと輝きを放ち、まるでアニメの世界から飛び出てきたようなそんな幻想的な美しさを持つ少女であった。


 しかし。

 その実態がここまで怠け者とあっては、100年の恋も冷めるというもの。

 ハムハムとみかんを頬張りながら、小春と携帯ゲーム機で遊んでいる様は、見るに耐えなかった。


 こうしてくれる。

 ポチッとな。


「……あ! コタツのスイッチを切りおったな、お主! いじわる! 変態! 女顔! いたいけな少女を虐めて快感を得る性的倒錯者かお主は!」

「うるせー!! ていうか少女って歳じゃないだろ、お前! 婆さんじゃねえか!」

「ちーがーいーまーすぅー! 妾は永遠の美少女ですぅー!」

「いいか、この家で衣食住を保証してやる以上、それなりの対価は支払ってもらうからな……」

「何じゃ、まさか身体で支払えというのか……!? まぁ別にお主は嫌いじゃないし全然構わんがの」

「馬鹿かテメーは。対価は労働。ほら、外を見てみろ」


 日の光が苦手という吸血鬼みたいな弱点を持った小春の手によって閉められていたカーテンをシャっと開いた。

 光が差し込み、外の様子が見え……ない。

 雪が高く降り積もり、窓を半分覆っているからだ。


「やはり……今日も降り積もったか……」

「なんじゃ、なんじゃ。妾に何をさせるつもりじゃ……?」

「ふふ……雪の日に、やることといえば、決まっているだろう……」

「……雪合戦?」

「それは仕事じゃねえ。ほら、これに着替えろ、戦闘装束だ。俺たちが今から行うのはな……」


 僕はクレナに小春の新品同様のスキーウェアを渡し、スノーキャップをかぶりながら、宣言した。


「この世の地獄の雪中作業――雪かきだっ……!」


 ◆◇◆


 玄関を出ると、家の前には雪が10センチほど積もっていた。

 重さは……よかった、サラサラの雪だ。

 これならば、運搬は比較的楽に済みそうだ。


「のう、ヒカルよ。雪かきとは……なんじゃ?」


 ピンク色のスキーウェアに、白いニット帽を被って狐耳を隠しているクレちゃんがそう尋ねてきた。


「要するに、雪の掃除だよ。ほら、家の前に積もった雪を一箇所に集めて山にして積んで、そこからさらに庭に運んで捨てるんだ」

「ああ、なるほど。趣旨は理解した。喜べ、ヒカル。霊気を潤沢に得た美少女妖狐紅ちゃんにとって掛かれば、このような雪など(やす)い易い」


 そう言ってクレナは手の平を上に向けて、何か呪文のような言葉を呟くと、そこにボウっと火の玉が浮かび上がった。


「妖狐が司るは五行における火の御業。みよ、荒ぶる火炎が憎っくき雪を蹂躙するその様を――」

「まったまったまった! ストーップ。一回やめて」

「ん? どうした急に。せっかく妾の狐火で一瞬にして雪を水へと変えてくれようと思ったのに」

「それは、ダメなんだよ。クレナ」

何故(なにゆえ)


 キョトンとしている妖狐クレナに、俺はお隣の北上さんから教わった雪かきの真意を伝えることにした。



「雪かきっていうのはね、地域共有の問題なんだ」

「あん? どういうことじゃ」

「ほら、向かいの家も、そのお隣の家も、みんなせっせとスコップで雪かきを投げているだろう?」

「ああ、投げておるな」

「そんな中、この家の雪だけが一瞬でなくなったら、どうなると思う」

「……どうなるんじゃ?」

「ウチは苦労して除雪しているのに、あの家は何か楽をして除雪しているって、そう思われてしまうんだ」

「考えすぎではないか?」

「いや、あそこを見てみろよ」


 俺が指をさしたのは、はす向かいの家であった。

 その家に住む田中夫妻は、赤い機械を手押車のように押して回転するローラで雪を巻き込み、上の部分から放射。

 雪を一瞬で高く積み上げている。


 ――家庭用除雪機だ。


「ほう、あのようなカラクリがあるとは。コタツといい、人間は面白いのう」

「あれは、とても便利な道具なんだけれど、この区画で所有しているのは田中さんだけなんだ。彼は町内会でこう呼ばれている。――機械仕掛けの除雪王(メカニカル・スノールーラー)ってね」

「何じゃそのかっこいい名前は!?!? てっきり蔑称が来るのかと思ったわ!!」


 田中夫妻はよく海外旅行にいったお土産をご近所に配っているので、この界隈における好感度は高い。

 別に嫌われているとか、そういうことはなかった。


「まあ、除雪機くらいじゃ羨ましいだけで陰口とかはないけど、さすがに不思議な力で一瞬で雪が無くなるのはまずいよ」

「確かに、神秘の薄れた現代で、妖の業はちと拙いかの」

「それに、冬場は空気が乾燥している。火は、禁止だよ」

「承知した。では正攻法でゆくとするか。おお、寒い寒い。はよう終わらせようぞ」

「ふふふ、さあ始めようか、僕たちの戦争(ゆきかき)を……!!」


 こうして、戦力が1人増えた状態での本日の雪かきが始まるのだった。







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