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昨日の淵は今日の瀬2

 クリスマスも終わり、やってくるのはお正月。

 その少し手前の晦日に、源家は年越しの準備で忙しい。


「さて、僕はおせち料理を作らなきゃならないから、お前らにはそれぞれ任務をあたえる」


 従姉妹の小春は労働力に数えられないため、頼りになるのは妖怪たちしかいない。

 僕は彼女たちを整列させて向かい合い、左から順に声をかけていく。


「チグモは配下の子蜘蛛の力を借りて、家の掃除を頼む。換気扇とか細かい所など、お掃除スポットをメモしておいたから、そこにまとめてある道具を使って頑張ってくれ」

「かしこまりました、我が主人」


 チグモは多分僕よりもこの家の内装に詳しいだろうから、大掃除を任せることにした。

 まあこいつは一番しっかりしているし、大丈夫だろう。


「ヒカル、私は?」

「橋姫ちゃんは、チグモのサポートで。念力で大きい家具の移動とかを手伝ってやってくれ」

「おっけー!」


 橋姫ちゃんはチグモの指揮下に入ってもらった方が、仕事がスムーズにいくだろう。

 我ながらなかなかの采配だ。


「そして、クレナだけど、家の前の雪かきを――」

「むむっ! 妾は年末にみる映画をレンタルしてきてやろう! ついでに祠の様子も見てくるのでちょいと遅くなるぞ! じゃあの!」


 そう言って我が家のお狐様はドロンと忍者のように姿を消した。

 まあ、映画のレンタルもありがたいからいいけどね……。


 そういう感じで、年越しに抜けて各自持ち場につく。

 今年も残すところあと1日しかない。

 やり残すことのないように、気合を入れて頑張ろう。


 ◇◆◇


 おせち料理を作るといった僕だが、いま外に出ている。

 なぜかというと理由は簡単で、卵をきらしていたからだ。

 卵がないと茶碗蒸しも伊達巻も作れないし、デザートにも必要なので、買いに行く他なかった。

 うう、寒い。

 こう、ちょっとした買い物のために出かけなきゃならないというのはすごく嫌だ。

 何事もまとめて済ませたいものである。

 そういうわけで、近場のスーパーでワンパック180円の卵を2つ購入して、すぐに家へととんぼ返りする。

 その帰り道、ぼくはとんでもないものに出会ってしまった。


「……」


 いま僕の目の前には、女の子が行き倒れている。

 歩道の上にうつ伏せになって、まっすぐに背筋を伸ばした状態で。

 しかも、この娘、どう見ても妖怪だ。

 このクソ寒いなか、真っ赤な浴衣をきて、頭からは長い角を2本生やしているのだから。


「……」

「あのー、大丈夫……?」

「……ダメそう」


 うつ伏せのまま、その角娘はそう呟いた。

 身体が雪にめり込んでいて、見ているだけで寒そうだった。

 このままこの娘をまたいで、何事もなかったかのように家に帰るなんて、僕にはできない。

 しょうがないから、家に連れて帰ろうか。


「なあ、とりあえず家にくるか? そのままじゃ凍えて死んじゃうよ」

「……不思議」


 ちょっとよくわからない反応をみせたこの娘を、僕はおんぶして運ぶことにした。

 背丈は低く、140センチくらいしかない。

 髪の毛は今風にいうと姫カットというやつで、前髪をパッツンにして後ろ髪を伸ばしている。

 ちょっとつり目ぎみの少女であり、唇には紅がぬってあるようにも見える。

 そんな謎の角を生やした少女を背負って、僕は卵を家に持ち帰った。


 ◆◇◆


「もう、ヒカル様。まーた妖怪を拾ってきて。ちゃんとお世話できるのですか?」

「いや、そんな子猫拾ってきた子供みたいな扱いしないで」


 新しい妖怪の女の子を家に連れて帰ると、チグモにそうからかわれた。

 たしかに最近妖怪の女の子家に連れ込みまくってるなぁ。


「それで、その娘はなんなのです。見たところ鬼のようですが」

「ああ、なんか行き倒れてたから放っておけなくてさ」


 僕が連れてきたのはどうやら鬼らしく、家に入るといままでグデーっとしていた気怠さはなくなったようで、自分の足でしっかりと立っている。

 そんな彼女に、僕は事情を聞くことにした。


「で、君はなんで行き倒れてたんだ」

「……不思議。殺されそうになった相手に、助けられた。なぜ」

「んん?」


 殺されそうになった(・・・・・・・・・)相手に、助けられた……?

 助けたのは僕だから、そうなると僕がこの娘を殺そうとしたという話になる。

 意味不明だ。


「おいおい、僕は君を殺そうとなんてしていないよ。見間違いじゃないか?」

「……うぅん。確かに、あなたの方が小さい……」


 僕の姿を上から下までじっくり眺めると、鬼の娘はそう結論づけた。


「ってことは、僕に似た人に殺されそうになってたってこと? この年末に穏やかじゃないな〜」

「……うん。相手の名前はわかるよ」

「マジ? じゃあ警察に通報しようぜ。幼女に暴行なんて、きっと罪は大きいぞ」


 僕がそういうと、その鬼の娘はとんでもない名前を口にした。


「私を殺そうとしていたのは――頼光。源頼光」





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