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合わぬ蓋あれば合う蓋有り5

 日にちは12月25日

 クリスマス当日を迎えた、源家。

 僕たちは今、家の前で自宅を見上げていた。


「さてと、やりますか!」

「なんじゃ、ヒカル。今日は雪かきなのに、機嫌がいいのう」


 僕が手にプラスチックのスコップを持っているので雪かきをすると思っているのだろうが、それは違う。

 今日は我が家の屋根の雪下ろしをするのだ。


「雪下ろし? なんじゃそれは」

「読んで字のごとく、屋根に積もった雪を下に落とす作業のことだよ」


 雪国の民家といえば三角屋根のいわゆる合掌造りというのを思い浮かべる人も多いけど、うちは勾配のない平らな屋根なので、雪を手動で落とさなければいけない。

 放っておいてもいいのだが、ゆきが飛び出た部分が不意に落雪すると、下に人がいた時にかなり危険なことになるので、落としておいたほうがよいのだ。


「雪下ろし! それなら私が役に立つわ!」


 そういったのは橋姫ちゃんである。

 彼女はしばらくうちに居候して、婚活と就職活動をしたいと申し出てきた。

 まあこいつらは姿を隠すことができるし、食事をしなくても別に死にはしないらしいので、金もかからないから了承した。

 現在小春以外の家族が存在を認識しているのは、クレナだけである。


「役に立つって?」

「ふふーん! 私はね、念力が使えるの! ここから上にある雪を持ち上げて、落としてあげるわ!」

「あのなあ、橋姫ちゃん。そういうんじゃないんだよねえ」

「? どういうこと」

「ほら、左隣の山岡さんの家の屋根の上を見てごらんよ」


 僕がそういうと、みんなが隣家の屋根を見た。

 そこでは、虫も殺したことがないようなお爺さんが、満面の笑みを浮かべながら雪をどんどん屋根から突き落としている。

 その表情は、どこか光悦としていた。


「あの山岡さんは、とっても楽しそうに雪を落としていくことから、近所の人にはこう呼ばれている。――笑う屋根雪処刑人ハッピー・スノー・エクスキューショナーってね」

「なにそれ!?」


 ――雪下ろし。

 綺麗に積もった大量の雪をスコップで押してやると、ドサドサドサ〜っと一気に雪が下に落ちていくので、けっこう楽しいのだ。

 我が家の場合は飛び出た部分だけ削ればいいので、大して辛くもないし、何より屋根の上という普段行けないところに行けるのが楽しい。

 正直この作業を楽しんでいるのは僕と山岡さんくらいだとは思うが、やっぱりこの作業は嫌いじゃないのだ。

 もちろん命綱はつけるけどね。


「そういうわけで、僕が屋根から雪を下すよ」

「じゃあ、私たちは何をすればいいの?」

「御前達にやってもたいこと、それはな――」


 ◆◇◆


「よーし、3分たったぞ〜」

「わーい!」


 現在、雪下ろしも終わり、僕たちは家の中に……戻りはせず、外にいる。

 僕は家の中でお湯を入れたカップラーメンを、雪下ろしで落とした雪で造った・・・建物の中に運び入れた。


 ――そう、ここは「かまくら」の中。


 妖怪たちには、僕が落とした雪と、雪かきで集めた雪を使って、雪の洞窟のような建物であるかまくらを建設してもらったのである。


「まあ、ヒカル様。このような雪の家の中でお食事とは、なんとも風情がございますね」

「だろう? 僕も一度はやってみたかったんだよな、これ」


 昔テレビ番組でみた、かまくらの中で温かいものを食べるというシチュエーションに憧れて、本日のお昼はこの中でカップラーメンという運びになったのだった。


「むう、かまくらで飯というのはよいのじゃが、普通はおもちじゃないのかのう?」

「え? そうなの? でも、餅は正月にたくさん食うからな」

「おお、そうか。もう、年の瀬なのじゃな……」


 そう、クリスマスが終われば、もうお正月だ。

 というかクリスマスと正月、近すぎやしないか?

 クリスマスを11月にしたほうがいい感じにイベントがばらけると思うのだが。


「今年は、ヒカルに取ってどんな一年じゃった?」

「うーんそうだな。初めての北海道ってことでウキウキしてたけど、冬の厳しさに参っちゃったね。それから、妖怪たちと話すようになって、うん、激動の一年だったな」


 この一年、後半がものすごく濃い一年だった気がする。

 まさか、クリスマスにかまくらで妖怪たちとカップラーメンを食うことになるとはな……。

 ちなみに小春はお昼寝しているのでまだ家の中にいる。


「チグモは、ヒカル様に出会えて最高の一年でした」

「妾も、雪に埋もれる冬ではなくなり、満足のいく冬を迎えられて素晴らしい年じゃったとおもう」

「私はね、数百年の恋の悩みが吹っ切れて、新たな一歩を踏み出せる一年になったよ。ありがとう、ヒカル!」


 うん、まあ。

 僕は今まで妖怪を迷惑でうざったい存在としか思っていなかったけれど、こいつらを見ていると、妖怪も人間と同じで、何か悩みを抱えて、美味しいものに幸せを感じ、雪かきの苦労を分かち合える、そんな存在なんだと学ぶことができた。

 悪くない一年だったかもな。


「それじゃ、皆さんカップラーメンを手に持って乾杯しましょうか」


 そう言って、それぞれお好みのカップラーメンをみんなが掲げた。

 クレナは当然、紅い狐のアレである。

 そうして、僕たち声を揃えて乾杯する。


「「「メリークリスマス!」」」


 うん、クリスマスってこういう感じじゃねえな。

今日から一日一話投稿ということにします

面白ければブクマや評価などいただけると嬉しいです

最近は本州の方も寒いみたいですね

頚動脈を冷やさないことに気をつけると良いらしいですよ

それでは

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